【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第45話 プリンスの教科書

玄関ホールでの一件以来、ドラコはムーディを避けるようになった。

風の噂によると、ムーディはわしに呪文を阻まれなければドラコをケナガイタチに変えてホールの床に何度も叩きつける気だったそうだ。

あの男、教師として大丈夫なのか?

 

闇の魔術に対する防衛術の授業は金曜日の午前に行われた。

ドラコはとても嫌そうだったが、必修授業なので渋々足を運んだ。

授業時間になると魔法の目で生徒達を見渡しながらムーディが現れ、演説を始めた。

 

「前任のルーピン教授から昨年の授業の内容は聞いている。まね妖怪や水魔などの魔法生物と出会った時の対処法を学んだそうだな。しかし、貴様らは遅れている。非常に遅れている。わしに与えられた時間は1年だ。その間に貴様らに闇の魔術とは何かを可能な限り教えてやる」

 

シンと静まり返った教室で、ムーディの声と義足の音だけが響き渡っていた。

 

「これからわしが行う呪文を貴様らが使えるようになれとは言わん。ただ、知っておくだけだ。今日のところはな…。魔法省はまだ早いといったが、ダンブルドア校長はお前たちの根性を高く評価しておられる。それに、戦うべき相手は早く知れば知るほどよい」

 

演説を終えると、ムーディは「許されざる呪文」を皆に尋ね、蜘蛛をターゲットに皆の前で呪文を実際にかけてみせた。

ダフネが答えた「服従の呪文」では、蜘蛛はムーディの命じるままにダンスのような動きをした。

ノットが答えた「磔の呪文」では、肥大化させられた蜘蛛が苦しそうにワナワナと痙攣した。

最後の質問になると皆が答えるのを躊躇したが、ドラコは堂々と手を上げた。

 

「貴様は…ドラコ・マルフォイだな?」

 

「そうだ。答えは『アバダ・ケダブラ』だ」

 

堂々と発せられた言葉に、ムーディは普通の目と魔法の目でジロジロとドラコの顔を見つめた。

普通なら目を逸らしたくなる状況だが、ドラコは挑むようにムーディを見続けていた。

 

「貴様の父ならばご存じだろう…。正解だ。最後にして最悪の呪文。死の呪いだ」

 

自らの運命を察したのか必死で逃げ回る蜘蛛に、ムーディは無慈悲に呪文を唱えた。

「アバダ・ケダブラ」という言葉と同時に緑の閃光が教室を照らし、次の瞬間蜘蛛はピクリとも動かなくなっていた。

何人かの女子が悲鳴を上げ、隣に座るダフネが恐怖で涙目になった。

 

「対抗呪文は無い。防ぎようはない。これを受けて生き残ったのは、ハリー・ポッターだけだ」

 

授業終了のベルが鳴ると、ダフネが泣きそうな声で言った。

 

「トラウマになりそうですわ…。蜘蛛であれだけ嫌な気分になるのですから、もしもネコやウサギだったら吐いていたかもしれません…。ルーピン先生の授業の方が私は好きですわ」

 

「…わしは今日の授業を受けて良かった。あの3つの呪文を…特に最後の呪文を実際に見ることが出来たのは、将来きっと役に立つ」

 

「僕も…そう思うよ。あんな風に、例のあの人は人を殺していったんだな。父上は…」

 

目を伏せるドラコ。

素晴らしいショーを見た後のようにはしゃぐ者もいたが、スリザリン生の半分程は何かを噛みしめるような表情をしていた。

ノットもその1人だった。

 

 

その翌週の授業で、ムーディは生徒に服従の呪文を実際にかけて対抗させようとした。

殆どの生徒が全く抗う事が出来ずにムーディの意のままの行動をさせられる中、わしとドラコは何とか抗うことができた。

ポッターはもっと上手く抗えたと言うムーディの言葉にドラコは対抗心を掻き立てられ、何度も呪文破りに挑戦していた。

ついでにわしも服従の呪文に積極的に挑んでみた。

身近にこの呪文をかけてきそうな奴がいるからな…。

 

