神楽から手紙が帰って来た。
『白童子へ
あんたが返ってこないってのは結構な事だよ。
あたしも、あんたのシケた顔を見ながらクリスマスを過ごしたくないからね。
んで、うちの血筋の件だったね。
あたし達は魔法界では半純血って事で通している。
奈落…今は人見蔭刀って名乗ってるが、あいつがマグル生まれで死んだ母が純血って事らしい。
実はあたしもそのへんのことは良く知らないのさ。
深く聞かれたらボロが出そうだから、話のネタにするのはやめときな。
ま、堂々としてればあっちもそう突っ込んではこないさ。
それじゃ精々お勉強を頑張るんだね。
追記 奈落からのプレゼントを同封する。
あたしにはただの笛にしか見えないけど、なんでこんな物を送るのか分からねえな。
ま、確かに送ったよ。
神楽』
奈落からのプレゼントは手紙に書いてある通り、何の変哲もない縦笛だった。
神楽からの手紙は人に見られては不味いので暖炉の火で燃やした。
ついでに笛も燃やしてしまおうかと思ったが、何かの役に立つだろうと思いやめておいた。
休暇が明けた。
生徒達が帰って来たのでスリザリンの談話室はまた騒がしくなった。
ま、ホグワーツ城でのいつもの日常が再び始まったということか。
ダフネやマルフォイとも年明けの挨拶を交わしたことだし、心機一転して頑張るとしよう。
新学期になってから大きく変わったことと言えば、ダフネのかんざしを付け始めたことだ。
そのせいで少し周囲から注目されるようになったので少し居心地が悪い。
だが、ダフネが喜んでくれたので良しとしよう。
休暇中に今までの内容の復習をしていたので、授業では良い成績を取ることが出来た。
魔法薬学などのグリフィンドールとの共同授業では、グレンジャーよりも加点される事が増えた。
そのせいか、彼女から対抗心と嫉妬が籠った目で見られる事もあった。
クィディッチの試合が近づくにつれ、城内では再び奇妙な緊張感が漂い始めた。
そして、グリフィンドール生とスリザリン生の言い争いもあちらこちらで見られるようになった。
試合をするのはグリフィンドールとハッフルパフなのに、何故この2つの寮が白熱するのか。
それはスネイプが審判を引き受けるという噂が流れた為だ。
グリフィンドール生はスネイプが不利な審判を下すことを恐れ、スリザリン生に怒りをぶつける。
スリザリン生もただ怒りをぶつけられるだけでは無く敵意を向け返していた。
だが、彼らの言い争いはポッターが数分でスニッチを掴んだ事で終わった。
狂喜したグリフィンドール生は、自分の手柄であるかのようにスリザリン生を煽り、囃し立てた。
負けたのはハッフルパフなのにスリザリン生がターゲットとなるのは…そうゆうものだと諦めるしかないだろうな。
わしはポッターの技術に素直に感心していたが、マルフォイは奴の活躍にお冠だった。
彼の前ではこの話題は避けた方がよさそうだ。
ちなみに、マルフォイは試合の日に顔に青あざを作っていた。
ポッター達と殴り合いの喧嘩でもしたのだろうか。
クィディッチの試合から何日か立ったある日の事。
暇を持て余していたので、クリスマスに手に入れたチェスセットを適当に弄っていた。
そこにマルフォイがブツブツと呟きながら部屋に入って来る。
「くそ、ポッターめ…ウィーズリーめ…」
もう青あざは消えているが、奴らへの憎しみは消えないらしい。
特に声もかけず、チェスの駒の観察を続ける。
日本の将棋とよく似たルールの遊びだが、駒の形が全く違うのは面白い。
だが、なぜ喋らせる機能を付けたのかは理解出来ないな。五月蠅いだけだろうに。
チェスセットに気づいたマルフォイが話しかけてきた。
「へぇ、中々いいチェスセットじゃないか。丁度良い、僕の相手をしろ」
「まだルールが良く分からん」
「何…? そうか、東洋から来たんだったな。なら僕が教えてやろう」
「貴様がわしに…? 分かった。宜しく頼む」
という流れで、マルフォイにチェスを習う事になった。
入学の日に純血の事を尋ねた時も思ったが、奴は誰かに物事を教えるのが好きなのかもしれない。
マルフォイは中々教え方がうまく、すぐに駒の動かし方や戦術を覚える事が出来た。
「私をあのマスに進めないで。クイーンに取られてしまうよ」
チェスの駒が一々指図をしてくるのには参った。
