【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第52話 第三の課題

良く晴れた休日。

生徒達は中庭に集まって暖かな日差しの中で各々の時間を楽しんでいた。

その一角にあるテーブルにわしはドラコとダフネを呼び出した。

 

「第三の課題の内容が分かった。魔法生物や罠、呪いが待つ迷路を抜けることだ。一番に優勝杯を掴んだ者が勝利者となる」

 

「迷路か…。難しいと言えば難しいだろうが、ドラゴンや水中での戦いに比べればまだマシだな」

 

「そうですわね。ハクドウシなら大丈夫でしょう」

 

「…油断は禁物だぞ。お前たち」

 

拍子抜けしたような反応を示す2人に釘を刺す。

これまでの課題が容易なものでは無かった事を思えば、今度も一筋縄ではいかないだろう。

それでもわしのすることに変わりはない。

対策を練り、修練を積み、勝利する。

ただそれだけだ。

 

 

「魔法生物を用意するのはハグリッドだ。スクリュートはまず間違いなく出てくるだろうな」

 

「5メートルを超すくらいに育ったって噂を聞いた。本当だったら不味いな」

 

「その噂が間違っていることを祈りたいものだな。…だが、本当に怖いのは魔法生物では無い」

 

「どういうことですの?」

 

「他の選手から攻撃や妨害を受ける可能性もゼロではない、ということだ。それがルール違反ではないことはクラウチに確認済みだ」

 

「…成程。優勝の名誉がかかっているんだ…。僕でもそうするかもしれない」

 

わしの言葉の意味を理解して厳しい表情を浮かべるドラコ。

幾分か暗くなった空気を察し、ダフネが次の疑問を口にした。

 

「迷路には呪いや罠が仕掛けられていると言ってましたわよね?それはどう対応しますの?」

 

「何冊か呪いの本を読んで対策を練るつもりだ。代表的なものだけ覚えておけば十分だろう。それと…迷路内で怪我をした時に備え、応急処置の呪文も探しておいた方がいいな」

 

「マダム・ポンフリーにでも聞けば手っ取り早いのでけどね。教師の手助けを禁ずるルールが恨めしいですわ」

 

その後も課題への対策を話し合い、紅茶が空になる頃には課題までの大まかな練習スケジュールを完成させることが出来た。

 

スケジュールを立てたあとは早速欲求の部屋で特訓開始だ。

まずはプリンスのアドバイスを今一度読み返し、呪文のやり方を頭に叩き込む。

既に覚えている呪文も原理を知ることでさらに威力を強めることができる。

新たな呪文の習得も大事だが、今は既存の呪文の熟練度を上げておきたい。

 

頭に魔法の基礎を叩きこんだ後は実戦あるのみだ。

使い勝手の良い麻痺呪文や妨害呪文、盾の呪文を何度も放ち体に呪文の使い方を染み込ませる。

呪文の練習の次は城の周りをジョギングする。

迷路が見た目以上に広くて競技が数時間続く可能性もあるので、体力作りも大事だからな。

 

「お疲れ様ですわ、ハクドウシ。宜しければこれを…」

 

ジョギングで流した汗を拭きながら寮に戻ると、ダフネが一冊の本を差し出してきた。

怪我を治療する呪文が書かれた高価な本だ。

わしが応急処置の呪文を学びたいと言ったのを聞いて、注文してくれたのだろう。

 

「これがあれば怪我をしても対処できるな…。助かる、ダフネ」

 

「どういたしまして。こんなことしかできませんが…私は心から貴方の勝利を祈っておりますわ。頑張って下さいね」

 

わしが礼を言うと、ダフネは慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。

ドラコやダフネの期待と応援に応える為にも必ず勝利しなければな…。

 

 

ダフネがくれた呪文集は分かり易く、すぐに簡単な治癒魔法をマスターすることができた。

厳しい練習の日々を乗り越え、あっという間に第三の課題の前日となった。

明日の課題の予想に盛り上がるスリザリン生の中でダフネは静かに紅茶を飲んでいる。

彼女は元々目立つことを好む性格ではないのだが、少々違和感を感じた。

もう4年の付き合いなのでそれくらいは分かる。

 

