【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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※今回は全編マルフォイ視点でお送り致します。


第56話 スネイプの腕

『マルフォイ視点』

 

 

ヴォルデモートが指揮者のように手を横に動かす。

それだけで死喰い人達の声がピタリとやみ、場は静まり返った。

彼の首元に巻き付いていた蛇が草むらに隠れていく小さな音さえ聞き取れるほどに。

 

「クラウチよ、我らが若き友人を離してやれ。ドラコはポッター…いや、ハリーに杖を返して差し上げろ」

 

ヴォルデモートの指示を聞いた僕はチャンスを得た喜びに肩を震わせた。

命令通り荷物の中から杖を見つけ、拘束を解かれたポッターに差し出す。

その時にポッターの服の胸ポケットにある道具を滑りこませた。

僕の体が盾になっているので、今の行為はヴォルデモートから見えないはず。

…これで、僕の役割は果たされた。

 

僕が父上の傍に戻るのと入れ替わるようにヴォルデモートがポッターの前に立った。

嗜虐的な笑みを浮かべる彼の姿は恐ろしいものだった。

 

「我らは互いに杖を持ち、対等な立場になったというわけだ。さあよく見ておけお前たち…。ハリーが俺様の手を逃れたのは周囲に恵まれていたからに過ぎない。ここにはダンブルドアの助けも、守りの呪文をかける母親も居ない。ハリーよ、チャンスをやろう。戦うことを許す。決闘の流儀だ…。まずは互いにお辞儀するのだ」

 

ヴォルデモートはポッターと決闘して勝利することで自分の力を誇示するつもりのようだ。

ポッターは歯を食いしばってお辞儀を拒否したが、魔法で無理やり背骨を丸められた。

周囲を取り囲む死喰い人達から笑い声が漏れる。

 

決闘の体裁は整った。

ヴォルデモートは決して手加減せず、ポッターをいたぶろうとするだろう。

僕はこれから起こるであろう残酷な光景を想像して息を呑んだ。

 

「さあ…決闘だ」

 

戦いはあまりに一方的だった。

ヴォルデモートはいきなり磔の呪文を放ち、ポッターに大きなダメージを与えた。

嫌いな奴とはいえ、人間が目の前で拷問されるというあまりに凄惨な光景に目を逸らしたくなる。

 

「ここらで一休みといこう。…苦しいだろうハリー。もう二度としてほしくないだろう?ハリーよ、俺様は答えを聞いているのだ。助けてほしいか?」

 

痛みに体を丸めながらも無言を貫くポッター。

業を煮やしたヴォルデモートは服従の呪文を放ったが、ポッターは大声で拒否の意を示した。

死喰い人達からどよめきが走る。

プライドを傷つけられたヴォルデモートは怒りの表情で杖を振りあげる。

ポッターも杖を抜いたが、一瞬遅かった。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

目もくらむような緑色の閃光が走り、次の瞬間にはポッターが地べたに倒れ伏した。

決着がついたことを悟った死喰い人達が歓声を上げる。

僕も周囲から怪しまれないようにヴォルデモートの勝利を喜ぶような表情を作った。

 

逃げようとしたり、命乞いをすることもなく、ポッターはヴォルデモートと戦う道を選んだ。

僕だったらあそこまで毅然とした態度がとれただろうか。

磔の呪文で身も心もズタボロにされた状況で服従の呪文に逆らうことができただろうか。

そう考えると、少し嫉妬心を感じてしまう。

ハクドウシとポッター…超えたい相手が二人も居るのは僕にとって良いことなのだろうか。

 

 

僕の考えをよそに、ヴォルデモートは死喰い人達の賞賛を浴びながら高笑いしていた。

 

「俺様は勝利した。ハリー・ポッターは偉大なるヴォルデモート卿の前に敗れ去ったのだ!」

 

「ご主人様、お見事です…」

 

「闇の帝王を倒した英雄…ハリー・ポッターの死を知れば多くの魔法使いが絶望するであろう。だが、まだあの男が残っている。魔法界が俺様にひれ伏したわけではない。俺様にとっての本当の戦いはこれから始まる…の、だ……」

 

陶酔しきったヴォルデモートの言葉が突然止まった。

胸を押さて苦しげな声をあげ、全身を震わせながら膝をついた。

主の窮地にクラウチjrが慌てて駆け寄る。

 

