楽しんでお読み頂ければ幸いです。
※前半はスネイプ視点、後半は白童子視点です
第16話 夏休み
『スネイプ視点』
吾輩の寮にはハクドウシ・ヒトミという名の生徒が居る。
数年前に吾輩が受け持ったカグラ・ヒトミの弟らしいが、彼らはそれ程似ているわけではない。
2人は髪の色も顔立ちも性格も違う。
だが、共通する部分もある。
常に他者を少し離れた場所から観察し、本当の自分を見せようとはしない事だ。
カグラは話が上手く世話好きで友達も多く、周囲から慕われていた。
だが、本質的には誰も信用せず、自分の深い胸の内に誰一人として入れようとはしなかった。
ハクドウシにもそういった部分がある。
ドラコやグリーングラスとそれなりに親しいようだが、基本的には一人で行動する事が多い。
そして、ずっと何かを探し求めており、その為には手段を選ばない。
ポッターが賢者の石を守った数日後。
吾輩とマクゴナガル教授は校長室に呼び出され、みぞの鏡の間で何があったかを知らされた。
ハクドウシがクィレルを殺したということも。
マクゴナガルはとても驚き、信じがたいと否定していたが、吾輩は驚かなかった。
あの何処までも冷たい瞳を持つ少年は、他者を殺めても不思議では無いと感じていた。
「ミスター・ヒトミが…?ダンブルドア、それは本当なのですか?」
「そうじゃ、ミネルバ。東洋の薙刀という武器を使い、クィレルの首を切断し殺害した」
「そ、そんな……あの子が…」
驚愕に目を見開き肩を震わせるマクゴナガルを、吾輩は無感情に見つめていた。
彼女にとって、ハクドウシは一人の優秀な生徒としか映っていなかったのだろう。
珍しい白髪と美しい容姿を持つ彼は確かに優秀な生徒だが、大きな行動を起こす事はない。
強いて言えば飛行訓練の際のポッターへの攻撃程度だろう。
それに、彼女の寮にはポッターが居る。
父親に似て目立つ事が好きなのか、飛行訓練やクィデッチ、夜間外出など常に話題の中心にいる。
マクゴナガルがポッターに気を取られてハクドウシの本質を見抜けなかった事を責める事は出来ないだろう。
「…して、彼の処遇をどうするつもりですかな?」
「うむ……。わしは彼のした事を外に漏らすつもりは無い。この3人の間だけで処理したい」
「処理ですって!彼は…人を殺したのですよ!少年とはいえ、これはアズカバンに…」
マクゴナガルはとても興奮していたが、自分の放った言葉に恐怖と嫌悪の表情を浮かべた。
アズカバンに居る奴らの事を推測したのだろう。
近くに居るだけで人の幸福を吸い取り、未来への希望を奪う忌まわしい生物の事を。
「それだけでは無い…彼の行動を公にしようとすれば、ヴォルデモートの事も話さねばなるまい」
「ヴォル…。ダンブルドア、その名前を口にするのはやめて下さい!」
「ミネルバ、君ほどの聡明な女性ならば分かるはずじゃ。言葉を恐れれば、その者に対する恐怖も増えるだけなのじゃ」
「…一言、宜しいですかな」
「なんじゃ、セブルス」
「彼をこのまま無罪放免する…というわけですか?何の咎めも無く」
キラキラと輝く青い瞳が吾輩の目を真っ直ぐに見ている。
吾輩はその目が嫌いだったが、あえて目を逸らさなかった。
「そうじゃ。彼に咎めは与えない」
「…あぁ、ダンブルドア。貴方らしいと言うべきでしょうか…」
「分かりました…。校長がそう仰るのであれば、そのように」
「待つのじゃ、セブルス」
その場を去ろうとした吾輩に重い声がかかる。
この男は舞台役者のように声色の使い方を心得ている。
その一言は吾輩の足を止めるに十分な役割を果たした。
「ハクドウシに魔法を教えているそうじゃな」
「…はい」
「許されざる呪文と、あの呪文は教えてはならぬ。良いな」
「…承知しました」
軽く頭を下げ、今度こそ部屋から出る。
言われるまでも無い。
許されざる呪文も、ましてやあの呪文など教えるつもりは無い。
あれは吾輩だけが使えれば良いのだから。
校長の話を聞いてから数日の間、気づかれぬようハクドウシを観察した。
彼はクィレルを殺した日から気が抜けたようだったので見張りは容易かった。
彼の変化の理由がクィレル殺害による罪悪感からだと判断するほど吾輩は甘くは無い。
