明日はグリフィンドールとハッフルパフの試合の日だ。
大広間で食事を取りながらどちらが勝つかをマルフォイ達と予想し合う。
「ハッフルパフのシーカーは中々優秀なんだろう?」
「ああ。ポッター以上かもしれない…とか聞いたな。まぁ生まれ変わった僕には適わないだろうけど」
レイブンクロー戦で見事にスニッチを掴んでから少し図に乗っているな。
「シーカーはセドリック・ディゴリーさんですわよね。中々素敵な殿方ですわ…」
ダフネはバターをパンに塗りながらうっとりとした声を出していた。
ロックハートの初授業でウキウキしていたりと、こいつには面食いな部分があるらしい。
食事を終えて廊下を歩いているとグリフィンドールの2年生達とすれ違う。
スリザリンは秘密の部屋の騒ぎがあっても無くても嫌われ者で、彼らから嫌な視線を感じる。
わしは唐突にある事を思い出し、最後尾に居たグレンジャーに話しかける。
「おい、グレンジャー」
「な、何かしら?」
「以前貸した本だが、そろそろ返してくれ。明日のクィデッチの試合の後受け取りに行く」
「えぇ…分かったわ」
少ししゅんとした表情で彼女は応じた。
その様子からするとまだ読み終わっていなかったのだろうか。
本を貸してから既に1月以上も経っているのに読書家の彼女らしくない。
…いや、わしが貸した本だから読むのが進まなかったのか。
恐らく、ポッターやウィーズリーの前でわしの本を読むと嫌な反応をされるのだろう。
今も彼らがわしを睨んでいるのがその証拠だ。
因縁をつけられる前にさっさとその場を離れた。
今日は今受けている「魔法史」の授業が最後だ。
相変わらずの一本調子で授業を続けるビンズを前に殆どの生徒は眠っている。
彼の話す年号をノートに書き取りながら秘密の部屋の事を考える。
誰から聞いた話かは忘れたが、グリフィンドール生がビンズに秘密の部屋の事を聞いた時にある程度の事を話してくれたらしい。
皆の質問責めにあったビンズはもう沢山だとばかりに話を打ち切り、信頼できる歴史的事実に話を変えてしまったので肝心な事は分からず仕舞いだったとか。
…信頼できる歴史的事実ならば、彼は質問に答えてくれるのだろうか?
いつしか授業は終わり、皆は欠伸をしながら教室を出ていく。
人が少なくなるのを見計らってわしはビンズに声をかける。
とりあえず今日の授業で教えられた年号の事を質問し、油断させてから本題に入るとしよう。
「その条約が改訂された日は1352年ですね。ミスタ・ヒトミ。1368年はまた別の条約です」
「ありがとう。ビンズ先生。ところで秘密の部屋の事について少し聞きたいのだが」
ビンズは露骨に嫌そうな顔をした。
「私は歴史的事実を教えているのです。曖昧で根拠に乏しい伝説を教えているのでは…」
「歴史的事実なら良いのだな?…以前部屋は開かれた。その時何があったのか、事実を教えて欲しい」
彼は数分の間葛藤していたようだった。
だが、知識を求める生徒の望みに応えたいという教師としての欲求が勝ったようだ。
教えるのが歴史的事実と言う事と、わしの魔法史の成績が良いという事も大きかったのだろう。
「…この事は多くの人に話してはなりません。今から約50年前、秘密の部屋が開かれた…と言われています。
そして、1人の女子生徒が亡くなり、学校側は犯人と思われる男子生徒1人を退学処分にしました。
ですが、秘密の部屋の怪物と女子生徒の死に因果関係があるかどうか、確実な証拠は無いのです」
「…なるほど。その女子生徒は何処で死んだのだ?」
「……女子トイレと聞いています。その場所は…」
身を乗り出して話を聞いていたが、ビンズ先生はそこで話をやめて身震いした。
「れ、歴史的事実ではありますが…亡くなった生徒のプライバシーがあります。これ以上はお答えできませんよ」
わしが声をかける間もなく、荷物を纏めて凄い速さで去って行ってしまった。
…全てを知る事は出来なかったが、まぁ十分だ。
わしは教室を出て図書館に向かった。
夕食が近いので普段より人は少ない。
わしはホグワーツの50年前の年表を読み返していた。
監督生や教員の名前、その年の寮杯の行方やクィデッチの結果等の不要な情報を読み飛ばす。
…これだな。
「マートル・エリザベス・ウォーレン。不慮の事故により亡くなる。」
やはり秘密の部屋の事は書かれていない。
だが生徒1人の死を書かない訳にもいかないだろうと予想したが、ビンゴだったな。
このマートルとやらが秘密の部屋の怪物の犠牲者なのだろう。
…マートルだと?
