昼になると移動販売の中年女性がやって来た。
わしはサンドイッチ等の軽食を買い、グレンジャーは魔法のお菓子をいくつか買っていた。
ロングボトムはお弁当を作って貰っていたらしく何も買わなかった。
「これが百味ビーンズか…本で読んだけど食べるのは初めてだわ」
珍しそうにお菓子類を眺めるグレンジャー。
ぼんやりとそれを眺めていると
「あなたも食べる?」
と袋を差し出してきた。
わしも興味があったので茶色いビーンズを貰う。
かじってみると強烈な苦みが喉に広がった。
胡椒味だ。
「私のは…うぅ~、なんだかヌメヌメした味。納豆味だって」
グレンジャーも当たりとは言えない味だったようだ。
ロングボトムもグレンジャーから少し分けて貰っていた。
「カレー味だ!僕これ大好き!」
どうもこの菓子は当たり外れが大きいようだな。
食事を済ませた3人の間にゆったりとした時間が流れる。
「そういえば貴方も妹さんも珍しい服を着ているのね。東洋の服だったかしら?」
「君たちは東洋人なの?変わった苗字だし」
「わしは…そうだな。東洋の日本に住んでいた」
2人の問いかけに、どこまで話すべきか考えながら答える。
そういえば過去の事を聞かれる事もあるわけか。
本当の事を言うわけにもいかんし、適当な設定でも考えておくか。
グレンジャーから日本の事を聞かれたが、現代の日本の事を殆ど知らない。
わしが生きていた頃の生活様式を答えることにした。
多くの人間は村に暮らしており田畑を耕して生計を立てている。
収入の何割かを年貢として城に住む侍などに差し出している。
と言った答えを返すと
「あなた何時の時代から来たの? 先進国なんだし、そんな古い生活の訳ないでしょう」
グレンジャーに呆れられた。
「ハクドウシは何処か時代がかってるよね。 喋り方もお爺さんみたいだ」
ロングボトムも便乗してくる。
わしがお爺さんだと…あまり愉快ではないな。
先ほどの言葉は冗談だと受け取られたようだが、それならそれで面倒が無くていい。
腹が膨れたからか、再びグレンジャーのマシンガントークが始まった。
自分はマグルの歯医者の娘で、手紙が届くまでは魔法界の事など全く知らなかった。
いくつか魔法を試してみたがどれもうまく言った、等々。
「わしも呪文を試してみたな。
杖に慣れるのに少し時間はかかったが、教科書に出た範囲程度は何とかできるようになった」
「本当?貴方もなかなか勉強好きなのね」
「そうだな…知識を得て実践するのは、嫌いではない」
ロングボトムが居心地悪そうにしている。
それに気づいたグレンジャーが心配そうに声をかける。
「どうかしたの?」
「ぼ、僕も教科書に乗ってる呪文をやってみたけど…。
全然うまくいかなかった。ばぁちゃんには何やってるんだ、って言われるし…」
どうもこいつは自分に自信がないようだな。
グレンジャーが少し気まずそうな顔をして話題を切り替える。
「そ、そういえば2人はペットを連れてきた?」
「わしは鼠を連れてきた。それなりに役に立ちそうだからな」
「私は何も飼っていないわ…。でも、そうね。いつか飼いたいかも」
「僕はヒキガエルを飼ってるんだ」
ロングボトムは懐からヒキガエルを取り出そうとした。
だが、何度かポケットを探し回ったあと、真っ青になって慌てだした。
「どうしよう、僕のヒキガエルが居ないんだ。逃げ出したのかも…」
「探しに行きましょう!」
グレンジャーが張り切りだす。
2人はコンパートメントを出ようとするが、わしは椅子に腰かけたままだ。
グレンジャーはそれに不満を覚えたようだ。
「ハクドウシも探しにいきましょうよ」
「ヒキガエルの1匹や2匹、そう騒ぐことでもなかろう。放っておけば出てくるさ」
「放っておけないよ!もし何かあったら…」
ロングボトムは泣きそうになりながら部屋を出て行った。
