【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第53話 ダフネ・グリーングラス

三大魔法学校対抗試合が終わってから3日がたった。

生徒達はもうすぐお別れのボーバトンやダームストラングの生徒と最後の交流を楽しんでいた。

そんな彼らとは裏腹に、わしはガラ空きの談話室で疲れた体を休めていた。

 

「今日はずっと寮に居るつもりですの?」

 

「ああ。外に出ればマスコミに囲まれるしな…」

 

こうなったのもあのバグマンのせいだ。

子鬼との賭けに勝って大金を得て、多額の借金も無事に返済できたことで浮かれたのだろう。

バグマンは記者の要請に応え、ホグワーツへの取材許可の書類に軽く判を押してしまった。

そのせいで記者共が群れをなしてやって来て、鬱陶しいことこの上ない。

ドラコやダフネも、わしの情報を欲しがる記者に何度も取材を頼まれたそうだ。

 

ちなみに、昨日の夕食の時に例の双子から感謝の言葉を伝えられた。

バグマンがワールドカップの時の掛け金をようやく払ってくれたそうだ。

 

「一年近く催促してもずっと無視されてたし、正直諦めかけてたんだけどな。お前が優勝したお陰で助かったぜ。これで夢に一歩近づいた」

 

「夢?なんのことだ?」

 

双子は悪戯専門店を作るという夢をこっそり教えてくれた。

朝から晩まで悪戯のことばかり考えているこの2人には天職かもしれないな。

その時が来たらいくらか出資するか、いっそのこと大株主になるのも悪くないかもな。

…魔法界に株式制度があるかどうかは分からんが。

 

「最年少の優勝者ともなれば話題性は抜群ですからね。マスコミの方々ったら、つい最近まで見向きもしなかったのに勝手なことですわ」

 

「ずっと見向きしなくて良いのだがな…。はぁ…」

 

「有名になるのも考え物ですわね…。そうだ、ちょっと待っていてくださいな」

 

疲れ切っているわしを気遣ってダフネが紅茶を淹れてくれた。

疲労回復の魔法薬でも入っているのか、それとも彼女の愛情か。

紅茶を飲むと少し体の疲れが取れたような気がした。

 

机の上に置いてあった新聞を手に取ると、わしの写真が気怠そうに手を振って来た。

『最年少優勝者の素顔に迫る』という題の記事はそれなりに事実に基づいたもので、あのゴシップ女と比較すればまだ読める方だった。

 

「そういえば…最近はリータ・スキーターがやけに大人しいな」

 

「そうですわね。ポッター君の記事も載らなくなりましたし、何かあったのかしら」

 

「ま、その方が平和ではあるがな。…ん、あれはフクロウか?」

 

紅茶を片手に会話を楽しんでいると、窓からフクロウが飛び込んできて手紙を落としていった。

手紙を読み進めていくうちにわしの表情が自然と緊迫したものへと変わっていく。

わしは授賞式の後にダンブルドアに話があるので都合をつけてくれと囁いた。

その返事がようやくやって来たというわけだ。

ただならぬ雰囲気を感じたダフネがおずおずと問いかける。

 

 

「…どうしましたの?」

 

「わしの父がやった…いや、やらかそうとしている事について呼び出しを受けた。行ってくる」

 

「…私には、貴方の深いご事情は分かりません。ですが、どうかお気をつけて」

 

「ああ」

 

自分が関与できる問題ではないと知ったのか、少し寂しそうな顔で見送ってくれた。

彼女には気を使わせてばかりだし、早めに埋め合わせをしたいものだ。

 

 

 

自分に目くらまし術をかけて慎重に校長室まで移動する

マスコミがゾンビのようにそこら中を徘徊しているので迂闊に歩くことさえできない。

 

「ゴキブリゴソゴソ豆板」

 

手紙に書いてあった合言葉を唱えると、左右に配置された像が脇に退いて階段が現れる。

真鍮のノッカーで音を出すと、扉が開いて我らが校長殿が姿を現す。

 

「呼び出すのが遅れてすまんの。ようこそ、ハクドウシ」

 

「いや、呼んでくれただけ有り難い。無視されることも覚悟していたからな」

 

