『白童子視点』
「クラウチさんの息子さんじゃないか?」
「何で生きて…」
どよめきが広がる中で、事情が把握できていないポッター達は困惑の表情を浮かべている。
ウィンキーは地面に突っ伏してめそめそと泣き始めた。
暗い雰囲気の中、1人の魔法使いが一歩前に出て神楽に質問した。
「カグラ・ヒトミ…これはどういうことなんだ?」
「見れば分かるだろエイモス。元死喰い人のこいつなら、闇の印を出すのは容易かったと言ってるんだよ。何故こいつが生きてるかは…クラウチさん?あんたなら説明できるよな」
エイモスとやらの疑問に答えた神楽は、拳を握りしめているクラウチに向き直った。
クラウチは神楽を憎しみのこもった視線で睨みつけており、彼から発せられる強烈な怒気に周りの魔法使いが一歩引いた。
そこに、軽い音と共に2人の魔法使いが到着した。
バグマンとファッジだ。
「闇の印!なんとまあ…悪ふざけがすぎる。クラウチ、どうしたんだ?怖い顔をして」
「あれは…クラウチ・ジュニアか!?おいクラウチ、これはどういう事だ?君の息子は確か…」
状況が分からないのか呑気な声を出すバグマンとは対照的に、ファッジは一目である程度の事情を察したようだ。
驚きの表情を浮かべ詰問するファッジの声すら耳に入らない様子で、クラウチはブツブツと何かを呟いていた。
「何故こんなことに…私の栄光が…。息子だ、すべてこの愚かな息子のせいで…。あの時妻の言葉を聞いていなければ……。いや、ワールドカップさえ無ければ……。この小娘さえ、こいつさえ……」
「クラウチさん。心中お察しするがこれは魔法省を揺るがす大事件だ。役所で尋問をさせて貰う。カグラ・ヒトミ…君にも来てもらいたい」
エイモスの厳しい言葉に、クラウチは虚ろな瞳を向けるだけだった。
ファッジは予想外の大事件に10年は老け込んだような顔をしていたが、クラウチはそれ以上に酷い顔をしていた。
何人かの魔法使いがクラウチ・ジュニアを魔法で立たせて連行する後を神楽が歩いて行く。
わし等子供はアーサーによって強引にその場から連れ出されたので、話の続きを聞くことは叶わなかった。
わし等は無言でキャンプ場へと歩いて行った。
それぞれが先ほどの出来事について考えているようだったが、ポッターが沈黙を破った。
「君の姉さん、一体誰を連れて来たんだ?」
「あれはクラウチ氏の息子のクラウチジュニアだよ。元死喰い人で、アズカバンに入れられて死んだ筈の、ね…」
彼の疑問に答えたのはわしでは無くアーサーだった。
アーサーはポッター達にクラウチの略歴を簡単に説明した後、息子が死喰い人だった事で彼は魔法省大臣になる機会を失った事を話した。
「自分の息子をアズカバンに!?そんな…」
「でも…アーサーさん、クラウチの息子は死んだんでしょ?じゃあさっき倒れてたのは……」
「実は生きていたってことだ。そして、クラウチさんはそれを知っていた。だからそれを暴いた彼女にあれほど怒りを露わにしたんだ」
「息子可愛さに不正をしていたって訳か。パーシーが知ったらぶっ倒れるだろうな」
彼らの会話を話半分に聞きながら、わしは何故神楽がクラウチの息子を突き出したのかを疑問に思っていた。
今思えばロバーツ一家を助けたのも神楽らしくない行いだ。
正義にでも目覚めたのか…。
適当な所でウィーズリー一家やルーナと別れて自分達のテントに向かう。
鍵を開けて中に入ると、不機嫌なオーラをまき散らしている奈落が居た。
奴はわしと神無の入室にも気づかない様子で、クラウチのように独り言を呟いていた。
「神楽め…。余計な事をしてくれる。クラウチが…おもや……。ならば、わしが動くしか無いか」
どうやら神楽の行動は奈落にとって想定外のもので、企みを潰された形となったようだ。
奈落とクラウチ・ジュニアに関係があったことがそもそも驚きだがな。
わし等の存在に気づいたのか、奈落は独り言をやめて取り繕ったような笑みを浮かべた。
「帰ったか、2人とも…。無事で何よりだ。もうここに用は無い。帰るぞ」
「神楽を待たなくていいのか?」
「魔法省での尋問に時間がかかるので先に帰れという旨のフクロウ便が届いていた。ここはお言葉に甘えるとしよう」
テントを片付けて手続きの為に管理者の元に向かう。