「…ダフネ、ちょっと来い」

 

彼女の腕を引いて談話室から出て、誰にも見つからないように注意しながら中庭に辿り付く。

今宵は満月だが、今は月が雲に隠されていて少し薄暗い。

 

「ど、どうしましたの?ハクドウシ…」

 

「それはわしのセリフだ。何か気になることでもあるのだろう?」

 

「…あなたに隠し事はできませんわね」

 

先ほどまで雲間に隠れていた月が昇り、ベンチに座る2人を優しく照らす。

こういうのをロマンチックな状況というのだろうか。

ダフネは言葉を探すように俯いていたが、やがて小さな声が漏れた。

 

「いよいよ明日ですわね…」

 

「そうだな」

 

「…少し、怖くなってしまって。最後の課題ということは、今までよりも危険で困難な障害が待ち受けている筈ですわ。貴方の勝利を疑う訳ではありませんが、もしものことがあればと…」

 

「それを気にしていたのか…。今日は夕食も余り食べてなかったし、心配しすぎだ。別に貴様が競技に出る訳でもないだろうに」

 

「もうっ、今の私にとっては自分以上に貴方の安否が心配なんですのよ?」

 

わしの身を真剣に案じているダフネに心が暖かくなる。

思えば入学の時から彼女と過ごす時間はとても多かった。

1年生の頃は今のように友が居なかったが、彼女は全く気にせずに話しかけてくれた

わしは彼女に深い感謝を感じながら、月に照らされた美しいブロンドをゆっくりと撫でる。

 

「…わしは明日の競技の対策は万全だ。案ずることはない。わしは勿論勝利するつもりだし、仮に負けることになったとしても怪我をしないよう立ち回るさ。…それに」

 

「それに?」

 

「もしも怪我をしたら、ダフネに見舞いに来てもらえる。それはそれで楽しそうだ」

 

「…ふふふっ。そう、ですわね」

 

おどけるように言うとダフネは少し惚けたような表情を浮かべた、クスクスと笑った。

わしは彼女の柔らかな肢体を強く抱きしめ、あのクリスマスの夜のように頬に口づけを落とした。

 

「あっ…」

 

「…6月といえど、夜は冷えるな。そろそろ寮に戻ろう」

 

2人は自然と手をつなぎ、寮に続く道を無言で歩いた。

わしが優勝者となったその時は頬では無く唇にでもしてみたいものだ。

…わしにその勇気があれば、だがな。

 

 

 

そして、優勝者が決定する日の朝がやって来た。

朝食を楽しんでいると、デラクールやクラムが教員の誘導に従って別室に向かうのを目にした。

 

「代表選手が集められているのなら君も行った方が良いんじゃないか?」

 

ドラコの言葉に頷いて腰を上げかけると、スネイプに手で制された。

 

「最後の課題の日は代表選手の家族がホグワーツに招待されるという伝統がある。しかし、貴様の家族は欠席するとの事だ。行く必要はない。」

 

「そうか、分かった」

 

スネイプに了承の意を示して食事を再開すると、話を聞いていたドラコが訝し気な顔で言った。

 

「…君の家族は何故来ないんだ?息子の晴れ舞台だと言うのに…」

 

「きっとお忙しいのですわ」

 

「忙しいって…それなら僕の両親もそうだ。でも、2人はいつも僕を優先してくれた。息子より優先することなど無い筈だ」

 

アステリアが優しくなだめているが、不人情なわしの家族に対するドラコの怒りは収まらない。

…ドラコは家族から大事に育てられていると知っているし、ダフネも同様だろう。

だが、わしの家は違う。

奈落はわしをあくまで道具として作り出した。

…そうだ、そのことに寂しさなどは感じ無い。

ドラコの言葉で下らんことを考えてしまった。

 

「…だが、神楽辺りは来てくれると思ったがな」

 

そういえば神楽は今頃何処で何をしているのだろう。

クラウチjrを逮捕してから家を出ることが多くなったが、別の国にでも引っ越したのだろうか。

奈落から離れたがっていた彼女らしいと言えばらしいが、どうも違和感がある。

死喰い人の活動が活発化しているという記事と、忙しくなった奈落、神楽の不審な動き…。

タイミングが良すぎないか?

