【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第31話 吸魂鬼

9月1日は曇り空で、天気予報では雨のマークが出ていた。

荷物の確認をすませて神無と共に家を出て、タクシーでキングズ・クロス駅に向かい9と4分の3番線に辿り付く。

3回目なので慣れたものだ。

早めに家を出たので余裕を持って汽車内を歩いているとマルフォイと出会った。

 

「席を探してるのか?」

「ああ」

「来いよ。クラッブ達に取らせておいた」

「分かった。神無はどうする?」

 

神無は静かに首を振る。

自分で席を探すように伝え、神無と別れマルフォイの後に続く。

広めのコンパートメントには、クラッブとゴイル、ダフネ。

そして見覚えのない金髪の女の子が居た。

ダフネとよく似ているのを見ると彼女の妹だろうか。

 

「アステリア・グリーングラスです。よ、よろしくお願いしますわ」

「ああ。ハクドウシ・ヒトミだ」

 

緊張気味の彼女と自己紹介を交わしていると、パーキンソンとブルストロードが入っていた。

2人とも夏休みの間に更に大柄になっている。

 

汽車が発車した。

厨子の入った籠を取り出して窓辺に置き、景色を見せてやる。

鼠が嫌いなのか、アステリアが嫌そうに身を引く。

マルフォイは興味を持ったように厨子をのぞき込んだ。

 

「その鼠、もう長く無いんじゃないか?」

「ああ。ペットショップでもそう言われた」

 

特別な能力が無い限り、鼠の寿命は3年程度らしい。

厨子は来年はホグワーツに来れないかもしれない。

寿命が短いペットを天敵であるバジリスクが居る学校に連れていくのは少し気の毒ではある。

だが、存分に役目を果たしてから死んでもらうのが、白童子流の厨子への手向けなのだ。

 

 

 

 

 

「何で書店なんかで働いていたんだ?」

 

マルフォイが尋ねてきた。

ダイアゴン横丁で会った時は父親と一緒だったので聞けなかったのだろう。

 

「欲しい物があったのでな。金が必要だったんだ。スネイプの許可は得ている」

 

正直に答えると、彼らは感心したような憐れむような顔をした。

ダフネは今年も海外旅行を楽しんだらしく、自慢話を始めたので皆の興味はそちらに移った。

機嫌よく話すダフネに対してアステリアはやや控えめな性格のようで余り喋らない。

 

話もひと段落し、わしは午前中の間はマルフォイやダフネとチェスをして過ごした。

昼食を食べ終わる頃には外で雨が降り出し始めた。

マルフォイはクラッブ達に目配せをして、ゆっくりと立ち上がった。

 

「どうした?」

「ちょっとポッター様のご様子を見に、ね。君も来るかい?」

「元気な事だな…。わしはやめておく」

 

マルフォイはポッターを認めているが、その一方でちょっかいを出したがる。

相変わらずだな。

意地悪な笑みを浮かべて部屋を出て行ったが、数分後につまらなそうな顔で帰って来た。

 

「あら、もうお帰り?」

「ポッター達の部屋に新任の教師が居た。あれじゃあちょっと分が悪いからな」

「賢明な事だな」

 

マルフォイ達はいつものようにポッターの悪口大会を始め、二人の巨漢女もそれに乗った。

退屈になったわしは教科書と杖を取り出して呪文の練習を始めた。

 

「あら、熱心ですわね。私たちも致しましょうか?アステリア」

「ええお姉さま」

 

ダフネとアステリアもそれに倣う。

アステリアは中々優秀で、呪文を何度も成功させていた。

わしは縮小呪文を鞄に試してみたが、どうも上手くいかなかった。

一時的に縮めることは出来ても、その状態を長く維持する事が出来ないのだ。

まぁ、明日必要となる肥らせ魔法は上手くできたので良しとするか。

 

 

 

 

雨は強くなる一方で空も暗くなってきた。

男女交代で着替えを済ませ、後は到着を待つだけ…。

の筈だったが、なぜか予定よりも早く汽車の速度が落ち始めた。

 

「おかしいな。まだ着かない筈だ」

「い、一体どうしたっていうの?」

 

チェスをしていたマルフォイとパーキンソンが不安げに顔を見合わせる。

 

「またポッター達が何かやらかしたんじゃないでしょうね」

 

ブルストロードが呟くと同時に汽車の明かりが一斉に消えた。

汽車内は真っ暗になり、他の車両からも不安げな声が上がり始める。

 

「ルーモス(光よ)」

 

わしの杖の先に明かりが灯され、部屋が明るくなる。

どさくさに紛れてパーキンソンがマルフォイに抱き着いているのが見えた。

わしの傍では怯えるアステリアをダフネが慰めている。

 

「故障ならその内治るだろう。慌てる必要は…」

 

