【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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更新が想定より少し遅れました。申し訳ありません。
最終章は週一更新になると思います。

最終章開始です。
楽しんでお読み頂けると幸いです。


最終章 白童子と奈落
第54話 来訪者


「これ、お釣りね。いつもありがとう」

 

すっかり顔なじみとなった市場のおばさんから食べ物と釣銭を受け取る。

朝早く起きて買い物に行くのは面倒ではあるが、散歩のついでと思えばさほど苦でもない。

神楽がマグルのお金を残してくれたおかげで生活費は問題ないしな。

 

わしと神無だけとなったヒトミ邸はすっかり静かになってしまっていた。

買った物を冷蔵庫に雑に押し込み、ハムとチーズをパンに挟んだだけの簡単な朝食を食べ始める。

 

「…不味くはないが、ホグワーツやグリーングラス家の食事に比べると落ちるな」

 

少し味気ない食事に不満を感じる。

随分と舌が肥えてしまったなと自嘲しながら、わしはダフネ達と過ごした日々を思い返していた。

 

 

あれは夏休みが始まった翌日のことだったろうか。

ダフネの父が煙突飛行で我が家に乗り込んできたのだ。

わしとダフネのキスシーンを見て衝撃を受け、娘をたぶらかす男の顔を拝みに来たというわけか。

…娘の交際相手に父親が激怒するというシチュエーションは小説や映画で何回か見たが、自分が当事者になるとは思ってなかったな。

 

様々な質問をしてくるグリーングラス氏に少し面食らいながらも、正直に答えてやった。

まず血筋と家族構成を問われ、半純血(という設定)で父の名はカゲワキ・ヒトミだと話すと彼は難色を示した。

グリーングラス家は純血に拘ると聞いていたし、奈落は評判が悪いようなので納得の反応だ。

だが、わしがクィディッチのレギュラーであり、学年で上位の成績をキープしていることや、昨年の対抗試合で優勝したと教えると彼は感心したような声をだした。

これが一番聞きたかったことであろう「君は娘を愛しているのか?」という問いにYESと答えると、険しかった彼の表情が少し和らいだ。

 

「…君の態度や家族構成、血筋には気に入らない所も多い。だが、優秀であることは間違いないようだし、何より娘が君を気に入っている。…忌々しいが、交際を認めよう」

 

…まぁ、お眼鏡にかなったようで何よりだ。

父が自分の恋人を認めたと知ったダフネは大喜びで、何度か食事に招かれることもあった。

大富豪である彼女の家の食事は非常に美味で、会話を楽しみながら料理に舌鼓を打った。

 

 

ダフネの家に招かれなくなったのは、わしが何かやらかしたからではない。

魔法界の治安の悪化が原因だ。

一週間前にコーンウォール地方で死喰い人による犯罪が起こった。

マグルを宙に浮かび上がらせて暴行を加え、止めようとした魔法使いも同様の目にあわせたのだ。

闇の印が打ち上げられた犯行現場は暗黒の時代を象徴するかのようだったと目撃者は語った。

そして、昨日起こったロンドン郊外での魔法使い七名殺害事件。

被害者がマグル生まれだったと判明してから、魔法界は大混乱に陥った。

今までに死喰い人の犯行らしき事件はあったが、魔法使いが殺害されたのは近年で始めてた。

各地で慰霊集会や追悼ミサが行われ、誰もが死者の冥福を祈り、自分が次の対象にならないよう願った。

 

ファッジ大臣は犯人の追跡に全力を注いでいると演説を行ったが、さしたる効果はなかった。

実際は犯人の手がかりが殆ど掴めていないことを魔法界の多くの者が感づいていたからだ。

世の中の変化を悟ったグリーングラス家は客人を招かなくなり、今に至るというわけだ。

ダフネに会えなくなったのは残念だが、彼女の家が防犯意識を強めてくれたのは良い事だ。

 

 

 

 

少し物足りない朝食を終えて新聞を読み始める。

今月の頭に日刊預言者新聞の購読用紙にサインをしてから、新聞社のフクロウが毎朝に届けてくれるようになっていた。

 

「昨日も死喰い人が犯罪を事件を起こしたのか。…ルシウス・マルフォイの談話も載っているな。『許しがたい残酷で卑劣な所業だ。犯人逮捕に助力を惜しまない。』…よく言う」

