【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第18話 ルーナ・ラブグッド

暑さもピークを終えたようだ。

薙刀の練習をしていると、去年はとても重く感じたが今は手に馴染んだと実感する。

もう少し重くすれば効率的に鍛えられるかもしれない。

その旨を奈落に伝えたが、不愉快な言葉を添えて断られた。

 

「これ以上重くすると筋肉が増えすぎて身長が伸びなくなるぞ」

 

大きなお世話だ。

わしは同学年の間では平均的な身長であり、決してチビではない。

少しでかいからって偉そうにするな。

言いたいことを抑え、憤慨しながら奈落の元を去る。

隣で神楽が腹を抱えて笑っていた、くそ。

 

 

結局、薙刀の練習量を減らして、基礎体力をつける為のジョギングをより多く行う事にした。

シェイクスピアやホームズも読み終えたので、ホグワーツの教科書を読み始める。

2年生用の基本呪文集はとても参考になるものだった。

イラスト付きで魔法の使い方やコツ、注意点が記されいる。

わしは数時間もの時を呪文集の読破に費やした。

去年の夏休みとは違い、実際に杖を振って呪文を使えない事がもどかしくてならない。

 

ロックハートの著作は意外と面白かった。

主人公であるロックハートの大胆かつ理論的な行動には、わしも唸らされた。

書店で見た時は目立ちたがりの色男にしか見えなかったが、人は見かけによらないものだな。

だが、純粋な読み物としてはシェイクスピアやホームズの方が優れている気がする。

夏休みの間にイギリスで出版される有名な物語を読み進め、読書の楽しさに目覚め始めていた。

文学は魔法使いよりマグルの方が一歩上を行っているのかもしれない。

ま、プライドが高い魔法使い共はこれを認めないだろうけどな。

 

 

 

 

ノクターン横丁でルシウスと出会ったあと、奈落に彼との関係を尋ねたことがあった。

 

「奴がそんな事を言っていたか…。だが、わしは奴の事が嫌いではない。貴重な財源だからな」

 

下衆な笑みを浮かべた奈落を見て大方の事情を察する。

ルシウスの弱みでも握り、脅して金をせしめているのだろう。

嫌われて当然だ。

…もしかすると、他の魔法使いにもそういう事をしているのかもしれない。

わしの家が不相応に豪華なのも納得がいく。

ならば、奈落に恨みを持つ者による報復があった場合、わしも被害を被るかもしれない。

考えすぎかもしれないが、少し憂鬱になるな。

 

 

 

わしが銀の矢を買った店で、神楽が適正価格を払ってきたらしい。

店主は固辞したらしいが、

 

「いいから受け取っとけ。あたしの気が済まないんだよ」

 

と強引に押し付けたらしい。

変なところで律儀な女だ。

わしは一銭も損して居ないので問題は無いが。

 

 

 

 

さて、あっという間に9月1日がやって来た。

支度をする際に、荷物の中にマグルの書店で購入した文庫本を10冊ほど入れておいた。

もっと読みたい本もあったが、ロックハートの本がスペースを取っているので厳選したのだ。

奴の本はやたらと厚みがあって困る。

わしが選んだ本の殆どは創作だったが、武術の本も1冊入れておいた。

ホグワーツの図書室にはマグルの本は殆ど無いので、こうやって持ち込むしか無いのは面倒だな。

取り寄せてくれれば楽なのに。

 

「神無、忘れ物はないか? 何かあったら、ふくろう便を出せよ」

 

わしの時とは違い、神楽は神無にやたら過保護だった。

神無はダイアゴン横丁に行ってから部屋に籠りがちになったが、何をしていたのやら。

 

タクシーでキングズ・クロス駅に向かったが、渋滞に巻き込まれて時間ギリギリに辿り着いた。

もう開いている席は殆ど残っていないらしい。

汽車内を歩きながら空席を探していると、後ろの方に丁度良い場所を見つけた。

一人座っているが、まだ3人は座れそうだ。

扉を開けて先客を見て、可笑しな格好に視線を奪われた。

 

