【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第10話 ハロウィーン

日課となった薙刀の練習を終え、誰も居ない事を確認しローブに着替える。

部屋に戻って着替えていては時間の無駄なので、最近は授業の道具や着替えは鞄に入れている。

そのまま大広間に向かって朝食を済ませる。

ダフネが誘ってくれた時は一緒に食事をとるが、わしの食事は基本的に一人きりだ。

 

 

クロワッサンを齧りながら昨夜のことを思い出す。

談話室でマルフォイが得意げに話しているのを聞いたのが、そもそもの始まりだった。

 

「ポッター達に決闘を持ち掛けてやったよ」

「そりゃ凄いな。行くのかい、マルフォイ?」

「まさか。フィルチに言いつけてやったよ。深夜のトロフィー室に生徒が入ろうとしているのを聞いた、とね。ポッターの奴、フィルチに見つかって退学だろうな」

 

マルフォイを持て囃す取り巻き達を見ながら、これを利用できないかと感じた。

今の体にもそれなりに慣れたつもりだが、まだ実戦において不安要素が多い。

誰かと戦って、今の自分の力を試してみたいと考えていたところだ。

例のあの人を倒したポッターならば、わしの相手にふさわしい。

 

そう考え、トロフィー室から空き教室に奴らを誘導して決闘を挑んだ。

戦いを優位に進め、呪文と運動神経の両方においてポッターを上回っていた筈だった。

だが、厨子に気を取られた一瞬の隙を突かれ、奴の呪文を喰らってしまった。

奴は未熟なので痛みは殆ど無かったが、それは屈辱だった。

隙を見逃さなかったポッターも大したものだが、そもそも隙を見せなければ攻撃を喰らうことなどなかったのだ。

わしの油断と慢心がこの結果を招いた。

 

2個目のクロワッサンを口に放り込み、一息に噛み潰す。

思えば、生前のわしもそうだった。

奈落に自分の企みが知られていないと慢心していたが、実際は全て読まれていた。

法師の風穴を侮っていたが、わしに止めを刺したのは風穴だった。

認めなければならない。

わしの心には隙があり、それは敗北に直結する。

ならばわしは油断や慢心といった心の隙を消す必要がある。

2度目の生を謳歌する為に。

そして、奈落に勝利する為に…

 

新たな決意を固めると、コーンスープに口をつけながら回想を続ける。

わしが去った後、誰かが大きな音を立てたのでフィルチはポッター達の方へ向かった。

これ幸いとさっさと寮に戻ろうとしたが、奴らの動向が気になったので厨子に後を追わせた。

奴らがフィルチに捕まる報告を期待して居たが、厨子の報告はわしの想像の斜め上を行っていた。

奴らは入学式の日にダンブルドアが言っていた「禁じられた廊下」に入ったらしい。

そこには首が3つある犬が居て、犬は仕掛け扉の上に立っていた、と。

 

生前、あの世とこの世の境には、牛頭馬頭とかいう門番がいた。

犬は奴らのように仕掛け扉の先にある何かを守っているのだろう。

これは有益な情報だ。

その晩は厨子を軽く撫でて餌を与えてから眠りについた。

それにしても、ポッター達は余程トラブルに縁があるようだな…

 

 

 

 

大広間が騒がしくなっている事に気づいて我に返る。

皆の視線を追うと、大荷物を抱えたフクロウがテーブルの上を飛んでいる。

フクロウはポッターの前に荷物を落とし去っていった。

あの荷物が気にならなくは無いが、わざわざグリフィンドールのテーブルまで行って確かめる程ではないので、食事に集中する事にした。

 

食事を終えて廊下を歩いていると、聞きなれた話し声が聞こえた。

ポッターとマルフォイだ。

そこにフリットウィックとかいう教師が現れ、三人は何やら話し始めた。

どうやら、あのフクロウは箒を運んで来ていたらしい。

そして、ポッターが特例でクィディッチの選手になったようだ。

飛行訓練の時のわしの推測は正しかったな。

 

「実は、マルフォイとヒトミのお陰で買って頂いたんです」

 

ポッターの得意げな声が聞こえる。

わしはその場を去ろうとするが、見覚えがある女子生徒を見つけて立ち止まる。

グレンジャーだ。

ポッター達が規則を破った事で得をしたことに怒っていたが、あっさりとあしらわれてしまう。

一人取り残され、悔しそうに肩を震わせるグレンジャーに軽い口調で話しかける。

 

「随分な言われようだったな、グレンジャー。奴らは随分とお前が気に食わんようだ」

「…気に食わないのは私も一緒よ。全く、規則を破って得をするなんておかしいわ!」

 

