「ヒトミとマルフォイがスリザリンの新レギャラーに選ばれたらしい。」
「同じ時期に、スリザリンのレギュラーがニンバス2001を手に入れた」
この情報はすぐに城中に知れ渡り、道を歩くたびに賞賛か軽蔑の混じった囁きや視線を受ける事になった。
軽蔑が混じっているのは、マルフォイがレギュラーの座を得た手段の予測が広まってしまったからだろう。
わしまで不正に関与されていると思われているらしく、他寮の生徒から「卑怯者」などと罵声を飛ばされる事もあった。
一方で、スリザリンの生徒は新たなレギャラーを英雄のように称えてくれた。
この寮は手段よりも結果を重視するので、噂が真実か偽りかは、どうでも良いのだろう。
そういえば、変身術の授業でのマクゴナガルの様子が少し変わり、わしとマルフォイへの態度が少し厳しくなったような気がする。
スネイプが自分の寮生にそうであるように、奴もまたグリフィンドール贔屓だ。
クィデッチの試合の事になると冷静さを失うこともあるらしい。
だとすれば相手選手を嫌うのも納得できなくはない。
…もっとも、彼女は新学期になってから、何処かよそよそしいというか腫れ物に触れるような反応をしていたがな。
もしかすると、クィレルを殺した一件をダンブルドアから教えられたのかもしれない。
アズカバンにチクられさえしなければ、どうということは無いが。
クィデッチの練習は平日でも容赦なく行われ、流石に疲労を感じ始めた。
レギャラー陣は何年もこの練習に耐えてると思うと、大したものだと思う。
木曜日の午後は魔法薬学の授業だ。
ピーブズが投げた泥玉を避け切れずに鞄を汚されたことで、一度寮に戻る事を余儀なくされた。
クィデッチの練習などで疲れているとはいえ、悪霊如きの悪戯に引っかかるとは醜態だな…。
反省しながら教室に入ると、既に授業開始から10分ほど立っていた。
「すまないな。スネイプ先生」
謝意を込めて頭を下げると、スネイプは鷹揚に頷いた。
グリフィンドール生が不満そうにブツブツとささやき合っていた。
彼らが遅刻すれば即減点で刃向かえば罰則なのに、スリザリン生ならばお咎めなしだからな。
奴らが不服に感じるのも当然だろうが、得をしている側としてはスネイプの贔屓は有り難い事だ。
「ロングボトムの隣が開いている。座りたまえ」
スネイプの言葉に従い、グリフィンドール生が密着している場所に歩いていく。
歩くたびに嫌な感情の籠った視線を感じたが、わしは堂々としていた。
「久しいなロングボトム。去年のクリスマスにプレゼントを貰って以来か」
「…え、えっと…。うん、そうだね」
小声で話しかけると、ロングボトムは周囲をやけに気にした後に小鳥のような小声で返してきた。
…そうか、スリザリン生と親しく話していると不味いからな。
配慮が足りなかった。
その後はお互いに無言のままスネイプの講義を聞き、大釜で薬を調合した。
彼は放っておくとミスをしそうになるので、その度に手を止めて教えてやらねばいけなかった。
そのせいで、普段は1番目か2番目に薬を作り終えているわしが、一番最後に薬を提出する屈辱を味わうことになった。
…全く、足を引っ張ってくれる。
普段ペアを組んでいるダフネがどれだけ優秀だったかを実感した。
土曜日になっても、忙しさに変わりはない。
午前中はフリント達と共に飛行訓練を行い、フォーメーションを確認し合った。
「上手いぞ、ヒトミ!今の動きを忘れるなよ!」
「ああ」
レギュラー陣とも呼吸が合うようになってきたが、マルフォイとの仲はぎくしゃくしたままだ。
午後になって図書室に寄ると、グレンジャーが一人で授業の復習をしているのを見つけた。
軽く挨拶して同じテーブルに座ろうとすると、戸惑ったような視線を向けられる。
「わしは居ない方がいいか?」
「……そうじゃないのよ。……そうじゃないけど」
彼女は戸惑ったように周囲に目線を走らせる。
なるほど、彼女はポッター達と仲が良いからな。
わしは彼らから敵視されているし、一緒に居るのを見られたら嫌な事を言われる可能性がある。
