【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第48話 クラムの頼み事

「凄かったぜ!」

 

「ドラゴン退治に箒を使うとは魅せてくれるじゃねえか」

 

もはや慣れつつある大歓迎に片手をあげて答える。

普段騒ぐことの少ないスリザリン生も、今日は子供のようだ。

今更だが、生前は悪党だったわしが英雄のように持ち上げらるのは少し違和感を感じるな。

だが、悪くない気分だ。

 

「それが次の課題のヒントなのか?」

 

「開けてみてよ、ねぇ」

 

皆の強い勧めで黄金の卵を開けてみたが、バンシーの鳴き声のような耳障りな高音が響き渡ったのですぐに蓋を閉じた。

卵は部屋の隅に追いやられ、皆はわしの活躍を話のネタにご馳走を食べ始めた。

ザビニが屋敷しもべ妖精からワインを奪…貰って来たので、上級生は大盛り上がりだった。

酔っぱらう者も増え始めて収拾がつかなくなる中、どさくさに紛れてザビニに厨房の場所を聞くことにした。

 

「ん…あぁ?厨房への行先?簡単だぜ…。果物が盛ってある器の絵の梨のトコをくすぐりゃあいいんだ。そうすりゃクスクス笑って隠し戸が現れる。中に入ればそこが厨房さ…」

 

酔いが回ったザビニは喋り終わると同時に机に突っ伏して寝息を立て始めたので、情報提供の礼に「アクシオ」で毛布を呼び寄せて被せてやる。

皆が楽しんでいるのを眺めながらローストビーフとレタスのサラダをもそもそと食べていると、ドラコが隣に座った。

 

「やあ、スリザリンの英雄。楽しんでるか?」

 

「それなりにな」

 

「次の課題は3か月後だそうだね。随分と間が開いたものだ」

 

「…準備期間が長いと言うことは、それ程厳しい課題と言うことかもしれんな」

 

「恐らくそうだろうね…ドラゴンより厳しい課題なんて思いつかないけど」

 

ドラコは肩を竦め、上品な仕草でワインの匂いを味わってから口に含んだ。

パーティなどで何度か酒を飲んだことがあるのか、自分がどれ程飲めば酔うのか心得ているような飲み方だ。

美味しそうに飲むドラコを見ていたらわしも一杯やりたくなってきた。

 

「君はワインを飲むのは初めてだろう?ならこれがオススメさ」

 

ドラコから勧められた白ワインは苦みが少ない爽やかな味で飲みやすかった。

暫くご馳走とワインを楽しんでいると、話題は自然に卵のことに移った。

 

「あの卵にはどんな謎が隠されているんだろうな」

 

「バグマンは雑な言い方しかしなかったからな…。もしかしたら何かを言い忘れたのかもしれん」

 

「あり得るな。父上がバグマンのことを大雑把で余り信頼が置けないと評していた」

 

部屋の隅に転がる卵を眺めていると、ドラコが何かを閃いたように指を鳴らした。

 

「そうだ!これはドラゴンの卵だから、炎の呪文を当ててみれば何かわかるかもしれない。ドラゴンの卵を孵すには炎を当て続けることが良いと聞いたことがある」

 

「成程…妙案だな。丁度暖炉もあるし試してみるか」

 

わしは火が飛び散らないように注意しながら暖炉に卵を入れた。

数分たったが、卵には何の変化も見られない。

 

「開けてみろよ」

 

「ああ」

 

近くに居た生徒が耳を塞ぐのを確認し、火かき棒を器用に使って蝶番を開ける。

だがドラコの推測とは裏腹に、聞こえるのは先ほどと何ら変わりない不快な音だけ。

 

「何もなし、か…」

 

「これは少々骨が折れそうだね」

 

卵は浮遊呪文で窓の外に移動させ、冷えるのを待つことにした。

席に戻ると、わしのローストビーフをスウェーデン・ショート・スナウト種のミニチュアが食べてしまっていた。

小さなドラゴンの満足そうな顔を見ると怒る気も失せたので、別の食べ物を皿に盛った。

 

 