1年生の女子生徒の間で「行ってはいけないトイレ」があると聞いたことがある。
マートルという名の癇癪持ちの女ゴーストが住んでいるとか。
この名前の一致は偶然ではない、その女ゴーストが殺された女子生徒だ。
何気ない風を装って1年生の女子からマートルのトイレの場所を聞きだす事ができた。
わしは人目につかないよう注意しながらその場所に向かい、ドアを開け中に滑りこんだ。
「またアンタ達…だ、誰よアンタは!」
眼鏡をかけた小太りの女ゴーストがヒステリックな声を出す。
五月蠅い。
「シレンシオ(黙れ)」
ゴーストにも呪文が聞くかどうかは不安だったが、彼女は口に封をされたように何も話さなくなった。
その隙に水浸しで歩きにくい女子トイレを隅から隅まで眺めていく。
銅製の蛇口の脇のところに小さな蛇の彫刻が彫ってある事のがやけに気になった。
バジリスクは巨大な蛇であり、蛇はスリザリンのシンボルだ。
…後ろを振り向く。
マートルは個室に籠ってしまったので、見て居る者は誰も居ない。
これは本物の蛇だ。
心の中でそう強く念じながら、わしは有効と思われるいくつかの単語を口にした。
『正体を現せ…。謎を開かせ…。道を開け…』
「開け」という単語に反応し、蛇口が眩い白い光を発しながら回り始めた。
手洗い台は沈み込み、太いパイプがむき出しになった。
大の大人が丸ごと入りそうな太さだ。
…この太さなら、大蛇も通り抜ける事が出来るかもしれない。
バジリスクはこのパイプを使って出入りしたのだろう。
城中には太い配管が張り巡らされているので誰かに気づかれずに移動する事も可能だろう。
…こうも事が上手く運ぶとはな。
これが部屋への入り口である事は疑いようがないが、これからどうするべきだろうか?
その時、再びマートルが泣き喚き始めた。
呪文の効果はゴーストが相手では長く続かないらしい。
わしに汚水を投げつけてきたのでそれを回避し、トイレを出ていく事にした。
『姿を消せ。道を閉じろ!』
わしの蛇語に反応してパイプが沈み込み、手洗い台が再び浮上する。
その様子を見届けてトイレのドアを閉めた。
「スコージファイ(清めよ)」
服に少し汚水がかかっていたので魔法で浄化し、マートルの喚く声に追われるようにその場を去った。
部屋に戻ってベッドに寝転がり、頭の中で今までに得た情報を整理する。
『秘密の部屋は50年前にも開かれ、マートルという女子生徒が殺された。
マートルは3階の隅にある女子トイレのゴーストとなっている。
部屋の怪物………………バジリスク。
部屋への行き方…………マートルのトイレで蛇の彫刻に蛇語で開くよう命じるとパイプが出てくるので、その中に入る。
バジリスクの移動方法…城中に張り巡らされたパイプの中を移動している。
継承者の正体……………不明』
こんなところか。
継承者については今のところ手がかり無しだな…。
さて、わしはこの情報をどう処理するべきだ?
スネイプや他の教師に伝えるべきだろうか?
…一生徒として教師に情報を伝えるのは正しい行為だろう。
だが、生憎わしは生前から正義や正しい事とは逆の生き方をしてきたからな。
この案は無しだ。
秘密の部屋か……。
行き方も分かった事だし、中に入り込んでみるか?
