『白童子視点』
部屋に居る意味もなくなったので、一同は出口に向かった。
ポッター達はフォークス(不死鳥の名らしい)に捕まり、わしと神無は銀の矢に乗って狭いパイプからマートルのトイレに向かった。
道中ではジニーの泣き声やウィーズリーの追求がとても五月蠅かったが、大勝利の後なので寛容な精神でそれを許してやった。
薄汚い地下を歩いたせいで一同の服は泥や汗でドロドロだったが、あえて清浄魔法は使わない。
激闘の後を演出するためには、薄汚れた服のままの方が良いだろうと判断したからだ。
それにしても…。
自分が魔法使いである事さえ忘れてフォークスの背ではしゃぐロックハートを見ながら考える。
忘却術がここまで強力だとは知らなかった。
聞いた話によると、ロックハートは本来なら英雄と称えられるべき人物に忘却術をかけ、その偉業を自分の功績にしていたそうだ。
わしも生前はかなりの悪党だったが、ロックハートも相当の極悪人だったようだな…。
自分がそれを喰らってしまったのは因果応報と言えるだろう。
使えれば便利そうなので、忘却術の習得を真剣に考えるべきかもな。
無事にマートルのトイレに辿り付き、廊下に出る。
皆を先導するように飛ぶフォークスの後を着いていくと、マクゴナガルの部屋の前に着いた。
代表してポッターが扉を開けると、部屋の中にマクゴナガルとダンブルドアとスネイプ、そしてジニーの両親らしき赤毛の中年夫婦が居た。
「ジニー…! 良かった、無事だったのか!」
「心配したのよジニー! あぁ、何ていっていいか…。ハリー、貴方が助けてくれたの? 本当にありがとう。」
ウィーズリー夫妻は感激の涙を流しながら、まずジニーとロン、ポッターを抱きしめた。
スネイプは彼らの様子を無表情で眺めていたが、わしと神無に近づいて「スコージファイ」をかけてくれた。
汗や泥に汚れた服は瞬く間に綺麗になり、軽く礼を言うと神無と共にソファーに腰かける。
ポッターが事情を説明するのをのんびりと聞くとしよう。
とても疲れて居た。
「…こうして、僕らは部屋に辿りついたんです。」
「そうでしたか…。その為に約百の校則を粉々に破ったわけですが、それは今は置いておきましょう。…ところで、貴方たちはどうやって部屋を見つけたのですか?」
ポッター達が部屋の入り口を見つけた方法は模範的とは言い難いものなので、マクゴナガルは少し複雑そうにしていた。
彼女の次の矛先はこちらに向けられたので、バジリスクの事を知った経緯やマートルの部屋で部屋を発見した事を手短に話す。
話はポッターに任せ、今は休んでいたい。
語り手は再びポッターに戻り、彼の口から秘密の部屋での激闘が語られた。
ジニーが罪に問われることを気にしたのか、リドルの日記の所で説明に詰まっていたが、ダンブルドアが上手く話を誘導したのでそれに乗っかることにしたようだ。
ウィーズリー夫妻はジニーにカンカンだったが、ダンブルドアの取り成しで落ち着きを取り戻し、三人で医務室に向かった。
「貴方たちもジニーを助けてくれたのね。本当にありがとう」
去り際に夫婦から礼を言われた。
閉校を阻止したかっただけでジニーはどうでも良かったのだが、余計な事を言う必要もないな。
静かに頷いて礼を受け取っておく。
ダンブルドアはポッターとウィーズリーに退学の話をして青ざめさせた上で良い話を持ち掛けた。
「グリフィンドール、レイブンクロー、スリザリンに1人2百点ずつ与えよう。そして4人には『ホグワーツ特別功労賞』が授与される」
喜びに沸くポッター達を冷めた目で見つめる。
見え透いたご褒美だ。
次も精々頑張って働いてくれ…と言う事か。
退学という鞭の後に点数という飴を与えることで喜びを倍増させる…いやらしいやり方だ。
「ロックハート先生にも治療が必要じゃろう。スマンが、彼も連れていってやってくれんかの?」
ダンブルドアの言葉に従って部屋を出る。
だが、ポッターだけを残したことが気になったので、ロックハートの事はウィーズリーに任せて逆方向に駆けだす。
「おい、何処に行くんだよ」
「便所だ」
嘘を言ってウィーズリーをごまかすと、誰も居ない場所で神無に鏡を取り出させる。
「ダンブルドアとポッターの会話を映し出せ」
神無が鏡を撫でまわすと鏡面に部屋での様子が映し出される。
ヴォルデモート卿の能力の一部がポッターに移った事。
