【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第28話 バジリスクの脅威

パイプの中を滑り落ちる感覚は、あまり愉快なものでは無かった。

出口から放り出されたわし等は「ルーモス」で周囲を明るく照らしながら先に進んだ。

 

「これをかけろ。予備に買っておいて良かった」

 

神無に眼鏡を渡す。

気休めにしかならないが無いよりはマシだろう。

鼠等の小動物の骨を踏みつけながら慎重に進んでいると、前方から物音が聞こえた。

 

「止まれ」

 

神無を制止し、灯りを前に突き出しながら数歩歩くとウィーズリーが眩しそうに眼を細めて立っていた。

その後ろには岩の壁がある。

 

「ヒ、ヒトミ…何でお前が?そうか!お前が継承者だったんだな!ジニーを返せ!」

「シレンシオ(黙れ)」

 

わしは奴に呪文をかけて一度黙らせる。

近くにはいつも以上に可笑しな様子でヘラヘラしているロックハートの姿があった。

何が起こったのかは分からないがこれでは先に進めないな。

 

「これを持っていろ」

 

灯りを神無に預け、薙刀を取り出して元のサイズに戻す。

わしに飛び掛かろうと気を窺っていたウィーズリーが刃物を見て息を呑んた。

岩の壁の中で比較的脆そうな場所に、刃が折れないように注意しながら傷をつける。

…これくらいでいいだろう。

わしは皆を下がらせ、杖を神無から受け取る。

 

「レダクト(粉々)」

 

傷をつけた場所が破壊され、その周りの石が大きな音を立てて転がり落ちる。

わしは「プロテゴ」で土砂等から身を守りながら暫く待っていた。

やがて、不格好ではあるが何とか人間が通れそうな大きさの穴が出来あがった。

無駄な魔法力を使わせるなと内心ぼやきながら、注意深く穴を潜り先に進む。

 

…よし、ちゃんとウィーズリーも着いてきているな。

石化呪文ではなく沈黙呪文をかけたのは奴にも役に立ってもらうためだ。

何度も角を曲がり、蛇の彫刻がつけられた壁の前に辿り付いた所で沈黙呪文が解けたらしい。

 

「ああ、やっと喋れるようになった。…で、どういうことだ?何でお前らがいるんだ?」

 

ウィーズリーの怒りは少し落ち着いたようだが、まだ言葉に棘がある。

足を止めて慎重に言葉を選びながら彼の問いに答える。

 

「わし等がここに来たのは秘密の部屋の継承者を倒す為だ。貴様らと目的は同じのようだな」

「…本当か?お前が継承者で無いって証拠はあるのかよ」

「仮にわしが継承者ならば侵入者である貴様らは怪物の餌食になっているさ」

 

怪物に食い殺される様を想像したのか、ウィーズリーの顔が青くなる。

 

「わしはホグワーツを閉校にしたくない。…そうか、ジニーとやらは貴様の妹だったな。

ここは協力して継承者を倒した方が良いと思うが、どうだ?」

 

畳みかけるように協力を申し出る。

この状況でウィーズリーにとれる行動は、頷くことだけだった。

 

 

 

 

 

 

ウィーズリーが渋々ながら頷くのを確認し、先に進む。

この壁は恐らく蛇語で開く仕掛けになっていたのだろうが既にポッターが開いてくれたようだ。

おかげでウィーズリーの前で蛇語を使わずに済んだ。

少し歩くと天井が高く細長い部屋が見えた。

そこには3人の男女がおり、女の子は気を失っているようだ。

 

「ジニー!」

 

ウィーズリーが駆け出したところを見ると、あの小娘がジニーとやらか。

わしは神無を促し、蛇が絡み合う彫刻が施された石の柱の陰に隠れ様子を伺う。

 

「ジニー、目を覚まして!ハリー…ジニーはどうなんだ?死んでないよな?」

「ロン、ジニーはまだ生きてる。こいつがトム・リドルなんだ!ジニーを操って部屋を開かせ、生徒を襲わせた!」

 

ポッターはウィーズリーの登場に驚きながらも冷静に状況を伝える。

指をさされたトム・リドルとやらは、突然の乱入者であるウィーズリーを不快そうに見ていた。

 