既に忘却術をかけられたらしく、虚ろな目で「メリークリスマス」と挨拶してきた。
クィデッチ・ワールドカップの開催地の傍に土地を持っていたのが運のツキだったな。
晒し者にされた記憶は消されたし、普段とは比べ物にならない程の客が来たので収入面では良かったかもしれないが。
奈落の付き添い姿くらましで家に帰り、寝不足だったので仮眠をとることにした。
昼頃にリビングに向かうと新聞が置いてあったので、緑茶を飲みながら読み始める。
一面にはデカデカと闇の印が打ち上げられる写真が載っており、複数の死体が運ばれたという出所の怪しい話まで書かれていた。
次のページには「魔法省また不祥事!バーテミウス・クラウチが自分の息子をアズカバンから逃がしていた事が明らかに!」と書かれている。
ファッジ大臣の立ち合いの元でクラウチ・ジュニアに真実薬が飲まされ、クラウチが息子の脱獄に手を貸したことが明らかになった。
クラウチは脱獄幇助の罪に問われたが、今までの功績からアズカバン送りは回避することが出来たようだ。
彼は多額の罰金を請求されたが、現在の地位が剥奪されることは無かった。
この仕打ちは甘いのではないかと批判の声も上がったようだが、彼は有能な人物なのでファッジも手放したく無かったのだろう。
クラウチ・ジュニアは再びアズカバン送りとなった。
闇の印を打ち上げた罪も加わるので、刑期はさらに伸びることだろう。
死喰い人からマグルを救出し、クラウチ・ジュニアの生存を明らかにした神楽は金一封が貰えることになったらしい。
奴の行動はこれを狙ってのことだったのだろうか。
ちなみに、逮捕された死喰い人の中にはクラッブの父親も居た。
奴は大層荒れているだろうな。
「おいペティグリュー、今日は調子が悪そうだな…どうした?」
夜になり、部屋でペット達に餌をやっているとペティグリューの目が妙に虚ろなことに気づいた。
不審に思って記憶を読んで見ると、記憶が不自然に修正された痕跡があった。
この家で記憶の改ざんなどをするのは奈落くらいしか居ないだろう。
「ペティグリューは元は人間だから鼠の状態でも開心術が通用するかも知れん。だが、何故奴がそんな事を…?」
奈落はペティグリューの正体を知っていたのだろうか。
こいつを連れて行かなかったのは、心が殆ど壊れているので役に立たないだろうと考えたからか。
しかし、記憶の修正のやり方があまりにも雑だったことは妙だな。
クラウチの息子の生存が明らかになった事で焦ったのか、それとも記憶を読んだ事が知られても構わないと思っているのか…。
奴が欲していた情報は、恐らくアルバニアの森の謎の影のことだろう。
それを知って何をしようとしているのかは分からんが、どうも危険な感じがあるな。
翌日は書店でのアルバイトに励んだ。
店長は昨日のキャンプ場での様子に興味津々で、わしは質問攻めにあってヘトヘトになった。
隠すほどのことでもないので答えてやると、店長は腕を組んで唸った。
「あのクラウチさんがねぇ…」
「知っているのか」
「いや、流石に会った事はないけどさ。俺くらいの年の人の間では有名なんだよ。『あの人』の全盛期は死喰い人は絶対に許さないってスタンスで、絶大な支持を得ていたんだよな。でも、やっぱ親子の情には勝てなかったんだろうな。俺も息子がいるし、この人の行動を余り責められないよ」
店長のしみじみとしたコメントを聞いて、クラウチが今でも支持を集めていることを知った。
魔法省を首にならなかったのもそれが一因だろう。
クラウチが息子の存在を告発した神楽に恨みを抱いている事は十分に考えられる。
その晩、神楽にクラウチに注意するよう忠告をしておいてやった。
数日後にホグワーツから手紙が届いたので、今学期に必要な物のリストを確認する。
ダンス用のローブが必要という表記に首を傾げながらも洋装店で自分用の物を作って貰った。
もしも学校でダンスを踊る機会があるのならば、恥をかかない程度には踊れるようになっておいた方が良いだろう。
図書館でダンスの本を借りて軽く目を通しておいた。
マグルと魔法界では作法が異なる可能性もあるので、社交界に慣れているらしいドラコやダフネに聞いた方が確実かもしれないな。
さて…少々不安はあるが準備も大体済んだし、あとは新学期を待つだけだ。
