『マルフォイ視点』
土曜日の朝、フリントが部屋に入って来た。
「マルフォイ、ヒトミ、起きろ!クィディッチの練習を始める!」
彼は朝早くにスネイプ先生の部屋に行き、競技場の使用許可を得たらしい。
目をこすりながらベッドから起き上がる時、ヒトミと目が合ったので反射的に顔を逸らす。
今は彼と顔を合わせたくなかった。
「初練習だ。お互いに頑張るとしようか」
ヒトミは昨日のことなど無かったかのように言うと、さっさと出て行った。
僕はアイツとは別の道を通って大広間に行き、軽く食事を済ませてから競技場に向かった。
競技場の隅に建てられた更衣室の中には、僕以外の選手が集まっていた。
急いで服を脱いで真新しいユニフォームに袖を通す。
先輩のお下がりを着ているヒトミと違って、夏休みにダイアゴン横丁で仕立てて貰った新品だ。
これから6年間、このユニフォームを着て試合をするのだと思うと胸が高まった。
「よし、そろそろ行くか。…奴らも張り切っているようだし、水を差すには良い頃合いだろ」
フリントが外を見ながら僕らを促した。
何のことかと思ったが、競技場を見て納得がいった。
グリフィンドールの奴らが練習をしている。
赤毛の双子と楽しそうに競争をしているポッターの姿が見え、僕は笑みを浮かべた。
こっちにはスネイプ先生のサインがある。
お前らが楽しんでいられるのも今のうちだ。
グリフィンドール・チームのリーダーの名はウッドとか言ったか。
奴のところに向かう途中、フリントや、チームの皆がやけに親し気に話しかけてきた。
「ドラコ君、ちゃんと飯は食って来たか?」
「初めから上手くいかなくても気にするなよ。試合でポッターの奴に痛い目を見せてやれば良い」
「ああ、分かったよ。有難う」
適当な返事をしながら、彼らが何故こうもフレンドリーなのかを悟っていた。
父上が彼らに箒をプレゼントしたからだ。
きっと、彼らは僕の力量にはそこまで期待していない。
僕がスニッチを掴めなくても、自分達で150点以上の点差を広げれば良いと考えているのだろう。
…僕は父上の力でレギャラーの座を勝ち取ったけど、それがどうした。
試合に出ればこっちのものだ。
僕の力を認めさせてやる。
すました顔で隣を歩くヒトミを睨み、箒を握る手に力が入るのを感じた。
「フリント!今日は僕たちが予約したんだぞ!今すぐ立ち去って貰おう!」
僕らの姿に気づいたウッドが、額に青筋を立てて駆け寄ってくる。
煽るような笑みを浮かべながらフリントは言い返した。
「こっちにはスネイプ先生のサインがあるんだよ。見な!」
フリントが差し出したメモをグリフィンドール・チームの奴らが回し読みする。
『私スネイプ教授は、新人シーカーとビーターの教育の為、今週の土曜日スリザリン・チームが競技場を使用する事を認める。』
「新人だって?何処にいるんだ?」
それまで他の選手の陰に居た僕とヒトミはさっと前に出た。
別に示し合わせた訳ではない。
「ルシウス・マルフォイの息子じゃないか」
「それに…ヒトミ!本当にチームに入れたのかよ!」
双子が嫌悪と驚愕の表情を露わにする。
二つの家の因縁を考えれば僕に反応するのは分かるけど、何故ヒトミを知っているんだ?