ない、と言いかけた所で全身に寒気が走った。

皆も同じような気分なのだろう、杖の明かりに照らされた皆の顔は一様に蒼白だった。

わしも同じような顔をしているのだろう。

扉を隔てた所に何か嫌な存在が居る。

誰もがそれを感じていた。

 

「う、うわあああああ!!」

 

マルフォイが悲鳴を上げて部屋を出て行こうとするが、わしとぶつかって転んでしまう。

もたついている内に扉が音もなく開き、何者かが部屋に入って来た。

視界に入ったのは、マントを来た黒く不気味な影。

本能的な危機感を感じ、杖を振り上げて呪文を唱える。

 

「プロテゴ!(護れ) インペディメンタ!(妨害せよ)」

 

だが、腕に力が入らず弱弱しい呪文しか出せない。

これでは抵抗にすらならないだろう。

黒い影は頭巾に覆われた顔からガラガラと音を立てて息を吸い込み始める。

今までの比では無い冷たい気が皆を襲い、わしは呼吸が苦しくなるのを感じた。

誰かが叫んだが、誰の声だったかは分からない。

わしは意識を失ってしまったから。

 

 

 

 

 

黒い穴が見える。

法師の手に開けられた奈落の呪いだ。

わしは穴に吸い込まれていく。

頭の中を、奈落の嘲笑が響く。

神楽が憐れみと見下しが混ざったような視線を向けてくる光景が、何度も流れては消えていく。

吐き気がするような苦痛と、死ぬ事への絶望と恐怖が心を支配する。

何もない、暗い闇の中でわしの意識は薄れていく。

わしの全てが、消えていく……。

 

 

 

 

 

「…ドウシ!ハクドウシ!」

 

女の声が聞こえた。

ゆっくりと目を開けると、わしの顔いっぱいにダフネの顔が見えた。

混乱する頭をなんとか落ち着かせて起き上がる。

部屋の中には大人の男性がおり、彼も心配そうにわしを見つめている。

 

「わしは…どうなった?」

「君は気を失っていたんだ。吸魂鬼は人の幸福を吸い取り最も辛い記憶を見せる力がある」

 

男性はわし等にチョコレートを配ると他の車両を見に行った。

 

「貴方が倒れた後、あの方が吸魂鬼を追い払ってくれたんです。私は、ただただ怖くて…」

「そうか…」

 

ダフネの説明の後は誰もが暗い顔をして俯いていた。

アステリアは時折しゃくり上げ、ダフネが優しくその頭を撫でてやっている。

わしは静かに暗い空を見上げていた。

 

吸魂鬼という存在は知識の上では知っていた。

だが、甘く見ていた。

奴らは人の幸せを吸い取ることができる。

ならば、妖怪に近い存在のわしは大丈夫だと高をくくっていたのだ。

だが、いざ会ってみればこの様。

ろくに抵抗もできず無様に気を失ってしまった。

もしもあの男が居なければ、吸魂鬼はわしに「キス」をしていたかもしれない。

…吸魂鬼は人の絶望を好む。

わしはやはり死の瞬間…確かに絶望したのだろう。

生まれ変わっても、その感情は消え去っていないようだ。

不甲斐なさと屈辱に膝を叩き、唇を噛みしめた。

 

チョコレートを最初に口にしたのはクラッブだった。

でかい図体を縮めていた彼だったが、チョコレートを食べると途端に元気になった。

それを見たわし等もチョコレートを食べ、表面上は普段の調子を取り戻した。

だが、わしの心の中には暗い影が残っていた。

 

 

 

 

 

汽車は間もなく走り出し、10分ほどで駅に辿り付いた。

雨が降る中をアステリアだけが心細そうに1年生の列に向かう。

めでたい入学の日だと言うのに、雨は降るし吸魂鬼に出会うしでさぞ憂鬱な気分だろうな。

 

馬車に向かう途中、ポッター達とすれ違った。

マルフォイはポッターが気絶したことをネタにちょっかいを出そうとしたが、自重した。

ポッターの気絶を笑う事は、わしが気絶した事を笑う事と同じだと気づいたのだろう。

城の門の前には2人の吸魂鬼が並び立っていた。

わしの絶望は美味いと話が広がっていたのか、奴らはわしの馬車が通過する時にジロジロと見つめてきた。

チョコレートを握りしめるしか出来ない自分が情けなかった。

 

 

大広間に着くと、スネイプから医務室に来るようにと呼び出しがかかった。

マルフォイに席を取るように頼んでから医務室に向かうと、ポッターとグレンジャーがマクゴナガルと話しているのが見えた。

彼らもわしと同様に呼び出しを受けたのだ。

 

「ああ、来ましたね。ミスタ・ヒトミはそこに座りなさい」

 

用意された椅子に素直に座る。

わしやポッターが呼び出されたのは吸魂鬼に会って気を失ったから。

それを恥に思ったのか、ポッターは自分は大丈夫だとムキになって主張していた、

わしは大人しくマダム・ポンフリーの診察を受けた。

 