ちょこんと座っていたのは、濁り色のブロンドの娘だった。

常に目が飛び出したビックリ顔で、どこかで見た日本の緑色の恐竜キャラクターを思い出した。

ビールのコルクを繋ぎ合わせたネックレスは、世間一般で言うお洒落には当てはまらないだろうが、面白いセンスだと感じた。

雑誌を逆さにして読んでいる事といい、オレンジ色のラディッシュに似たイヤリングといい、どうも変人の気配がする。

だが、わしは彼女の異様な風体が嫌いではなかった。

神無に目で確認すると、彼女は構わないという風に頷いた。

 

「…ここ、開いているか?」

 

わしの問いかけに、小娘はコクコクと頷いて前の席を示した。

意思の疎通はできるようだな、と失礼な事を考えながら席に着く。

数分後に汽笛が鳴り、あっという間に駅が遠くなっていった。

間一髪だったな。

 

神無は外の景色を眺めている。

いつも家にこもりがちな神無には新鮮なのだろう。

わしは荷物から「不思議の国のアリス」を取り出して読み始めた。

すると、対面に座るダーク・ブロンドの娘が話しかけてきた。

わし等が席に座った時から、彼女はその銀色で大きい瞳でずっと見つめ続けていた。

 

「それって、マグルの本?」

「…ああ、そうだ」

「私、マグルの本って初めて。読ませてくれない?」

 

物語が面白くなり始めたところだったが、渋々了承した。

代わりに彼女の雑誌を読ませて貰うよう要求すると快く頷いてくれた。

表紙には「ザ・クィブラー」と書かれていた。

魔法界の雑誌を読むのは初めてだったが、ホグワーツに置いてある本とは随分違うと感じた。

魔法生物の解説や月に行った魔法使いへのインタビューはどこか胡散臭いが、中々面白い。

 

「ナーグルなんて本当に居るのか?」

「うん、居るよ。今もあたし達の傍にいるもン。でも、余り大きな声を出しちゃだめだよ。気づかれちゃうもン」

「…本当か?何処にいる」

「そこだよ。ホラ」

「…見えないが」

「居るんだよ」

 

うっとりと夢見るような彼女の言葉に、それ以上の追及を辞める。

この娘には人が見えない物を見る力でもあるのか、それともただの妄想か。

…もしや、ナーグルとは妖怪の一種なので、今のわしは人間の体だから見えないのだろうか。

なら、ナーグルが見える彼女は、実は妖怪なのか?

 

「おい神無、ナーグルとやらが見えるか?」

「…見えない」

 

………

 

 

 

 

「ザ・クィブラー」を読み終えたので、杖を取り出した。

汽車の中ではもう呪文を使って良いらしいので、呪文を幾つか試してみる。

基本呪文集に書かれていた呪文はどれも成功したので、どうやら魔法の力は衰えていないようだ。

一方、彼女は本を読み終わったらしく、息も絶え絶えだった。

なぜそんな状態になるのかと言うと、彼女は読みながらずっと爆笑していたからだ。

悲鳴のような笑い声をあげ、目に涙を溢れさせながら本を読み続ける彼女の姿は異様な物だった。

隣のコンパートメントから何人かが扉越しに見物に来た程だ。

 

「こ、これ…!すっごい可笑しい!」

 

腹を抑えて呻き声ともとれる声を出しながら、彼女は言った。

まずは涙を拭け。

 

「アリスが、トランプの魔女が…ふふふ、あはははは!」

「わしはまだ読み終わっていないんだ。内容をばらさないでくれよ」

 

彼女はまだ笑いながら頷いた。

神無はその間ずっと表情を変えずに外を見ていた。

 

 

 

 

 

わしも「不思議の国のアリス」を読み終えた。

ファンタジー性の強い面白い本だったが、爆笑する要素があっただろうか…?