奴はクィレルを殺した事に全く罪の意識を感じていない。
既に終わった事と処理し、別の事に気を取られている。
…それがまた恐ろしく、不気味である。
吾輩は人間観察に長けている為に気づく事ができたが、友人から不審に思われない程度には普段の自分を装う事が出来ている。
殺人を犯した後に、だ。
奴は既に吾輩たちの知らないところで何人かの命を奪っているのかもしれない。
美しく優秀で、それ故に得体が知れない。
だから校長はハクドウシにあの男の影を重ねているのだろう。
あのトム・リドルの影を…
『白童子 視点』
魔法が使えない事が、ここまで退屈とは思わなかった。
1年近くも魔法使いとして生きていたからか、すっかりこちらの世界に染まってしまったようだ。
散らかった部屋の中、ベッドからのろのろと立ち上がり、1枚のプリントを手に取り内容を声に出して読む。
「卒業前の未成年の学校外での魔法の使用を禁ず…か」
忌々しい。
生前なら、紙切れ1枚に自分の行動を縛られるなど、考えもしなかったろう。
不快感を発散させるためにプリントを紙飛行機にして外に投げ捨てようとしたが、マグルに拾われたら面倒なので止めておく。
…魔法の練習をしたい。
…少しでも力を付けておきたい。
とても無駄な時間を過ごしている気がして落ち着かなかった。
わしは奈落やダンブルドアに全てを見透かされている。
奴らの上を行きたい。
…クィレルを殺したのは軽率だった。
奴を殺して得た物といえば、この体でも不意を突けば大の男を殺せるという実感だけだ。
賢者の石は手に入らず、ダンブルドアから警戒される結果になってしまった。
魔法界のラジオでは今日は誰々がアズカバン送りになったと放送される事がある。
ダンブルドアがクィレルの一件を然るべき所に伝えて居れば、わしの名が犯罪者としてラジオに流れる事となっていただろう。
生前とは違い、この世界では殺人も気軽には出来ないからな…。
もっと慎重になった方が良いかもしれない。
だが、あのダンブルドアの目…腹立たしい。
遥か高みから見下ろしているような、それでいて哀れみや情けも含まれている青い瞳。
許せん…奴を地の底に陥れたい。
…夏休みに入ってから、暇なときはこんな事ばかり考えている。
乱暴に頭を掻きむしり、夏休みの始めに買ったジャージに着替えて外に出る。
こんな気分の時は体を動かすに限る。
軽く体操をすると、近くの公園へと向かった。
緑豊かな公園で数十分のジョギングを終え、スポーツドリンクで喉を潤す。
夏休みなので公園には子供が多く、少し走りにくい。
小腹が空いたので近くの店でフィッシュアンドチップスのSサイズを食べて腹を満たす。
…わしの食生活も、だんだん英国式に慣れてきたように感じるな。
図書館に寄って目についた本を適当に借りて家に帰る。
冷房が効いているのか、それとも神楽が風を操っているのか知らないが、家の中は外とは別世界のような涼しさだ。
ホグワーツでは機械が使えなかったが、この家では魔法を使う横でテレビを見る事も出来る。
大方、奈落が妙な術でも使っているのだろう。
生前もそうだったが、奴は何でもありだな。
これだけの事が出来るのならば犬夜叉達にも勝てたと思うのだが…。
食卓に入ると神無が鏡を見ながらお菓子を食べていた。
自分の顔に見とれている訳ではない。
彼女の鏡は遠く離れた場所の光景や人の様子が分かるのだ。
わしの薙刀に神楽の扇子、そして神無の鏡。
これ等の道具は戦いの中で失われた筈だった。
だが、奈落はどうやったのか知らんが生前の道具を揃えて分け与えた。
侮っているのだとしたら屈辱だが、今はそれに耐えるしかない。
…生まれ変わってから忍耐力がついてきたな。
あまり嬉しくは無い能力だ。
「神無、何を見ている?」
「…」
わしの言葉に彼女は何も返さない。
いつもの事だ。
神無は今年入学となるが、これで上手くやっていけるのだろうかと心配になる。
その日は薙刀の練習を軽く済ませ、本を読んでから眠りについた。
最近はシャーロックホームズやシェイクスピアなどの有名な物語を読んでいる。
