【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第34話 ホグズミード村

マルフォイとの対立や守護霊の呪文の練習等で忙しい1週間が終わると、少し落ち着いた日々が戻って来た。

生まれ変わってからホグワーツに居る時間の方が長いので、こっちが家のような気がしてくるな。

 

最近は図書館に行く度にグレンジャーを見かける。

話しかけようかと思ったが膨大な宿題に埋もれて不機嫌そうだったのでやめておいた。

時間の都合もあるので取れる講義の数は決まっている筈だが、何故あんなに宿題を抱えているのだろう。

 

 

 

 

 

 

9月の中頃、以前8階の壁に出現した謎の扉と部屋が気になったので厨子を8階に張らせてみた。

何か発見したら戻って来いと伝えてから1週間後の昼頃に収穫を携えて帰って来た。

軽く頭を撫でて労をねぎらい、いつものように額を重ねて記憶を読み取る。

…以前よりも感覚がクリアだな。

今の体に慣れた事でわしの能力が向上しているのか、厨子の表層だけでなく深い心の内まで入り込めそうな気がする。

何時かは人間の心を読み取り、その者を支配する事もできるかもしれない。

それはさておき、今は厨子の記憶に集中するか。

オレンジの毛をした太った猫に怯えている記憶もあったが、これは今はどうでも良いな。

 

…8階の廊下を歩いている女性教師の姿が見える。

傍らに「未来の霧を晴らす」と書かれた本を持っている事から、あれは占い学のトロレーニー教授だと推測する。

占い学を取っているノットが「あの授業は最悪だ。トロレーニーは絶対インチキだよ」とボヤいていたので名前だけは憶えていた。

ノットから絶対インチキだと評されたトロレーニーは、件の壁の前で3回ほど行ったり来たりして扉を出現させて部屋に入る。

わしの時とは違い部屋の中は様々な品種の酒瓶が並んでいた。

彼女は酒瓶の中から上質のシェリー酒を何本か取り出すとスキップしながら部屋を後にした。

 

厨子から額を離し、扉と部屋は存在する事を再認識する。

どうやら扉を出現させる為には特殊な行動をとる必要があるようだ。

その条件は壁の前で往復する事…いや、まだ別の要素もありそうだな。

 

午後の授業が終わった後、わしは8階でトロレーニーの真似をして壁の前を往復してみる。

だが何も起こらない。

やはりただ往復するだけではダメなようだ。

わしは水で鞄を洗いたいと願い、扉が現れ水洗い場が幾つかある部屋が開いた。

トロレーニーは酒が欲しいと願ったのだろうか?

そして酒が用意された部屋に入った…。

あの部屋は「求める物が用意された部屋」なのだろうか?

 

この推論を確かめるべく、試しに「喉が渇いたので水が欲しい」と念じながら3度壁の前を往復してみる。

思った通り扉が出現し部屋の中には色とりどりのマグカップと美しい水瓶があった。

 

「やはり、か…」

 

わしはマグカップに水を注いで飲み干した後、一度部屋を出て扉が消えた事を確認してから何度か実験を行った。

「汗を拭きたいのでタオルが欲しい」「占い学の事を知りたいので占いの本が欲しい」「格闘技の特訓をしたいので練習相手の人形が欲しい」。

これ等の欲求を強く念じながら壁の前を往復すると、決まって扉が現れて部屋の中にはその時欲しいと願った物が用意されていた。

それと、心の内から深く求めないと駄目だという事も分かった。

 

「これは素晴らしい事を知ったな…」

 

欲しい物が用意されているのでこの部屋を「欲求の部屋」と名付けよう。

これは様々な事に利用できそうだ。

 

 

 

 

 

 

10月になると気温が一気に下がった。

魔法生物飼育学はハグリッドが自信を失ったのか、チンケな虫に餌をやるだけのつまらない授業になった。

ビンズが一本調子で年号を唱えるだけの魔法史の授業と争う退屈さだ。

 

変身術や呪文学の授業は昨年よりも高度なものとなり、多くの者が苦戦していた。

わしは予習復習を欠かさなかったので平然と課題をこなしスリザリンの得点を順調に稼いでいた。

 

「素晴らしい!スリザリンに5点…。オー!ミスタ・マルフォイも見事です!スリザリンに更に5点!」

 

フリットウィックが喜びと感嘆が入り交じった声をあげる。

マルフォイも対抗するように好成績を出し続け、2人はスリザリンの2大得点王となっていた。

一方グリフィンドールの得点王であるグレンジャーは、疲れているのか授業中の発言が減り始め、少しやつれているようにも見えた。

その様子が哀れだったので、3年生の後期で習う「元気の出る呪文」をかけてやろうかと真剣に迷ったくらいだ。

 

 

クィデッチの練習も順調に進んでいた。

フリントの気合いが皆に伝染したせいで雨の日も練習に駆り出される事になった。

防水呪文の「インパービアス」を知っておいて良かった。

 

 