 

 

 

 

教師たちは生徒を忙しくさせるのが我が使命だと言わんばかりに厳しくなり、宿題の量も去年より増えた。

去年より宿題に取られる時間が増えたので、欲求の部屋での練習が余り進まなくなってしまった。

このままではディゴリーや他のライバルに負けてしまうので、宿題をすっぽかして呪文の練習を優先することにした。

わしは既に「O・W・L」レベルの呪文なら使えるようになっているので、宿題など本来しなくてもよいのだ。

宿題よりも呪文の練習を優先したことで、わしの魔法の力は少しずつ上昇していった。

 

しかし、余りにも多くの授業で宿題を出さなかったので、罰則を受けることになってしまった。

規則を破らない限りは罰則を受けることは無いと思っていたが、この学校の基準はアバウトだな。

この学校には教科書を買い忘れた生徒の為に古い教科書が置いてあるが、その整理と掃除を魔法無しで行えというのだ。

 

「スコージファイが使えれば一瞬なのにな…」

 

フィルチの見張りを受けながら教科書を1冊1冊丁寧に拭いていく。

「ミセス・ゴシゴシ」シリーズの掃除用品は良く効いたが、中には捨てた方が良いんじゃないかと思うほどに汚い本もあった。

清掃が終わった教科書を各教室の隅に並べて罰則は終了した。

 

「帰って宜しい。これに懲りたら真面目にお勉強に励むことだなぁ?」

 

フィルチの厭味ったらしい言葉を聞き流して寮に戻る。

談話室には既に誰も居なかったので、今日手に入れた物をジックリと観察することが出来た。

 

「半純血のプリンスか…良い物を残してくれたものだ。偉大なる我が先輩に感謝せねばならんな」

 

掃除の最中に見つけたこの教科書には至る所に落書きが書かれていた。

全部拭いてしまおうと思ったが、よく見ると教科書とは違う呪文の使い方が書かれており、その中の1つはわしが去年呪文の練習をした時に行ったアレンジと一致していた。

これを書いた者は教科書よりも効率のいい方法を見つけたのだろう。

同様の落書きがされた教科書には、全て半純血のプリンスというサインが書かれていた。

これは使えると思ったので、フィルチが猫の餌やりに立った時にこっそりプリンスの教科書をちょろまかしておいたのだ。

 

その日から時間を見ては教科書の落書き…いや、アドバイスをノートに写す作業を行った。

宿題が増えたことで勉強に励む者が増えたので、わしのこの行為が怪しまれることは無かった。

1週間後には全ての落書きを移し終えたので、こっそり元の場所に教科書を戻しておいた。

 

 

翌日の夜にプリンスのやり方の通りに呪文を試してみると、これまでできなかった呪文もあっさりと使うことができた。

その後もアドバイスの通りにした結果、「プロテゴ・トタラム」や変幻自在術などの難易度の高い呪文を成功させることが出来たので、わしは大いに自信をつけた。

 

 

 

 

 

「おい、フラついてるぞ。大丈夫か?」

 

「大丈夫ではない…。眠い…」

 

今まで使えなかった呪文が使える喜びから夜遅くまで頑張りすぎた。

眠い目をこすりながら城の外に出ると、ハグリッドが今か今かと生徒を待ち構えていた。

嫌な予感しかしない…。

 

ハグリッドは今期の授業でスクリュートの飼育日記を皆につけて貰うと発表した。

彼はこの発表が皆の喜びを得られると思っていたらしく、誰もが落胆の表情を浮かべていることにあたふたしていた。

 

「僕はいやだ…。何でこんな化け物の世話を…ふざけるな!」

 

連日の宿題地獄のストレスからかドラコが怒鳴り声をあげると、それに同調しスリザリン生の殆どが賛同の意を唱えた。

 