 

「そろそろ試験の時間だ。君はどうする?」

 

「…いつものように教室の後ろで本でも読んでいるさ」

 

ドラコの言葉に考えを中断し、同級生と共に魔法史の教室に向かう。

代表選手は試験が免除されているが、体裁上教室に居なければならない。

普段なら面倒だと愚痴るわしだが、考え事に集中したい今はこの制度が有り難かった。

皆が懸命に歴史上の事件と年号を思い出そうとする中、わしは羊皮紙に様々な推測を書き綴る。

逮捕されたクラウチjr、ペティグリューに施された記憶の改ざん。

奈落の部屋から感じられた四魂の玉の偽物の気配とアルバニアの森の謎の存在。

謎を解くピースは揃い始めているが、まだ足りない…。

 

 

午後には全ての試験が終了し、生徒達は解放感に満ちた表情を浮かべていた。

 

「ヒトミ君、今日は頑張ってね!」

 

「俺達はお前の優勝に50ガリオンかけたんだからよ。勝ってもらわなきゃ困るぜ」

 

生徒達の関心は当然今夜の課題に向けられており、廊下を歩くたびに生徒から声をかけられた。

…双子よ、勝手にわしを賭けの対象にするな。

ウィーズリー家は貧しいと聞いていたが、あの2人は悪戯グッズを売り捌いているからか比較的金持ちだな。

 

 

「そろそろ夕食だな」

 

大広間に入ろうとすると、何者かにローブの裾を掴まれた。

振り向いたわしの目に入ったのは、いつもの無表情の神無だ。

 

「…頑張って」

 

「ああ。任せろ」

 

わしの力強い返事に頷いて、彼女はスタスタと自分の寮のテーブルに歩いていった。

…そうだな、わしの家族はもう一人居たじゃないか。

柄にもなく感傷に浸っていると、唐突に過去のある一幕を思い出した。

あれは秘密の部屋に入り込んだ時のことだ。

バジリスクを従え、狂喜するわしの後ろから奇妙な光が発せられていた。

神無の持つ鏡である事は間違いないが、バジリスクという脅威が去ったのに鏡を光らせ続ける意味があったのだろうか?

考えすぎかもしれないが、神無は奈落にわしの行動を伝えていたのか?

だとしたらわしの行動は筒抜けになっていたと言うことになる。

だが、これは逆に利用できるかもしれない…。

 

「…いや、まずは今夜を乗り切ることだ。全てはその後だな」

 

今は課題に集中すべきだと両の頬を叩いて気合いを入れ、わしは大広間の扉を開いた。

 

 

 

 

今日の夕食はいつもより豪勢で、わしは課題に備えていつもよりも多くの料理を口に運んだ。

 

「見ろよ、今日はファッジも来ているぜ」

 

「本当ですわね。優勝者が決定するとあっては大臣自ら出向くものなのでしょうか」

 

ザビニとダフネの会話に顔を上げると、確かに教職員テーブルにファッジの姿があった。

皆が食事を終えるのを見計らい、ダンブルドアが立ち上がった。

 

「紳士・淑女の皆さん。あと5分経つと皆さんはクィデッチの競技場に向かうことになる。三大魔法学校対抗試合の最後の課題が行われるのじゃ。代表選手はバグマン氏に従って今すぐ競技場に行くように」

 

スリザリンのテーブルから拍手が起こる。

ドラコとダフネ、多くのホグワーツ生からの歓声に手を振って答えて大広間を出る。

競技場にはマクゴナガルやスネイプといったお馴染みの教師陣が待機していた。

 

「私たちが迷路の外を巡回しています。試合続行不可能と判断したら赤い火花を打ち上げて下さい。誰かがすぐに駆け付けます」

 

マクゴナガルの説明に了承の意を示し、選手たちは持ち場に着いた。

満員の観客席を前にバグマンが魔法で声を拡声して挨拶を始める。

 

『紳士・淑女の皆さん!三大魔法学校対抗試合最後の課題がまもなく始まります!現在1位のハクドウシ・ヒトミ君が最初にスタートし、ビクトール・クラム君、フラー・デラクール嬢が続きます。迷路の中央に配置された優勝杯を最初に掴んだ者の優勝となります!』