その間、彼女の頼みに応じて本を幾つか貸してやった。

彼女は「アリス」の時ほど笑う事は無かったが、楽しんで読んでいた。

 

「マグルの本ってとっても面白いね。ロックハートの本より良い」

「そうだな」

「あたし、ルーナ・ラブグッド」

 

自己紹介するようなタイミングだっただろうか。

 

「わしはハクドウシ・ヒトミだ」

 

「ヒトミ」の姓を名乗るのにも慣れてきたな。

…それが良いことかどうかは分からない。

彼女はわしの名を聞き、驚いた顔をした。

 

「ヒトミって聞いたことあるよ。とっても悪い人。パパが言ってたもン」

「貴様のパパは見る目があるな」

 

皮肉では無く素直な気持ちで言うと、彼女は楽しそうに笑った。

ラブグッドの父の事を聞くと、「ザ・クィブラー」の編集者だと答えた。

ラブグッドは名前を聞きたそうにわしの隣に視線を移したが、神無は知らん顔で外を見ている。

 

「…神無、名乗れ」

「……カンナ・ヒトミ」

 

その後、「不思議の国のアリス」の感想を話し合い、彼女の着眼点が鋭い事を感じた。

 

 

 

 

 

話がひと段落した時、グレンジャーが扉を開けて入って来た。

後ろに赤毛の小娘も居る。

 

「ちょっとごめんなさい…。あ、ハクドウシ!久しぶりね」

「そうだな」

「ハリーとロンを見なかった?実は、汽車に乗ってないみたいで…さっきから探してるの。あ、貴方は確かカンナ…だったわね。お元気?」

「………」

「見ていないな。神無、返事くらいしろ」

「……元気」

「そう…お邪魔したわね。ごめんなさい」

 

相当焦っていたらしく、ポッター達の不在を確認すると次のコンパートメントに向かった。

ポッター達が居ない、か…。

厨子に汽車内を探らせようかと思ったが、眠っているようなので諦める。

 

……?

今、空に何か青い物が見えた気がするな

車のような形をしていて、中に人が乗っているような…。

「アリス」の読みすぎで幻覚を見ているのではなく、確かにあれは車だった。

だが、乗っている人物の顔までは見えず、やがて車は雲の影に隠れて見えなくなった。

視力を鍛える術を覚えておいた方が良いかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を取り終え、少し眠りにつく。

目が覚めるともう夕方だった。

ラブグッドはマグルの本を読み漁っていて、神無はずっと外を見ている。

…神無の奴、飽きないのか?

神無の鏡を借りて軽く身支度を整えた後、軽く汽車内を歩く事にした。

不自然な体制で眠ったせいで体が少し硬くなっているから、動かしておこう。

 

汽車内を歩き回り、見知った顔とすれ違う度に軽く挨拶する。

面倒になり、知り合いと会わなければ良いのにと思いかけたところでダフネと出会った。

 

「こんにちは、ハクドウシ。お元気そうですわね」

「貴様もな。夏休みはお楽しみだったようで結構な事だな」

「ええ、ギリシャはとても良い所でしたわ。古代の魔法使いの遺跡があって…」

 

旅行の話を延々と聞かされた。

わしはただ「ああ」「そうか」「良かったな」を連呼していた気がする。

新学期だけあって彼女は相当テンションが高くなっているようだ。

 

「ダフネ、どうしたの?…あーら、ヒトミじゃない!こっちに来なさいよ」

 

パーキンソンとブルストロードまで参戦し、彼女達のコンパートメントに引きずり込まれた。

部屋の中央でふんぞり返るように座っていたマルフォイは、わしの顔を見た瞬間、表情を凍り付かせた。

わしは普段通りを心がけて挨拶した。

 

「マルフォイか。相変わらずクラッブ達を従えているのだな」

 

お菓子にかぶりつく2匹の豚はわしが部屋に入って来た事にも気づいていないようだ。

ここまで何かに夢中になれるのはある種の才能かもしれない。

 

「あぁ…うん。そ、そうだな…」

 

目をあちらこちらに走らせながら、マルフォイは小声でわしに返事をした。

どう接すれば良いのか分からないようだ。

いつも偉そうなマルフォイらしくない態度に、ダフネ達は少し戸惑っている。

…仕方ない、わしが話をリードしてやるか。

 

「夏休みはどうだった? マルフォイ。貴様の事だから箒の練習でもしていたのだろう」

「ど、どうして知ってるんだ?」

「やはりか…。昨年のクィディッチの試合の後、貴様の呟きを耳にしてな。今年は選手に立候補するのだと予想したのだよ」

「えー!? ドラコ、選手になるの!? ドラコならなれるわよ! 絶対!」

 