わしは先日発見した「欲求の部屋」を存分に利用していた。

この部屋は本当に素晴らしい。

呪文を使うだけの十分なスペースと、対象となるデク人形まで用意されている。

ここで修練を積めば効率よく能力を伸ばす事が出来る。

開いた時間に部屋に入り、格闘技の訓練や魔法の練習を行う事で、わしの近接戦闘能力や呪文の精度は少しずつ上がっていった。

用意されたデク人形を相手に思う存分呪文を放つのは良い気分だった。

 

「コンファンド(錯乱せよ)」

 

これは高学年で習う呪文なので難易度が高く、何度も失敗しながらも2週間の苦労の末に習得する事が出来た。

わしに襲いかかろうとしたデク人形は錯乱してあらぬ方向に攻撃を仕掛けている。

この呪文は戦いの場で使えそうだな。

潜入や不意打ちに便利そうな「目くらまし術」の練習もしたが、難易度が高く失敗の連続だった。

武装解除呪文等の既に習得した呪文の復習も行い、その日の練習を切り上げた。

 

 

多くの事が順調に進んでいたが「守護霊の呪文」はまるで上達しなかった。

スネイプは幸福な思い出を作る事を宿題として出したが、幸福とは何かを考えてもピンと来なかった。

 

 

 

 

 

 

欲求の部屋での鍛錬を終えてスリザリンの談話室に戻ると、皆が掲示の前に立って興奮気味に騒いでいた。

ハロウィーンの日にホグズミード村に行く許可が出たとの事だ。

奈落から許可証のサインは貰っていたが、忙しい毎日の中で村の事をすっかり忘れていた。

 

「ホグズミード村か…。そこまで良い所なのか?」

 

「君は物知りなのか無知なのか分からないな……」

 

マルフォイが呆れた声でホグズミード村の歴史や見どころを教えてくれた。

イギリスで唯一魔法族のみが暮らしている村で様々な楽しい店がある。

魔法の機械などを扱う「ダービッシュ・アンド・バングズ」や、不思議なお菓子が売っている「ハニーデュークス」。

満月の晩に不気味な叫び声が聞こえてくる「叫びの屋敷」はホラースポットとして有名らしい。

 

「僕が一番楽しみなのは『三本の箒』のバタービールだな。パーティで飲んだ事はあるけど、マダム・ロスメルタが作ってくれるバタービールは絶品らしいからね」

 

「それは楽しみだな。わしは魔法の機械とやらが気になるな…」

 

マルフォイは説明が上手いので、彼の話を聞いているうちにホグズミード村に行くのが楽しみになって来た。

そのまま皆で話しているとスネイプがスリザリン寮に入って来て、談話室の隅に呼び出した。

 

「ハロウィーンの日は貴様もホグズミードに行くのか?」

 

「そのつもりだ。許可証は見せただろう?」

 

「だが城の入り口には吸魂鬼が居る。出入りする時奴らが貴様を狙う可能性がある。奴らは貴様の記憶が気に入ったようだからな」

 

「…確かにな。では、わしはホグズミード村に行ってはいけないのか?」

 

少し残念に思いながら聞くと、スネイプは黙り込んだ。

話を盗み聞きしていたマルフォイ達がハラハラとこちらの方を見ている。

 

「…当日は吾輩も入り口まで共に行こう。帰りは4時に城に着くようにしろよ。1分でも遅れたらすぐに吾輩は帰るからな」

 

「それは助かるな。ありがとう、スネイプ」

 

自分でも驚くほど素直に礼が言えた。

マルフォイ達が歓声を上げる中、スネイプは話は終わりだとばかりに無言で去っていった。

 

「良かったな、ヒトミ」

 

「ハロウィーンが楽しみですわね」

 

声をかけてくるマルフォイ達を見て、こうゆうのも悪くないと感じている自分に気づいた。

いつの間にか周りに彼らが居るのが当たり前になってきたな…。

 

 

 

 

 

 

そして、ハロウィーン当日。

他の寮に比べて静かなスリザリン生徒も今日は普段よりもテンションが高い。

城に残るらしいポッターにマルフォイがちょっかいを出すのを暖かい目で見守り、スネイプの護衛を受けて城を出た。

吸魂鬼もスネイプが居ては手が出せないのか、ご馳走を取り上げられたような雰囲気だった。

奴らの傍を通るのはやはり良い気分では無いが、初めて会った時よりはマシだ。

 

「ここまでで良いだろう。では、4時にこの場所で」

 

「ああ。助かる」

 

スネイプと別れて暫く歩くとホグズミード村に辿り付いた。

茅葺屋根の小さな家や店が立ち並び、着飾った多くの人々が楽しそうに話しながら歩いている。

ダフネやパーキンソンが黄色い声をあげ、マルフォイも感嘆の声を漏らした。

 

「素晴らしい場所ね!ねぇ、まずはハニーデュークスに行ってみましょうよ」

 

