【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第2話 ダイアゴン横丁

近頃は暑さが厳しくなってきた。

生前の身体は気温の変化を感じなかったが、人間の体は不便なものだ。

 

神楽と動物園に行った日の帰り道、図書館という施設を見つけた。

ここでは様々な国の書籍が読め、登録さえすれば貸し出しもできるらしい。

勝手が分からずに少し手こずったが、無事に登録を済ませた。

奈落がマグルの身分証明書を用意していたおかげでスムーズに手続きが出来た。

奴の抜け目のなさには感謝しなければならないかもな。

 

その日から世界の歴史が書かれた書籍を借り読み漁った。

神楽の説明は色々と雑だったので、自分で学ぶ必要があると考えたのだ。

わしの居た時代から今の時代までに起こった出来事を、詳しく知る事が出来たのは幸いだった。

 

妖怪についての本も読んで見た。

この時代では妖怪など存在しない、誰かが作り上げた空想の生物だという論調が一般的なようだ。

…居ないだと?

奴らは確かに居た。

その事実を捻じ曲げたのは誰だ?

この国では居ないと書かれているだけで、日本では違うのだろうか。

 

 

人間になった事で能力が格段に落ちていることを感じていたので、体を鍛え始めた。

 

「暑い中ご苦労なこった。

確かに力は落ちてるかもしれないけど、同年代のガキの平均は超えてると思うぜ」

 

と神楽は言ったが、そんな程度では満足できん。

 

 

ある日の朝のこと。

神楽が言っていたように、ホグワーツから手紙が来た。

 

 

『ハクドウシ・ヒトミ殿

このたびホグワーツ魔法魔術学校への入学が許可されました。

教科書並びに必要な教材のリストを送ります

なお、新学期は9月1日に始まります。

 

              校長  アルバス・ダンブルドア

              副校長 ミネルバ・マクゴナガル』

 

 

ホグワーツ。

神楽も奈落も、ここに通うことが当然みたいな言い方をする。

わしは以前とは違い非力な人間となっている。

本意ではないが、魔法とやらを学んだ方が良いのだろうな…。

 

 

朝食の時、ホグワーツから手紙が来たことを奈落達に伝えた。

 

「へぇ、そりゃあ良かったじゃないか。なら近いうちにダイアゴン横丁に行かないとね」

「何横丁だと?」

「ダイアゴン横丁さ。そこじゃ魔法使いの生活に必要なものが大抵そろうからね」

 

食事を終え、出かける支度をする。

わしの準備が終わったことを見た神楽は暖炉に向かう。

この暖炉といい、先ほど食事をしたテーブルといい、どうも西洋式は慣れんな…。

などと考えていると、神楽が粉が入っている袋を渡してきた。

 

「なんだこれは?」

「ああ。まだ説明していなかったね。こいつは煙突飛行粉さ」

 

要は限定された場所を瞬間移動する道具のようだ。

使い方を教わり、いつの間にか後ろにいた神無が見守る中で初めての煙突飛行粉を使う。

 

『ダイアゴン横丁』

 

緑色の炎が迫ってくるのを感じたと思った次の瞬間、体が歪んでいくような感覚を覚えた。

不快な感覚に負けず、堂々と立ったまま目を開け続ける。

気づけばどこかの通りに立っていた。

これがダイアゴン横丁とやらか。

しかし、この移動方法は好きになれん…。

生前はある程度の距離を瞬間移動することが出来たが、あの時はもっと快適だったぞ。

 

「どうやら無事についたようだね」

 

神楽も煙突飛行粉で傍に到着した。

無事に着かなかったらどうするつもりだ、と思う。

少しの間をおいて神無も近くに現れた。

 

「おい、神無も行くのか?」

「この子も来年入学だからね。手順を見せておいた方がいいと思ってさ」

 

この子だと…前世は貴様の姉だっただろうに。

わしはため息をつくと、先導する神楽の後を神無と共について行った。

 

 

 