「ご主人様!一体何が起こったのです?」

 

「スネイプ……き、貴様か…。あの魔法薬に…何を…」

 

ヴォルデモートは荒い息を吐きながらスネイプ先生を睨みつけた。

それだけで意味を悟ったのか、クラウチjrが罵りの言葉を吐きながら死の呪文を放とうとする。

 

「この裏切り者が…アバダ」

 

「エクスペリアアームズ(武器よ去れ)」

 

思っていたよりも落ち着いた声が出た。

僕は自分で思っていた以上に本番に強いタイプなのかもしれない。

武装解除呪文をまともに受け、クラウチjrは墓石にぶつかって意識を失ったように倒れた。彼の杖がクルクルと宙を舞って僕の手に収まる。

続けざまにヴォルデモートにも呪文をかけて杖を奪い取る。

普段なら僕が勝てるはずのない相手だが、弱りきっている今ならば可能だった。

あのヴォルデモートを出し抜いたという喜びと、ついにやってしまったという恐怖が胸を満たす。

もう後戻り出来なくなってしまった。

でも、これでハクドウシやポッターと並びたてる男になれたと思うと、清々しくもあった。

 

「ドラコ…お前、何をしている?」

 

父上は僕の行為が信じられないようで、呆然とした表情を浮かべている。

本当はもっと早くに僕の気持ちを伝えて今後のことを話し合いたかった。

でも、今のマルフォイ邸は死喰い人の巣窟となっしまっている。

怪しげなそぶりを見せればヴォルデモートに報告されると思い、今日まで相談できなかったのだ。

 

裏切り者だと判断した僕に死喰い人は容赦なく攻撃をしかけてきた。

誰かが放った磔の呪文を何とか回避し、お返しに麻痺呪文を放とうとする。

その時、僕の前に父上が立ちふさがった。

 

「やめてくれ!私の息子だ!攻撃するな!」

 

彼らを説得しようとしたのだろうが、死喰い人の攻撃は止まらない。

このままでは父上が殺されてしまう…!

 

「ステューピファイ(麻痺せよ) …見事な武装解除呪文じゃったな。ミスターマルフォイ」

 

僕らを攻撃しようとした男が地面に倒れ伏した。

アルバス・ダンブルドアの声は授業で正解を答えた生徒を褒めるように穏やかなものだった。

彼のことは余り好きではなかったけど、僕は彼の声を聴いて安心していた。

やはりこの人は僕らの学校の校長なんだと実感する。

 

姿現しの軽い音が聞こえ、見覚えのある魔法使い達が登場した。

マクゴナガルを初めとする教師陣に、ルーピンと、脱獄囚であるシリウス・ブラックまでいる。

ブラックがポッターの名付け親で無実だということはハクドウシから既に聞いている。

彼らが到着したということは魔法省の戦いがひと段落したということらしい。

あっちにはムーディやキングスリーといった精鋭も要るし、安心して良いだろう。

…おっと、のんきに考察してる場合じゃないな。

 

「父上。ここは彼らに任せよう」

 

失った腕を抑えて荒い息を吐いているスネイプ先生を浮遊呪文で浮かせ、近くの墓石の裏に運ぶ。

僕の役目は終わったことだし、ここに隠れて戦いが終わるのを待つのが一番だ。

父上は少し葛藤していたが、僕についてきてくれた。

 

「ドラコ、一体何を考えているんだ」

 

「…僕はヴォルデモートがしようとすることに賛成できない。今はダンブルドアの側についた方が得だ」

 

「馬鹿な…セブルス!貴様だな!?貴様が息子に妙な思想を吹き込んで…」

 

スネイプ先生に掴みかかろうとする父上を慌てて止める。

 

「やめてくれ父上!…僕は別に、ダンブルドアが100%正義だと思ってるわけじゃない。でも、ヴォルデモートについていっても結局は恐怖で支配されるだけだ。それに、ワールドカップの時のようにマグルをいたぶって殺すことも、僕は賛成できない。あの時の父上を見て、嫌な気分になったんだ。別にマグルを庇うわけじゃない。僕は父さんに酷いことをしてほしくないだけなんだ」

 

「ドラコ…お前は…」

 

父上は何かを言おうと口を動かしかけたが、黙り込んだ。

 