「黙れ、マルフォイ。ムーディ先生がやろうとしたことをお前にやるぞ」

 

昨年ヒッポグリフを殺されそうになった恨みからか、ハグリッドは厳しい顔で告げる。

奴はこの言葉で一本取ったつもりだろうが、スリザリン生のブーイングを買うだけに終わった。

普段ならハグリッドの味方をするグリフィンドール生も、スクリュートの飼育はしたくないのか事態を静観している。

ポッター等はハグリッドを庇っていたが多勢に無勢だった。

 

 

この授業の数日後、ハグリッドは沈み切った顔でスクリュートの飼育の取りやめを発表した。

生徒の親から何通もの吠えメールが来た上に、魔法省から厳重注意を受けたからだ。

吠えメールを出したのはスリザリン生の親だけでなく、多寮の生徒も多くいたらしい。

試験に出る訳でもない危険生物の育成を生徒に強要し、拒否した生徒に体罰を行うと脅したことは多くの親の怒りを買ったようだな。

スリザリン生徒の親には大きな権力を持つ者も多く、彼らが魔法省にハグリッドの処分を強く求めたことも決定打となった。

無許可で新種の魔法生物を作ったことで、罰金を請求されることになったのはいい気味だな。

「私もアレは好きじゃなかったな。不自然だもン」とはルーナの談だが、まさにその通りだ。

魔法省によって殆どのスクリュートは幼い内に駆除されたが、ダンブルドアの権限で数匹だけ育成することが許可された。

あれを生かしておくとは…まさか対抗試合の種目とするつもりか?

 

「ハグリッド、すっかりしょげちゃったね。今年もレタス喰い虫かな」

 

「罰金は気の毒だけど…首にはならなかったし去年よりは良い方よね。正直言って、今回だけはマルフォイが正しかったと思う」

 

「ヒッポグリフは気の毒だと思えたけど、スクリュートは駆除されても全くカワイソーって思えないよ。僕って残酷な奴かな?」

 

ポッター達が大広間で上記の会話をしているのを小耳に挟んだが、ハグリッドと仲良しの彼らも今回の件には同情的ではないようだ。

ポッター達だけでなく、多くの人にとってスクリュートの飼育は嫌なものだったので、それを阻んだドラコは英雄扱いされていた。

注目の的になり嬉しそうなドラコを尻目に、わしは日々懸命に特訓に励んだ。

運命の日は間近に迫っていた。

 

 

 

 

 

10月30日は授業が早めに終わり、生徒たちは整列して2校の生徒の到着を待つことになった。

今夜は冷えるので魔法で出した青い炎を瓶に入れて、ドラコ達とこっそり温まった。

1年生の時にグレンジャーが出していたのを見てやり方を教えてもらったのだ。

やがてボーバトンとダームストラングの一団がホグワーツにやって来て、ダンブルドアの歓迎の挨拶の後に豪華な夕食が始まった。

ブルガリア料理には詳しくないが、どれも美味そうなのでいつもより大目に皿によそった。

ドラコは普段とは違う料理に殆ど目もくれず、近くに座ったクラムに積極的に話しかけた。

 

「多くの人に同じことを言われただろうけど、ワールドカップでの君は素晴らしかったよ。あのウロンスキー・フェイントには痺れたなぁ。怪我をするとは思わなかったのかい?」

 

「恐怖は無かったです。あの試合でヴォクはミスター・リンチに競り勝つ自信がありました」

 

「それは凄い…流石だね。僕はドラコ・マルフォイ。こいつはハクドウシだ。ホグワーツに居る間、何かあったら僕たちに言うと良い」

 

唐突に紹介されてむせそうになりながらも、クラムの方を向いて自己紹介する。

 

「ハクドウシだ。貴様らはここに居る間はあの船で寝泊まりするのか?」

 

「貴方の言う通り、ヴォク達はあの船で寝るように言われています。でも、この広くて美しい城で眠れたら楽しいでしょうね」

 