マグルの町を既に見ていた為に、魔法使いの町はそこまでの衝撃は無かった。

街の作り自体はマグルも魔法使いも大して変わらないのかもしれない。

ただ、グリンゴッツ銀行に居た子鬼と呼ばれる生き物にはそれなりに驚かされた。

妖怪もこの世界では生きているのだな。

ま、人間に飼いならされている時点で、その力はたかが知れているだろう。

何かに乗って移動するのは嫌いではないので、トロッコでの移動は少しだけ楽しめた。

 

銀行で金を引き出したあとは、教科書やら大鍋やらを順調に揃えていく。

…つくづく時代の進歩を感じるな。

わしが生きていたころの人間はただ妖怪に殺されるだけの存在であり、勉学に興じられるのは一部の裕福な人間だけだったというのに。

今では多くの人間が勉学に励み、己を磨くことが出来る。

 

 

「そうだ、ペットを買ってやるよ」

 

一軒の店の前で神楽が立ち止まった。

檻の中に小動物が入れられこちらに愛嬌を振りまいている。

しつけられた獣というのも悲しいものだ。

 

「ペットだと?」

「そうだ。ホグワーツじゃあペットの持ち込みが許可されてるのさ」

「そうか…」

 

ペット…動物か…。

生前に乗り回していた炎蹄という妖馬を思い出す。

炎蹄の背に乗って空を駆け回り、犬夜叉たちと戦っていた頃はそれなりに楽しかったな。

 

「馬がいいな」

「馬ねぇ……そいつは無理だな。鼠やフクロウ、ネコくらいしか持ちこめないとよ」

 

それを早く言え。

 

「…ならば鼠でも貰おうか」

 

わしは少し考えた末に鼠を選んだ。

桔梗をおびき出す為に大量の妖怪鼠を放ったことがあったからだ。

鼠は害獣とされているが、上手く使えば便利な生き物だ。

今回も役に立ってもらおう。

 

数分後、ペットショップから出る時には籠に入れられた一匹の鼠を手にしていた。

名前は厨子(ズシ)と名付けた。

生前に利用した厨子鼠から取ったのだ。

 

「神無は良いのかい」

「…いらない」

 

欲がない奴だ。

 

 

 

次はマダム・マルキンの洋装店に入ることになった。

制服と杖を手に入れれば買い物も終わりだ。

この街では色々と珍しいものが見られたので、少し名残惜しくはあるな。

 

「こいつの制服を作ってやってくれ。ホグワーツだよ」

「はい畏まりました。賢そうな坊ちゃんねぇ。こちらへどうぞ寸法を測りますからね」

 

坊ちゃん…だと…。

マルキンの猫なで声に苛立ちながらも素直に店の奥に案内される。

 

「やぁ、君もホグワーツかい?」

「…ああ。どうやらそのようだな」

 

金髪の青白い顔をした小僧が話しかけてきた。

隣にいるのは…あの時のポッターとかいう眼鏡小僧だな。

わしの顔を見て驚いているところを見ると、奴も動物園での出会いを覚えていたようだ。

 

「君は純血…では無さそうだね。随分とおかしな格好だ。それがマグル流なのかい?」

 

わしの恰好を見て、金髪はあざ笑うように言った。

書き忘れていたが、今日も例の白い和服を着ている。

金髪の煽りを無視し、かつてから興味があったポッターに話しかける。

 

「貴様は、ハリー・ポッターだったか。あの後で調べさせて貰ったよ。随分な有名人だったようじゃないか」

「えっと…どうやらそうみたいだね。有名って事には実感が沸かないけれど」

「おい、僕のいう事を無視…ポッターだと?」

 

金髪が衝撃を受けたような顔をした。

 

「君も…魔法使いだったんだね」

「そうだな。そう有らざるをえないようだ」

「そう有らざるをえない…?君は魔法使いで居ることが嫌なの?」

 

ポッターは驚いたように見つめてくる。

その隣で金髪が訝しむような視線を向け続けている。

 

「…それしか選択が無かった。それだけだ。だから今こうしている」

「僕は…魔法使いって事にまだ実感がないけど、これで良かったと思っているよ」

 