パーキンソンの提案に賛成し、寒風の中を明るい色の屋根に向かって歩く。

ハニーデュークス店の内は人で一杯なので、はぐれないようにひと塊になりながら、様々な商品を見て回る。

味が濃そうな商品ばかりだったが、ダフネ達女性陣は目を輝かせていた。

味よりも、いかに変わっているかを重視しているような製品もあった。

胃の中で本物そっくりに飛ぶ「ヒキガエル型ペパーミント」や、何日も部屋いっぱいに膨らむ「ドルーブル風船ガム」等がそうだ。

カエルが胃の中で跳ねても嬉しく無いし、部屋の中で何日も風船ガムが膨らんで居たら邪魔だろうに。

 

「こんな物、誰が食べたがるんだ?」

 

「『ゴキブリ・ゴソゴソ豆板』か…これは人間向けじゃないな。僕たちいつの間にか『異常な味』のコーナーに来てしまったみたいだ」

 

わし等は人混みに逆らって「異常な味」のコーナーを出て、人間向けの味の商品棚に戻った。

数十分後、人の波にもまれながら何とかハニーデュークスから出た。

わしは魔女鍋スポンジケーキや、噛んでる途中で味が変わるチョコレート等の無難な品を買ったが、マルフォイ達は色々な悪戯要素が含まれた菓子を買っていた。

数日間は彼らからお菓子を貰わない方が良いだろうな。

女性陣は食べても太らないお菓子を沢山買ったようでホクホク顔だった。

 

その後もホグズミード村の名所を巡った。

叫びの屋敷は昼間はただの古びた空き家にしか見えないので早々に興味を失ったが、他の場所はそれなりに楽しめた。

ゾンコの店の悪戯グッズの種類はダイアゴン横丁以上かもしれない。

マルフォイはポッターに仕掛けてやるつもりなのか、ブツブツ言いながら品物を選んでいた。

羽根ペン専門店は、色モノのような変わった商品から品質を極限まで追求した正統派の逸品まで揃えられていた。

わしは雉羽根で出来たピカピカの羽根ペンを買っておいた。

魔法用具店にも行きたかったが、時間の都合で断念せざるをえなかった。

 

「ふぅ、良い買い物をしたな」

 

「ドラコったら少し買いすぎじゃありませんこと?」

 

「ダフネだって沢山買ったじゃないか」

 

「私はアステリアの分も買ったのですわ。あの子ったら意外と注文が細かくて参りますわね」

 

買い物もひと段落ついたので三本の箒でバタービールを飲む。

マルフォイが言った通りこれは絶品で、暖かい飲み物が体の芯まで染み渡りるようだった。

バタービールを片手に今日の出来事を話すのはそれなりに楽しかった。

これまでは仲間や愛情、なれ合いと言った概念を小馬鹿にしていたが、悪くは無いな。

時計を見るとそろそろ4時になってしまうので帰らなければいけないと気づく。

ちょっとしたシンデレラ気分だな。

 

「さて、名残惜しいがわしはここらでお暇しよう。スネイプがしびれを切らして帰ってしまう」

 

「残念ですわね…。お気をつけて」

 

「ヒトミ、吸魂鬼がよろしくってさ!」

 

「大丈夫だ。チョコレートは買っておいた」

 

マルフォイの皮肉を受け流して一足先に村を出て、ホグワーツ城の前でスネイプと合流して門を通り抜ける。

 

「次も吾輩が貴様の護衛をするとは思わない事だ。今日はたまたま空いていたので気まぐれを起こしたに過ぎない」

 

「そうか。その気まぐれに心から感謝するよ」

 

「貴様が自力で吸魂鬼を追い払う事ができれば吾輩もこの寒い中城の外に出なくてもいいのだがね…」

 

恩着せがましい言い方をするスネイプだが、寒空の中迎えに来てくれる当たり根は善人なのかもしれない。

感謝をこめてハニーデュークスで買ったクッキーを渡そうとしたが、要らんと言われた。

 

 

 

 

 

大広間の前でスネイプと別れて買った物を部屋に置いた後、「欲求の部屋」に向かった。

皆が帰って来るまでの時間に少しでも魔法の練習をしておきたい。

 

(魔法の練習をする場所と呪文集とデク人形が必要だ…)

 

そう唱えながら8階の壁の前を3度歩き回るといつものように扉が出現する。

今日も新たな魔法の習得や既に習得した呪文の復習を行い、自分が少しずつ成長するのを感じた。

 

 

 

 

 

ホグズミード村に初めて行った3年生達は、みな至福の表情で大広間に戻って来た。

マルフォイ達も例外ではない。

 

「こんな楽しい場所に行けないなんて、気の毒な奴もいるなあ!」

 

人混みの中にポッターの姿を見つけたマルフォイは、楽しそうにあてつけてみせた。

かぼちゃ尽くしの夕食を食べ終えてスリザリン寮に戻ろうとしたが、スネイプが皆の前に立ちはだかり大広間に戻るよう促した。

 

「何があったんだ?」

 

「…シリウス・ブラックだ。奴が城の中に入り込んだ」

 

スネイプは小声でそう告げた。

他人事だと思っていたシリウス・ブラックの存在が急に間近に近づいた気がして、微かな動揺と高揚感を覚えた。

 

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