 

選手の名が呼ばれる度に、それぞれの学校から盛大な拍手が送られた。

 

『では、ホイッスルが鳴ったらハクドウシ君は迷路に入って下さい。いち…に…さん!』

 

ホイッスルが響き渡ると同時に、あらかじめ置いておいた薙刀を呼び寄せて薄暗い迷路に入る。

「ルーモス」で杖先に光を灯して50メートルほど進むと、分かれ道に出た。

 

「レダクト!…インセンディオ!」

 

わしは鬱蒼とした生垣に呪文を放ったが大した効力は無く、小さな焼き焦げがついただけだった。

馬鹿正直に迷路を進むよりも生垣を破壊して一直線に優勝杯まで走った方が得だと考えたのだが、魔法が効きにくくなるように細工がされているのだろうか。

 

「そう甘くはないか…」

 

二度目のホイッスルが鳴った。

クラムが迷路に入ったことを知り、生垣を壊すのを諦めて分かれ道を右に進む。

邪道のやり方は失敗したが、正攻法でもわしは負ける気がしなかった。

 

 

 

 

…三度目のホイッスルが鳴ってから十分以上が経過した。

これまでにわしは二つの罠を突破し、八匹の魔法生物を片付けていた。

金色の霧が漂っている道は「天地逆転の罠」だと本に書いてあったので落ち着いて対処できた。

重力が逆転したような錯覚を与える罠も、落ち着いて前に進めばどうということは無い。

悪魔の罠は賢者の石の一件経験済みなので容易く対処できたし、ボガードや巨大蜘蛛などの雑魚魔法生物は余裕だった。

だが、こうも連続で来られると少々疲れてしまう。

 

「…思ったよりも数が多いな。もしかしてデラクールが魔法生物を操っているのか?奴の魅了呪文はドラゴンすら虜にできる。複数の生物を魅了して他の代表選手を襲わせることも可能だろうな」

 

生垣に寄りかかって一息つきながら考察をしていると、遠くで赤い火花が打ち上げられた。

デラクールかクラムのどちらかが脱落したようだ。

だが、火花を打ち上げられる状況ならば戦うか逃げようとするのではないか?

どうも違和感を感じるな…。

 

「まぁ良い…。方角示せ」

 

「四方位呪文」を唱えると、掌の上で杖が横に回転して北の方向を示す。

 

「ゴールは北西の方角…。この道で合ってるな」

 

現在位置を確認して走り出そうとすると、前方から何かを引きずる様な音が聞こえた。

杖先を向けると、蠍と海老を掛け合わせたような不気味な生物の姿が照らしだされた。

 

「スクリュートか…。随分とでかくなったものだ」

 

獲物を見つけた喜びか、スクリュートの目が鋭くなる。

巨大な鋏が振り下ろされるのを真横に飛んで回避し、すぐさま薙刀を振るう。

殻に守られていない柔らかい部分に傷をつけるとスクリュートは苦しみにのたうち回った。

苦し紛れに放たれた攻撃も軽々と躱し、柄の部分で足を引っかけると無様に仰向けになった。

 

「隙だらけだ…。ドラゴンと戦ったわしの敵ではない。ステューピファイ(麻痺せよ)」

 

仰向けになった腹をめがけて麻痺呪文を唱えると、スクリュートはピクリとも動かなくなった。

それから10分程移動し、幾つかの罠を突破する。

優勝杯はそう遠くはない筈だ。

 

分かれ道に出た。

例によって「四方位呪文」で方角を確認し、数十メートル進むと物陰から人の気配を感じた。

赤い閃光が見える一瞬前に、わしは呪文を唱え終わっていた。

 

「ステューピファイ!(麻痺せよ)」

 

「プロテゴ(護れ)」

 

わしの作り出した盾は麻痺呪文を見事に防ぎきった。

即座に左に飛ぶと青い閃光がわしの居た場所を通過する。

呪文の主は見慣れた黒髪の男。

 

「クラムか…」

 

「フラーは既に脱落させた…。君を倒せヴぁ、優勝はヴぉくのものだ」

 

「なるほど、あの火花はお前が打ち上げたのか。そのくらいの優しさは残っているようだな」

 