「その髪の色はジニーの兄、ロナルド・ウィーズリーだな。君には興味が無い。下がって貰えないか」

「下がるのはお前だろ!僕はジニーの兄だ!僕がジニーを守る!」

 

リドルはため息をついて杖を振り上げ、失神呪文をウィーズリーに放つ。

ウィーズリーはまともに呪文を喰らい気を失った。

ち、使えない奴め。

 

「ロン!」

「失神させただけだ。これで邪魔者は居なくなった…。いや、あと2匹居るな。出てこい」

 

ほう、気づかれたか。

だが大人しく出ていく義理も無いので息を潜めて隠れている事にした。

 

「…出てこない、か。まぁ観客くらいは居てもいいだろう」

 

リドルは寛容な事に招かれざる客の同席を許可してくれた。

奴は怒りに燃えるポッターをからかうような喋り方で、今までの自分の行いを説明した。

約50年前にハグリッドを退校処分にして騒動を収めたが、ダンブルドアだけは自分を疑っていた事。

日記に16歳の自分を収めて、時がくれば誰かに自分の足跡を追わせスリザリンの遂行な仕事を成し遂げさせようとした事。

日記の中の記憶としてジニーを操り、彼女の魔法力を吸収した事。

その真の目的は「穢れた血」を殺す事では無く、ポッターと会い、どうやって闇の帝王を倒したのかを知る事だった、と。

 

「何故そんな事を気にするんだ?ヴォルデモート卿は君より後に出てきた人だろう?」

 

リドルは杖で空中に文字を書いた。

 

TOM MARVOLO RIDDLE (トム・マールヴォロ・リドル)

 

もう一度杖を一振りすると文字が並びを変えた。

 

I AM LORD VOLDEMORT(わたしはヴォルデモート卿だ)

 

…なるほど、アナグラムか。

こんな事が出来るのは奴ではないかと疑っていたので、リドルの正体を知っても驚きは無い。

だが、名前に自分の正体のヒントを残すとは自己顕示欲の強い男だ。

陶酔したかのように自分の素晴らしさを話すリドルを冷めた目で見つめる。

 

なおも舌戦を続ける彼らから目を離し、神無の鏡をのぞき込みバジリスクの場所を探る。

鏡はスリザリンの石像を映しだした。

リドルの命令があればすぐにポッターやわしを食い殺そうとするだろう。

奴の最大の脅威は眼だ。

奴の眼をどうにかしてふさぐことが出来ればわし等にも勝機が生まれる。

…いや、もしかしたら奴と戦う必要は無いかもしれない。

先ほどの話で、全ての黒幕は日記の中に封印されたヴォルデモート卿の記憶だと分かった。

どうにかして日記を破壊すればリドルも消滅する筈。

そうすればコントロールを失ったバジリスクは混乱するのではないか?

その隙をついて逃げ、校長には事の次第を報告すれば良い。

…あるいは、蛇語で奴に話しかけてわしに従わせるのもアリだな。

 

 

 

 

 

身勝手な未来絵図を描いていたが、突如として部屋に響いた鳥の鳴き声に我に返った。

金色の鳥が不思議な歌を歌いながらポッターの傍に降り、組分け帽子を差し出した。

頼りない援軍の到着を見たリドルは馬鹿にしたように笑い、ポッターが何故闇の帝王から生き残ったのかを尋ねた。

 

「なぜ君が僕を殺せなかったか僕にはわかる。母が僕を庇って死んだからだ。母は普通のマグル生まれの母だ」

 

リドルは表情を歪めたが、すぐに笑顔を取り繕って石像に向き直り、シューシューという音を発する。

蛇語でバジリスクに命令しているのだ。

 

この瞬間、奴の目は完全にわしから逸れた。

奴は初めからポッター以外は眼中になく、ウィーズリーを失神させたのもただ五月蠅かったからだろう。

杖を取り出して神無にだけ聞こえるように呟く。

 

「神無、鏡でバジリスクの動向を後ろから見張れ。決して前から見るなよ。…アクシオ、日記よ来い」

 

