【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第42話 闇の印

 

ルード・バグマンが挨拶を行い、両チームのマスコットによるアピールタイムが始まった。

ブルガリアはヴィーラを、アイルランドはレブラコーンを連れて来ていた。

ヴィーラは男性を魅了して妙な行動をとらせると聞いていたので、姿を見た瞬間に目を塞いだ。

しばらくして周囲の喧噪から踊りが終わったと悟り目を開くと、ヴィーラの関心を引くために様々な行動をとる男たちの姿が目に入った。

ポッターやウィーズリーもヴィーラに魅了されたらしく、観客席から飛び出そうとした体勢のまま固まっていた。

奈落はアリの群れを観察するような目で周囲の男たちを見ている。

こいつもわしと同じように目を塞いでいたのだろう。

 

 

「あんた達がアホな行動をするのを見たかったけどね。勉強熱心な事で」

 

 

神楽がつまらなそうに言った。

ポッター達のような醜態を晒すわけにはいかないのでな。

 

 

レブラコーンは花火と共に現れて巨大な三つ葉のクローバーを宙に形作った。

それだけでも見る者を沸かせるのに十分だったが、彼らは観客席に金貨の大雨を降らせたので観衆は大喜びだった。

誰もが椅子の下を探し回り、金貨を奪い合った。

わしはレブラコーンの金貨が数時間で消えてしまうと知っていたので、彼らの醜い有様を悠然と見下ろしていた。

 

 

 

 

 

アピールタイムの次はバグマンによる選手紹介が行われ、いよいよ試合が始まった。

学生のそれとは別次元のスピードで選手たちは飛び回り、一瞬でも目を放したら試合の流れが分からなくなりそうだった。

アイルランドのチェイサーが「ホークスヘッド攻撃フォーメーション」を展開すれば、ブルガリアのビーターはすかさずブラッジャーを叩きつけて妨害する。

試合が進む中、クラムがアイルランドのシーカーのリンチにフェイントをかけて大ダメージを与える事件が起きた。

ルール上認められているプレーのようだが、情け容赦のない計略に流石のわしも度肝を抜かれた。

両チームのマスコットがもめ事を起こしたことや、選手達のファールによって試合は荒れ始めた。

その中で、アイルランドのビーターがクラムにすれ違い様にブラッジャーを討ち当てて流血させる一幕があった。

クラム・ファンは悲鳴を上げていたが、わしはあの速さで一撃を当てたビーターに感心していた。

次の試合でポッター辺りにあれを決めてやればさぞ痛快だろうな。

 

激戦の末、クラムがスニッチを掴んだことで試合は終わった。

スニッチを取ったのはブルガリアなのに勝者はアイルランドという驚くべき結果に観衆は一瞬静まり返ったが、すぐに拍手と歓声が飛んだ。

割れんばかりの声援は永遠に続くかに思えた。

 

 

 

 

 

「まあ、来た甲斐はあったな」

 

わしはスタジアムを後にしながら満足し切った表情で呟いた。

彼らが魅せたハイレベルな試合は一観客として純粋に楽しむことができたし、ホグワーツでの試合にも活かせそうだ。

気に入らないが、チケットを取ってくれた奈落に感謝しなければならないな。

 

「確かに良い試合だったけどよ…。歓声が大きすぎるんだよ。耳がガンガンする」

 

神楽が頭を押さえながら不機嫌そうに呟き、神無も同意するように頷いていた。

わしは試合の話をしたかったが、神楽は別の事に気を取られているようだ。

 

「クラウチは最後まで来なかったな。席を取らせておいて何を考えているのやら」

 

「…そうだったか?」

 

「気づいてなかったのか?余程試合に夢中だったんだな。可愛いとこあるじゃねえか」

 

からかうように笑う神楽を軽く睨みつける。

…クラウチとやらは今大会の重要人物なので、不意のトラブルへの対応で試合を見に来れなかったということも考えられる。

しかし、神楽が感じたという屋敷しもべの隣に座っていた謎の気配が気になるな。

屋敷しもべは席を取っていたのではなく、何者かの付き添いとして来たのではないだろうか。

公式には居てはならない人物…犯罪者か、もしくは既に死んだはずの人物か。

今思い返してみれば、屋敷しもべの隣から感じた気配には醜悪といって良いものがあったな。

 

 

 

 

 

