【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第19話 ピクシーとの戦い

かび臭い馬車の乗り心地は、あまり快適では無かった。

闇に佇む巨大なホグワーツ城に辿り付き、また1年をここで過ごすのだと、らしくもない感傷に浸る。

 

「さっさと降りてよ」

 

感慨も糞もないパーキンソンの言葉に、少し気分を害されながら馬車を降りる。

ここからは寮監がそれぞれの寮の生徒を誘導するらしく、スネイプがスリザリン生を集めている。

挨拶でもしようかと思ったが、彼は誘導を終えると忙しそうに何処かに行ってしまった。

ホグワーツの大広間では、去年と同様に本物の夜空のような天井と金色の食器が置かれたテーブルが生徒達を迎えてくれた。

スリザリンのテーブルに座り、少しの間をおいて1年生が入場する。

緊張した表情の1年生の中で、神無やラブグッドは落ち着いた表情をしている。

ラブグッドは常に見開いた銀色の目で大広間中を観察しているので周囲から引かれていた。

 

組分けが始まった。

マクゴナガルが名前を呼び、新入生が組分け帽子を被るという流れが繰り返される。

ウィーズリーという姓の赤毛の小娘はグリフィンドールに決まった。

ウィーズリー家は皆がグリフィンドールだと何処かで聞いた。

家族は同じ寮に入る事が多いならば、神無もスリザリンに入るのだろうか。

 

「ヒトミ・カンナ!」

 

ヒトミという姓を聞き、スリザリンのテーブルに着く者達がわしに注目する。

ダフネの

 

「貴方の妹さんですの?」

 

という問いにわしは肯定した。

 

「同じ寮だと良いですわね」

 

だが、わしの予想とは違う寮の名を組み分け帽子は叫んだ。

 

「レイブンクロー!」

 

スリザリンのテーブルから微かな呻き声が上がる。

神無は一瞬わしを見た後、静かに帽子を置いてレイブンクローのテーブルに向かった。

彼らの歓迎の声に軽く頷くと隅の席にちょこんと座る。

 

「あんたの妹、ガリ勉なの?」

 

ブルストロードの中では、レイブンクロー=ガリ勉のようだ。

奴が部屋に籠りがちになっていた事を思い出しながら適当に答える。

 

「さあな。わしの前で勉強していた記憶は無いが…。部屋で秘かに励んでいたのかもしれないな」

「兄妹でも別の寮に入る事もあるんですのね…。はぁ…」

 

ダフネが暗い表情でため息をついた。

妹のアステリアが自分と違う寮に入る事を恐れているのだろう。

やがてルーナの名も呼ばれ、彼女もレイブンクローに配属された。

彼女の奇抜な恰好を見て、マルフォイやパーキンソンを含むスリザリン生が嘲るように笑った。

 

「奴とは汽車で一緒だったな」

「ふーん…。そうなんですの…」

 

何の気もなしに呟くと、ダフネが含みのある言葉を放った。

そう言えば、ラブグッドにマグルの本を貸したままだったし、後で返して貰わないとな。

 

 

組分けも終わり、ダンブルドアの簡単な挨拶の後にご馳走が皿に並んだ。

昼寝の後は何も食べていなかったので、皿一杯に料理を取り一つ一つ味わって食べる。

だが、教員たちの様子が何やら慌ただしいように見えるな。

スネイプは引率した直後に何処かに駆けて行ったし、マクゴナガルも見当たらない。

何かあったのか?

 

 

 

 

 

「ポッターだってよ」

「本当なの?」

「ぶっ飛んでるなぁ、オイ」

「でも規則違反どころじゃないでしょ。マズイんじゃない?」

 

食事の後寮に戻る道中で、何度も要領を得ない噂を聞いた。

皆が知っていることを知らないのはもどかしいな。

事情を知っているらしい他寮の生徒と話していたマルフォイが満足げに戻って来た。

 

「何があったの?ドラコ」

「ポッターとウィーズリーが空を飛ぶ車でホグワーツに来て、暴れ柳に突っ込んだらしい」

「…また馬鹿な事をなさいますわね」

 

うんざりしたように呟くダフネに、マルフォイは満面の笑みを見せた。

 

「奴らはマグルに目撃されていた。マグルの記憶を消すために魔法省が動いたらしい。気づかないのか、ダフネ…。これだけの騒ぎを起こしたんだ。奴らは退学に違いない!」

「それ、良いわねドラコ! あいつらが居なくなったら超ハッピーだわ!」

 

パーキンソンが大喜びでドラコに飛びつき、2人は楽しそうに笑いあった。

ダフネもポッターの退学は歓迎すべき事象のようで喜んでいたが、わしはマルフォイの言う通りに事が進むとは思えなかった。

ウィーズリーだけならばともかく、ポッターも絡んでいるからな。

学校としては英雄様を退学にはしたくないだろし、適当な罰則で茶を濁すのがオチだろう。

喜びに水を差すのも無粋なので、この推測はマルフォイ達には言わなかった。

それにしても、空を飛ぶ車か…。

汽車の中から見えたアレは、やはり見間違いでは無かったようだな。

 