…いや、中にどんな罠が仕掛けてあるか分からないし、罠が無かったとしてもバジリスクとの対決は危険すぎるな。
蛇語を使えばわしに従ってくれるかもしれないが、継承者に忠誠を誓っているならば聞く耳を持たずに襲ってくるかもしれない。
去年は賢者の石の一件に首を突っ込んだ挙句、ダンブルドアの警戒を買っただけに終わった。
今年は慎重に行動すべきだろう。
総合的に考えた結果、わしは部屋への侵入を諦める事にした。
翌日、わしはマルフォイやダフネと観客席に座り、試合の開始を待っていた。
スリザリンはグリフィンドールが大嫌いなので、ハッフルパフを応援する者が多いようだった。
だが突如現れたマクゴナガルによって試合の中止が宣告され、皆はご馳走を取り上げられたような気分になった。
わしとしてもセドリックとやらのプレーに期待して居たので残念な気分になった。
その晩、グレンジャーとレイブンクローの5年生が石になったと噂が流れた。
スリザリン生の中には点取り屋のグレンジャーと監督生の女子生徒が被害にあった事を嘲笑う者もおり、マルフォイもその1人だった。
奴はわしやポッターを越えたいという目標を持ち始めてから変わったと思っていたが、「穢れた血」への感情は相変わらずのようだ。
グレンジャーには本を貸してヒントを与えてやったのに、愚かにもその情報を活かせずに石化した。
わしは彼女に失望を感じたが、翌日医務室に立ち寄った事で評価を一変させた。
グレンジャーが握っていたメモには「パイプ」と書かれてあった。
彼女の傍に落ちていた魔法生物の本にはバジリスクの章にしおりが挟まれており、バジリスク対策であろう手鏡もあった。
彼女は気づいていたのだ。
わしはグレンジャーへの評価を再び上昇させた。
グレンジャーが石化した後、生徒達は再び恐怖の日々を送る事になった。
ダンブルドアがホグワーツを離れたという噂も皆の恐怖を増幅させ、1年生たちは固まって行動するようになった。
そして、ついにその日はやって来た。
『生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集りください』
誰もが事情を理解した。
また誰かが襲われたのだ。
わしは興味にかられ、混乱する生徒で混雑する廊下を抜け出して職員室に向かった。
マクゴナガルが皆に事情を話している中、物陰に隠れ話を盗み聞きする。
「ついに起こりました。生徒が1人、怪物に連れ去られました」
教師たちが呆然とし、涙を流し出す者さえいる。
スネイプとフリットウィックに問い詰められ、彼女は哀れな犠牲者の名を口にした。
「ジニー・ウィーズリーです。明日にも生徒達を家に帰さなくては…ホグワーツはお終いです」
ジニーとやらがどうなろうと構わないが、ホグワーツが閉校になるのは困る。
まだ学びたい事もあるし、ダンブルドアにやられっ放しのままだ。
…仕方がない。
リスクはあるが、わしは自ら動く事にした。
部屋に入り込んで継承者を倒せば、50年前と同じようにその者が退校処分となるだけで閉校にはならない。
ジニーとやらは恐らくもう死んでるだろうが、こればかりは仕方がないな。
寮に戻り、鞄の中にダイアゴン横丁で買ったバジリスク対策のグッズや薙刀を入れる。
部屋の大きさは不明だが、人が飛び回れるくらい広いかもしれないので、銀の矢も入れておいた。
その日の大広間は静まり返り誰もが暗い表情を浮かべていた。
特にグリフィンドールのテーブルの様子はお通夜のそれだった。
わしは静かな夕食を終え、神無に話しかけた。
「今夜鏡を持って寮を出ろ。秘密の部屋に入り込む」
神無が首を縦に振るのを見て、密かに大きな安堵と勇気を得る。
奴の鏡は今回の行動に大きな意味を持つからな。
わしは夜になるのを待って寮を抜け出すと、大広間の前で神無と合流しマートルのトイレに向かった。
わしも神無も生前に来ていた和服を着ている。
トイレに着くと先客が居るようで話し声が聞こえた。
わしは神無に指で制止の合図を送り気づかれないように扉を開け、中を覗き込む。
そこに居たのはポッターとウィーズリーと、なぜかロックハート。
ポッターは蛇語を唱えて秘密の部屋への入り口を出現させ、3人で中に滑り込んでいった。
「…昨年と同じ展開になったか。奴らが露払いをしてくれるならば楽になるな」
わしは十分な時間を置いて神無と共にパイプの中に入り込んだ。
奴らが全て解決してくれるならそれでよし。
解決できなければわしが継承者を倒して一件落着。
そして、奴らと継承者の戦いを見て無理だと判断したら逃げる。
どう転んでも損は無い。
・8/26 誤字報告ありがとうございます。修正しました。