わしの振った話題にパーキンソンが食いつく。

ドラコを褒め称えて自信を持たせていく姿は、わしが秘かに期待して居た通りだった。

彼女はドラコのことを好きなようだからな。

夏休みにシェイクスピアを読んだことで、恋愛が少し理解できるようになった事が幸いした。

パーキンソンの言葉にマルフォイは機嫌を取り直したようだ。

わしと話す時もぎこちなさが消えていおり、ダフネも安心したような表情で会話に加わった。

そして、マルフォイが箒の練習をしていた話や、ダフネの旅行の話で盛り上がった。

話の流れとはいえ、わしが選手を目指している事を言った事は少し不味かったかもしれない。

 

「ハクドウシもレギャラーに?素敵ですわ。貴方が選ばれたらとても誇らしいですわね」

 

頑張ってください、と笑顔で言って来たのはダフネだけだ。

マルフォイはライバル心の籠った目を向けて来たし、パーキンソンは愛しのドラコの道を妨げる邪魔者を見る目で睨んできた。

わしの狙うポジションがビーターだと伝えたら敵意は少し減ったが。

 

「ビーターなんて何処が良いのか分からないよ。クィディッチの花形と言ったらシーカーだろうに」

 

マルフォイは一言多いのが欠点だな。

 

 

 

 

 

ホグワーツ城が見えてきたので自分のコンパートメントに戻る事にした。

 

「また後でな」

 

皆に挨拶をし、騒がしい汽車内を速足で歩く。

途中で不安げな顔をしたグレンジャーとすれ違い、ポッター達がまだ見つからない事を知る。

神無とラブグッドのコンパートメントに辿り付き、ノックもなしに扉を開ける。

服に手をかけた彼女たちと目があった。

どうやら着替え中だったようだな。

 

「…すまない」

 

素直に謝るとわしは扉を閉め、着替えが終わるのを待つことにした。

やがて中からラブグッドの入室を許可する言葉を聞き中に入る。

 

「今度からはちゃんとノックした方が良いよ」

 

棘が混じった言葉に何も言い返せず、わしは身を縮めた。

くそ、こんな様を神楽達に見られたら数カ月はネタにされそうだな。

その後、彼女たちに出て行って貰って着替えを済ませた。

 

…だが、変わり者に見える彼女も、着替えを見られたら不機嫌になるのだな。

ラブグッドの機嫌が割と早く回復した事には安堵した。

 

 

 

 

汽車は無事に駅に辿り着き、生徒達は荷物を置いてホームに降りる。

2年生以上は馬車に乗って学校に向かうようだ。

馬車を引いている爬虫類のような魔法生物に興味を持ち、神無に話を振ってみた。

 

「中々美しい生き物じゃないか。頭は龍のようになってるんだな」

「…何も見えない」

「…なんだと? ここだ、ここに居る生き物だ」

 

わしは魔法生物の居る場所を刺したが、神無は無表情で首を傾げた。

近くを通りかかったグリフィンドール生にクスクスと笑われた。

…こんな異様な生物の事を誰も話題にしないのは、見えていないからなのか?

ならば、見えるわしは一体…。

憮然とするわしに、ラブグッドが優しく声をかけた。

 

「大丈夫だよ。あたしにも見えるもン。あんたはあたしと同じくらい正気だよ」

 

ラブグッドのお墨付きか。

…喜んでいいのか分からないな。

見える人と見えない人がいる生物が居る事は、後で調べておいた方が良いかもしれない。

 

「イッチ年生はこっちだ!」

 

1年生はハグリッドの誘導に従って歩いていく。

その列の中には神無とラブグッドも居た。

ラブグッドが1年生だと今知ったが、その割には堂々としているな。

去年のわしと同じように、奴はどんな状況でも自分を持っているタイプのかもしれないな。

馬車の一つからダフネが手招きしている事に気づき、彼女の手を借りて馬車に乗り込んだ。

ダフネやマルフォイには今見えた魔法生物の事は話さなかった。




・8/18 誤字を修正しました。

・8/25 誤字報告ありがとうございます。修正しました。

・9/4 文章をすこし修正しました。ご指摘ありがとうございます。

・2017/05/27 文章をすこし修正しました。
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