満腹になってスヤスヤと寝息を立てるドラゴンを抱えて部屋に戻ると、大蛇が威嚇を始めた。

わしがなだめると大人しくなったが、天敵を見るような目でドラゴンを睨み続けていた。

模型にかけられた魔法が解けたのか、ドラゴンのミニチュアは数日たつと動かなくなった。

大蛇の機嫌が良くなったのは嬉しいが、ドラゴンに少し愛着が湧いていたので残念だな。

 

 

 

 

翌日の朝にディゴリーがスリザリンのテーブルまでやってきて「君の活躍は素晴らしかった。僕が出ても君ほどに出来なかったと思う。今後も応援してるよ」とエールを送ってくれた。

ディゴリーはレイブンクロー生からも一目置かれていたし、ハッフルパフ生のヒーローだ。

そんな彼が認めた男を応援しない理由は無いという風潮が流れ始め、第一の課題での見事な活躍もあって多くの者がわしを賞賛し始めた。

ルーナはドラゴンが気に入ったらしく、ミニチュアが動かなくなったことを知ると残念がった。

やはり少しズレた女だ。

 

意外なことに、天敵であるグリフィンドール生も少数の例外を除いてわしを認めるようになった。

「あの大立ち回りを見たらお前がスリザリンでも認めるしかないからな。次も応援してるぜ」と双子に馴れ馴れしく肩を叩かれ、悪戯の心配はせずに済みそうだと思ったが…。

叩かれた肩にはべったりとクリーム菓子がついていた。

 

「あの双子にも困ったものだ」

 

魔法では落ちない汚れだったので、欲求の部屋で「ミセス・ゴシゴシ」シリーズの洗浄液を使って30分も洗う羽目になった。

駆け足で魔法生物飼育学の授業に向かうと憤慨した様子のドラコが待っていた。

 

「どうした?」

 

「これを見ろよ。あのインチキ記者…君の活躍なんて全く無視さ」

 

差し出された日刊預言者新聞にはデカデカとポッターの記事が書かれてあった。

 

「『僕は今でも両親のことを思い出します。ええ、今でも夜になると泣くことがあります…。でも恋人のハーマイオニーが居るので…』…なんだこれは」

 

ポッターの悲劇性を強調した非常に気色悪い記事を見て、こんなものが魔法界では受けるのかと呆れてしまった。

奴と親しいわけではないが、こんな女々しいことをペラペラと喋る男ではないと知っている。

この記事はスキーターが殆ど脚色したのだろうな…。

第一の課題のことは隅の方に人気選手のクラムの活躍だけが申し訳程度に書かれていた。

人気選手のクラムともなるとマネージャーも居るだろうし、流石のスキーターも好き勝手なことは書けなかったのだろうか。

 

「全く、ポッターがなんだってんだ」

 

足元に転がっていた石を蹴っ飛ばして吐き捨てたドラコだったが、ポッター達を見つけると楽しそうにからかいに行った。

 

「ポッター、君が両親を思って泣くって本当かい?ハンカチはいるかい?」

 

「黙れ、マルフォイ!」

 

彼らの言い争いを観察していて分かったことだが、ドラコはグレンジャーのことを「穢れた血」と呼ばなくなった。

夏休みに死喰い人がマグルの一家を晒し者にしていたのを見て思うところがあったのだろうか。

ハグリッドがスクリュートの件を引きずっているので、今日もレタス喰い虫に餌をやるだけのつまらない授業だった。

 

 

 

 

「クリスマスの夜にはダンスパーティが行われる。羽目を外す貴重な時間である事は認めるが、節度を保った行動を心得て欲しいものだ」

 

スネイプの口から重大イベントが発表されると、多くの生徒…特に女子は歓声をあげた。

五月蠅そうに眉を寄せながらも、スネイプはわしを呼び寄せて代表選手がパーティの最初に踊ることを説明した。

翌日から、日に1度はダンスパーティの誘いを受けることとなり、NOの返事を返し続けた。

女子生徒達は一様にショックを受けた顔をし、泣き出す者も居たので少し対応に困った。

誘いは有り難いが、ダンスパーティのことを聞いてから誘いたい女性の姿が頭に浮かんでいた。

あとは、いつ誘うかだな…。

 

