「ヒトミ…誰だ?」
「あの子でしょ?スリザリンのビーターの…」
「でもアイツって4年生だろ?」
「おい年齢線どうなってんだよ!何で立候補できるんだ!?」
周囲の戸惑いの声を心地よく聞きながらゆっくりと別室に歩き出し、扉を開ける。
暖炉の前に佇んで居たビクトール・クラムとフラー・デラクールが視線を向けてくる。
2人の表情が驚愕に染まるのを見るのは中々面白いものだった。
「あなたが…オグワーツの代表でーすか?」
「君ヴぁ17才以上には見えないが…年齢線を突破したのか?」
「そうだ。まぁお手柔らかに頼む」
余裕の表情で椅子に座るわしを見て、デラクールの美しい顔に嘲りの色が浮かんだ。
年下のわしならば敵ではないとでも考えているのだろうな。
クラムは戸惑いの表情を浮かべていたが、次第に警戒心の混じった顔つきになった。
自身も若くしてプロのクィデッチ・リーグで活躍している為、年下が相手でも侮る気持ちは無いようだ。
強敵になりそうだな…。
再び扉が開いてダンブルドアを先頭に競技の関係者達が入室した。
バグマンはどこか楽しそうな笑みを浮かべているが、クラウチはしかめっ面をしている。
何度も会議を行って開催された対抗試合なのに、早速想定外の事が起きてしまったのだから当然の反応だろうな。
「ダンブルドア、我々としてはあなたの年齢線が年少の立候補者を締め出すと確信していたのでですがね」
クラウチの怒りの視線を浴びながらも、当のダンブルドアは呑気に髭をさすっている。
相変わらずとぼけた爺だ。
「はて、さて。困ったことになったのう。…ハクドウシ。君は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」
「ああ」
「年齢線はどうしたーのでーすか?」
「上級生に頼んで入れて貰った。それならば年齢線を潜り抜けることが出来ると思ったが、正解だったようで何よりだ」
スネイプが顔をしかめた。
「その生徒の名は?」
「黙秘させて貰う。その者に処罰が下される可能性もあるし、そもそも名前を誰にも言わないと約束をしてしまったからな」
勿論、ワリントンと約束などしていない。
こう言えばそれ以上の追及は出来ないと予想してこの言葉を発したまでだ。
「もう一度17歳以上の生徒のみで投票を行わせるべきではないでしょうか。代表選手は模範的であるべきなのに、不正を行った生徒が選出されるのは問題があります」
「吾輩も同意見だ」
「おやおや…どう思う?バーディ」
「…規則に従うべきです。ゴブレットから名前が出た者は、試合で競う義務がある」
「それに、炎のゴブレットの火は消えてしまったからのう。次の対抗試合の日まで火が点くことは無い」
マクゴナガルやスネイプはわしの出場に難色を示したが、クラウチとダンブルドアの言葉に渋々納得した。
マダム・マクシームやカルカロフ校長は、年齢線が破られたことに驚いては居るがわしの出場に反対するつもりは無いようだ。
未熟な魔法使いがライバルならば、自分の学校の生徒が有利と考えたのだろう。
皆が納得したのを確認し、クラウチが代表選手の3人の前に歩み出て競技のルールを話し始めた。
最初の競技は11月24日に行われ、教師の助けを借りることは許されないとのことだ。
期末テストは免除されるらしい。
「何か質問はあるかね?」
「競技に備えて練習を行う際に、友人の手を借りるのは大丈夫なんだな?」
「…禁止されているのはあくまで教師の手を借りることだけだ。だが、推奨される行為ではない。代表選手は自分の力だけで危機に立ち向かう能力を問われるからな。ほかに質問は?」
推奨されようがされなかろうが、禁止ではないならやらせて貰おう。
それ以上の質問が出ないことを確認すると、クラウチはせかせかとした足取りで帰っていった。
息子が再逮捕されて自身も脱獄幇助の件で多額の罰金を払うことになったせいか、クラウチは疲れた顔をしていた。
既に誰も居ない大広間を抜けてスリザリン寮に戻る。
もう代表選手のことは伝わっているのか、絵画の中の人物たちがわしを指さして何事かを話し合っていた。
合言葉を言って談話室に入ると大勢の生徒がわしを取り囲んだ。
クィデッチで勝った時もそうだが、こういった歓迎ムードは少し照れくさいな。
「お帰りなさい!お待ちしていましたわ。とっても素晴らしい事になりましたわね」
「やるじゃねえか、ヒトミ!」
「大したもんだぜ。ダンブルドアの年齢線を出し抜くなんてよ!」
何人かに肩を叩かれながら談話室の中央に案内される。
広いテーブルには飲み物やご馳走が用意されており、ちょっとしたパーティが始まった。