彼女は1年生の時はハロウィーンの日まで孤独な日々を送っていたと聞いたことがある。
もう一度あの時のように孤独になるのは嫌なのだろう。
「分かった。済まなかったな」
新学期になってから謝る事が増えたな。
生前は誰かに謝る事など一度も無かったのだが、丸くなったものだ。
謝る事で、相手に罪悪感を与えて物事を自分の思い通りに進めやすくすると言う利点もある。
だが、やりすぎると軽く見られるので程々にしておこう。
思い通りだ。
グレンジャーは恥じ入ったような、申し訳なさそうな顔をした。
彼女が夜間外出で大量の点を失って周囲から冷たい目で見られた時、わしは周囲の嘲笑や非難を気にせずに奴に普段通り接した。
しかし、今のグレンジャーは我が身可愛さに相手を拒絶してしまった。
罪悪感や軽い自己嫌悪でも感じているのだろう。
分かり易い。
グレンジャーと少し離れた席に座り、授業の予習復習を始める。
普段からノートを丁寧にまとめているので、今日も効率よく予習復習を行う事が出来た。
「思ったよりも早く終わったな。かねてから気になっていたことを調べてみるか」
夏休みが開けた日、わしはホグワーツの馬車を引く不思議な生物を目にした。
しかし、わしとラブグッド以外の生徒にはその生物が見えていないようだった。
今日は時間があるのでゆっくりと調べるとしよう。
マダム・ピンスから紹介された魔法生物の本を、窓際の席に腰かけて流し読みしていく。
やがて、一つのページで手が止まった。
「これだな。セストラル…か」
他の魔法生物は動く写真付きで紹介されているのに、こいつだけ写真がついていない。
その理由は文章を読み進めると理解できた。
セストラルは死を見た者でないとその姿を見る事は出来ない。
写真に撮る事さえできない性質の生き物なのだろう。
去年クィレルを殺害して奴の死を見たことで、セストラルを見る事が出来るようになった訳か。
ならばラブグッドはどうだろうと思いかけたが、流石にそれを聞くのは憚られた。
そうだ、ラブグッドと言えば奴に貸した本を返して貰っていなかった。
今夜あたり話を持ち掛けてみるか。
夜になると、大広間は大勢の生徒で賑わっていた。
少し前まではダフネ達の傍に座る事が多かったが、マルフォイに避けられるようになった今は一人で食事をしている。
子分のクラッブとゴイルは奴に追従するし、マルフォイに惚れているパーキンソンも彼の近くで食事を取る。
パーキンソンは強引な所があるらしく、ダフネが自分の席から離れることを許さなかった。
ダフネは申し訳なさそうにしていたが、気にするなと言っておいた。
一人だと少し寂しいが、無駄話が無いので食べ終わるのが早いという利点もある。
大広間から人が少なくなるまで待ち、頃合いを見計らってレイブンクローのテーブルに向かう。
途端におしゃべりが止み、残っていた生徒がジロジロと見てくる。
最近はピクシー退治やクィディッチ選手等と、目立ちすぎているからな。
自重した方が良いかもしれないと思いつつ、神無とラブグッドの席まで歩き始める。
二人の周りには生徒が少なく、まるで見えない囲いで覆われているかのようだ。
神無の人を寄せ付けない態度と、ラブグッドの変わった格好がそうさせているのだろうか。
「……何?」
「いや、お前じゃない。ラブグッド、以前貸したマグルの本をそろそろ返してくれ」
雑誌を逆さまに読んでいたラブグッドはコクコクと頷き、明日の朝に大広間に本を持ってくると約束してくれた。
彼女の鞄の中に付箋がいくつも付けられた「ザ・クィブラー」があったので、1冊拾い上げてパラパラと捲ってみる。
「切られた者を生き返らせる刀の噂だと?何処かで聞いたような気がするな…」
2人と別れた後、天生牙の存在に思い当たった。
生前は殺生丸と殆ど関わりが無かったので忘れていたな。
しかし、こんな情報を仕入れているとは「ザ・クィブラー」も侮れないな。
…そういえば、犬夜叉や殺生丸はどうなったんだ?