ある日の午後、大広間の入り口でデラクールがディゴリーに魅力を振りまいているのを見た。

ここまでなら何時もの事だが、そこにウィーズリーが現れて彼女をダンスパーティに誘ったのだ。

彼女の顔を見て振られることを察し、ウィーズリーは飛ぶように逃げていった。

これ幸いとばかりにディゴリーも彼女を置いてハッフルパフのテーブルに行ってしまったので、デラクールはお冠だった。

 

中々面白い物を見たと思いながらスリザリンのテーブルに歩き始めると、デラクールが絡んできて今の出来事やディゴリーがつれないことへの愚痴を長々と話し始めた。

自信家のデラクールはウィーズリーに誘われたことで腹を立てているようだ。

彼女は一定以上の男子としか話さないことは多くの生徒が察し始めていたが、ウィーズリーは一定以下とみられたようだな。

 

テーブルに着くと、男子生徒達が羨ましそうな顔をしてわしを見つめた。

第一の課題以降、デラクールと雑談をする程度の仲になっていたわしに対して思うところがあるのだろう。

 

「彼女と何を話してたんだ?」

 

「愚痴が10割だな。彼女はディゴリーにお熱なようだ」

 

「嫌ですわね、他校まで来て男性の品定めなんて下品です。ボーバトン同士でパートナーを探せばいいのに」

 

真向かいに座るダフネが乱暴にコーンスープを飲み干した。

デラクールはホグワーツの女子から受けが悪いようだ。

わしは彼女の誇り高い生き方が嫌いではないがな。

傍に座るクラムは、わし等の会話に全く関心を示さず上の空で骨付きチキンを齧っていた。

遅れてやって来たドラコがクラムをチラリと見て、小声でわしに話しかける。

 

「最近のビクトール、可笑しくないか?前よりもムッツリしてるっていうか…。最近話しかけてもリアクションが薄いんだ」

 

「第二の課題のことで悩んでいるのかもな」

 

「課題なんかじゃないわ。…あたしの勘じゃ、クラムは誰かに恋してるわ」

 

パーキンソンが確信を得たという顔で言った。

 

「恋だと?」

 

「ええ。分かるのよ…。だって、あたしも恋する乙女だもの…」

 

パーキンソンはドラコの腕に絡みついてねっとりした声を出し、真向かいに座るアステリアをけん制するように睨みつける。

悲しそうに眼を逸らすアステリアを見て、勝ち誇った笑みを浮かべるパーキンソン。

 

「ち、違うんだアステリア。パーキンソンとは何でもない」

 

「何でもないなんて!酷いわドラコ…」

 

愉快な三角関係から目を放し、ゴクゴクとウヰスキーを飲むクラムを見る。

彼は既に飲酒が許される年齢だが、少し飲みすぎではないだろうか。

果たしてパーキンソンの考えは当たっているのだろうか。

もし当たっているのなら、相手は誰だろう?

 

 

 

 

クラムの思い人は思わぬ形で判明した。

数占い学の授業の後に廊下でグレンジャーにレポートのことを聞いたのだが、それを見ていたクラムに彼女との仲を問い詰められたのだ。

グレンジャーとはそうゆう仲ではないと弁解したが、クールな彼の豹変には驚かされた。

 

「君ヴぁ本当に彼女と…彼女と…」

 

「違う。何度も言っているだろう」

 

「そうか…。でも、知らない仲ではないんだな?なら、ヴぉくを彼女に紹介してくれないか」

 

「…わしはクィデッチを嗜んでいてな。ビーターだ。貴様と同じポジションではないが、次の日曜にフォームを見て貰えないか?プロの目からアドバイスが欲しい」

 

「お安い御用だ」

 

ニッコリするクラムと握手を交わす。

契約成立だ。

 

 

 

わし等の企てた「クラムをグレンジャーに紹介作戦」は翌日に行われた。

図書館で勉強しているグレンジャーにわしが話しかけ、ある程度会話を盛り上げる。

そこに何食わぬ顔でクラムが現れて会話に混じり、気を見計らってわしが席を離れ2人っきりにしてやるという寸法だ。

その日のクラムは朝から緊張した表情をしていたが、他人から見ればいつものムッツリ顔と区別がつかないだろう。

 