「このご馳走はどうしたのだ?」
「俺が調達してきたのさ。ちょっと屋敷しもべにツテがあるもんでな」
「ほう。今度そのツテとやらを教えてくれ」
「10ガリオン払うなら良いぜ」
「酷いぼったくりだな…」
ザビニと話していると、ドラコが熱々の紅茶が入ったゴブレットを差し出してきた。
「君が選手になるなんてね…、悔しいけど、こうなるって心のどこかでは分かってたよ」
悔しさと賞賛が混じった言葉に頷いて答え、ドラコとゴブレットをぶつけ合い乾杯した。
「実は僕もゴブレットに名前を入れたんだ。上級生に頼んでね。…でも、君が選ばれたなら、全力で応援させて貰うよ」
「…そうか、当てにさせて貰う」
「父上は魔法界でも高い地位に居るから、課題の内容が耳に入ることもあるかもしれない。そういった面でも役に立てると思う」
自分を蹴落としたライバルを素直に認めて協力しようとするドラコの姿勢に深く感謝しながら紅茶を飲み干した。
元々ドラコに協力を頼もうと思っていたので、彼のこの言葉は心強い。
多くの者から、「どうやって名前を入れたか」と質問されたが、「ダンブルドアから皆に漏らさないようにと厳命された」と言い訳して乗り切った。
パーティは夜遅くまで続いた。
覚悟はしていたが、翌日の生徒達の噂の内容は8割がわしのことだった。
スリザリン生の多くはわしを褒め称え、活躍に期待してくれていたが、陰口を叩く者も少数いた。
ハッフルパフの生徒は、自分たちのスターであるディゴリーが選ばれなかったことで不満を抱いているようだったが、穏やかな気性からか陰口を叩く者は少なかった。
レイブンクローはホグワーツの代表としてわしを認める者と、年齢制限を無視して立候補したことに不満を抱く者とで分けられた。
神無やルーナは…よくわからんが、多分応援してくれると思いたい。
神無は一応わしの妹なのだから、優勝したら賞金を少し分けてやっても良いな。
グリフィンドールの生徒…主に男子からは陰口を叩かれた。
宿敵のスリザリンが対抗試合出場の栄誉を勝ち取ったことが気に入らないのだろうが、クソ爆弾を投げてくる不届き者まで居たのには参った。
呪文でそのまま返してやったが、双子はもっと酷い悪戯を計画しているらしい。
数日は気が抜けないかもしれんな。
魔法薬学の授業の教室に向かう途中でバグマンに呼び止められた。
杖調べと写真撮影をするそうなので、ドラコにスネイプへの伝言を頼んでバグマンに案内されて別室に辿り付く。
部屋には既に2人の代表選手と、派手な恰好をした魔女が居た。
「リータ・スキーターさんだ。日刊預言者新聞に君たちの記事を書く」
スキーターとやらは日刊預言者新聞に何度か記事を載せているゴシップ記者だったな。
彼女はわしに近寄ってジロジロと無遠慮に見つめて来た。
「貴方がまだ15歳なのに立候補したやんちゃ坊主ね。すてきざんすわ」
スキーターは「何故立候補したのか」「どうやって年齢制限を破ったのか」といった簡単なインタビューを始めた。
何を聞かれるかと警戒して居たが、余りどぎつい質問はしてこなかったので拍子抜けした。
インタビューは数分で終わり、スキーターはすぐに有名選手のクラムの方へ向かった。
無名のわしにはさほど興味は無かったのだろう。
下らん記事を書かれるのは御免なのでこの扱いは嬉しい筈だが、少し屈辱だな。
オリバンダーによる杖調べを受けたあとは写真撮影だ。
各校の選手と校長の集合写真を撮った後は個人の写真が撮られ、クラムは何度も撮り直されてムッツリ顔に拍車がかかっていた。
自分の容姿に自信があるデラクールはもっと撮られたいとアピールしていたが、スキーターはスルーしていた。
デラクールの写真は集客効果があると思うのだが、スキーターは美人が嫌いなのだろうか。
写真撮影が長引いたので夕食の時間に大分遅れてしまった。
大広間に着くと、ドラコ達がやけにご機嫌に食事を楽しんでいた。
「やあ、お疲れ様。代表選手は撮影やら何やらで大変だね」
「そうだな。だがクラムよりはマシだ。奴は記者にやたらと写真を撮られて大変そうだった」
「ハハハ、彼はそうだろうな」
「随分上機嫌だな、ドラコ。どうした?」
彼はニヤニヤと笑みを浮かべながらグリフィンドールのテーブルを指した。
ポッターとグレンジャーの席が空白で、ウィーズリーが1人不機嫌そうに食事をしている。
「何故ポッター達は居ないんだ?」
「彼らは今頃医務室さ。僕が…ちょっとね」
「ドラコさんは今日ポッターさん達と決闘したんですの。とても見事な勝利でしたわ」
「おい、おい、アステリア。僕が言おうと思ってたのに」