皮肉交じりの言葉に顔色一つ変えず、クラムは無言呪文を放ってくる。

流石は闇の魔術の教育に力を入れているダームストラング生だけあって良く鍛えられている。

奴はフェイントの呪文と本命の呪文を交互に放ってきた。

最小限の動きで呪文を避け、避けられない呪文は「プロテゴ」で防ぎながら接近する。

クラムの顔に焦りの色が浮かぶ。

 

「相手選手への攻撃がルール違反とは言われてなかったからな。効率的で良い判断だ。だが、わしに杖を向けたのは失策だったな!」

 

腹に向かって放たれた「インペディメンタ」を「プロテゴ」で防ぎ、わしは薙刀の柄でクラムの腕を打った。

クラムが取り落とされた杖を生垣の方に蹴り飛ばして一安心と思ったその時、わしの頬に拳がめり込んでいた。

杖が無いならスポーツ選手として鍛えられた肉体を使うのみ、というわけか。

顔や腹を殴られて地面に倒れこんだわしに、クラムが覆いかぶさって拳を振り下ろそうとする。

だが、こうした事態を想定していなかったわけではない。

その証拠に、わしはまだ杖を手放していない。

 

「プロテゴ(護れ)」

 

拳は見えない壁に弾かれ、彼は予想外の衝撃に仰向けに倒れてしまった。

立ち上がろうとするクラムの腹に杖を押し当てて呪文を至近距離で放つ。

 

「ステューピファイ!(麻痺せよ)」

 

数メートルの距離があっても人を動けなくする呪文だ。

忌々しいと言わんばかりにわしを睨みつけ、彼はうつ伏せに倒れ込んで気を失った。

ダメージは喰らったが、クラム程の男を相手取るなら安いものだ。

治癒魔法を自分自身にかけると、痛みがスーッと体から消えていくのを感じた。

 

「…よし、想像以上の効果だ。ダフネに感謝だな」

 

クラムの杖を拾って赤い火花を打ち上げる。

すぐにスネイプが表れ、魔法で作られた担架にクラムを乗せ、わしに一瞬視線を送り去っていった。

…これで残った代表選手はわし一人、か。

 

 

それからは消化試合だった。

速さを重視する必要はなくなったので、リタイアさえしなければクリアできる。

罠や呪い、魔法生物を突破しながら注意深く歩いていると、スフィンクスが前に立ちふさがった。

伝説の通りに謎掛けををしてきたが、賢者の石騒動の際のスネイプの論理パズルに比べれば容易い内容だった。

 

「答えはスパイダーだ」

 

スフィンクスはニッコリと笑って飛びのき、その先には光輝く優勝杯が待っていた。

…少々呆気なく感じるな。

スクリュートと言った魔法生物も落ち着いて対応すれば楽な相手だったし、思い返せばクラムが一番の強敵だった。

 

「これで1000ガリオンと栄光はわしのものだ」

 

笑みを浮かべながら優勝杯を拾い上げると、何かに引っ張られるような感覚がわしを襲った。

懸命に優勝杯にしがみつきながら耐えていると、硬い物の上に着地した。

途端に左右の耳から聞こえる大歓声と、興奮したバグマンのアナウンス。

 

『御覧ください!優勝者がここに決定しました!優勝はホグワーツのハクドウシ・ヒトミ君です!歴代最年少の優勝者が、今この瞬間に誕生致しました!』

 

バグマンの言葉に沸き返る観衆を見て事態を把握した。

…優勝杯が移動キーになっていて、行先が壇上に設定されていたのか。

文献で移動キーの存在は知っていたがここまで体に悪い移動方法とは思わなかったな。

 

観客席ではスリザリン生が立ち上がって狂喜しながら寮旗を振り回しており、ドラコとダフネはピョンピョンと跳ねながら手を振っていた。

スリザリン以外のホグワーツ生も今日だけは寮のいさかいを捨てて賛辞の言葉を叫んでいる。

残る2校の生徒も悔しさと賞賛が入り交じった表情でわしに拍手を送ってくれた。

 