僕の疑問に答えるかのように、ヒトミが彼らの前に出た。
「その節は助かった。貴様らの指導のお陰でわしはチームに入る事が出来た。本当にありがとう」
45度の角度で頭を下げて礼をするヒトミ。
1年程の付き合いだが、奴が誰かに頭を下げるのを見たのは初めてかもしれない。
だが、彼の言葉には相手を見下すような色が含まれていたので、煽る為のものだろう。
双子は苦々し気な顔をした。
フリントは大体の事情を察したらしく、ウッドを楽しそうに見下ろす。
「うちの新人ビーターが世話になったなぁ。えぇ、ウッド?そして、それだけじゃないぜ」
フリントの指示で僕を含む選手陣が箒を前に突き出す。
ヒトミは一歩下がって道を譲り、腕を組んだ。
「マルフォイのお父上が俺たちにくださった有り難い贈り物だ。最新型…先月出たばかりさ」
『ニンバス2001』と美しい金文字で書かれた箒を前に、奴らは言葉を失った。
フリントはクイーンスイープ5号を握りしめる双子を鼻で笑い、彼らは悔しそうに表情を歪める。
良い気分だ。
いけすかないグリフィンドールの奴らが、父上の箒に…力にひれ伏している。
心の中にちくりと棘が差すのを感じたが、この快感の前にはゴミみたいなものだ。
気づくと、ウィーズリーとグレンジャーが芝生を横切って近くに歩いてきていた。
僕とヒトミの姿に気づいたウィーズリーは、靴の裏に着いた汚い物を見たような顔をした。
「ハリー、まだ練習が始まらないのか?それに…なんであいつらが居るんだ?」
「ご挨拶だなウィーズリー。僕らのユニフォームを見れば、その理由がすぐに分かると思うがね」
僕はこれ見よがしにユニフォームを指で掴むと、彼らにもニンバスの輝きを見せてやった。
口をあんぐりと開けたウィーズリーに、クイーンスイープを競売にかければ良いと皮肉を飛ばす。
フリント達が爆笑した。
「少なくてもグリフィンドールの選手は誰一人としてお金で選ばれたりしてないわ。こっちは純粋な実力で選手になったのよ」
僕は自分の顔が歪むのを感じた。
チームに入れたのは父上の財力のおかげであり、僕の力では無い。
気にしていた事を、言ってはいけない事を奴は言ってしまった。
僕は、父上から「余り外では使うな」と呼ばれていた単語でグレンジャーを罵倒した。
「誰もお前の意見など求めていない。生まれそこないの穢れた血め」
僕の言葉は予想以上にグリフィンドール生の怒りを買ったらしい。
女子選手たちは金切り声を挙げたし、双子は僕にとびかかろうとしてきた。
咄嗟にフリントが前に出て庇ってくれたので安心しかけたが、ウィーズリーが杖を突きだしてきたのを見て焦った。
まずい、杖は更衣室に置いてきてしまった。
思わず顔をひきつらせた僕の前に見慣れた白い髪が躍り出た。
「マルフォイ!思いしれ!」
「エクスペリアームズ(武器よ去れ)」
目もくらむような紅の閃光が走り、ウィーズリーが吹き飛ばされた。
杖はクルクルと宙を舞い上がり、一歩前に出たヒトミがジャンプしてキャッチする。
ヒトミに助けられた事を知り、僕の顔は屈辱に赤く染まった。
「ロン!大丈夫?」
ポッターとグレンジャーが倒れ伏したウィーズリーに駆け寄って心配そうに声をかける。
一方、我がスリザリン・チームは大爆笑だった。
ヒトミはウィーズリーに歩み寄ると、杖を差し出した。
「ロナルド・ウィーズリーだったな。わしに感謝する事だ。呪いが当たっていたら罰則では済まなかっただろうからな」
怒りに燃えるウィーズリーはヒトミの手から杖を奪い取って右手で殴ろうとしたが、あっさりと腕を掴まれて昨年のポッターのように投げ飛ばされる。
再度無様に地面に転がったウィーズリーを見て、またフリント達が笑った。
「この光景を見られただけでお前をチームに入れたかいがあったぜ、えぇ?ヒトミよう」
エイドリアン・ピューシーという名の上級生が腹を抑えて笑いながら言った。
「いやあ、お前らグリフィンドールは本当に俺たちを笑わせてくれるなあ。コメディアンにでもなったらどうだ?きっとお似合いだぜ。なぁ?」
フリントが馴れ馴れしくウッドの肩に手を置くと、彼は嫌そうに手を振り払った。
地面に唾を吐きかねない怒り具合だったが、スポーツマンとしてそれは耐えたようだ。
振り払われた手をわざとらしく抑えながら、堂々と告げるフリント。
「…それじゃ、本題に戻ろうぜ。俺たちにはスネイプ先生のサインがあるんだ。引くか、競技場を分け合って練習するか決めて貰おうか」
ウッドは暫く他の選手たちと話し合っていた。
そして、教師のサインがあっては分が悪いと知ったのか、競技場を分け合う事を選んだ。
「交渉成立だな」
握手を求めるフリントを睨みながら、彼らは共に競技場の端の方へ歩いて行く。
そして、ウィーズリーは痛そうな顔をしたままグレンジャーの肩を借りて競技場を出て行く。
あの様子だと何処か打ったのかもしれない。
「よし、練習を始めるぞ!今日は箒の力を100%発揮する必要はない。あいつらに全てを見せる必用は無いんだからな!」
フリントの指示で皆が配置につき飛び立っていく。
銀の矢に跨ろうとするヒトミに近づき、奴の肩を掴み顔を引き寄せた。
「なんだ」
「…ヒトミ、僕は助けてくれなんて言ってない!」
「………」
無言で僕を見つめるヒトミを睨みながら、腹の中で怒りと屈辱が渦巻くのを感じていた。
だが、奴は僕から目を逸らし
「余計な事をしたようだな。済まなかった」
と謝って空へ飛び立っていった。
心の中に浮かんだ嫌な感情を持て余しながらも、フリントの声に応じ練習を始めるしかなかった。
『ロン視点』
「ロン、まだ痛むの?」
「こんなの何てことないよ!君が大げさに騒ぎ立てなくたって大丈夫だったんだ!」
僕は羞恥心と屈辱を覚えながらハーマイオニーを怒鳴りつけた。
マダム・ポンフリーのところにまで連れて行くなんて、恥ずかしいったらありゃしない。
ちょっと投げ飛ばされただけなのに!