「もうすぐヴォルデモートは敗れ去る。僕らはスパイとしてヴォルデモートの側に送り込まれたということにすれば、マルフォイ家の立場が悪くなることもないと思う。だから、父上…」

 

父上はもうヴォルデモートの側には戻れないと悟ったのか、渋りながらも納得してくれた。

 

「…ドラコ、お前がそこまで考えるようになったとはな…。大きくなったものだ」

 

優しい目で頭を撫でてくれる父上に、涙が出そうになった。

 

 

 

「ダン…ブルドア…か…」

 

「久しいのう、トム。…変わり果てたものじゃ」

 

教師陣と死喰い人の激しい戦いが起こる中、この場所だけはとても静かだった。

口を開くのもやっとというヴォルデモートを、ダンブルドアはどこか悲しそうな目で見ていた。

 

「図られたと…いうことか…。俺様の体が……スネイプが…何故…俺様に…」

 

「セブルスがお主に抱いている感情を理解できなかったのは致命的じゃったのう。お主はいつも足元を見ない。それが敗北を招くのじゃ」

 

ダンブルドアは自らの計画を話し始めた。

 

ダンブルドアは、ヴォルデモートがかつての力を取り戻す為に古くから伝わる特殊な魔法薬を使うだろうと考えた。

他にも復活の手段はあるが、ロマンチストなヴォルデモートならば宿敵の力の一部をもって復活を果たそうとすると予想したらしい。

 

ダンブルドアは元死喰い人であるスネイプ先生をヴォルデモートの元に向かわせた。

だが、信頼を得るのは容易では無かった。

ヴォルデモートはスネイプ先生の忠誠心を試す為に、アズカバンに囚われた2人の死喰い人を脱獄させるよう命令を出した。

失敗すればそれまで、成功すれば忠実な下僕が増えるのでヴォルデモートにとっては損がない。

スネイプ先生は自らが囮となって吸魂鬼を引き寄せ、その隙にクラウチjr達を逃がしたらしい。

彼らを逃がしたのは父上じゃないかと疑っていた僕は真実を知って秘かに安堵した。

 

ヴォルデモートは試練をこなしたスネイプ先生を信頼し、魔法薬を作る役目を彼に託した。

それが自らに破滅をもたらすとも知らずに…。

スネイプ先生は主に強い反意と憎しみを抱き、ある女性への強い愛を今も貫いている。

主への反意と他者への強い愛情は、ヴォルデモートにとって毒でしかない。

一時的に力を取り戻すことができても、時がくれば滅び去る砂上の楼閣でしかなかったのだ。

ちなみに、本来ならば相応しくない従者の体の一部を素材に作られた魔法薬は失敗するのだが、様々な薬を混ぜ合わせて強引に成立させたらしい。

魔法界でもトップクラスの魔法薬の知識を持つスネイプ先生でなければ出来ないやり方だ。

 

 

 

この話を聞いた僕と父上は驚いて顔を見合わせた。

失礼かもしれないが、あのスネイプ先生が誰かを一途に愛する姿など想像できなかったからだ。

遠くでポッターについているブラックも「あのスニベルスが…?」と呟いていた。

 

「愛…だと…?…馬鹿な」

 

「そうじゃ。…お主も仲間達から愛されておったじゃろうに、それを否定してしまったのは悲しいことじゃの」

 

2人の会話の間に周囲の戦いは終幕を迎えようとしていた。

既に半数の死喰い人は失神させられ、投降する者も出始めていた。

彼らの大半はヴォルデモートへの恐怖心から従っているだけで、忠誠を誓っているのは極少数だ。

そして、忠臣の一人であるクラウチjrは僕が杖を没収して無力化してある。

一方の教師陣は平和を取り戻すという強い意思の元に戦いに臨んでいる。

両者の戦意の差を考えればこの結果は当然だろう。

 

そして、戦場にもう一つの変化が起きた。

死の呪文を受けて息絶えた筈のポッターが目を覚まし、ゆっくりと体を起こしたのだ。

彼の傍で戦っていたブラックは歓喜の涙を流しながらポッターを強く抱きしめた。

 

「ハリー・ポッターが…。何故だ…俺様の死の呪文は確かに…」

 

幽霊を見たような顔で驚くヴォルデモートの姿はどこか滑稽なものだった。

落ち着いた口調で真相を明かすダンブルドア。

 