予想通りグレンジャーは図書室で勉強中だった。

マダム・ピンスから見つかりにくい位置に居るのは都合がいい。

彼女の前でお喋りなどしたらすぐに追い出されてしまうからな。

 

「グレンジャー、魔法薬学のレポートか?」

 

「…数占い学よ。今話しかけないで頂戴。数字が合わないの…、おかしいわね」

 

優秀な彼女にしては珍しく苦戦しているのか、イライラとした声が帰って来た。

指で×印を作ってクラムに見せたが、彼は今日勝負を決めるつもりのようだ。

わしは彼女の数占い学のレポートを手伝ってやろうとしたが、プライドの高いグレンジャーは「結構よ!」と拒んだ。

その後もめげずに話しかけ続けたが、どうも空回りしてしまう。

暫くしてクラムが近づいてきてわしの隣に座ったが、今のグレンジャーの様子ではうまくいかないかもしれないな…。

 

「やあ…。アー、ヴぉくも座っていいか?」

 

「構わない。グレンジャーも良いな?」

 

「……」

 

無視を決め込むグレンジャーを見て不安そうな顔をするクラム。

10分ほどの間気まずい沈黙が流れ、わしとクラムはそれぞれレポートや読書に没頭している振りを続けていた。

その沈黙はグレンジャーが大きく伸びをしてたことで破られた。

 

「ああっ~、やっと書けたわ…。最初のところで間違えてたなんて…。邪険にしてごめんなさいね、ハクド…」

 

レポートに集中しすぎていたグレンジャーは、クラムの存在に今気づいたようで表情が固まった。

この作戦の失敗を悟り始めていたわしだったが、後で文句を言われたくないので予定通り彼を紹介する。

 

「…知ってるだろ?ビクトール・クラムだ」

 

「アー…うん。知ってるわ、ウォンキーフェイントの人ね」

 

本来ならばもっと自然な形で話し始める筈だったのに、不自然すぎる紹介になってしまった。

次に話題に迷い始めたところで、クラムが少しどもりながら話し始めた。

ここは奴に任せるとしよう。

 

「き、君ヴぁここでよく勉強をしてましたね。何度も見ていました。とても、その、勉強熱心で、素晴らしいと思います」

 

「そ、そうなの?それは…ありがとう」

 

「ハイ。ヴぉくの学校には、貴方のような女子はいません…貴方は…アー、とても賢く、とても…美しい」

 

「美しい、だなんて…そんな」

 

グレンジャーの容姿を褒めたのは良い作戦だ。

ポッターやウィーズリーは彼女にそういった言葉をかけるタイプには見えないからな。

クラムは会話をどんどんリードしていき、グレンジャーもまんざらではないようだった。

やがてお喋りが見つかり、癇癪を起したマダム・ピンスによって2人とも廊下に追い出された。

クラムとグレンジャーは悪戯がバレた子供のような表情を浮かべて笑い合い、仲良く中庭の方へ歩いていった。

 

…わしが居なくても何とかなったんじゃないか?

道化を演じさせられたようで少し不快ではあったが、約束通りクィデッチのアドバイスを貰えたので良しとしよう。

 

「僅かだがブラッジャーを打つタイミングが遅い!ヴぉくの顔にブラッジャーをブチ当てたミスター・クィグリーはそんなものじゃなかったぞ」

 

「違う!箒をもっと体に寄せ付けるんだ。試合では1秒の遅れが敗北を招く!ヴぉくが手本を見せる!」

 

普段物静かな彼だが、クィデッチに関しては熱くなる性格なのだろうか。

厳しくも的確な指導を受けることができて有意義な日曜日となったが、最近はクラムの意外な一面を見ることが増えて来たな。




・10/28 文章を一部修正しました。

・10/29 誤字報告ありがとうございます。修正しました。

・10/30 「ダンスパーティ その1」というタイトルでしたが、内容と合わないなと感じたのでタイトルを変更しました。
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