本来は4年生で習う呪文なのでコントロールが難しい。

一度目は失敗したが2度目の呪文は効力を発揮し、日記をわしの元へと運んでくれた。

轟音を立ててバジリスクとポッターが戦う中、わしは日記を破壊しようと薙刀を振りかぶる。

…金属が響く嫌な音が聞こえ、わしの手が痺れる。

薙刀が日記の結界に阻まれたのだ。

 

「インセンディオ!(燃えよ)レダクト!(粉々)ディフィンド!(裂けよ)」

 

知る限りの呪文を試してみるが日記には傷一つ入らない。

…不味いな、流石は未来のヴォルデモート卿の日記だけはある。

「悪霊の炎」なら可能性はあるが、あんな高度な魔法今のわしには使えない。

 

『僕の日記が…無礼な客人だ!バジリスク、ポッターは良い!日記を持つ者を追え!匂いで分かるだろう』

 

気づかれたようだな。

わしは近づいてくるバジリスクに、悪戯専門店で買った「ドクター・フィリバスターの長々花火」を目を閉じながら放つ。

色とりどりの星が周囲に飛び散り、バジリスクは驚いて一瞬動きが止まる。

ゾンコの「クソ爆弾」を顔の辺りに投げつけると、思い通りクソがバジリスクの目にこびりつき視界を塞いでくれた。

蛇が激しく暴れだしたのでそれ以上の追撃を断念し、目を閉じているポッターの元に駆け寄った。

 

「だ、誰?そこに居るのは?」

「わしだ。ヒトミだ。蛇はこっちを向いていない。目を開けろ」

 

ポッターはわしの言葉を聞き恐る恐る目を開いた。

神無に鏡で蛇を見張らせながら、わしがここに居る理由と、日記を破壊すればリドルは消えるという推測を早口で話す。

 

「…大体の事情は分かったよ。でも、どうやって日記を壊す?君の呪文でも無理だったんだろ?それに…」

 

ハリーは横目でリドルを睨む。

わしはそこで初めて、ハリーの杖をリドルが持って居る事に気づいた。

杖を敵に取られたのか、使えない奴め。

 

『バジリスク、ポッターと招かれざる客は向こうだ!殺せ!』

 

バジリスクの鼻先にはべっとりと「クソ爆弾」がこびり付いており、その異臭で鼻は殆ど聞かない。

だが聴覚は健在らしく、リドルの誘導に従いわし等の方へまっすぐ向かってくる。

 

「奴の牙だ。バジリスクは視界を塞がれているので牙でわし等を刺し貫こうとするだろう。日記で牙を受け止めれば…だが…」

 

ポッターに話しながらそれは難しいと考えを改める。

あの巨体で迫りくる相手に、自分はダメージを負わず日記だけに傷をつける事は相当の反射神経と勇気が必要だ。

 

「いや、やはりこの策はダメだ。何とかして奴の牙をへし折る事が出来れば…まずい!」

 

リドルがバジリスクに「スコージファイ」をかけている。

クソまみれだったバジリスクの顔は綺麗になりわしは表情を歪める。

蛇の視力と魔眼は元に戻り、日記もわしの呪文では破壊できない。

悪化していく状況にわしは退却を視野に入れ始める。

 

 

 

 

 

たが、次の瞬間急降下してきた金色の鳥が鋭利な爪で襲い掛かった。

嫌な音と共にバジリスクの左目は潰され、大きな悲鳴が響き渡る。

 

「ダンブルドアの鳥め!」

 

忌々し気に罵るリドルからは後の闇の帝王の威厳など感じられない。

蛇は鳥に襲い掛かろうとするが、ひらりひらりと宙を舞う相手には攻撃が当たらない。

片目が見えなくなった事で蛇の戦力は低下したが、強大な相手である事に変わりはない。

わしは荷物を漁り、バジリスク対策の次なる道具を取り出そうとする。

 

「ヒトミ、これを見てくれ!これならきっと倒せる!」

 

切迫した声に振り向くとポッターが組分け帽子から眩い輝きを放つを引き抜いていた。

剣の柄に埋め込まれた卵程の大きさのルビー、銀の刀身…以前文献で読んだ「あれ」だとすぐに閃いた。

剣を握りしめたポッターは、ゴクリと息を呑み日記を見つめる。

 