神楽の話では奈落に勝利して生き残ったそうだが、今も生きているのだろうか?
ま、仮に生きていたとしても今更会いたくも無いが。
翌日の朝。
大広間に向かう途中でルーナと出会い、本を返してもらった。
彼女は何の気もなしに本の内容の話題を振って来たが、今のわしにそれはタブーだった。
「ねぇ、ホームズってモリアーティと滝に落ちた後どうなるの?死んじゃったの?」
「おいやめろ!わしはまだ読んでないんだぞ!」
ネタバレされたことで珍しく声を荒げてしまし、大広間中の注目を浴びてしまった。
しくじったな。
流石にバツが悪そうに「ごめんね」と謝る彼女を見て、悪意は無いと察して渋々許す。
スリザリンのテーブルに着くと、わしは冷やかされてしまった。
「あのルーニーと友達なのか?」
「良い趣味だなヒトミ。ルーニーと貴様、お似合いだよ」
後者のセリフはマルフォイだ。
普段は避けているくせに、皮肉を言う機会を見逃さない所は流石だな。
だが、マグルの本を持っている事がバレなかったのは幸いだった。
純血主義者共から嫌な事を言われそうだし、見つからないように努力する必要があるかもしれん。
ダフネは機嫌を損ねたようにそっぽを向いていたが…何か悪い事をしただろうか。
数日後。
「最後の事件」を読み終えたので、ラブグッドとネタバレを気にせずに本の感想を語り合った。
「ライヘンバッハとやらには一度行ってみたいものだな」
「あたし、ホームズとモリアーティの屍を見てみたいな。きっととっても素敵だもン」
わしが言えたことでは無いが、良い趣味をしてるな。
天生牙の一件で信ぴょう性があると判断したので、「ザ・クィブラー」をたまに読ませて貰うように頼むと、嬉しそうに了承してくれた。
それとなくレイブンクロー寮での神無の様子も尋ねてみる。
「神無は普段どうしてる?」
「あの子ちょっと変わってるから距離置かれてるよ。話しかけられてもいつも無視してるもン」
はっきり言う奴だ。
神無の様子は予想通りだが、少し気になるな。
だが、神無は距離を置かれている方が楽かもしれないし出来る事は無いかもしれない。
ハロウィーンの日が近づいてきた。
マルフォイとの仲は相変わらずで、代わりにラブグッドと話す機会が増えていた。
「ルーナで良いよ。あたしもハクドウシって呼ぶもン」
と言うので、これからはルーナと呼ぶことにする。
タイミングを見計らってスネイプに個人授業の再開を頼んだが断られてしまった。
「新しい呪文を知るのも大事だろうが、クィデッチの練習により励んでもらいたいものだ。昨年の二の舞にならない為にもな…」
両立できる自信があるのだが、侮られたものだ。
まぁ良い、次の試合で活躍すれば奴の考えも変わるだろう。
気になる事が一つあった。
厨子の様子がおかしく、何かに怯えるように籠の隅でずっと震えているのだ。
マダム・ポンフリーに見せようと思ったが
「私は生徒を診るのが仕事なのであって、魔法動物を診ているのではありません!」
と怒鳴られるのが関の山だろうと諦めた。
近頃は風邪を引く生徒が増えたせいでポンフリーは大忙しだからな。
神楽にフクロウ便を書いて鼠用の栄養剤を送ってもらったが、これも効果なしだ。
クリスマス休暇に家に戻り、ダイアゴン横丁で診て貰う必要があるかもしれない。
そして、ハロウィーンの日がやって来た。
去年の事を思い出して感傷に浸っていると血みどろ男爵とすれ違った。
「大広間に行かないのか?」
好奇心から尋ねてみると無言で招待状を見せてきた。
グリフィンドールの首なしニックとかいうゴーストの絶命日パーティに招かれたらしい。
「…ほう、わしも行っても良いか?」
