【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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※今回は全編ハリー視点でお送りします。


第55話 トム・リドルの墓

『ハリー視点』

 

 

またダーズリー家での退屈で息が詰まる様な毎日が始まった。

彼らはベロベロ飴(トン・タン・タフィー)の一件をまだ根に持っており、直接的な暴力を受けることはないが食事の量を露骨に減らされるようになった。

学校ではロンやハーマイオニーと楽しい日々を過ごしていたし、豪華な食事も毎日食べることができていただけに、ここでの生活は辛い。

ダドリーのお下がりの漫画もとうに飽きてしまった。

 

ダドリーといえば、彼はダイエットに成功して立派なスポーツマン体系になっていた。

ベロベロ飴騒動で甘い物がトラウマになり、結果的に糖分の摂取量が減ったのが良かったらしい。

今年の夏にはボクシングのジュニアチャンピオンになって多くの人から賞賛を浴びていた。

自分の実力が認められるという経験は彼の人格矯正に役立ったらしく、以前のように不良仲間とつるむことは減り、僕への態度も少し軟化した。

シリウス達の存在を恐れての行動かもしれないけど、たまに飽きた漫画やゲーム機を譲ってくれることもあるので彼の変化はありがたい。

 

でも、叔父さん叔母さんは相変わらず僕に辛く当たってくる。

抑圧された生活の中で友人たちとの手紙のやりとりだけが僕の楽しみとなっていた。

 

「あのフクロウは閉じ込めれば大声で鳴き始めたりするからな…。近所迷惑になるくらいなら外に出した方がマシだ」

 

バーノン叔父さんがヘドウィグの使用を認めてくれたのはラッキーだった。

特に書くことのない僕は自然と聞き役になった。

ロンの贔屓のクィデッチチームのチャドリー・キャノンズがまた負けたこと。

ハーマイオニーがクラムと手紙のやりとりを続けていること。

何気ない出来事が書かれた手紙はこの家では何よりも僕を楽しませてくれた。

シリウスが手紙をくれないのは気になるけど、きっと逃亡生活で大変なのだろう。

 

ところが、7月20日頃から僕への手紙がプツリと途切れてしまった。

またドビーが止めているのか、それとも彼らが僕との手紙に飽きてしまったのか。

やきもきした思いを抱えながら日々を過ごしていたが、誕生日の朝に見慣れない黒色のフクロウがリビングの窓をつついた。

ついに僕への手紙が来たんだ!

 

「またフクロウだ!小僧、さっさと手紙をとって部屋に戻っとれ!」

 

癇癪を起こしたバーノン叔父さんに急かされるまでもなく、僕は手紙を受け取っていた。

 

『ハリーへ

最近連絡がつけられなくてすまなかった。

ロンのピッグウィジョンが調子を崩したので暫く休ませていたんだ。

今も調子が戻らないのでやむなく他のフクロウを使っている。

パーシーは仕事で使うからとフクロウを貸してくれないしね。

さて、本題に入ろう。

唐突ですまないが、今夜私の家でささやかな誕生日パーティをしないか?

出来れば、明日から新学期まで私の家に泊まって欲しい。ロンも喜ぶ。

もし君にその気があるならば、そのフクロウにYESの返事を持たせて飛ばしてくれ。

今夜の8時に姿現しで迎えに行くから。

アーサー・ウィーズリーより』

 

何よりも嬉しい誕生日プレゼントがあるとしたらまさしくこれだろう。

僕はバーノン叔父さんに手紙を見せて行っても良いか尋ねてみた。

 

「…またあの男が家に来るのか。小僧、姿現しとは何だ?」

 

「えっと…瞬間移動みたいなものです」

 

「暖炉を壊される心配はないんだな?…分かった。許可するが、今度は余計なものは持ってくるなと伝えておけ」

 

断られることも覚悟していたが、思ったよりもあっさりとOKがでた。

僕にさっさと出ていってほしい叔父さんにとっては願ったり叶ったりなのだろう。

YESの返事をフクロウに持たせて窓から飛ばしてから、僕は部屋に戻って荷物ををまとめた。

 

今日のダーズリー家の夕食は普段よりも早く終わった。

ダドリーはさっさと部屋に戻ってテレビ・ゲームに熱中し、バーノン叔父さんとペチュニア叔母さんはリビングに残って雑誌やテレビを見ている。

2人がアーサーさんの来訪にピリピリしていることは明らかで、叔母さんは何度も同じページを読み返しながら時計をチラチラ見ていた。

 

「時間だ」

 