今のグレンジャーに話しかけたのは失敗だったようだ。

わしに散々彼らの愚痴を言って来た上に、

 

「貴方もハリー達と同じよ!マルフォイの馬鹿げた決闘なんかに乗って夜出歩いて!」

 

説教まで始まった。

これはたまらんと、授業を理由にその場を離れた。

少し歩いてから後ろを振り向くと、一人その場に残されたグレンジャーは何処か寂しげに見えた。

その日はマルフォイの機嫌が悪く、取り巻きは彼のご機嫌伺いに必死だった。

 

 

 

 

気づけばホグワーツに来てから一月程立っていた。

わしは毎朝の鍛錬の結果、薙刀に重さや違和感を感じなくなってきていた。

着実に力を取り戻しつつあるようだ。

授業も順調で、多くの授業で呪文を成功させて得点を貰っていた。

ま、教師に敬語を使わない事で減点される事もあったがな。

わしも相当だが、1年生の中で最も点を稼いでいるのはグレンジャーのようだ。

名前も知らんスリザリンの先輩から

 

「グレンジャーには負けるなよ」

「頑張って寮の点を稼いでくれ」

 

等と声をかけられる事もあった。

グレンジャーとは、図書館で会えば共に勉強する事が増えた。

彼女はポッターとの一件で怒りを感じていたが、それなりに良好な関係を築けていた。

まぁ、わしは奴の知識や勉強のやり方を利用している面もあるのだが、それは言わない方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 

パンプキンパイを焼く匂いで目を覚ます。

 

「かぼちゃの匂い…。何だ?何かあるのか?」

 

記憶を辿った結果、今日はハロウィーンだったと思い出す。

生前の日本には無かった風習なので、思い出すのが遅れた。

いつもの練習を終えて大広間に着くと、何処か浮かれた空気が漂っていた。

 

「ハロウィーンか…。わしにはそれ程、楽しいイベントとも思えないがな」

「まぁ、たまにはこういった催しも良いのではなくて? 私は嫌いではなくってよ」

 

ダフネの隣に座り、暫し雑談に興じる。

彼女はそれなりにハロウィーンの雰囲気を楽しんでいるようだ。

パンプキンパイが楽しみだと嬉しそうに話していた。

少し気取っているダフネも、甘い物には弱いらしい。

 

今日の薬草学の授業でも、正解を答えて得点を貰った。

良い気分になりながら廊下を歩いていると、グレンジャーが何処かへ駆けて行くのを目撃した。

 

「あれはマグル生まれのグレンジャーさんですわね。何かあったのでしょうか」

 

マグル生まれを強調しながら呟くダフネ。

わしはそれには答えず、走り去っていくグレンジャーの様子を観察していた。

奴は右手で目元を抑えていたが、まさか泣いていたのか…?

 

 

 

 

 

今日の授業は全て終わりったので大広間に向かう。

その途中で、グリフィンドールの女子がグレンジャーの事を話しているのを耳にした。

彼女は女子トイレに閉じこもってずっと泣いているらしい。

 

「……」

 

大広間に向かうスリザリン生の群れから抜け出すと、何故自分がこんな行動をしているのか分からないまま女子トイレに向かう。

異性のトイレに入る事に少しためらいながら中に入り、泣き声が聞こえる個室の前に立つ。

 

「…ヒクッ……。出てって…お願い…」

「不甲斐ないな、グレンジャー」

 

わしの言葉にグレンジャーは息を呑んだ。

ややあって、少し強めの言葉が返ってくる。

 

「ハクドウシ…? こ、ここは女子トイレよ! それに………お願い、一人にして」

「何があったかは知らんし、興味もない。だが、貴様はただ泣くだけで終わるつもりなのか?」

「………」

 

暫しの間、泣き声としゃくり上げる音だけが女子トイレ内を支配する。

わしは辛抱強くグレンジャーの次の言葉を待っていた。

 

「わ、わたしっ……悪夢みたいな奴って……。いつも偉そうで、知ったかぶりだって…だから……。あ、貴方だって私の事、そう思ってるんでしょ」

「…そんな事か。下らん」

 

もっと面白い…いや、重要な事だと思ったのだがな。

グレンジャーの悩みを切り捨てると、一拍おいてヒステリックな声が返ってくる。

 

「く、下らなくなんてっ…!」

 

「お前はお前だ。グレンジャー。悪夢だの知ったかぶりだのとくだらん中傷を受けようと、お前が堂々としていればそれで良い。ここでただ泣いているだけでは、そいつらの言葉が正しいと認めるようなものだぞ」