 

一人で新聞に突っ込みを入れていると、神無がリビングに入って来た。

 

「…おはよう」

 

「ああ」

 

神無は雑な朝食に文句ひとつ言わず、もそもそと食べ始めた。

今日は7月25日だったか…そろそろ仕掛けるべきかもしれないな。

 

「神無。話がある」

 

昼頃にわしは扉をノックして、神無の部屋に入った。

我ながら急だと思うが、そろそろ勝負に出なければな。

 

「そこに座れ。…お前、奈落に協力しているんだろう?」

 

「……」

 

「わしがバジリスクを従えたことも既に奈落に伝えているんだろう?してやられたよ」

 

神無は肯定も否定もせずに黙っている。

だが、鏡を持つ手に少し力が入っていることにわしは気づいていた。

 

「夏休みが始まってから奈落はお前に何もしてこない。お前の能力は奈落にとっても有力な筈なのにな。心当たりはあるか?」

 

「…知らない」

 

「そうか」

 

わしは少し間を取ってから、神無にとってより重要な話を切り出した。

 

「神楽は逃げたようだな。奴は自由を求める女だからな。生き返っても奈落に利用されることを嫌がったんだ」

 

「……っ」

 

神楽という名を聞いて神無の表情が微かに揺れた。

思った通り、神無は神楽にある程度の仲間意識を抱いているようだ。

同じ奈落の下僕という立場でありながら、従属を誓う者と自由を望む者。

対極にある2人は、お互いを羨ましがっているのかもしれない。

 

「わしは再び奈落と事を構える道を選ぶ。奴が求めるものが何かは分からんが、今のわしにとってそれが良いものでないことは確かだろうからな」

 

「…そう」

 

「奈落に伝えるか?」

 

「…今の私は奈落とコンタクトが取れない。鏡に…奈落は映らなくなった」

 

「そうか。ではわしと来い。わしに手を貸せばいい」

 

神無は鏡を強く握りしめながら静かにわしを見つめる。

 

「…あなたは、あの時奈落に敗れた。…造反を読まれて、結界を破られて、風穴に吸い込まれた」

 

「ああ、その通りだ」

 

屈辱的な過去を掘り下げられても、わしは堂々とした態度を崩さずに言葉を続ける。

 

「だがな、神無。奴に従属を誓っても、いずれは切り捨てられるだけだ。生前の貴様が犬夜叉達を道連れにするために自爆させられたようにな。ならば奈落と共に歩むのは賢明とは言えないな」

 

奈落は自分に付き従う者であろうと時が来れば容赦なく切り捨てる。

裏切りを考えていたわしや神楽が消されるのは分からなくもない。

しかし、神無や夢幻の白夜とやらは最後まで従順だったのにも拘わらず捨て駒とされた。

 

「考えておくと良い。わしにつくか、奈落につくか。…後悔しないようにな」

 

わしの言葉に思うところがあったのか、静かに俯く神無に背を向ける。

畳みかけるように言葉を紡ぐより、考える時間を与えた方が良さそうだな。

わしは神無が自分で答えを見つけるまで待つつもりだった。

 

部屋に戻ると、丁度大蛇が家の中の鼠を捕まえたところだった。

猫が飼い主にそうするように、わしに瀕死の鼠を見せて褒めてと言わんばかりに尾を振っている。

 

「…良くやったな大蛇。食べて良いぞ」

 

厨子のことを思い出して微妙な気分になりながらもねぎらいの言葉をかけてやる。

最近はストレス解消と野生の本能を思い出させる為に家の中での鼠狩りを許可している。

 

「奴は見つかったか?…そうか。ご苦労だった」

 

行方不明になったペティグリューの捜索もさせていたが、数週間たっても見つからないのを見ると諦めた方が良いかもしれない。

おそらく、わしが学校に行っている間に奈落によって連れさられたのだろう。

奴はわしによって心を壊されているので大した役には立たない筈だが、何を狙っているのやら。

 

 

 

 

7月29日。

アズカバンから2人の受刑者が脱獄したという話題は魔法界を恐怖に陥れた。

バーテミウス・クラウチ・ジュニアとベラトリックス・レストレンジ。

死喰い人の中でも群を抜いて凶悪な2人の脱獄は、魔法界に何かが起ころうとしていることを暗示しているかのようだった。

 