時計の針が8時を指すと同時に、パチンという音と共にアーサーさんがリビングに現れた。

アーサーさんは愛想よく僕に笑顔を見せ、部屋の隅で苦い顔をしている2人に声をかけた。

 

「やあ、こんばんわ。お伝えした通り、ハリーは新学期までの間は私が責任をもってお預かりします。どうかご安心ください」

 

「…フン。さっさと連れていくが良い。…今日はあの妙な菓子は無いのだな?貴様ら魔法使いも、少しは反省という物があるらしい」

 

「菓子…えぇ、そうですね。お望みならば持ってきますが」

 

「い、いらん!いらん!とっとと行け!」

 

「はい。さぁ行こうかハリー。荷物は私が預かろう」

 

余計な争いが起きずにすんだことに胸をなでおろしながら、お言葉に甘えて荷物を渡す。

アーサーさんが差し出しされた腕に捕まると、二度目のパチン音と共に僕たちはダーズリー家から移動していた。

 

 

 

「…え?」

 

僕は間の抜けた声を出した。

僕にとっての第二の家ともいえる隠れ穴はそこには無かった。

薄暗くて陰惨とした墓場が視界一杯に広がり、小さな教会の黒い輪郭と堂々とした古い館が遠くに見える。

 

「ア、アーサーさん。場所を間違えたんですか?ここは墓場じゃ…」

 

「ああ、墓場だ。私の父のな」

 

その不快な音が人の声だと理解するのに少し時間がかかった。

振り向くと、「トム・リドル」と書かれた墓の傍に待ち構えていた杖をついた男と目があった。

体全体から邪悪な光を放っているように感じられて思わず後ずさりしてしまう。

 

何故だろう。

僕はあの声に聞き覚えがある気がする。

1年生の時、賢者の石を護るためにホグワーツの先生が仕掛けた罠を突破して…。

みぞの鏡の前で、僕はあの声を聴いた。

 

「クラウチ・ジュニアよ…ご苦労だったな」

 

「勿体ないお言葉です…ご主人様」

 

興奮した声は僕の隣から聞こえた。

気づけば隣にいるのはアーサーさんでは無く、去年見たクラウチjrその人だった。

僕が預けてしまった荷物は遠くに投げ捨てられてしまっていた。

まずい、僕の杖は荷物の中だ。

 

「アーサーさんを何処へやったんだ!?……いや…そもそも…そうか、ポリジュース薬で…」

 

「正解だ。ハリー・ポッター…頭は悪くないようだな。そうでなければご主人様の役には立たん」

 

僕はすべてを悟った。

クラウチjrがポリジュース薬でアーサーさんに化けて僕をここに連れて来たんだ。

10日間の間、手紙を止めていたのもこの男に違いない。

友達との連絡を絶つことで僕の孤独感を煽って冷静な判断ができなくなるように仕向けたんだ。

全てが奴らの思惑通りだったことに気づいた僕は下唇を強く噛みしめた。

 

「気づいたか。だが、もう遅い。ハリー・ポッターよ…俺様が憎いか?」

 

振り返った僕の顔は強い怒りと嫌悪に染まっていたことだろう。

この男の正体は既に分かっていた。

 

「憎いさ…父さんと母さんを殺し、多くの人の命を弄んだお前がな…!ヴォルデモート!」

 

「それは俺様も同じだ。忘れもしない、あの日お前によって俺様は栄光を失ったのだからな」

 

クラウチjrに後ろから肩を抑えられながらも、僕は射殺さんばかりにヴォルデモートを睨みつけ、奴も恐ろしい目で睨み返してきた。

両者の睨み合いは姿現しの音と共に現れたフードの男たちが周囲を取り囲んだことで中断された。

死喰い人だ。

彼らは僕を見て嘲笑うような声をあげ、その中から獣の皮を被った妙な男が一歩前に出た。

クラウチjrに嫌悪の籠った視線を送られながら、男はねっとりとした口調でヴォルデモートに話しかけた。

 

「我が君…ポッターを捕まえたのですね」

 

「ああ。ナラク、こちらは万全だ。そちらの首尾はどうだ」

 

「ベラトリックス達から先ほど報告がありました。あと1時間もかからずに魔法省を制圧できる、とのことです」

 

僕は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

魔法省が攻撃されただって!?