「対抗試合の優勝者殿であり、可愛い教え子の誘いじゃ。無視などせんよ。さぁ、入りたまえ」

 

テーブルには二人分の紅茶とマグル製の菓子が用意されていた。

この爺の性格を思えば真実薬が含まれている可能性もあるが、臆せずに口に運ぶ。

いっそのこと全てを話しても構わないとすら思う。

ダンブルドアはリアリストではあるが、教育者たらんとするところがある。

真実薬でわしの生前の悪行を知ったとしても、それを公表しようとは思わないだろう。

 

少しの沈黙のあと、ダンブルドアが口を開いた。

 

「ハクドウシ。あらためて優勝おめでとう。君の活躍は本当に見事じゃった」

 

「ああ。…だが、あれがわしの精一杯だった…。と言うことは、課題の相手よりも更に強い相手が来れば太刀打ちできぬと言うことだ」

 

「謙虚じゃの。若者はもっと傲慢であっても良いと思うのじゃがな。ドラゴンに水中人、巨大スクリュート…。これ以上の相手など、魔法界にも早々居る者ではない。君は自分を誇るべきじゃ。そうでなければ、この対抗試合を主導したルードやバーティが泣くぞ」

 

「それなりに誇りは感じているさ。だが、課題の相手以上の存在が魔法界には沢山居るだろう?その事をわしは言ってるんだ」

 

「沢山、とは?」

 

「数多くの闇払いや死喰い人、それに、貴様とヴォルデモート卿。そして、わしの不肖の父だ」

 

「…」

 

ダンブルドアの目が細められ、間を取るように紅茶を口に運んだ。

飲み物が喉を通る微かな音だけが校長室を支配する。

 

「気づいているんだろう?アルバニアの森の異変のことや、わしの父がしようとしていることを」

 

「…君は少々急ぎすぎるな。若者にはよくあることじゃが、それでは後悔するような事態を招くことになる。年寄りの忠告じゃ」

 

「…ご忠告は胸に留めておいてやろう」

 

わしは姿勢を正し、ダンブルドアの青い目を真っ直ぐ見つめる。

 

「だがな、直線的であるのが若者の特権だとわしは考える。だからこそハッキリ言わせて貰おう。ヴォルデモート卿が復活しようとしている、とな」

 

「……」

 

「わしの父がそれに手を貸している。奴は本来ならばクラウチjrにその役目を負わせたかったのだろうが、神楽の行動によって自らが動く羽目となった。闇の帝王は気が難しいと聞く。帝王のご機嫌を窺い続けるのは結構な重労働だったのだろうな。一年間連絡が取れず、わしの試合を見ることが出来ない程に」

 

「…面白い考えじゃが…君のご家族の変化と、ヴォルデモートを結び付けるのは少々飛躍しすぎではないかな?」

 

「今年度に入ってから死喰い人の動きが活発化している。死喰い人は腕に焼印のような物を入れられているらしいな。奴の復活が近い事を焼印の変化から感じ取った死喰い人達は、その恐怖を紛らわすように各地で弱い者苛めを始めたのだ」

 

ダンブルドアは口に運びかけたマグカップをテーブルに置き、髭を撫でながらわしの目を覗き込むように見つめてきた。

わしに開心術は聞かないことは分かっている筈だが…焦ったのか?

やがて、ダンブルドアが小さなため息をついた。

 

「やはり君は賢いのう…。魔法省の者どもにも見習わせたいくらいじゃ」

 

「違うだろ?魔法省が気づいていないのではない。貴様が気づかないように誘導しているんだ。ヴォルデモート卿を復活させたいからな」

 

爺がソファーから急に立ち上がった。

その肩はワナワナと震え、普段は優しげな印象を与える目は仇敵を見るように吊り上がっている。

今世紀で最も偉大な魔法使いのこんな顔を見れるとは光栄だ。

…いや、これすらも奴の仮面かもしれないが。

 

「そもそも根本から可笑しかったんだ。最も偉大な魔法使い様が居ながら、クィレルの侵入を許したこと。ジニー・ウィーズリーが日記で操られて秘密の部屋を開いたこと。シリウス・ブラックの無罪を公表しなかったこと。それは何故か?疑問を抱いた時、全てが分かったよ。貴様の目論見がな…」