愛だの恋だのと下らん話ではあるが、人間の考えが理解できて中々面白い。
奈落は最近は家に居ない事が多いので顔を合わせる事は無く、気分が害される事も無い。
適度な運動と読書、気が向けば去年の復習。
いつも通りの夏の一日だった。
外は特に熱いようで、通りを汗びっしょりの若者がだるそうに歩いている。
こんな日は家に居るに限るので、ベッドに寝っ転がってシェイクスピアを読んでいた。
昼過ぎになると、毛並みの良いフクロウがわしに手紙を届けに来た。
「ご苦労」
フクロウに気づき、厨子を別室に移動させてから手紙を受け取る。
鼠と猛禽類だからな…友達にはなれないだろう。
フクロウの腹の中で友達になれるかも知れないが。
手紙はダフネからだった。
家族でギリシャに行っているらしく、華麗なる旅行談を書き綴っている。
結構な事だ。
彼女の送って来たお菓子を有り難く食べながら、こちらの近況を書く事にした。
だが、近況と言っても書く内容など殆ど無い。
毎日同じことの繰り返しだからな。
薙刀の練習の事は隠したいので、ジョギングの事や、マグルの図書館に通っている事を書いた。
そういえば、ダフネからの手紙にはアストリアとかいう妹との会話や両親の事も書いてあった。
わしも神無の事を書こうと試みたが、毎日黙って鏡を見ているだけという内容になってしまった。
事実だから仕方ないが、神無が自分の顔に見とれるナルシストだと思われるかもしれないな。
そうなっても別に構わないが。
それなりの文字数の手紙を書き終えると、フクロウに水を飲ませてから手紙を括り付けて外に送り出す。
…外からマグルが驚いている声が聞こえた。
フクロウは動物園以外では余り見ない生き物らしいと今更になって思い出した。
手紙と言えば、夏休みの初めは二日か三日おきにグレンジャーからの手紙が来た。
何故チェスの間に来たのか、どうやって賢者の石の騒動を知ったのかを教えろという内容だ。
面倒なので最初に送られた手紙を無視した結果がこれだ。
余りにもしつこいので、殆どでっち上げの文章を書いて送り返すと、手紙攻勢は無くなった。
納得したのか、それとも諦めたのか。
ちなみに、奴に送った手紙の内容は下記の通りだ。
『グレンジャーへ
わしがあの場に居たのは賢者の石を賊から守ろうと決意したからだ。
貴様らも同じ目的とは知らなかった。
わしがどうやって賢者の石の情報を入手したかというと、魔法省に知人が居るからだ。
名前を書くとその者が罰されてしまうので書く訳にはいかない。
これで気は済んだだろう。
賢者の石の事はもう終わった事だ。
気にせず夏休みを楽しむのだな。
ハクドウシ』
ところで、グレンジャーは確かフクロウを持っていなかった筈だ。
どうやって手紙を出したのだろう。
神楽にそれとなく聞いてみると、魔法界にはフクロウを貸し出す商売があると教えてくれた。
わしも機会があったら使うとしよう。
そう言えばマルフォイからは手紙が送られて来ないな。
案外無精な奴なのか、それとも友人と思われていないのか。
ダフネに手紙を送り返した翌日。
食卓に入ると、珍しく奈落と神楽が居た。
自分の分の食事を取り皿に移して神楽の隣の席に着く。
「……」
「……」
「……」
特に話すことも無いので会話は無い。
いつまでも続くかと思われた沈黙は、寝間着で食卓に入って来た神無の一言で破られた。
「…奈落。ホグワーツからの手紙がきた」
「……ほう。では、必要な物を買いに行かねばな」
勝手にしろ。
会話を聞き流しながら、昨夜の残りのビーフシチューを口に運ぶ。
「白童子、神楽。神無の買い物に付き合ってやれ。わしは用があるので今日は付き合えん」
「何…?」
「はぁー…。ま、仕方ねえか」
わしは思わず動揺の声をあげ、神楽は渋々といった感じで了承する。
断ろうかと思ったが、買い物という事は行先がダイアゴン横丁だと気づいて口を閉じる。
前回は初の魔法の世界なので楽しむ余裕が無かったので今回は楽しませて貰おう。
わしは神無の買い物に付き合うことに決めた。
・8/22 一部修正しました。ご指摘ありがとうございます。
・2017/05/25 少し内容を修正しました。