じゃあ、アーサーさんは…パーシーは…ファッジ大臣は…。

近しい人の危機を知って愕然とする僕をヴォルデモートは楽しそうに見つめている。

 

「ポッターよ…。今の話は聞こえたな?貴様の誕生日である今日、魔法界は俺様に跪くのだ」

 

憎い男の言葉に、気力を振り絞って反論する。

気持ちまで負けたら終わりだという意地だけが僕を突き動かしていた。

 

「…魔法界を跪かせるだって!?お前にそんなことは無理だ!たとえ魔法省を制圧しても、お前が最も恐れているダンブルドアは倒せない!」

 

ダンブルドアの名を聞くと、勝ち誇っていたヴォルデモートは一瞬言葉に詰まった。

 

「ダンブルドアか…。確かに奴は強力な力を持った魔法使いだ。認めよう。…だが、俺様が力を取り戻すとき、奴もいずれは俺様に屈することになる。無駄話はここまでだ。始めろ、セブルス」

 

「かしこまりました。我が君…」

 

今日二度目の衝撃だ。

あのセブルス・スネイプの名をここで聞くとは思ってなかった。

大嫌いな奴だったけど、ダンブルドアが信頼しているので味方だと思っていたのに…。

どこか裏切られたような気持ちになりながら僕は叫んだ。

 

「スネイプ!…お前、お前って奴は!嫌な奴だと思ってたけど…そこまで腐ってたなんて思わなかった!ダンブルドアはお前を信じていたのに!見損なったぞ!」

 

「五月蠅いぞポッター。墓場では静かにするものだ」

 

嫌味ったらしい、ねっとりとした話し方は何度も聞いたスネイプのそれに間違いない。

こいつはダンブルドアを裏切ったんだ。

父さんやシリウスが嫌っていたこの男は、やっぱり最低の奴だったんだ。

それに気づけなかったなんて…。

悔しがる僕から目を逸らし、スネイプは巨大な鍋をどこからか取り出して鍋底に火を着けた。

鍋の中の液体が沸騰し始めてから幾つかの魔法薬を慎重に入れていき、やがて鍋からダイヤモンドのような輝きが起きた。

 

「我が君、準備が整いました…」

 

「ご苦労だった。セブルスよ」

 

杖を突きながらヴォルデモートが液体に歩き始める。

動きを封じられた僕はただ見ているしかない。

 

「いよいよだ…ポッター。ご主人様が真の力を取り戻される。…俺は魔法省を襲撃する方に混じろうか、ギリギリまで迷っていた。親父をこの手で殺りたかったからな。だが、ご主人様の復活を見届ける側に来て本当に良かった」

 

背後から聞こえるクラウチjrのうっとりとした声に鳥肌が立った。

この男は心からヴォルデモートを崇拝していると分かってしまったからだ。

 

「なんで…そんなにヴォルデモートを?お前の父は闇の勢力を憎んでいたって…」

 

「親父か…。奴は何も分かっていない、下らない男だ。俺とご主人様にはな、共通点があるんだ。

二人とも父親に失望していた…。そして、のちに俺はご主人様と同じ楽しみを味わうことになる。自分の父親を殺すという楽しみをな…」

 

子供が将来の夢を語る様に無邪気な顔をするクラウチjrの姿にゾッとした。

僕らのやり取りなどどこ吹く風のヴォルデモートは、温泉に入るように鍋の中にゆっくりと体を沈めていく。

傷痕が焼けるように痛むのを感じながら、僕は念仏のように失敗しろと唱えていた。

ヴォルデモートが何をしようとしているのかは既に感づいている。

奴はあの魔法薬で万全の状態を取り戻そうとしているんだ。

そんなことをさせる訳にはいかないけど、杖も取り上げられてはどうしようもない。

 

「父親の骨…知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん。」

 

スネイプが何かを唱えながら杖を動かすと、墓が割れて収められていた骨や塵芥が宙に浮いた。

杖の動きに導かれるままに飛行する塵芥の姿は、こんな状況じゃ無ければ美しいと感じただろう。

塵芥は鍋の中に降り注ぎ、液体は四方八方に火花を散らしながら強い光を放ち続けた。

 

「しもべの肉…喜んで差し出されん。しもべはご主人さまを蘇らせん」

 

スネイプは短剣を取り出し、無数の汗を額に浮かばせながら刃先をゆっくりと左手にあてがった。

僕は何が起こるのかを察して思わず目を閉じる。

そして、肉が切り落とされる嫌な音と、死喰い人達の感嘆と興奮の声が墓場に木霊した。

だがスネイプは自分の腕を切り落としたにも関わらず、悲鳴一つ上げずに作業を続けているようだった。

 

「羨ましい…。俺もあの役目を志願したがご主人様に断られた。スネイプの方が魔法薬の調合に長けている。お前にはもっと大事な役目を与えるとご主人様はおっしゃった。だが…羨ましい。俺もご主人様の体の一部になりたかった…」