「これで…終わりだ!」

 

ポッターが振り下ろした剣は日記を両断し…無かった。

またも日記の結界に阻まれたのだ。

奈落の結界並の強度だな…。

 

『鳥は良い!ハリー・ポッターだ!奴を狙え』

 

蛇が首をこちらに向けたので、わし等は奴が失った左目の側に駆けだす。

左側に回り込んでいる限りは奴の魔眼を受ける事は無い。

わしは手探りで荷物の中から銀の矢を取り出し、神無の手を引いて箒に跨り飛び上がった。

無駄かもしれないが蛇語で攪乱を試みる。

 

『バジリスクよ。偉大なる蛇の王よ。貴様の真の主は、真の継承者はわしだ。実体が無いリドルは偽りの継承者だ。攻撃しろ』

 

バジリスクが噛みつこうとしてきたのを避ける。

くそ、聞く耳持たずか。

妨害呪文を放つも、その硬い皮膚に阻まれ効果は薄いようだ。

 

「ポッター、わしが逃げ回って誘導する。貴様はその剣で奴の皮膚の一部でも突き刺せ!神無は奴が右目をこちらに向けたら鏡で反射しろ」

 

ポッターは少し不満そうに頷いたが、わしには確信があった。

奴が握りしめているのはほぼ間違いなくグリフィンドールの剣だ。

小鬼製であるグリフィンドールの剣は、「自身を強くするものを吸収する」特性を持つ。

バジリスクの体中に毒が流れているのなら、一部分を切りつけて毒を吸収させれば日記を破壊する事が出来る。

 

わしが挑発するように飛び回るので、バジリスクの意識からポッターの存在は抜け落ちていた。

だからポッターがバジリスクの尾を剣で刺すことは簡単な事だったに違いない。

身体を刺されて激痛に悲鳴を上げるバジリスクからポッターはさっと離れ、剣を日記に突き刺した。

わしの想像通り、今度こそグリフィンドールの剣は日記を貫いた。

 

「リドル…父さんと母さんを殺した報いだ!」

 

リドルは恐ろしい悲鳴を上げて消滅した。

だが、それを見届けた事でポッターは気を抜いてしまったのだろう。

バジリスクの体当たりを喰らい、硬い石柱に叩きつけられて気を失った。

 

 

 

 

『止せ!バジリスク!貴様の主は倒れた。貴様が戦う理由はもう無い』

 

蛇語で呼びかけると今度は反応があった。

残った右目で周囲を見渡すバジリスクの姿は、とても混乱していると一目で分かった。

わしは奴の視界に入らないよう注意しながら呼びかけを続ける。

 

『リドルは死んだ…いや、初めから死んでいたのだ。奴は偽りの継承者だった。真の継承者であるわしに仕えろ』

 

バジリスクはリドルに「服従の呪文」でもかけられていたのだろうか。

その様子は何処か虚ろで、心が揺らいでいるように見えた。

一度心にヒビが入れば後は容易い。

根気よく説得を続けた結果、バジリスクはわしに従う事を承諾してくれた。

 

後ろを振り向くと、金色の鳥が流した涙によりポッターの傷が癒されている。

そうか…あれは不死鳥の涙だな。

バジリスクが生きていると分かれば面倒な事になるので、死んだ振りをするよう命じる。

不死鳥はポッターに気を取られているのでわし等のやり取りには気づいていないようだ。

 

頭を振りながら立ち上がるポッターに何食わぬ顔をして近づく。

 

「…ありがとう、フォークス。君のお陰で助かった。…ヒトミ、君も」

「ああ。バジリスクはわしが倒した。リドルも貴様が倒した。わし等の勝利だ」

 

ポッターは嬉しそうに頷くと、気を失ったままのウィーズリーを起こしに行った。

バジリスクをわしの部下にする事はそこまで自信があったわけじゃない。

奴がリドル亡き後もわし等を襲ってくるようならば即座にポッターを置いて逃げるつもりだった。

だが、結果的にわしは無事に勝利し、バジリスクを従えることができた。

予想以上の大勝利に浮かれていたので、隣に立つ神無の鏡が怪しく光っている事など気にも留めなかった。




・8/27 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
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