駒の分際で何様のつもりだと壁に投げつけてやると、マルフォイが楽しそうに笑った。
半年近く同室だったが、奴が笑った顔を初めて見た気がするな。
含み笑いや嘲笑を覗いて、だがな。
ある日のこと。
図書館で妖精の呪文の課題を解いて居る時、ある事に気がついた。
休暇前に比べてポッター達を見かけなくなっている。
ひょっとすると奴らは既に探し物を見つけたのかもしれない。
「厨子、ポッター達を付けろ」
興味がわいたので、奴らの後を厨子に付けさせる事にした。
厨子に命令を下してから一週間もしないうちに、情報を二つも持って帰ってくれた。
本当にこいつは有能だ。
一つはハグリッドという森番がドラゴンを違法に飼育しており、ポッター達が協力している事。
これはさほど重要ではない。
事が露呈してポッター達が退学になったとしても、こちらには何の利益も不利益も無いからな。
重要なのはもう一つの情報だ。
ポッター達が図書館で調べていたのは、ニコラス・フラメルという錬金術師の情報だった。
フラメルは大金や不老不死を生み出す「命の水」の元となる賢者の石を作りだした。
そして、三頭犬が守っているのがその賢者の石らしい。
以前、ポッターに恨みを持つ者を何人か連想したことがあった。
その一人には、例のあの人…いや、ヴォルデモート卿も居た。
彼がこの件に関わっていると仮定した話を進めてみよう。
もしも自分がヴォルデモート卿ならば、賢者の石はさぞ魅力的だろう。
かつての権力と勢力を取り戻す為に何としても手に入れようとするかもしれない。
賢者の石を護るのは三頭犬(フラッフィーというらしい)だけでは無い。
何人もの先生が護りの呪文をかけて厳重に保管されているようだ。
呪文をかけた先生の中にはスネイプも含まれているので、ポッター達はそれを警戒している。
だが、わしはクィレルの方に目を付けた。
奴は他の先生が呪文をかけるのを見ていたに違いない。
ならば、それを破る事も不可能では無いはずだ。
しかし…何故クィレルはすぐに賢者の石を奪いに行かないのだろうか。
魔法界で最も優れた人物であるダンブルドア、奴を警戒しているからか?
そこまで想像を巡らせ、静かに笑みを浮かべる。
この遊戯、中々楽しめる。
クィレルが動くときはぜひ見物したいものだ。
今日はバレンタインデイだ。
わしにとってこの行事は少し面倒な日だと思うはめになった。
女子生徒からお菓子やメッセージカードが多く届いたからだ。
その処理に手間取ったせいで、授業に遅れて減点されてしまった。
「たいそう人気があるようで、結構な事ですわね」
チョコレートに囲まれたわしを見て、ダフネがつまらなそうに言った。
彼女もお菓子とカードを手渡してくれたので、後日に礼の品を返しておいた。
暖かくなってきたので、薙刀の練習を再開した。
わしの体は春の風のように軽やかに動き、生前に近い動きが出来るようになっていた。
風も穏やかになり、とても過ごしやすい時期となった。
イースター休暇に入ると、マルフォイにチェスの手ほどきを受けたり、スネイプの部屋で呪文を教わったりと忙しくなった。
休暇の方が頭と体を使っているのは少し可笑しい。
わしのチェスの腕はまだマルフォイには及ばないらしく、奴は得意げに笑っていた。
今日はイースター休暇の最終日だ。
わしはスネイプの個人授業で盾の呪文を完璧に成功させていたので、とても機嫌が良かった。
次はより強い盾の呪文を教えてくれるらしい。
楽しみだ。
それでも、チェスの腕でマルフォイに適わないのは相変わらずだが。
「今日は随分とご機嫌だな。何かあったのか?」
ルークが取られるのを見ながら、静かに問いかける。
わし等の関係は、チェスを始めるようになってから前よりも良好になっていた。
マルフォイは何か言いたそうに口を開きかけたが、結局言葉を濁した。
「そのうち分かるよ。そのうちね」
わしは特に追及もせず、チェスの続きを楽しんだ。
今日も負け越してしまったが、差は縮まりつつあるようだ。
学業もそうだが、何かが身についていくのは楽しい事だ。
マルフォイの隠し事は気になるが、今は放っておこう。
数日後。
寮の点数を示す場所の前で、誰もが困惑の表情を浮かべていた。
グリフィンドールの点が昨日より150点も減っていたからだ。