 

クラウチjrの言葉をこれ以上聞きたくなかった。

ヴォルデモートの一部になるなんて想像しただけで吐き気がするのに、この男はそれを望むんだ。

理解できない、理解したくない。

 

「敵の血、力づくで奪われん…汝は…敵を蘇らせん…」

 

足を引きづりながらスネイプが近づいてくるのが音で分かった。

次の瞬間、僕の腕には鋭利な刃物が刺さり血が噴き出した。

スネイプは乱暴に僕の腕を取って滴り落ちる血を液体に注ぎ込んでいるようだ。

我慢できずに目を開くと、全ての作業を終えて荒い息を漏らしながらうずくまるスネイプに一人の死喰い人が駆け寄り、杖を振って血を止めるのが見えた。

その時、僕は不覚にも安堵してしまった。

スネイプはもう憎い敵なのに、これ以上腕の状態が悪化することはないと喜んでしまったのだ。

どうも彼を本気で憎むことが出来ない。

奴は僕やダンブルドアを裏切った許せない奴なのに、何故だろう…?

 

大鍋からゆっくりと白い蒸気が立ち上り、周囲はもやに覆いつくされて何も見えなくなった。

数十秒か、それとも数時間か。

永遠にも思える様な無言の時間が過ぎたあと、何かが立ち上がるような音がした。

 

「俺様にローブを着せろ。…ルシウス、お前ではない。ドラコにやらせろ」

 

スネイプに止血を施した男が立ち上がるのを、ヴォルデモートが静かに制した。

ルシウスの名が出たことにも驚いたが、ヴォルデモートの言葉に従って死喰い人の列から歩み出た小柄な陰に僕は目を見開いた。

月明かりに照らされ、普段より青白い顔をしたドラコ・マルフォイの姿が見える。

アイツもここに来ていたのか…。

マルフォイはこんな恐ろしいことは早く終わってほしいという顔で父親からローブを受け取り、慎重にヴォルデモートに被せた。

 

「ご苦労だ。ドラコ」

 

黒いローブを頭から被ったヴォルデモートは軽く手足を動かして調子を確かめ始めた。

骸骨のような白い顔にうっすらと笑みが浮かんだところを見ると、満足いく結果が出たらしい。

すぐさま死喰い人が群がって次々と賛辞の言葉を述べていく。

 

「おめでとうございます我が君…」

 

「この場に立ち会えたこと、何よりも光栄に存じます…」

 

「…俺様が死んだと誰もが思っていた時、誰も俺様を探そうとしなかった。そして、復活した途端媚びを売るか。変わらぬ奴らだ」

 

意外なことに、ヴォルデモートは死喰い人達に呆れと嫌悪が混じったような言葉を吐きかけた。

そして、身を竦めた死喰い人の群れから一人を前に立たせて「磔の呪文」をかけてみせた。

見せしめのつもりなのだろう。

その効果はあったようで、苦痛の悲鳴を上げながらのたうち回る死喰い人を周囲の者達は恐れおののきながら見つめている。

自分の腰巾着の父親が痛めつけられる様を見たマルフォイも、少し腰が引けているようだった。

クラウチjrだけは最高の瞬間を見たと言わんばかりに忍び笑いを漏らしていたが…。

 

「…その苦しみは貴様らへの俺様の怒りだ。ゴイルよ。そして俺様の危機に馳せ参じなかった者どもよ。しかと覚えておけ…。ふむ。魔法の調子も良い。俺様は本当にあの頃の力を…」

 

「お、お許し下さい…我が君…」

 

ゴイルがゼイゼイと荒い息を吐きながら許しを請うのを、ヴォルデモートは冷めた目で見つめた。

 

「俺様は今も貴様らが魔法省に迎合したことに強い怒りを抱いている。だが、今後の働き次第では俺様の怒りも消えるかもしれん」

 

「はい…誠心誠意、我が君の理想の世界の為に尽くさせていただきます…」

 

ゴイルの言葉に、自分もそうですと何人もの死喰い人達が平服していく。

僕はその光景を見ながら、深い絶望に全身の力が抜けるのを感じていた。

ヴォルデモートはついに復活して全盛期の力を取り戻してしまった。

魔法省も死喰い人の別動隊に攻撃されている。

僕らの日常は…魔法界は終わってしまうのか…。




・12/3 文章を一部修正しました。

・12/3 誤字報告ありがとうございます。修正しました。

・以前は「クラウチ・ジュニア」と表記していましたが、これから台詞以外の場面では「クラウチjr」と表記します。
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