「クラウチにレストレンジか…」

 

数日前にダイアゴン横丁で「闇の帝王の配下達」という本を買って死喰い人の事を調べたので、彼らの情報はある程度得ている。

ベラトリックスはロングボトム夫妻などの様々な闇払いやマグルを拷問した外道らしい。

ロングボトムの親がそんな目にあっていたとは初めて知ったが、それは今はどうでもいい。

ベラトリックスは確かに恐ろしい女だろうが、わしにとってはクラウチの脱獄の方がまずい。

奴は自身をアズカバン送りにした神楽を恨んでいる筈だ。

神楽が行方不明なのを知り、家族だけでも仕留めようとこの家に襲い掛かってくるかもしれない。

念のために仕掛けを施しておく必要があるな。

 

昼頃に優雅にティータイムを楽しんでいると、暖炉の方から物音が聞こえた。

魔法使いなら姿くらましか煙突飛行をするだろうという予想が当たったらしい。

杖を構えながら慎重に来訪者を確認する。

 

「いたた…何なんだ、これは?う、服がドロドロだ…」

 

情けない声をあげたのはわしの友人のドラコ・マルフォイだった。

双子から貰った携帯沼地の試供品を、罠として暖炉に仕掛けておいたのだ。

怪物的な怪物の本も仕掛けておいたので、ドラコは本に少し噛みつかれていた。

…我ながらやりすぎたかもしれないな。

だが、このドラコがポリジュース薬で変装した別人の可能性もある。

 

「ハクドウシ!君の家では客人をこんな風にもてなすのか!?」

 

「そこで止まれ、ドラコ」

 

怒りの表情を浮かべるドラコに慎重に杖を突きつける。

正体を確認するには、わしとドラコしか知らないことを聞くのが手っ取り早い。

 

「わしの飼っている蛇の名はなんだ?」

 

「…ああ、なるほどね。答えはオロチだ。変装してるかどうか確かめるならもっと難しい質問にした方が良い」

 

「正解だ。…そうだな、次はもっと答えにくいものにするか」

 

わしの意図をすぐに察したドラコに感心しながら、手を伸ばして沼地から助け起こす。

ドラコの体は沼地に嵌ったことで汚れていたのでシャワーを貸してやり、その間にミセス・ゴシゴの汚れ落としで奴の服を綺麗にしておいた。

怪物の本に噛まれた傷は大したことは無かったようで一安心だが、罠としては問題があるな。

 

「警戒するのは分からなくもないけどね…。僕をこんな目に合わせたこと、暫く覚えておくよ」

 

「済まなかったな、ドラコ。…で、手紙もなしに尋ねて来るとは余程の用事なのか?」

 

「ああ。…なぁ、念の為に聞くが、この家、大丈夫だよな?」

 

「100%安心とは言えないな…。場所を移すか?」

 

神経質に周囲を見渡すドラコを見て話の重大さを悟り、家を出て近所の喫茶店に移動した。

ドラコのローブ姿は目立ちすぎるのでマグルの服に着替えさせておいた。

マグルの喫茶店を物珍し気に見渡すドラコを促して店内に入り、適当に紅茶とケーキを注文する。

この席は他の客と少し離れているし、水が入ることもないだろう。

紅茶を軽く味わってからドラコが本題に入った。

 

「2人の死喰い人が脱獄した事件はもう知ってるか?実は…あれに僕の父上が絡んでいるかもしれないんだ」

 

「…まぁ、そうだろうな」

 

「分かってたか。…君はこの事態を想定していたんじゃないか?」

 

ドラコの鋭い指摘に、ケーキを口に運ぼうとしていた手を止めて言葉を孵す。

 

「…ま、似たようなことが起こるだろうとは思っていたさ」

 

「……ダフネから聞いたんだ。君は第三の課題の後に誰かから手紙を受け取って何処かへ向かったと。君は…スネイプかダンブルドアと大事な話をしてたんじゃないか?」

 

「ダフネには口止めしておくべきだったかな」

 

「いや、僕が無理に聞いたんだ。…あまり彼女に心配をかけるなよ。僕がもしアステリアと結婚することになれば、彼女は僕の姉になるんだからね」

 

