第1話 英雄との出会い
ある日の事。
わしは神楽に案内されながら、マグルと呼ばれる人々の町を歩いていた。
イギリスという国は日本とは何もかもが違っていた。
地面や建物は石やレンガで舗装されており、人々は見慣れぬ服を着ている。
わしが知る人間の姿と彼らの姿は、髪の色も肌の色も大きく違っている。
なにより、この人間たちは幸せそうに暮らしている。
わしの時代の人間たちは、常に妖怪や夜盗に襲われることを恐れながら生きていた。
だが、今この国の者たちは何の脅威も感じて居ないようにみえた。
それは国が違うからなのか。
それとも、技術が発展して脅威となるものが減ったからか…。
わしらの姿は彼らにとっても珍しいようで、通りすがりにジロジロと見られる事もあった。
いつもの着物姿を着ているのだが、この国ではこうした服装は殆ど見ないようだ。
…ま、有象無象の奴らの視線などどうでも良いが。
「ほら、あんたの分だよ」
だいぶ歩いた後、神楽がアイスクリームとやらを買ってくれた。
神楽は金を払って商品を買い、アイスクリームの主人と軽く世間話を交わしていた。
わしにとってはそれだけでも驚きだ。
奈落の言ったように、奴は随分と今の世に馴染んでいるようだ。
生前では金を払って何かを買ったことなどは無かった。
欲しいものも他者の命も、全てを力で奪ってきた。
だがこれからはそうはいかないらしい。
公園のベンチに腰かけてアイスを味わう。
わしが知っている氷菓子とは違い、柔らかな触感の食べ物だった。
休日を楽しむ人々や、楽しそうに遊んでいる子供たちをぼんやりと眺める。
わしも周囲からはあの子供たちと同じに見えているのだろうか…
ひとたび考え始めれば止まらなかった。
アイスクリームの甘い味は、心まで甘くはしてくれないようだ。
次は動物園に向かった。
人が檻の中に獣を閉じ込めて、皆でそれを眺めるという悪趣味な施設だ。
「下らん娯楽だ」
「まぁそう言うな。見ろよ、蛇だぜ」
神楽は動物園をそれなりに楽しんでいるようだ。
こいつは人間となり心臓を取り戻すという望みも叶ったからな。
だが結局は奈落の庇護下のままだ…。
こいつはそれについてはどう考えているのだ?
人間の暮らしに馴染み過ぎて、かつての考えを忘れたのだろうか。
ガラスケースの中の蛇を見つめる。
こいつを見ていると奈落を連想して嫌な気分だ。
いや、奴の背中にあるのは蜘蛛か…だが執念深いのは蜘蛛も蛇も変わらんか。
どうでもいい事を考えながらガラスの中の蛇を見ていると、様子がおかしい事に気づく。
蛇は誰かと話をしているようなそぶりを見せている。
相手は…眼鏡の小僧だ。
小声だから聞き取りにくいが…蛇がどこどこの生まれで毎日退屈だ、などと話しているようだな。
その様を見ていると、突然蛇と人間を分かつガラスが消滅した。
人々は突然のことにパニックになり、悲鳴を上げて逃げ惑う。
そんな中で、わしはガラスのそばに立っていた眼鏡の小僧を見ていた。
やつの周りから妖気のようなものを感じたからだ。
まさか、今の現象は奴がやったのか?
「こりゃ驚いた…ハリー・ポッターじゃないか」
横に立つ神楽の言葉にわしは振り返る。
「知っているのか」
「会ったのは初めてだけどね…あの稲妻型の傷跡、間違いないよ」
奴が誰かなど今はいい。
わしは疑いを確かめる為に奴に話しかける事にした。
「おい、貴様」
「え…僕の事?」
「そうだ。今、蛇と話していたな。そしてガラスが消えた…お前がやったのか?」
ポッターは驚いた顔をしながら何かを答えようとする。
そこに大柄な中年の男が立ちふさがり、有無を言わさずポッターを引っ張っていく。
「小僧!さっさと来い!来るんだ!」
中年の男は憤っているように振る舞っているが、その心は何かに怯えているとわしは見抜いた。
ポッターは何か言いたげにこちらをチラチラと見ていたが、やがて諦めたように引きづられて行った。
「なんだいありゃあ…英雄様は大した扱いを受けているようだね」
呆れたように呟く神楽。
わしは引きずられていくポッターを静かに眺めていた。
奴とは、いずれまた会うかもしれんな…
・9/25 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
・2017/05/08 文章を修正しました。