新しい合言葉を監督生から聞かされて寮に入る。

ドアには「2年生」と書かれており、今年もマルフォイと同室のようだ。

マルフォイは皆と居る時は普通だったが、わしと二人きりになると少し気まずそうな顔でさっさと眠ってしまった。

少し寂しさを感じたが、わしも寝る事にした。

ホグワーツのベットは心地よく、ぐっすりと眠る事が出来た。

 

 

 

 

翌日は早起きして城の周りに出た。

学校に来たばかりの頃は迷路のような城の構造のせいで外に出るのも一苦労だったが、厨子の活躍と体が慣れた事でスムーズに移動できる。

ジャージに着替えて軽く体操し、森の傍をジョギングする。

体を慣らしたあとは、マグルの武術の本を見ながら仮想奈落に拳や蹴りを当てた。

武術の練習は相手が居ないと成立しないのが難点だな。

人間サイズの標的を用意して、技でもかけてみるべきだろうか。

出来れば実戦で試してみたいものが、今は難しいだろうな。

 

 

「…明日から箒の練習を始めてみるか」

 

今後の予定を考えながら大広間に向かう。

家がマグルの住宅街の傍なので、夏の間は箒で空を飛ぶことが出来なかった。

レギャラーの選抜試験の為に銀の矢に慣れておきたい。

 

ダフネやマルフォイの傍に座り、ふかふかのパンとベーコンエッグを皿に運ぶ。

そして、コップにレモンティーを注いだ時、大広間に大声が鳴り響いだ。

危うくコップを倒すところだった。

 

『車を盗み出すなんて、退校処分になってもあたりまえです。首を洗って待ってらっしゃい。承知しませんからね…』

 

中年女性の声が、グリフィンドールのテーブルから大広間中に響き渡っていた。

誰かが

 

「吠えメールだ」

 

と呟いた。

ポッターとウィーズリーが、消えて無くなりたいという表情で説教を聞いているのが見える。

事態は把握したが…あれでは晒し者だな。

ウィーズリーの母も酷な事をする。

説教が終わると爆音と共に手紙は燃え去り、大広間が笑いに包まれる。

 

「ざまあないな、ポッターの奴。ウィーズリーの親父もいい気味だ」

 

マルフォイがせせら笑い、パーキンソンとブルストロードが下品な笑い声を出した。

多くの生徒がポッター達の不幸を笑っている中、ダフネだけは不機嫌そうにぼやいていた。

 

「朝から大声を出さないで欲しいものですわ…。うぅ、耳が痛い…」

 

 

 

 

 

授業が始まった。

わしの魔法の冴えは相変わらずで、変身術の授業ではコガネムシをボタンに変えて加点された。

しかし、次の薬草学の授業は災難だった。

3号温室で植え替え作業をする時、マンドレイクに怯んだゴイルの下敷きになってしまったのだ。

重いやら、泥だらけになるやらで、新学期早々に惨めな気分にさせられた。

余りにも腹が立ったので、起き上がる際にゴイルのみぞおちに肘を入れてやった。

ゴイルが苦渋の表情でうずくまるのを見て気分は晴れたが、今後は不慮の事態にも対応できるようにしなければいけないな。

 

昼休みになったので、寮に戻ってシャワーを浴びて汗と泥を流す。

さっぱりした気分で中庭を散歩していると、マルフォイがポッターに絡んでいるのが見えた。

お楽しみを期待したが、ロックハートが割って入ったことで場は収まった。

それでもマルフォイにとっては十分楽しめたらしく、ニヤニヤと笑って去っていった。

奴にとって、ポッターに絡むことが生きがいなのかもしれないな。

 

 

 

 

 

午後の最後の授業はロックハートの授業だ。

奴の本は中々楽しめたが、教師としての適性は未知数なので余り期待はしていなかい。

しかし、ダフネはそうでは無かったようでどこかウキウキしていた。

ち、面白くない。

愛想よく手を振りながら入室したロックハートは、教科書に移る自分の写真を指した。

 

「私だ。『週刊魔女』にて五回連続でチャーミング・スマイル賞を受賞…もっとも、私はそんな話をするつもりはありませんよ! バンドンの泣き妖怪バンシーを、スマイルで追い払った訳じゃありませんしね!」

 

…これは笑うべきなのだろうか。

そして、テストと称したプリントが皆に配られたが、それを見た多くの者は唖然とした。

自分の事をどれだけ知っているかを確かめるような内容だったからだ。

 

30分後に答案が回収され、ロックハートは超人的な速さで全ての答案を確認した。

そして、ため息をついてチッチッチと指を振った。

 

「このクラスはいけませんね…。私の事をもっと深く知るべきです。1番点数の良かったミスター・ヒトミも89点ですしね。グリフィンドールのミス・グレンジャーは満点でしたよ」