誰も居ないリビングで茶を淹れながら、部屋を見渡す。
神楽は元々自由な女だったが、家に居ない日が増えてきた。
神楽と奈落が以前よりも口をきかなくなったことにわしは気づいていた。
家の様子が変わりつつあることは明らかで、それに少々寂しさを感じている自分を認めたくはなかったが。
もう一つ気になる事がある。
わしは奈落から排出された存在なので、奈落の記憶をある程度知り得ている。
数百年前の日本で、神楽が四魂の玉の偽物を妖狼族の若頭に埋め込んで動きを封じるという出来事があった。
その時に使った偽物のかけらと同じような気配が、奈落の部屋から感じられたのだ。
これが何を意味するのか…嫌な予感しかしないな。
今学期はどうも荒れそうだ。
ホグワーツに戻ったら魔法の練習にまた励み、常に周囲の動向に気を配った方がよさそうだな。
日刊預言者新聞も定期購読することにした方が良いかもしれない。
『ヴォルデモート卿視点』
全ての始まりはあの夜だった。
魔法使いと魔女に赤子など、脅威にも値しない存在のはずだった。
俺様は1人でゴドリックの谷に向かい、その家の扉を叩いた。
そして、翌日に俺様はゴースト以下の存在になり果ててその力の大半が失われることになった。
3年前にホグワーツの教師に取り憑き、賢者の石の情報を得た時はガラにもなく神に感謝した。
だが忌々しいハリー・ポッターと顔も知らん何者かの手によってクィレルは殺害され、俺様は再び畜生以下の存在になり果てた。
元の隠れ家に戻ったが、2度と力を取り戻せないのではないかと恐れた。
もはや取り憑くべく魔法使いが都合よく現れるとは思えなかった。
俺様に最も忠実であった死喰い人達は皆アズカバンに送られ、彼らの助力は期待できない。
口八丁で罪を逃れた者達はもはや俺様の事など過去の存在と思い、今の下らぬ世で精々上手に生きているのだろう。
ルシウス・マルフォイを初めとする小賢しい者どもが、俺様の復活に助力してくれるという希望を俺様はとうに捨てていた。
小動物に取り憑くことで何とか生命を保っていたが、噂が広がったのか俺様の住処に近づく生物は殆ど居なくなってしまった。
こんな惨めな日々を送ることになるのならば分霊箱など作らなければ良かった。
あの時死んでいればよかったと思う日すらあった。
…久しぶりに生物の気配を感じた。
俺様はそやつに取り憑き、生命力を奪うべく重い体を動かした。
気配の元に近づくにつれて俺様はそれが魔法使いだと察した。
ならば、クィレルの時のように肉体に取り憑いて僕としてやろう。
背後から忍び寄る気配を察したのか、魔法使いはゆっくりと振り向いた。
魔法使いは狒々の毛皮を被った黒髪の男だった。
「お初にお目にかかります、ヴォルデモート卿…。お会いできてとても光栄に存じます」
恭しく跪く魔法使いを、俺様は驚愕と感動の視線で見つめた。
魔法使いは俺様の存在を知った上でこの地に現れたのだ。
10年以上の月日が流れた上でまだ俺様に敬意を払う者が居る事に、らしくもなく喜びを感じた。
それ程に俺様の心は衰弱していた。
「奈落、と申します」
男は東洋のものらしい、聞きなれない名を名乗った。
俺様はナラクを配下とすることに決めた。
得体のしれない男だが、彼から発せられる邪悪な気配と俺様への忠誠を気に入った。
ダンブルドアが近々アルバニアの森を調査する予定だというので場所を移すことになった。
付き添い姿くらましでイギリスに戻り、片田舎の空き家をあてがわれた。
闇の帝王の住居としては少々物足りないが今は我慢するしかない。
ナラクは俺様に魔法力がこもった玉を差し出した。
東洋の魔法道具で「シコンノタマ」というものらしい。
普段の俺様ならば素性の知れない魔法道具を使ったりはしないのだが、邪悪な光を放つ美しい球体に心を奪われてしまった。
気づけば俺様は何かに操られるように玉を手に取り、体内に埋め込んでいた。
玉は俺様に力を与え、数日後にはナラクが差し出した杖を使い簡単な呪文を使えるようになった。
最悪の状態は脱したが、これではまだ足りない。
やはり、あの魔法薬を完成させるしか俺様の本来の力を取り戻す術は無いようだな。
・10/11 一部修正しました。
・10/12 誤字報告ありがとうございます。修正しました。