「自分がどんな能力を持っているかではなく、どんな選択をするかが重要」とダンブルドアがポッターを諭した事。
ルシウス・マルフォイが怒鳴り込んできたが、ダンブルドアに冷静にやり込められた事。
ポッターとダンブルドアはマルフォイがジニーの大鍋に日記を入れた張本人だと分かっていた事。
ポッターの機転によりドビーがマルフォイから解放されて自由になった事。
鏡は全てを映してくれた。
「ご苦労だ、神無。さて、医務室に向かうとするか。トイレにしては長すぎるからな」
どれも有益な情報だったが、ポッターがヴォルデモート卿の能力の一部を持っていると言うのは特に興味深いな。
奴は蛇語以外にもヴォルデモート卿の能力を習得しているのかもしれない。
医務室に辿り付くと、ウィーズリー夫妻から再び礼を言われた。
あのロナルド・ウィーズリーも感謝の言葉をかけられたのには驚いた。
奴はわしが嫌いな筈だが、今回の活躍には文句のつけようが無かったのだろう。
マダム・ポンフリーがマンドレイクのジュースを飲ませたことで犠牲者達も復活した。
「貴方の本にバジリスクの事が書いてあったから怪物の正体が分かったわ。ありがとう。アイツの目を見たら死ぬってわかったから鏡を持ち歩くようにして、それで石化ですんだのよ。危機一髪だったわ…。」
「ああ、役に立ったなら何よりだ」
グレンジャーは本の礼を述べると、自分も決着のシーンに立ち会いたかったと呟いた。
いつもの3人の中で一人だけ秘密の部屋に入れなかった事を悔いているのだろう。
もしもグレンジャーが石化せずにポッター達に同行して居たら違う展開になっていただろう。
彼女は目聡いので、バジリスクを部下にしようとしている姿を見られていたかもしれない。
そんな危険を想像し、グレンジャーが石化していて良かったと秘かに安堵した。
大広間に行くと皆がパジャマ姿ではしゃいでいた。
怪物の件が片付いたことは知れ渡っているらしく、皆は悪夢から覚めたような笑顔を浮かべていた。
だがマルフォイはとても機嫌が悪く、スリザリンのテーブルにつくなり愚痴をこぼし始めた。
「父上が理事を辞めさせられたらしい。くそ、ダンブルドアめ…」
とても疲れているというのに、マルフォイの愚痴と悪口に付き合わなければならないとは…。
さっさと別の席に避難したダフネが同情の視線を送ってくる。
同情するなら席を変わってくれ。
グリフィンドールのテーブルではポッターとウィーズリーに人が集まって彼らを称えていた。
レイブンクローでも同じように多くの人が神無を取り囲み武勇伝を聞きたがったが、神無が殆ど喋らないので困っているようだった。
マクゴナガルが期末試験は無しだと発表すると殆どの生徒が歓声をあげた。
地道に勉強を重ねてきたので、それを活かす機会が失われたのは少し残念だな。
グレンジャーもそう思ったのか肩を落としていた。
それと、寮杯はグリフィンドールのものになった。
スリザリンとレイブンクローにも200点ずつ加算されたので、大きく点を引き離され最下位になったハッフルパフが哀れだった。
彼らは自分たちの点数など余り気にせずにグリフィンドールに声援を送っていたが…穏やかなのか競争心にかけるのか分からんな。
翌日。
全ての授業は休講となり、怪物の恐怖から解放された生徒達は嬉しそうにはしゃいでいた。
そんな彼らに背を向け、悟られぬよう注意しながらマートルのトイレに向かう。
パイプを滑り落ちるのもドロドロの地面を歩くのも好きでは無いので、箒に跨りながら移動。
再び秘密の部屋に乗り込むと、バジリスクがとぐろを巻いて待ちかねていた。
『待たせてすまない。さぁ、傷を治してやろう』
魔眼を見ないように注意しながら傷口に薬を塗ってやる。
バジリスクへの対策として医療品を買っておいたのがこんな形で役に立つとは思わなかったな。
人間用の薬が蛇に通じるか不安だったが、少しすると傷口は塞がっていた。
『夏休みの間はここで再び眠りにつけ。誰も来ないと思うが、もしも教師達が来たら死んだ振りをしてくれ』
バジリスクが分かったと言うように頷くのを確認し、静かに部屋を出る。
今回の出来事でマートルはポッターに惚れたらしく、ずっと上の空だったので、誰かがトイレに出入りした事にすら気づいていなかった。
今はこうするしかないが、バジリスクをいつまでも部屋に押し込めておくのは危険だ。
あの巨体を部屋から出して別の場所で飼う方法を調べておいた方が良さそうだな。