 

…無駄に記憶力が良いせいで、殆どの問題を答えられる自分が恨めしい。

しかし、グレンジャーは大したものだな。

テストの採点を終えたロックハートは、テンションの下がった生徒の前で覆いのかかった大きな籠を取り出した。

そして、厳しい表情を浮かべて厳粛な声を出した。

 

「さあ、気を付けて!魔法界の中で最も穢れた生き物と戦う術を授けるのが、私の役目なのです! 皆さんは恐ろしい目に会う事になるでしょうが、心配はご無用! 私がここにいる限り、何物も君たちに危害を加える事は無いと約束しましょう!」

 

…ほう、魔法生物を実際に離して、それに対応する術を学ぶのか。

ロックハートへの評価は先ほどのバカげた試験で下がっていたが、それを改めるべきかもな。

クラス全員の注目を浴びながら、ロックハートはゆっくりと覆いを取り払った。

 

「さあ、どうだ! これが…捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精です!」

 

籠の中を見た生徒たちは、笑い出しそうな顔をした。

20センチ程の妖精たちが、甲高い声をあげて動き回る光景が危険そうに見えないからだろうか。

見た目で判断するのは危険だと思うが…。

教室に白けた空気が漂うのを見て、ロックハートは芝居じみた仕草で指を振った。

 

「思い込みはいけませんね。彼らはとても厄介で危険な小悪魔なのです! さあて、皆さんがピクシー達をどう扱うか、見せてもらいましょう!」

 

ロックハートが籠の戸を開けた。

途端に、教室内を混乱と悲鳴が支配した。

ピクシー達は蠅のように教室内を飛び回り、生徒たちに被害を与え続けたからだ。

インク瓶を投げつけられた者、ノートを引き裂かれた者、髪を引きちぎられた者…。

 

「どうしました? たかがピクシーでしょう。…では、私が手本を見せて差し上げましょう!」

 

ロックハートが大袈裟なポーズと共に聞いたことも無い呪文を放ったが、何の効果も無い。

そして、あっさりと杖を奪われ、悲鳴を上げて教壇の下に隠れてしまった。

 

普段なら見物に回るわしだが、今日は積極的に動くことにした。

実戦で自分の力を試したかったので丁度良い。

ダフネのスカートに潜ろうとしたピクシーを蹴り飛ばし、周囲のピクシーを目で威圧する。

怯んだように宙に止まったピクシーを、傍にあったロックハートの教科書で殴り飛ばしてやる。

離れた場所からそれを見ていたピクシー達は、わしに恐れをなしたらしい。

別の生徒にちょっかいを出し始めた。

 

「インペディメンタ(妨害せよ)」

 

右手に持った杖でピクシーの動きを止め、左手に持った教科書で殴り飛ばしていく。

朝に読んだ武術の本を参考に、正拳突きや回し蹴りも試してみた。

呪文を言う途中で杖の動きを微妙に変える事で、2匹同時に命中させる事にも成功した。

いつの間にか生徒たちは壁際に逃げており、わしの戦いを感心したように眺めている。

数分後には、窓から逃げた者を除いた全てのピクシーがノックアウトされていた。

気絶したピクシーから杖を奪い返し、ロックハートに手渡してやる。

 

「い、いやあお見事でした! スリザリンに10点あげましょう! もちろん、私ならもっと効率的にやれましたがね!」

 

取り繕うように皆を見渡すロックハートだったが、教室内の反応は白け切っていた。

授業前は彼にキラキラした視線を送っていたダフネも冷たい眼差しを送っている。

ふふふ、良い気分だ。

授業が終わった後、生徒たちに囲まれて賞賛の言葉を浴びせらた。

 

「あのインペディメンタって奴、どうやったんだ? 2匹を同時に抑えるなんてさ」

「凄い戦いだったぜ! 勉強だけだと思ってたけど、やるもんだな」

「ヒトミくん、凄くかっこよかったよ!」

 

褒められるのは悪い気分ではなかったが、マルフォイがつまらなそうだったのが気になった。

 

 

 

ロックハートの授業での騒動の噂は城中を駆け回ったらしく、歩く度にヒソヒソ声が聞こえた。

夕食を済ませ、テーブルを立って出口に向かう途中、ラブグッドが駆け寄って来た。

ラディッシュのイヤリングを揺らす姿に他寮から忍び笑いがおこったが、気にする様子もない。

 

「ピクシーを殴ったんだって?」

「ああ」

「ダメだよ。ピクシーに酷い事をすると罰が当たるから」

 

…どこの迷信だ。

言いたいことを言うと彼女はさっさとわしから離れた。

神無と何かを話しながらレイブンクロー寮へと帰っていったが、多少は仲良くなれたのだろうか。




・8/21 誤字報告ありがとうございます。修正しました。

・2017/05/27 文章をすこし修正しました。
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