 

「…ハクドウシ、紅茶をもう一杯いかがかな?」

 

「頂こう」

 

ダンブルドアはわしからマグカップを乱暴に受け取って部屋の隅で2杯目の紅茶を淹れ始める。

震える老人の背に更に言葉を投げかける。

 

「…なぁ、校長先生。真実薬を入れてくれても構わんぞ?その方が貴様が話しやすいならな。その前に…さっきの忠告の礼としてわしからも一つ忠告させて貰おう。誰かの口を割らせることばかり夢中になっていては自分自身の器を狭くするだけだぞ」

 

 

 

学期末の夕食の席は普段以上の賑わいを見せていた。

例年ならばこの大広間は優勝した寮のカラーが飾られるが、今年は三大魔法学校対抗試合に出場した3校の校章が高々と掲げられていた。

 

「今年も一年の終わりがやって来た。我が愛するホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの生徒達よ。三大魔法学校対抗試合の目的は、魔法界の相互理解を深め、進めることじゃ。それは十分に達成されたものであると、わしは確信しておる。この大広間にいるすべての客人は、好きなときにいつでもまたおいでくだされ。わし等の結束と友情が常に強い物である事を心から祈っておる。」

 

ダンブルドアが盃を持ち上げて三校の名を唱えると生徒達もそれに倣った。

挨拶が終わると、皆は学校の区別なく会話を楽しんでいた。

ダンブルドアのいう通り友好という目的は果たせられたらしい。

 

荷物をトランクに詰め終え、3人で馬車に向かう途中でデラクールが近寄ってきた。

ダフネは彼女の顔を見るなりむっとした表情を浮かべてドラコと共に馬車の方へ歩いて行った。

 

「また会いましょーね。あなーたと代表選手として競えて、ほんとーに良かったでーす!とても、楽しかったでーす」

 

デラクールがさよならのキスをしようとするのを手で制し、ダフネをチラリと見て首を振る。

わしのジェスチャーの意味を察した彼女は冷やかすようにクスクスと笑った。

 

「ハクドウシ」

 

今度はクラムだ。

グレンジャーに別れの挨拶をして来たところなのか、少し離れた場所にはポッター達も居た。

視線に気づいたグレンジャーは控えめに手を振ったが、ポッターとウィーズリーはそっぽを向いた。

最近は奴らに何かをした覚えはないのだがな…。

クラムに視線を戻すと、わしの傷が既に完治していることを確認し、安心したように頷いていた。

 

「君は素晴らしかった。ヴぉくは君と戦えたことを、誇りに思う」

 

「ああ。わしもだ」

 

「君にその気があるならプロのクィディッチ選手になると良い。そうすれヴぁ、また競い合える」

 

「クィデッチ界のスターである貴様からそう評されるとは光栄だ。考えておく」

 

クラムが差し出した手に応じて握手をすると、その上にデラクールが手を重ねる。

一年間の間競い合った3人の選手は、厳しい課題を戦ったライバルを胸に刻み込むかのように無言で互いの顔を見つめ合い、それぞれの居場所に戻っていった。

…出来れば、また会いたいものだな。

 

 

 

「ミス・デラクールと何を話してましたの?」

 

「健闘を称え合っただけだ。…ここなら誰も見て居ないな」

 

ジト目のダフネから目を逸らして広いコンパートメントを見渡す。

わしとドラコ、グリーングラス姉妹しか居ないので平和なものだ。

クラッブ達やパーキンソンとはすっかり疎遠になったが、彼らに興味は無かったので未練は感じない。

 

「ドラコ、アステリア。すまんが少々席を外してくれ。5分くらいですむ」

 

「ああ、分かった」

 

「お姉さま、頑張って下さいね」

 

「えっ…?ちょっと、どうしたんですの?」

 

ご近所の噂好きの奥様のような冷やかし顔で部屋を出て行く2人に戸惑うダフネ。

わしは彼女の隣に座り、キザになりすぎないように気を付けながら腰を抱いて体を引き寄せる。

 

「な、なんですの?」

 

「…全ての課題が終わったら、こうしようと思っていた」

 