熟睡していたわしは、周囲の喧噪の声で目を覚ました。

まだアイルランドのサポーターがお祭り騒ぎをしているのかと思いきや、そうでも無いようだ。

外に出ると、大人たちが鬼気迫る表情で走り回って怒声を飛ばしていた。

何か尋常ではない事態が起こったのは明らかだった。

 

「何が起こったんだ?」

 

テントの傍を通りかかった魔女を捕まえて事情を尋ねると、死喰い人がマグルを晒し者にしていると教えてくれた。

あなたも早く逃げた方が良い、と言って魔女は去っていった。

 

「ここは素直に逃げるとするか。神無、起きろ。神楽も…」

 

テントの中に入ると、眠そうに目元をこすっている神無しか居なかった。

神楽や奈落はどこに行ったのだろうか。

肝心な時に居ない2人に舌打ちすると、わしは神無の手を引いて近くの森に向かい走り出した。

 

 

 

 

 

森の中はわし等のように避難した子供で溢れていた。

何度も肩をぶつけられながらやっと落ち着ける場所に辿り付いて一息つく。

 

「あ、ハクドウシだ。あんたも避難してたんだ」

 

気の抜けたような声に振り返ると、ルーナがいつものビックリ顔で立っていた。

この状況も彼女のマイペースを崩すには至らないようだ。

 

「ルーナか。無事で何よりだ。貴様の父はどうした?」

 

「はぐれちゃったの。でも多分大丈夫だと思うよ、あそこでマグルを助けようとしてるかもね」

 

ルーナが指さした方向を万眼鏡で覗く。

キャンプ場の管理者のロバーツ一家が死喰い人の嘲笑を受けながら宙に浮かされ弄ばれている。

魔法省の一団は周りを取り囲みながらも、ロバーツ一家の落下を恐れて手出しができないようだ。

 

余裕綽々だった死喰い人の笑い声が突如として止まり、表情が凍り付いた。

一陣の風が吹いて、次の瞬間にロバーツ一家の姿は消えていたからだ。

神楽が生前に使っていた人間サイズの羽根を使い、ロバーツ一家を空中で救出したのだ。

流石に重量オーバーらしく、羽根はフラフラと頼りなさげに飛行しながらも何とか魔法省の集団の前に着地する。

魔法省の皆は歓声を上げ、死喰い人達は忌々し気に罵声を飛ばした。

 

「何が見えるの?」

 

「わしの姉がロバーツ一家を助けたようだ。アイツにも人助けをする気持ちがあったんだな」

 

「君の姉か…余計な事をしてくれたよ」

 

不機嫌そうな声を放ったのは、大木に背を預け、腕を組んでいるドラコ・マルフォイだった。

直前まで言い争いでもしていたのか、興奮した表情のポッター達も居る。

 

 

「マグルを助けるなんてね…お優しい事だ。そういえば、君は半純血だったな。彼女はマグルの血が濃いようだね。だから同族を助けたんだ…泣けるじゃないか」

 

「ご挨拶だな、ドラコ。事が収まりそうならば、それで良いじゃないか」

 

 

今のドラコからは、攻撃的な態度を取る事で気持ちを紛らわせようとしている節が見られた。

ドラコと言い争いをするつもりは無いので穏やかな言葉を返したが、フンと鼻を鳴らして反抗の意を示されてしまう。

そこに、困惑と安堵が混じった表情のグレンジャーが割って入る。

 

「それじゃあ…あなたのお姉さんがマグル達を助けたのね?良かった…」

 

「お仲間が無事でさぞ嬉しいだろうな、グレンジャー」

 

「ハーマイオニーは魔女だ!それに、騒ぎが収まったならお前の親は不味い事になるんじゃないか?さっきの口ぶりからするとあの死喰い人の群れに居るんだろう?」

 

ルシウスが捕まる事を願っているようなウィーズリーに、ドラコがすかさず言い返す。

 

「君に心配をされる義理は無いな。仮に…あくまで仮にだけど、僕の父があそこに居たとして誰かに捕まるほど間抜けじゃない。ましてや、君の父などにはね」

 

「何だと…!」

 

…落ち着かない奴らだ。

舌戦を始めた彼らから目を放し、万眼鏡で騒動の方を見る。

ロバーツ一家が助かった事で遠慮する必要が無くなった魔法省側が有利になり、死喰い人達の何人かは逮捕されたようだ。

まだ抵抗している者もいたが、大勢はほぼ決したといっていいだろう。

 