確かに薬を飲んだら痛みは無くなったけど、あんな軽い打ち身なんて放っておいても治ったよ。
投げ飛ばすときのヒトミの顔を思い出して、何かを殴りたい衝動に駆られた。
奴は遥か高みから見下ろすような嫌な目で僕を見ていた。
「ぶん殴ってやりたいよ、あいつ…」
思わず漏れた言葉に、ハーマイオニーは暫く黙っていた。
そして、「穢れた血」という言葉の意味を聞いてきた。
その言葉の意味を説明するとショックを受けたような顔をしたので、僕は彼女を暫く慰めて勇気づけた。
普段ガミガミ屋のハーマイオニーを慰めるのは新鮮な気分で、少しドキドキした。
昼食時にハリー達が大広間に帰って来た。
あの騒動のせいでどこか白けてしまったらしく、練習を早めに引き上げたらしい。
「俺たち、去年のクリスマス休暇にヒトミの奴をコーチしてやったんだ」
前の席に座ったフレッドが悔やむように言った。
皆の視線が集まる中、続きをジョージが引き継いだ。
「どうせなれっこないと思ったんだよ。フリントの判断基準は上手さよりデカさだからさ。あいつ、結構呑み込みが良いし、態度も悪くないから教えている内に楽しくなって…くそ!」
フレッドやジョージがこうなる事を想定していたわけじゃ無いと、皆も分かっていた。
だが、彼らのした事がチームの不利益になった事は事実なので、誰も何も言わなかった。
やがてウッドが沈黙を破った。
「ヒトミって奴はまだ未知数だ。だが、あいつが持っていた箒は厄介だな」
「銀の矢だよね。初めて見た」
ケイティの言葉に、喉のつっかえが取れたような気分になった。
ヒトミが持つ銀色の箒は何処かで見たことがあったが、名前が思い出せなかったのだ。
生産中止になった伝説の名箒…確か、そう呼ばれていた。
「それに、マルフォイの御曹司が与えたニンバス2001…あれはマズイよな」
「あんなの反則よね…」
ジョージとアリシアが揃ってため息をついた。
何かを言おうとしたハーマイオニーも、クィディッチの素人の自分が口を挟める事じゃないと分かったのか俯いた。
重苦しい空気の中では食欲も余り無く、僕たちはちびちびと食事を口に運んだ。
とても美味しい筈のキドニーパイも味が感じられなかった。
「ロン、その…体は大丈夫か?」
ハリーの言葉に噛みつきたくなったがぐっと堪え、ぶっきらぼうに返す。
「大丈夫だよ。心配いらないさ」
「あの噂は本当だったんだな。ヒトミがピクシーをやっつけたってヤツ」
前を歩いていたジョージが呟いた。
ロックハートの授業で、ヒトミが数十匹のピクシーを一人でノックアウトした噂は有名だった。
僕らはどうも信じられなかったけど、武術の心得があるような動きと、僕の杖を取り上げた杖裁きを見ると、噂が真実と認めるしかない。
「なんかアイツ強いんだよな。勉強もできるみたいだし」
去年投げ飛ばされた事を思い出したのか、隣を歩くハリーの表情は硬くなった。
考えれば考える程イライラする。
完璧超人じゃないか。
その上、超レアな銀の矢を所持してクィディッチ選手になるだなんて…。
苛立ちのままに壁を蹴り飛ばすと、遠くを歩いていたフリットウィックに見つかって注意された。
「なんにしても」
ハーマイオニーが口を開き、僕らの注目が集まる。
「マルフォイもヒトミも、箒は凄いかも知れないけどまだ1年目だもの。去年みっちりプレイして経験を積んだハリーの方が上よ」
「…うん、そうだよね」
露骨なよいしょだったが、ハリーはニッコリして頷いた。
でも、僕はハーマイオニーが本当にハリーを応援しているのか疑わしいと感じた。
ハーマイオニーはヒトミの事をそこまで嫌ってはいないと知っていたからだ。
…あいつ、顔も結構いいからな。
僕はまた何かを蹴り飛ばしたい衝動にかられた。
・8/20 ランキング入りしました。読んでくださった皆さんに感謝します。本当にありがとうございます。
・8/20 気になったので文章をすこし修正しました。
・8/21 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
・2017/05/27 文章をすこし修正しました。