「蘇りの石の力じゃよ、トム。ミスターマルフォイに託しておいたのじゃ」

 

その瞬間、ヴォルデモートから睨まれたような気がして僕はすくみ上った。

余計な事を言うなとダンブルドアに心の中で毒を吐く。

 

透明マント、ニワトコの杖と並ぶ伝説のアイテム…それが蘇りの石だ。

童話の世界にだけ存在するものだと思っていたので、実在すると知った時はとても驚いた。

ハクドウシから事情を聴いた僕は、グリーングラス氏を通してダンブルドアに連絡をとって協力したいという旨を伝えた。

正義感も少しはあったが、何よりマグルをいたぶって笑う父上の姿を見たくなかったからだ。

ダンブルドアは、マルフォイ家の子である僕を何故かすんなりと信用した。

そして、彼は僕に蘇りの石を託し、誰にも気づかれぬようにポッターに渡せと言ったのだ。

僕の使命を知っているのは他には闇払いのリーダーのキングスリーだけだ。

こんな重要なアイテムを僕が預かっているのは凄いプレッシャーだった。

いつヴォルデモートに気づかれるかと思うと生きた心地がしなかったが、何とか目的を遂げることができた。

何故ポッターが死ぬ必要があったのか気になったが、そこまでは話してくれなかった。

 

 

 

 

「これで終わりです!ステューピファイ(麻痺せよ)」

 

必死の抵抗を続けていたカロー兄妹もマクゴナガルの手によって失神し、とうとう全ての死喰い人が無力化された。

ただ、獣の皮を被ったナラクという男が一切の抵抗をせずに捕まったのが少し気になった。

危険人物揃いの死喰い人の中でもあの男だけは群を抜いて異常な感じがした。

もう何も出来ないだろうと思いたいけど、油断してはいけない気がする。

 

もはや死を待つだけのヴォルデモートの周囲を教師陣が油断なく取り囲む。

ポッターもブラックの肩を借りながら立ち上がり、宿敵の最期を見届けようとしている。

彼らを代表するようにダンブルドアが一歩前に出た。

 

「トムよ…ここまでのようじゃな」

 

「見事だ…。だが……俺様を殺すことは…出来ん。例え貴様でもな…」

 

「まさか…。この状況を覆す秘策があるというのですか?」

 

マクゴナガルの問いに不敵な笑みを返すヴォルデモート。

ただの虚勢では無い。

自分は死なないという絶対の自信と策があるような笑い方だ。

教師陣の間に微かな不安と動揺が走り、僕もまた嫌な考えが頭に浮かんでいた。

もしも奴に逃げられるようなことがあれば、マルフォイ家は必ず復讐の対象となるだろう。

そうなれば僕らは終わりだ…。

 

最悪の事態を想像したその時、突如近くの草むらから恐ろしい悲鳴が響き渡った。

そして、僕らの前にヴォルデモートがいつも傍に従えていた蛇の死体が投げこまれる。

蛇の首元には鋭利な牙で貫かれたような跡があり、何らかの生物によって噛み殺されたということが分かる。

 

「…馬鹿な、ナギニが…」

 

ヴォルデモートの顔からはさっきまでの不敵な笑みは消え去って焦りと驚きが広がっていた。

愛しいペットを失ったというだけではあんな顔はしない。

その表情には、自分の策が打ち破られた者がするような屈辱と絶望の色が浮かんでいた。

 

誰もが突然の事態に困惑する中でダンブルドアだけが静かな笑みを浮かべていた。

やがて、草むらをかき分けて東洋の服を来た一人の男が現れた。

 

「ナギニというのか。良い名だな。…悪いが、ナギニにはこの舞台から退場して貰ったよ」

 

幼さを感じさせる偉そうな声に、ヴォルデモートは呆然と言葉を返した。

 

「貴様は…一体…」

 

「お前がヴォルデモート卿か。始めまして…いや、一度会っていたか?我が名はハクドウシ。貴様の敵だ」

 

そこに立っていたのは、僕の親友のハクドウシ・ヒトミだった。




・12/10 文章を一部修正しました。

・12/11 誤字報告ありがとうございます。修正しました。


※この作品では既にダンブルドアは分霊箱のことを知っています。
何らかの手段でスラグホーンから分霊箱のことを聞き出していたのでしょうね
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