首位を走っていたグリフィンドールは一気に最下位になっていた。
マルフォイはスリザリン生達の中心で得意げに何かを話している。
奴が絡んでいるのは明らかだ。
「マルフォイ、何があった?」
「やぁ、ヒトミ。実は昨日、ちょっと彼らを引っ掻けてやったのさ」
マルフォイは事の一部始終を話してくれた。
「そんなことがあったのか。…その様子を自分の目で見たかったものだ」
「ははは、残念だったね」
ホグワーツで最も人気があったポッターは、一夜にして嫌われ者となった。
多くのスリザリン生は彼の失墜を喜び、わしも他人の不幸は大好きなのでそれを歓迎した。
「ポッターの奴、良い気味ね。調子乗ってたし、前から気に入らなかったのよ。ざまあみろだわ」
「フフ、言い過ぎですわよ。パンジーさん。」
パンジーを諫めるダフネも嬉しそうだ。
スリザリンも少しだけ減点されていたが、多くの者にとってそれは些細な問題だった。
これでグリフィンドールが寮杯を得ることは無くなったからだ。
寮の点数を減らしたのはポッターだけでは無い。
グレンジャーやロングボトムも、陰口を言われて辛い思いをしていたようだ。
図書室でグレンジャーを見かけたので話しかけてみると、悲しそうに首を振られた。
「今の私と一緒に居たら貴方まで陰口をたたかれるわよ」
「陰口など慣れている」
わしは平然とその隣に座り、教科書を開いた。
彼女は驚いたようにわしを見ていたが、やがて嬉しそうな顔をしてそれに応じた。
グレンジャーが危惧していたように、
「グレンジャーなんかとつるむなんて、血の裏切り者め」
等と陰口をいう物も居たが、名前も覚えていない奴に何を言われようと何とも思わん。
ダフネやマルフォイもわしの行動に良い顔はしなかったが、
「奴の頭脳は侮れん。わしは使えるものは使う主義だ」
というと納得していた。
この理由は嘘ではないが、わしの気持ちの全てでは無いようだ。
減点があまりに衝撃的すぎたので、マルフォイの罰則の事を誰もが忘れていた。
わしも忘れていた。
「今日が罰則か…ま、ホグワーツの罰則を経験しておくのも悪くないかもね」
罰則の日、マルフォイはそんな軽口を叩いていた。
そんな彼が、夜遅くに息も絶え絶えで戻って来たのにはわしも驚いた。
彼に紅茶とお菓子を用意してやり、落ち着くのを待って話を聞くことにした。
「ほら、お茶とスコーンだ。何があったんだ?話してみろ」
「それは…」
少し渋っていたマルフォイだったが、誰かに話したいという欲求が勝ったのだろう。
震えながら口を開いた。
「ぼ、僕らはあの森番に連れていかれたんだ…禁じられた森に!!馬鹿げてる…ただ夜出歩いただけなのに、せ、生徒だけで…!」
「禁じられた森?」
「そうだよ…皆あそこには入らない。恐ろしい生物がたくさん居るからだ。僕は嫌だって言ったのに…あの森番…クソ!」
無礼な事を言われた屈辱からか、マルフォイは十分近く森番への罵倒を続けていた。
わしは寛容にもマルフォイの言葉に一々相槌を打ったり共感してやった。
その方がマルフォイの話が進むと思ったからだ。
暫くすると森番への悪口は収まり、森の中で何が起こったのかを話し始めた。
マルフォイは森の暗さに怯えながらも、ロングボトムを脅かすだけの余裕はあったようだ。
だが、あまりに恐ろしい物を見たせいで余裕など吹っ飛んだ。
「死体だったんだ…ユニコーンが死んでた…。そ、それに、フードを被った何かが…。人間じゃない!あれは人間であるわけが無い……!ち、血を…。ユニコーンの血を飲んでいたんだ!化け物だ!アイツは吸血鬼なんだ!う、うわああああ!」
マルフォイは恐怖に満ちた叫び声をあげると、森番や学校への文句をぼやき始めた。
そして、二杯目の紅茶を飲み干してお菓子を食べ漁り、フラフラとベッドに倒れこんだ。
「絶対に…。父上に言いつけてやる…。クビにしてやる……」
そして寝息を立て始めた。
わしはマルフォイに布団をかけてやりながら、笑みを浮かべていた。
話に付き合ってやった苦労に見合うだけ情報が手に入ったからだ。
「森の化け物…。ユニコーンの血、か。フフ、面白いな」
・8/22 一部修正しました。ご指摘ありがとうございます。
・2017/05/25 少し内容を修正しました。