グレンジャーは少しの間こちらを見ていたが
「冷たいのね!」
と吐き捨ててロングボトムとは別方向を探しに行った。
それを見送り、荷物を開けて暇つぶしに教科書を読み始める。
集中し始めたところで荷物の中に入れておいた厨子が騒ぎ出した。
「うるさいぞ」
気分を害しながら荷物を開けると、厨子は籠の中からある方向をじっと見つめていた。
「あそこに何かがあるのか?」
厨子が頷くのを確認し、杖を手にその場所に向かう。
車両をいくつか越えると、あるコンパートメントで小僧共が話し合っているのを見つける。
穏やかな空気ではなさそうだ。
「ほぅ…あれは」
わしは笑みを浮かべて扉を開けた。
突然の乱入者にそこに居た者の目線が集まる。
「君は…」
ポッターが息を呑み、見覚えのある金髪の小僧が嫌な顔をした。
「その妙な恰好はあの時の奴か。今は取り込み中でね。出て行って貰おうか」
金髪は芝居がかった仕草で扉を指さしたが、それを無視して開いた席に座り込む。
「おい、何勝手に…」
赤毛の小僧が噛みついてきたが、わしが一睨みすると黙り込んだ。
「わしの事は気にするな。続けてくれ」
わしのふてぶてしさに皆は呆気に取られているようだった。
やがて気を取り直した金髪が話を続けようとする。
「ポッター君。魔法界にもそいつやウィーズリーのように悪い家柄の連中もいる。
間違った奴とは付き合わない事だね。
その辺は僕が教えてあげよう」
金髪は握手を求めるが、ポッターは応じなかった。
「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうも御親切さま」
この答えは効いたようだ。
金髪の頬にピンク色がさした。
「ポッター君。僕ならもう少し気を付けるがね。
ウィーズリー家やハグリット、そいつみたいな下等な連中と一緒にいるのは良くない。
礼儀を心得ないと君の両親と同じ道を辿ることになるぞ」
ポッターと赤毛の小僧が立ち上がる。
彼らは互いに睨み合い、一触即発の状況となった。
この状況を楽しみながら眺めていたが、大柄な小僧が鼠に噛まれた事で事態は収まり始めた。
鼠を恐れたのか、それとも足音が聞こえたからか、金髪御一行様が去っていってしまったのだ。
…つまらんな。
魔法を使った戦いにでもなれば見物だと思ったんだがな。
「貴方たち、騒がしいけどいったい何をやっていたの?…あら、ハクドウシも居たのね」
足音の主はグレンジャーだった。
赤毛の小僧とグレンジャーは相性が悪いらしく皮肉交じりの会話を交わしていた。
わしは彼らの会話よりも、赤毛の小僧の手の中にいる鼠に興味を抱いた。
あの鼠…ただの鼠ではないな。
獣特有の気配がない。
生前で言うと半妖のような…いや、人間のような感覚がある。
今は情報が少ないので良く分からないな。
気づけば皮肉の応酬は終わったらしく、グレンジャーが出て行った。
これ以上ここに居ても楽しめそうもないのでその後を追った。
「あの白い髪の奴、僕らの言い合いを見世物みたいに見てたぜ。嫌な奴!
…ハリーの知り合いかい?」
「何回か会っただけだよ。…でも、そうだね。余り良い奴じゃないかもしれない」
後ろからポッターと赤毛の小僧の声が聞こえた。
コンパートメントに戻るとロングボトムは既に戻っていた。
結局ヒキガエルは見つからなかったらしく、肩を落としていた。
そんなロングボトムをグレンジャーが励ましてやっている。
「そろそろ着きそうだな」
わしらは交代で着替えを済ませる。
緊張からか、グレンジャーもロングボトムも口数が減り始めていた。
やがて、城が見えてきた。
日本の城とは造りがまるで違う、写真で見たシンデレラ城のようだ
…あれがホグワーツか。
闇夜に悠然と佇むホグワーツはまるで夜の王者のように見えた。
つづく
・2017/05/09 文章を修正しました。