口を挟んだアステリアにドラコが苦笑する。
勉強を見てやる程度の仲だったと記憶しているが、すっかり仲良しになっているな。
「決闘?何故そんな」
「僕が君を応援するためにこのバッジを作ったら、ウィーズリーが噛みついてきてさ」
ドラコが差し出したバッジには、「ハクドウシ・ヒトミを応援しよう!」と書かれていた。
バッジの中心の部分を押すとスリザリンのシンボルの蛇が蠢く仕組みになっている。
「……」
「どうした?気に入らなかったか?」
「い、いや…嬉しい。本当にな。…ドラコ、器用だな。良い物を作るじゃないか」
わしが一瞬言葉に詰まったのを見てドラコが不安そうな顔をした。
誰かから純粋に応援されることなど今までそう無かったので、何を言えばいいかわからずしどろもどろになりながら言葉を返すと、ドラコは安心した表情になってバッジを指で弄んだ。
「ウィーズリーのやつ、『反則で選手になった白髪野郎なんて誰が応援するか!』何て言うものだからさ、カッときて軽い呪文を使ってやったんだ」
「お前…またムーディにシメられるぞ」
「い、言うなよ…あのことは忘れたいんだ。…コホン。そして、倒れたウィーズリーを笑い者にしてやったらポッターとグレンジャーが杖を抜いてきてね」
「そして2人とも返り討ちにしたのか」
「おいおい、一番盛り上がる所を取らないでくれよ!」
先読みをしたわしにドラコが突っ込みを入れると、スリザリンのテーブルがどっと沸いた。
気づけば皆わしとドラコの話に聞き入っていた。
「グレンジャーには『歯呪いの呪文』を顔に直撃させてやった。ビーバーみたいに歯が伸びたのは少し気の毒だったかな。ポッターはカンカンになって向かって来たけど、エクスペリアームズでイチコロだったよ」
「流石はドラコさんですわね。聞いているだけでワクワクしてきます。私は生で見れなくて、とても残念ですわ」
「いつでも見せてあげるさ」
ウキウキとした表情でよいしょするアステリアに、ドラコは金髪を撫でつけて得意げな顔をした。
スリザリン生達も因縁の相手であるポッター達が痛い目を見たことで喜んでいるようだ。
ドラコが秘かに魔法の特訓をしていることは知っていたが、あの2人を同時に相手して勝てる程の実力を持っていたとは驚きだ。
ダフネもわしと同じことを思ったのか、くすくすと笑いながらドラコに話を振った。
「それにしても貴方がこんなに強いなんて思いもよりませんでしたわ」
「見損なってもらっては困るな、ダフネ。僕も学年2位の成績を持つ実力者なんだよ」
廊下で堂々と決闘を行ったドラコだが、そこに居合わせたのがスネイプだったのでお咎め無しだったらしい。
奴のスリザリン贔屓も相当だな…。
杖調べから1週間ほどたったが、わしが歩くと噂話があとをついてくるのは相変わらずだ。
朝食を食べていると、ドラコとザビニが噂話をしているのが耳に入って来た。
「聞いたか?ポッター達が魔法の猛特訓をしてるって話」
「ああ。僕に負けたのが相当悔しかったようだね…」
「空き教室を使って呪文をかけあっているみたいですわ。大した頑張りですわね」
ドラコに負けた悔しさや、同年代のわしが代表選手になったことで彼らも自分の実力を高めたいという欲が芽生えたのだろう。
彼らの行動に触発されて練習のペースを上げることにした。
だが、それが良くなかったのか欲求の部屋から出てくるところをドラコに見られてしまった。
別に隠すほどのことでも無いので、この部屋の仕組みを全て話してやった。
「全く、こんな便利な部屋を使っていたなら君が選手になるのも納得だよ。秘密にしていたなんて水臭いじゃないか。ズルいぞ」
「わざわざライバルを強くしたくなかったのでな」
不満げに睨んでくるドラコをなだめるように言うと、自分が認められていたということに気分を良くしたのか、言い方が柔らかくなった。
「ま、まあそういうことなら仕方ないな。この部屋の存在を知っていたら僕の方が選手になっていたかもしれないわけだし…。でも、これからは僕もこの部屋を使わせて貰う。…そうだ、ここで課題の練習に付き合ってやるよ」
翌日からドラコもこの部屋で練習を行うことになった。
彼も魔法のレベルは相当に高いので、良い練習相手が出来たと喜ぶことにしようか。
ついでにプリンスの教科書のことも教えてやると、彼はハロウィーンの前にこれを知りたかったと悔しがった。
・10/20 文章を一部修正しました。
・10/20 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
・10/22 文章を一部修正しました。