魔眼を制御する方法も知っておいた方が良い。
あれは強力な武器ではあるが、主すら殺しかねない諸刃の剣だ。
そのまま何事もなく一年が終わり、生徒達は再び汽車で家に帰る事になった。
帰る直前にスネイプを呼び止めてある話を持ち掛ける。
「休暇中に魔法を使うのはどうしても無理なのか?呪文の練習をしたいのだが」
「無理だ。これは魔法省の決定だからな」
「そうか…。ならば休暇中にダイアゴン横丁で働く事は許されるのか?」
「働く……?」
魔法の使用許可は初めから諦めていた。
本題はこっちだ。
バジリスク対策グッズを買った事で小遣いがすっからかんになってしまったからな。
「ホグワーツでは未成年の就労は認められていない…が、貴様は成績が優秀だからな。特別に許可してやろう」
スネイプはサイン入りの就労許可証を渡してくれた。
後はダイアゴン横丁でバイトを募集している所を探せば良い。
彼に礼を言って汽車に乗り込み、いつものメンバーで車両を独占する。
マルフォイの機嫌は少しは治っていたので、1年間の思い出話やチェスを楽しんだ。
クラッブとゴイルは少し疲れた顔をしていたが、きっとマルフォイの機嫌が治るまでご機嫌取りをしていたのだろうな
汽車は無事にキングズ・クロス駅に到着し、マルフォイ達と別れの挨拶をする。
「ハクドウシ」
振り向くとルーナと神無が立っていた。
「バジリスクって魔法生物、ハクドウシが倒したんだって?皆が噂してるよ」
「そうだな。わしがやった」
ポッターが自分だけの手柄では無いと正直に話してしまったので、バジリスクを倒した時の作り話を考えておくことになった。
全て奴の手柄にした方が都合が良かったのだがな…。
これまでにも他の生徒から同じような質問をされたので、今回も同じ答えを返そうと思ったのだが、彼女はどうやって倒したかでは無くバジリスクの生態を知りたがった。
魔法生物への興味が強い奴だ。
丁寧に質問に答えてやるとルーナは満足げに去っていった。
『奈落視点』
「そうか…白童子はバジリスクを手中に収めたのだな」
「……」
薄暗い部屋で神無の報告を受ける。
白童子め…わしの期待以上の働きをしおった。
バジリスクに殺されて終わりでも構わなかったのだがな。
「偉大なる蛇の王、バジリスクか…。白童子。貴様がバジリスクをどう扱うか、しかと見せて貰おうか。…神無、もう下がってよい」
恭しく退室する神無を見送り、思考を巡らせる。
ルシウス・マルフォイは他の理事を脅していた事で立場を危うくしている。
ここで奴を失脚させるも良し、手を貸して恩を売るのも良し、だ。
静観していただけでこうも事が上手く運ぶとは、運命の神はこちらの味方のようだな。
次に考えるのは、我が不肖の息子のこと。
白童子はバジリスクとの戦いで結界を使わなかった…いや、使えなかったのだろう。
奴の力はまだ完全では無い。
だというのに、バジリスクを従える事に成功している。
生前は炎の馬に懐かれていたし、奴は妖怪や魔法生物に好かれる性質なのかもしれない。
バジリスクの魔眼は一度目を合わせただけで人を殺すことのできる強力な武器だが、白童子はそれを制御できるのだろうか。
自分のペットに殺される、なんて事がないように精々頑張れって欲しいものだ。
そして、ヴォルデモート卿の日記。
白童子やハリー・ポッターは気づいていないだろうが、ダンブルドアは既に分かっている筈だ。
あれはヴォルデモート卿の分霊箱だと。
自分の魂の一部が破壊されたと知ったらヴォルデモート卿はどう動くだろうか。
そして…
「白童子よ。貴様は最終的に何を狙っているのだ? 生前と同じくわしの命を奪おうとするのか? それとも…」
いずれにせよ、まだ動く時ではない。
わしはただ静かに…その時を待てば良いのだ。
※未成年の就労についての決まりは適当というか、オリジナル設定です。
原作と矛盾があるようでしたら遠慮なくご指摘ください。修正します。
※秘密の部屋編、終了です。
読んで頂いてありがとうございます。
次の更新は少し遅れますが、1週間以内の更新が出来るよう努力します。
それと、アズカバンの囚人からは毎日更新は厳しくなるので、隔日更新になると思います。
・8/28 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
・9/4 文章をすこし修正しました。ご指摘ありがとうございます。