「チョコレートは…」

「もう食べた。汽車の中でルーピン教授から貰ったんです」

「そう。新任の防衛術の教師はあいつらへの対処法を知ってるってことね」

 

ポッターの言葉を聞いたマダム・ポンフリーは満足げな顔をした。

あの男はルーピンと言う名の新任教師だったのか。

情報を反芻するわしの隣で、スネイプは憎い相手の名を聞いたというように顔をしかめた。

…ルーピンと因縁でもあるのだろうか。

 

「問題が無いのならば、吾輩は彼を大広間に送る事にしましょう」

「分かりました。ミス・グレンジャーは私とちょっと時間割の話をするので、ポッターは外で待っていらっしゃい」

 

医務室を出た時にポッターと目が合ったが、互いにすぐに視線を逸らした。

スネイプは廊下を歩きながら不機嫌そうに言った。

 

「ポッターが気を失うのは分かる。両親が死ぬところでも見たのだろう…だが」

 

急に立ち止まり、疑念を込めた目でわしを睨みつける。

 

「貴様は何故倒れた?貴様の過去に何があったのだ?」

「さあな。教師とはいえ生徒の過去に立ち入る権利は無いと思うが」

「無礼な口を聞くな。吸魂鬼は汽車での一件で味を占めた筈だ。恐らく貴様はまた狙われる」

 

…だろうな。

スネイプは髪を神経質に撫でつけながら渋々と言った感じで口を開いた。

 

「次の土曜日にわしの研究室に来い。吸魂鬼を撃退する術を教えてやろう」

「分かった。よろしく頼む」

 

薄く笑みを浮かべる。

吸魂鬼を撃退する術とは、「守護霊の呪文」の事だろう。

スネイプに呼び出された瞬間からわしはこの展開を待っていたので、嬉しい限りだ。

 

 

 

 

 

大広間に着いた。

教員席に向かうスネイプと別れ、スリザリンのテーブルに向かう。

何人かの生徒がわしをチラチラと見ていてうっとおしい。

 

「何だったんだ?」

「気絶した件だ。異常が無いと分かりすぐに開放された」

「それは何よりですわね。グリフィンドールからも2人呼ばれたようですが、ポッターくんはともかくグレンジャーさんは何故呼ばれたのでしょう?」

 

席に着くとマルフォイとダフネが話しかけてくる。

組分けは既に終わったらしくダフネの隣にはアステリアが居た。

 

 

腹を空かせていたのでご馳走を期待したが、その前にダンブルドアが話を始めた。

 

シリウス・ブラック対策で吸魂鬼が学校の入り口を固めて居るので、注意する事。

新しい「闇の魔術に対する防衛術」と「魔法生物飼育学」の教師を迎えた事。

 

前者の発表に皆が嫌な顔をしたが、後者の発表にはグリフィンドール生が大きな拍手をした。

わしはハグリッドが良い教師となれるか疑問だったので拍手をしなかった。

スリザリン生の多くは2人の新任教師を快く迎える気はないようだった。

特にマルフォイはハグリッドを睨みつけている。

マルフォイは1年生の時に「禁じられた森」で罰則を受けたさい、奴と出会っている。

そこで無礼な態度を取られた上に、危険な目に会わされたので根に持っているのだろう。

奴の気持ちは分かる。

ユニコーンが不審な死を遂げたばかりの「禁じられた森」を1年生だけで調査させるなど、安全意識に欠けている。

 

「あの下品なウドの大木を教師に…?ダンブルドアの依怙贔屓にも呆れるな」

「彼って昨年アズカバンに入ってらっしゃったんでしょう?嫌ですわね犯罪者の匂いが移りますわ」

「そうそう。それに見てよあの防衛術の教師の恰好!汽車でも思ったけどなんでめでたい新学期にボロボロの服着てくるの!?」

 

マルフォイ、ダフネ、パーキンソンが教師陣への感想を口にする。

 

「ハグリッドに関しては同感だな。ルーピンは汽車での対応を見るとそれなりの力量はあるんじゃないか?恰好はともかくな」

「そうですわね。まあニンニクの香りをまき散らしたり、ピクシーを教室に放ったりはしないと思いたいものですわ」

 

わしとダフネが話しているとダンブルドアの合図と共に大皿にご馳走が現れた。

わし等は新任教師の値踏みをやめてご馳走を平らげる事に集中した。

吸魂鬼の汽車内パトロールで気分を害した者が多かったからか、皆良く食べ良く飲んだ。

 

「名誉と誇り」

 

夕食も終わったので教えてもらったばかりの合言葉を言って寮に入る。

今年もマルフォイと同室だ。

厨子に夕食の残りを分けてやり、マルフォイにお休みを言って布団に入った。




・9/4 文章をすこし修正しました。ご指摘ありがとうございます。

・2017/05/06 文章を修正しました。
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