死者の集会という物に興味が沸いたので許可を求めると、男爵は無言で頷いた。
近くを歩いていた神無を捕まえて夕食を確保しておくように頼み、地下に向かった。
「絶命日パーティ」は地下牢で行われており、何百という半透明のゴーストでいっぱいだった。
会場はとても寒かったので、厚着してくるべきだったと後悔した。
ニックとやらに挨拶すると驚いた顔をされた。
「まさか血みどろ男爵が客を連れてくるとは…これは珍しい」
ニックと男爵が会話を始めたので、彼らの傍を離れて会場内を歩き始める。
様々な姿をしたゴーストや、腐敗した料理を眺めながら歩いていると、ポッター達を見つけた。
「こんばんは」
あえて朗らかに挨拶してやると、部屋の中で害虫を見かけたような顔をされた。
失敬な。
「貴様らも来たのか。ここは中々素敵な雰囲気だな」
「ああ、君の性格くらい素敵だよ」
「褒めてくれてありがとう。だが、わしなど貴様にはまだ適わないさ。競技場での貴様の方が遥かに素敵だったぞ」
「…何だと!」
ウィーズリーだったか、中々からかいがいのある奴だ。
とはいえ、オロオロしているグレンジャーに悪い気がしたので早々に退散する事にした。
聞くに堪えない罵倒の声を上げる彼らから離れ、奇妙な音を奏でるオーケストラを拝聴する。
人間の音楽とは大きく異なるが、これはこれで悪くない。
オーケストラが演奏をやめると、地下牢の壁から12騎の馬のゴーストが飛びだしてきた。
それぞれが首なしの騎手を乗せており、角笛と同時に様々な「首なし」競技を始めた。
中々ダイナミックで面白い競技だ。
もっとパーティを楽しみたかったが、腹も減ったのでそろそろ退席する事にした。
ここの食事は食えたものじゃないからな。
神無に頼んでおいて正解だった。
男爵に一言断ろうと視線をやると、レイブンクローの女ゴーストと無言で見つめ合っていた。
やがて女ゴーストは目を逸らし、男爵はどこか悲しそうにしていた。
この2人は複雑な関係のようだが、今はどうでも良い事だ。
男爵に退出の旨を告げて大広間への階段へと向かう。
玄関ホールに出た所で奇妙な声を聴いた。
『引き裂いてやる………八つ裂きにしてやる………殺してやる……』
…穏やかではないな。
興味を惹かれたので、声の元を辿って階段を上っていく。
『血の匂いがする……血の匂いがするぞ!』
どこか聞き覚えがある声だった。
1年ほど前に、ホグワーツに来る以前にこれに近い声を聞いたことがある。
声は3階の廊下から聞こえた。
壁を曲がり声が聞こえた場所に着くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がるミセス・ノリス。
壁に塗り付けられた奇妙な文字。
その前で立ち尽くすポッター達。
彼らと目があい、お互い無言でそこに立ち尽くしていた。
「ここを離れた方が良い」
冷静な自分が頭の中で呟いたが、既に手遅れだった。
パーティが終わったらしく、何百と言う足音や話し声が聞こえてきた。
ざわめきは事が起こった場所に辿り付いたとたん、嘘のように静かになった。
不気味な沈黙を破ったのは、暫く話をしていない同室の男だった。
「継承者の敵よ、気を付けよ! 次はお前たちの番だぞ、『穢れた血』め!」
頬に赤みをさしたマルフォイが笑っていた。
面倒な事になったなと思う一方で、新たな騒動の予感に少し喜びを感じてもいた。
・8/22 気になったので文章をすこし修正しました。
・9/4 文章をすこし修正しました。ご指摘ありがとうございます。
・9/19 文章をすこし修正しました。ご指摘ありがとうございます。
2017/06/07 文章をすこし修正しました。