「いつでも僕たちの部屋に泊めてあげるよ。な、ハクドウシ?」

 

多種多様な料理を食べながらの会話は中々面白かった。

金色の皿が空になる頃には大分打ち解けて、クラムも敬語をやめていた。

ドラコはシーカーの心得を有名選手から聞けたことで満ち足りた顔をしていた。

 

ダンブルドアが再び話を始めた。

審査員のバグマンとクラウチを紹介したあとは、対抗試合がいかに深い歴史を持ち、力と勇気と知恵を試す尊厳あるものだと言うことを語った。

そして、わしとドラコが最も知りたかった代表選手の選び方と年齢制限のやり方が説明されて夕食はお開きとなった。

成程、炎のゴブレットと年齢線か…。

 

「それでは、お休み。お陰で楽しい時間を過ごせた」

 

「ああ。君が代表選手になることを祈ってるよ。僕らは対戦校だけど君の活躍を楽しみにしてる」

 

「ありがとう」

 

クラムと親し気に別れの挨拶を交わすドラコを多くの生徒が羨ましそうに見ており、ウィーズリーは「おべんちゃら野郎」などと悪態をついていた。

 

「いやあ、素晴らしい時間を過ごせたな。ビクトールと友達になれるなんて!父上に早速手紙を書かなきゃ」

 

「なあマルフォイ、クラムとどんな話をしたんだ?」

 

談話室では皆がドラコの話を聞きたがった。

ドラコは自分がどれだけビクトール(既に呼び捨てにしていた)と親密になれたかをアピールし、皆は一々感心した表情を浮かべた。

 

「まったく、皆子供ですわね。スター選手の1人や2人に夢中になって」

 

そう呟くダフネだが、夕食の間クラムと話したそうにチラチラ見ていたことをわしは知っていた。

 

 

 

その日の12時過ぎ、目くらまし術で姿を消して寮を抜け出して、大広間に向かった。

夜のうちに名前を入れようとする者も居るだろうと予測し、待ち伏せするためだ。

待つこと15分。

こそこそと大広間に近づく影を見つけたので、腕をつかんで素早く心を読みとって支配下に置いた。

夏の間はマグルにしか試していなかったが、不意を突けば魔法使いにもこの術は有効なようだ。

男(スリザリンのワリントンという名だ)は、虚ろな瞳でわしの名が書かれた羊皮紙をゴブレットに入れた。

ワリントンに今の出来事を忘れさせれて寮に戻る。

あとは結果を待つだけだ。

 

 

 

 

ハロウィーンの日がやって来た。

皆は大広間の飾りつけや豪勢な料理よりも炎のゴブレットに注目しているようで、終始浮ついた雰囲気が漂っていた。

夕食が終わると、いよいよ代表選手の名が発表される。

さぁ、果たして誰の名が呼ばれるのか…。

 

最初に出てきた羊皮紙には、ビクトール・クラムの名が書かれてあった。

クラムはスター選手だけあって場慣れしており、堂々とした足取りで別室に移動した。

2人目のフラー・デラクールはヴィーラに似た美しい少女だった。

その美貌を喜びと興奮に輝かせながら颯爽と歩いていく彼女を、多くの男子生徒が羨望の眼で見送った。

 

「いよいよだな」

 

ドラコが普段よりも少し青ざめた顔で呟いた。

ダンブルドアは3枚目の羊皮紙を見て一瞬目を丸くしたあと、ハッキリとした声でその名を読み上げた。

 

 

「ホグワーツ代表選手は…ハクドウシ・ヒトミ」

 

誰もが言葉を失い、顔を見合わせあった。

大広間中の目という目が集まるのを感じながら、わしは勝利の笑みを浮かべていた。

 




※原作ではプリンスの教科書は魔法薬学の授業の分しかありませんでしたが、この作品では他の科目の物もある事にしました。

・10/17 ご指摘ありがとうございます。修正しました。

・10/18 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
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