「死喰い人の負けはほぼ決まりだな…。だが、いざとなれば姿くらましで逃げられるだろう」

 

「あの人たち酔っぱらってるからバラけちゃうかもね」

 

わしの感想にルーナが補足する。

椅子になりそうな切り株を見つけたので座って休んでいると、ポッター達との言い合いを終えたドラコも隣に座り、小さな声で話しかけて来た。

 

「…さっきは嫌な言い方をして済まなかった。気を悪くしないでくれ」

 

「ああ、気にしていないさ」

 

「…マグルがどんな目に会おうとどうでも良い筈だった。でも、実際に晒し者にされているのを見て何だか嫌な気分になったんだ。あれに父上が……いや…なんでもない。と、とにかく、君の姉があの一家を助けてくれた時はホッとしたよ」

 

「…そうか。辛い立場だな、お前も」

 

ドラコは途中父の事を口に仕掛けたが、ポッター達が聞き耳を立てている中で父の関与を認める訳にもいかないので言葉を濁した。

恐らくドラコは、実際にマグルが虐げられている姿を見たことが無かったのだろう。

今晩それを見てしまい、父親がそれに関わっていることにショックを受けているのだ。

 

 

 

 

 

 

事が大分収まりかけたその時、事件が起きた。

ここから数十メートル離れた大木の傍で闇の印が打ち上げられたのだ。

皆が恐怖と混乱で大騒ぎになる中で、恐慌状態に陥った死喰い人たちは姿くらましでどこかに消えてしまった。

…恐らく、ご主人様のお仕置きを恐れたのだろうな。

ドラコは父親が心配なのか焦った表情を浮かべてテントの方に走っていった。

 

「わしは見物に行く。ではな」

 

「え…見に行くつもりなの?アレを打ち上げられるって事は死喰い人が居るって事なのよ!」

 

「今、魔法省の集団が闇の印が上がった大木の方に向かうのが見えた。危険は少ないだろう」

 

グレンジャーの疑問に答えて歩き出すと、なぜかポッター達も着いて来た。

こいつらもアレが気になるようだな。

 

「あんた、ハリー・ポッターだ」

 

「知ってるよ」

 

ルーナの今更の発言にポッターが上手い返しをした。

彼女はニコリともせずにそのギョロ目でジロジロ見始めたので、ポッターは助けを求めるような顔をウィーズリー達に向けた。

ウィーズリーもグレンジャーも初対面のルーナにどう対応すべきか分からず困っているようだ。

わしは後ろで行われる寸劇には関わらず、早歩きで魔法省グループの後を追った。

 

 

 

 

 

大木の根元に辿り着いた。

大勢の魔法使いが大木を取り囲み、失神呪文を放ち下手人を気絶させようとしているのが見える。

一人の魔法使いが勇敢にも大木に近づき、気絶した者を皆の前に引きづりだした。

それは、クラウチの屋敷しもべ妖精だった。

屋敷しもべが握りしめている杖を見て、ポッターが思わず大声を上げた。

 

「ウィンキーじゃないか…。それに、あれは僕の杖だ!」

 

ポッターが大声を出したことでわし等が隠れて様子を見ていることがバレてしまった。

わし等は「こんな危険な所に着いてくるなんて!」と数人の魔法使いや魔女から説教を受けるハメになった。

 

一方、皆の疑いを受けたウィンキーとやらは酷く動揺していた。

グレンジャーやポッターがウィンキーの無実を主張したが、子供である彼女達の意見をクラウチは真面目に聞こうとはしなかった。

クラウチがウィンキーに「洋服の刑」を執行しようとした時、神楽が姿現しでやって来た。

自然と皆の注目が集まる中で、神楽は風を起こしてマントのような物を吹き飛ばし、隠されていた一人の男の姿を露わにする。

その男の顔を見た魔法使い達がどよめきはじめ、クラウチとウィンキーは顔面蒼白になった。

 

「ウィンキーを問い詰めるよりもこいつに聞いた方が良いんじゃないかい、クラウチさん。あんたの息子さんにさ」

 

神楽が発した言葉を聞いて、わしはやっと男の正体に気づいた。

昨晩以上の邪悪な気配を発しているその男は、元死喰い人でアズカバンで獄死したはずのバーテミウス・クラウチ・ジュニアだった。

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