寸法が測り終わり、ポッターの制服が出来上がった。

彼は店の前で待っている大男のもとに静かに歩いていく。

 

「魔法使いになる前は、誰かが僕を待って居てくれることなんて無かったからね」

 

すれ違いざまにポッターは笑顔でそう言った。

動物園で会った時、ポッターは中年男に無理やり引きづられて嫌そうな顔をしていた。

だが、今の奴はなにやら嬉しそうに見える。

…魔法使いである事が奴にとっての幸せ、か…

 

「…ふん、あれがポッターだったのか。だが闇の帝王を倒したという割には平凡じゃあないか」

 

こいつ、まだ居たのか。

すっかり存在を忘れていた。

 

「僕はさっき彼にこう言った。相応しく無い者はホグワーツに入らないで欲しいとね。

君も魔法使いでありたくないなら、相応しく無い者の一人で終わるだろうね」

 

捨て台詞をはいて金髪は去っていった。

わしは肩を竦めると、制服を受け取って洋装店を後にした。

 

 

 

「またポッターか…縁があるのか?」

「さあな」

 

様子を見ていたらしい神楽に適当な返事を返し、オリバンダーの店に向かう。

わしらを迎えた男は老いぼれだがどこか油断がならない気配がした。

犬夜叉と関わりがあった刀鍛冶の…なんとかという爺を思い出すな。

 

わしは杖を実際に握って振ってみることになった。

秘かに楽しみにしていた行為だったが、何本杖を振ってもしっくり来ない。

オリバンダーもそれを察したのか、店の奥をひっかきまわし始めた。

 

「どうやら貴方は不思議な運命を持っているようじゃ。これは面白そうじゃな」

「不思議な運命だかなんだか知らないがとっとと終わらせたいもんだ。こっちはこの大荷物を一人で背負ってやってんだからな」

 

神楽が毒づく。

やがてオリバンダーは赤く美しい毛がついた杖を持ってきた。

 

「これはどうかな。赤兎馬の毛付き。芯は銀の竜。しっとり滑らか。十八センチ」

 

彼が差し出した杖を握ると、体の内側から力がみなぎるような感覚があった。

何かに導かれるように杖を振ると、神楽が以前やってのけたような七色の光があふれ出た。

いや、神楽の呪文よりもさらに眩しく、神々しいような…。

 

「おぉ…まさにこれじゃ。素晴らしい…」

「へぇ、大したものじゃないか」

「…このくらいは造作もない」

 

内心の高揚を抑え、オリバンダーと神楽の感嘆の声に気のない返事を返す。

丁寧に包装された杖を受け取り、神楽に金を払わせると老人のお辞儀を背に店を出る。

扉を開けると既に2度見た顔が眼前にあった。

 

「君は…」

「…これで3度目だな。ポッター」

「なんだハリー。もう知り合いが出来たのか」

 

ハリー・ポッターとその隣の大男を一瞥すしてその横を通り過ぎる。

ポッターはこちらを少しだけ見送っていたが、やがて店内に入っていった。

 

「いいのか?」

「構わん」

 

奴がどんな杖を手に入れるか興味が無いわけではないが…今日はもう疲れたからな。

煙突飛行粉を使って家に帰り、一息つく。

しばらくは教科書を読んで過ごすとするか…。

それに、この杖にも慣れておきたい。

赤兎馬というのは中国の武将が乗っていた赤い馬だった筈だ。

炎蹄も赤く燃え上がるような鬣をもっていたし、不思議な縁があるのかもしれないな。

 

 

 

その日から暇があれば教科書を読み漁り、実際に杖を振っていくつか呪文を試してみた。

わしは新たに知識を得るのが好きなようだな…図書館通いをしていた時も思ったが。

そして、新しくペットとなった厨子にもそれなりの教育をしてやった。

わしが格上の存在だと獣の本能で見抜いたらしく、簡単な命令はすぐに覚えるようになった。

魔法の練習に加え体を鍛えることも継続して行って居たので、毎日が忙しく過ぎていった。




・2017/05/08 文章を修正しました。
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