次第に嬉しさと勝利の実感がこみ上げてくる。

ホグワーツに来て何度か勝利と敗北を経験した。

賢者の石は手に入らなかったが、バジリスクやペティグリューを配下にする事には成功したし、クィデッチでも何度か勝利に貢献した。

だがこうも大観衆の前で勝利し、歓声を浴びたことは今までなかった。

この戦いの勝利はわしにとって特別な意味を持つものなのかもしれない…。

 

『さあ、ハクドウシ・ヒトミ君!皆に見えるように優勝杯を大きく掲げて下さい!』

 

優勝杯を持ち上げて会場全体に魅せると、何かが爆発したようにすら聞こえる歓声が響き渡った。

いつもならば五月蠅いと顔をしかめるわしだが、今日はこの歓声に感謝すら感じていた。

 

『魔法省のファッジ大臣だ。この度の3人の代表選手達の活躍に、心から感動している!歴史を紐解けば、三大魔法学校対抗試合とは…』

 

ファッジが長々と祝辞を述べ初めた。

壇上から一歩下がって授賞式の開始を待っていると、デラクールとクラムが近づいて来た。

蘇生呪文をかけられたのか体調に問題はないようだ。

デラクールがクラムから露骨に距離を取っているのは、まぁ襲われたことを思えば当然か。

 

「ハクドーシ、おめでーとうござーいます。悔しいけーど、あなたが一番でーす」

 

「おめでとう。…殴ったことを謝ろうとは思わない。ヴぉくは勝利の為に最善を尽くしただけだ。…でも、万一傷が悪化するようならヴぉくが治療費を払う」

 

「ああ。殴られたことは恨んで居ないさ。治療費の心配もない。頼れる友のプレゼントのおかげで、傷は殆ど癒えている」

 

「そうか…。良かった」

 

「ビクトール、わたーしにはちゃんと謝ってくーださい。失神させられまーした」

 

「…フラー、済まなかった」

 

「おい、デラクールには謝るのか」

 

わしの突っ込みにデラクールがクスクス笑い、クラムも申し訳なさそうにニヤッと笑った。

共に三大魔法学校対抗試合を戦った3人のライバルの間には奇妙な友情が芽生えていた。

 

『感動的な光景です!死力を尽くして戦った3人の選手が検討を称え合っています。皆さん、素晴らしい戦いを魅せてくれた彼らにもう一度大きな拍手を!』

 

バグマンはわし等の些細な会話も見逃さず、美談のように触れ回った。

彼の思惑通り観客は大盛り上がりで、「ハクドウシ」「クラム」「フラー」コールが巻き起こる。

デラクールは人当たりの良い表情で皆に手を振り、クラムもプロのスポーツ選手らしく慣れた様子で歓声に応えていたので、わしも手を控えめに振って喜びの意を示した。

 

「おめでとう、ハクドウシ・ヒトミ君。優勝者の名は炎のゴブレットの淵に刻み込まれ、永久の名誉が語り継がれる。それと…優勝金額の1000ガリオンだ。受け取り給え」

 

ファッジから賞金の入った袋を手渡され、皆に見えるように掲げると何度目か分からない大歓声が起こる。

授賞式は無難に終わり、ダンブルドアが一歩前に出て終了の挨拶をする。

 

「全ての課題は終了、優勝者もここに決定した。3人の代表選手が困難な課題に立ち向かう姿は、皆に感動を与えるに十分なものであったと、わしは確信しておる。この催しの成功は、ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの3校の強い友情を約束するものじゃ。大いなる喜びを持ちながら、これにて今年度の三大魔法学校対抗試合を終了とする」

 

ダンブルドアの結びの言葉に、皆が盛大な拍手を送った。

観客たちの興奮は冷めず、皆は朝まで選手たちの活躍を興奮気味に語り合っていた。

そこには学校の区別など無く…いや、寮の区別すらなかった。

最高の舞台を目にした者は普段のいさかいも忘れ、スリザリン生とグリフィンドール生も今日だけは犬猿の仲では無かった。

めでたしめでたし…と思いたいが。

 

「…わしにとっての本当の戦いは、これからだな」

 

わしの呟きは観衆の話し声にかき消されて誰も耳にも入らなかった。




・11/11 文章を一部修正しました。

・11/12 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
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