 

「っ……!」

 

生前は犬夜叉一行から幾度となく非難と軽蔑の言葉を受けたが、わしにとってそれは些細な事だ。

誰に何を言われようと、自分の思うように生きるだけだからだ。

だから、グレンジャーが人から自分の行動を揶揄されただけで泣くことが理解できなかった。

 

グレンジャーはわしの言葉を聞いて静かになる。

そろそろ潮時だろうと思ったので

 

「わしはもう行く。貴様は好きにすればいい。このままただ泣き喚くだけの負け犬になるのも良いだろう。負け犬が嫌ならば、ここを出て中傷した奴の頬でもはたいてやるのだな」

 

とだけ言って、トイレを後にした。

まだハロウィーンのご馳走とやらには間に合いそうだ。

だが、大広間の前の廊下は生徒で混雑しており、パニック状態だった。

 

「おい、何があった」

 

たまたま傍にいたロングボトムに声をかけると、彼はどもりながら事態を説明してくれた。

トロールが城内に侵入して大広間は大騒ぎになり、教師はトロール退治に向かい、生徒達は監督生の誘導でそれぞれの寮に戻るように厳命した、ということらしい。

 

せっかくのご馳走を逃した事に舌打ちをしながらも、一つ疑問が浮かぶ。

何故トロールは、この日に侵入したのだ?

昨日でも明日でもなく、ハロウィーンの日に。

トロールについて書かれた本を読んだ事があるが、ハロウィーンの日に活発になるなんて記述は無かった筈だ。

誰かが意図的にトロールを招いたと考えるのが妥当か。

そして、その誰かさんはトロールの侵入で混乱した城内で目的を遂げようとしている。

 

「君も避難した方が良い…。うわっ、お、押さないで…」

 

最後まで忠告の言葉を残しながら、ロングボトムは人ごみに流されていった。

…気になることはあるが、今は素直に寮に戻るべきか。

そこまで考えた時、視界の端にスネイプを捉えた。

奴はトロール退治に向かう教師の群れから外れ、4階へ続く階段へ向かっていく。

4階といえば例の禁じられた廊下だ。

…この事件を起こしたのは奴なのか?

興味を引かれたので、懐に入れておいた厨子に命令して奴の後を追わせる。

ハロウィーンのご馳走を食べさせてやろうと連れていたのが、功を奏したようだ。

わしは寮に戻って奴の報告を待てば良い。

 

残った懸念はグレンジャーだ。

奴はトロールの侵入を知らない筈だから、知らせて恩でも売っておこう。

女子トイレに戻ろうと踵を返すと、廊下をこそこそと歩くポッター達を見つける。

奴らの向かう先を見て、目的は同じだと気づく。

危険を冒さなくても奴らが頑張ってくれそうだと知り、わしはスリザリン寮へ戻ることにした。

 

 

 

 

談話室では、ハロウィンパーティの続きが行われていた。

ダフネがご馳走を少しを取っておいてくれたので、礼を言って料理を貰う。

パンプキンパイやかぼちゃジュースといったかぼちゃを使った料理ばかりで、中々良い味だった。

皆が料理を食べ、はしゃいでいるのを部屋の隅の壁に寄りかかりながら静かに眺める。

スリザリンは他の寮から評判が悪く、その理由の一つに閉鎖的なことがある。

だが、それは裏を返せば内側の繋がりは強いことを意味する。

事実、イベントを楽しんで笑い合う姿は年相応のものだ。

その群れの中、一人隅に佇むわしの姿は確かに浮いていた。

 

厨子が帰ってきたこので、彼を肩に乗せてひっそりと部屋に戻る。

わしが談話室から離れた事に気づいた者は、誰も居なかった。

 

 

 

「やはり禁じられた廊下か…。だが、まさか奴とはな」

 

三頭犬から何かを奪おうとするクィレル。

その間にスネイプが立ちふさがり、護ろうとした三頭犬に足を噛まれてしまう。

それが厨子が見た全てだった。

 

スネイプでは無かったことに驚きを感じる。

わしはクィレルに大して注意を払っていなかっし、多くの生徒と同様に彼を軽く見ていた。

普段の常に何かに怯えているような姿は演技だったのだろうか。

クィレルは何故三頭犬が守っている物を狙ったのか。

そして、スネイプは何故それを察知できたのか。

頭の中に幾つか疑問が浮かぶが、その答えはまだ出そうにない。

 

「もう少し情報が必要だな」

 

わしはベッドに仰向けに寝転がって宙を仰ぎ、そのまま眠りに落ちていった。




・2017/05/25 少し内容を修正しました。
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