わしの顔が間近に迫ると、その意味を察したダフネは顔を真っ赤にしながらも目を閉じてくれた。

2人の唇は静かに重なり、数秒立ってからゆっくりと離れた。

 

「ハク…ドウシ…」

 

「今でわしの隣に居てくれてありがとう。ダフネ。わしは君を愛している。わしの恋人になってくれ」

 

「…ええ、喜んで。私も、大好きです」

 

喜びのあまり一筋の涙さえ浮かべるダフネを優しく抱きしめる。

わし等の間にそれ以上の言葉は要らなかった。

そうしているうちにドラコ達に言った5分をオーバーしてしまったらしい。

部屋に入ってドラコとアステリアは抱き合ったままのわし等を散々からかってきた。

ヤケクソになったわし等は開き直ってイチャつくことにした。

2人は対抗心を刺激されたのかベタベタとくっつき始め、中は2組のバカップルが支配する妙な空間が出来上がった。

昼頃に車内販売にやって来たおばさんは、わし等の様子を見てそそくさと出て行った。

…少し悪いことをしたな。

 

午後はこの一年間の話に花を咲かせ、魔法が使える最後の期間を楽しんだ。

普段ならポッター達をからかいに行くドラコも、今日は最期までコンパートメント内に居た。

今のドラコにとっては、愛する恋人や大切な友と過ごす時間の方が大事なのだろう。

決闘にも勝利した今、ポッター達の存在は奴の中でそこまで大きなものでは無くなっているのかもしれないな。

 

汽車がキングズ・クロス駅に着いた。

あらかじめ縮小呪文で小さくして置いた荷物を神無に預け、わしはダフネとロンドンの街を楽しむことにした。

 

「恋人になってから初めてのデートがマグルの街だなんて…」

 

最初は少し不満げだった彼女も、美しい街並みを観ている内に機嫌が良くなっていった。

まずは英国王室御用達の洋装店を覗いて見た。

ここには数百種類以上の上質な服が揃えられており、美しい服を見て回って何着かを購入した。

洋装店を出たあとはお洒落な雰囲気のカフェでお茶を楽しむ。

紅茶も勿論美味かったが、有名パティシエが作ったというケーキは絶品だった。

最期は大英博物館だ。

ここに飾られている膨大なコレクションは見る物を圧倒する魅力を持っている。

それは魔法使いも例外ではないようで、ダフネは初めて見る多様な品々に目を輝かせていた。

国外旅行は何度か経験があっても、マグル界の観光地に行ったことは無かったようだな。

 

賞金をあらかじめ換金しておいたので、お代は全てわしが払った。

ガリオンをマグルの通貨に換金すると少し損な気がするが仕方ないな。

 

夕方頃にダフネの家族が迎えに来た。

名残惜しいが、ここまでだな。

 

「…じゃあ、またな。ダフネ」

 

「ええ」

 

わしはダフネを抱き寄せて別れのキスをした。

娘のラブシーンを見せつけられて唖然とするダフネの両親に手を振り、タクシーに乗り込む。

わしは良い友に恵まれ、良い恋人を持った。

…これでもう、万一のことがあったとしても思い残すことは無い。

 

タクシーで数十分程の場所に我が家はひっそりと建てられている。

例年までは神楽の不機嫌そうな「おかえり」の言葉が聞けたものだが、今年はそれが無い。

そのことに少し寂しさを感じながら自室に戻る。

神無が運んでくれた荷物は既に元の大きさに戻っていた。

 

「焦る必要はない。あとは時が来るのを待つだけだ…」

 

椅子に深く腰掛けて今後のことに思いを馳せていると、腹が小さな音を立てて鳴った。

ダフネとのデートでは軽食しか食べていなかったからな。

リビングに向かったが当然ながら何も用意されていない。

 

「神楽も奈落も居ないからな…。わしが作るしかないのか」

 

暫くの間家事を実質わし一人でしなければいけないことを悟り、静かに肩を落とした。

夕食の買い物にでも行くとするか…。




※第4章、炎のゴブレッド編はこれにて終了です。
お読みいただきありがとうございました。
1週間以内に最終章を投稿できるよう努力します。

・11/16 文章を一部修正しました。
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