場を和ませるようにお道化てみせるドラコ。

その気遣いを有り難く思うと同時に、わしは覚悟を決めた。

ドラコの推理力と判断力はわしの想定以上だ。

ならば、彼を信じよう。

 

「その通りだ。…わしはあの日、ダンブルドアの部屋に行った。話の内容は…ヴォルデモート卿が復活しようとしている事」

 

「…っ」

 

「ドラコ。わしは貴様を信用し、今回の件について知っている全てのことを話そう。それを聞いた上で貴様が判断して行動するのだ。どんなことになっても、わしは貴様を恨みはしない」

 

 

 

話は長引き、わし等がヒトミ邸に戻ったのは夕方だった。

 

「暖炉にはまた罠を仕掛けておくつもりだ。ダフネにも同じことを伝えておいてくれ。我が家に尋ねて来るのは、貴様とダフネくらいだろうからな」

 

「分かった。…なぁ、次に会うときは決着がつくのかな?」

 

「そうあって欲しいな。無論、わし等二人とも無事で、な」

 

「…ああ!」

 

ドラコが煙突飛行でマルフォイ邸に帰るのを見送っていると、神無に服の袖を掴まれた。

数日前の話の続きかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「…あなたの留守中に届いていたわ」

 

神無はわしに大きな荷物を差し出してスタスタと去っていった。

 

「重いな。…マグルの輸送手段でわしに何かを送る者など居たか?」

 

疑問を感じながらも部屋に戻り、罠である可能性も警戒しながら慎重に包み紙をほどく。

出てきたのは、真ん中から折られた両刃の刀の先端部分だった。

怪しい光を放つそれは、わしの持つ奈落の記憶に存在していた。

 

「これは見覚えがあるな…。奈落の記憶にあった殺生丸の闘鬼神だったか」

 

戦国最強と言われた殺生丸の所持していたこの妖刀は奈落の結界をも怯ませたという。

闘鬼神は魍魎丸との戦いで折れ、その場に放置されていたと聞いている。

それを何者かが拾ってわしに送り付けてきたということか。

殺生丸がわしに自分の愛刀の一部をプレゼントする筈も無いし、送り主は神楽だろうな。

 

 

「……だとすれば、これは利用できるな」

 

わしは煙突飛行でダイアゴン横丁に向かい刀鍛冶入門の道具を購入した。

これは随分昔に流行したもので、誰でも刀鍛冶のように刃物を合成したりできる逸品だ。

今は事故が相次いだので生産中止になっており、中古魔法道具専門店を三軒も回って手に入れた。

薙刀と闘鬼神を横に並べて三十分ほど作業を行い、何とか目的は果たせられた。

わしの持っていた薙刀の刃の部分を、闘鬼神の刃と入れ替えたのだ。

闘鬼神は殺生丸の愛刀として多くの敵を葬った強力な武器…当てにしてもいいだろう。

 

「神楽、感謝するぞ。貴様の贈り物は役に立ちそうだ。…だが、気になるのは奈落だな」

 

この薙刀はそもそも奈落からのプレゼントだ。

今こうしてわしの薙刀が強化されたのも何か裏があるのかもしれない。

そう、鳥使いの姫が奈落の与えた武器で自滅させられたように…。

 

「…だが、奈落は偽の四魂の玉の気配を残したりと尻尾を掴ませるような行動も多い。ただ油断していただけという可能性もあるな」

 

そもそも奈落は生前から余計な事ばかりして敗北してきた。

今回もそのケースかもしれないと思いかけて、ある突飛な考えが浮かんだ。

 

「…奴は何かを試しているのか?勝つも負けるもよしと半ば投げやりに考えている。もしくは、自分を止めて欲しいと思っている…?だからあえてヒントや武器を与え続けて…」

 

そこまで考えてわしは大きく首を振った。

わしは何を考えているんだ、奴がそんなタマではないと知っている筈なのに…。

そんな事よりも、闘鬼神の刃に変えたことで重さが増した薙刀に慣れなければならない。

下らん考えを追い出すかのように、わしは庭に出て重い薙刀を振り続けた。

近いうちに起こるであろう決戦の為に…。




・11/25 文章を一部修正しました。

・11/26 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
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