汽車は速度を落とし始めた。
「もうすぐホグワーツに到着します。
荷物は部屋に届けておきますので、座席に置いたままで大丈夫です。」
どこからか、放送が車内に流れ始める。
厨子を置いて行っていいのか一瞬迷ったが、結局アナウンスに従って置いていく事にした。
3人で外に出ると、以前ダイアゴン横丁で見た大男が声を張り上げているのが見えた。
「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」
大男が先導する方についていく。
険しくて狭い道なので皆無言だった。
やがて道が急に開けると大きな黒い湖が見え、歓声が上がった。
生徒達は4人ずつボートに乗ることになった。
わしとグレンジャーとロングボトム、そして金髪の中々美しい顔をした小娘だった。
ロングボトムはヒキガエルの事を引きづっているのか元気がない。
「こんばんは皆さん。私はダフネ・グリーングラスと申します」
小娘が名乗ったのでわしらも名乗り返す。
「やっとホグワーツに到着ですわね…。
半日近く汽車に乗っていたので少し疲れてしまいましたわ。
その上今度はボートだなんて、この学校は余程乗り物が好きなようですわね」
肩がこったという仕草をしながらグリーングラスはぼやく。
「その上道は狭くて険しいし…毎年こうなのかしら。これでは疲れてしまいますわ」
どうも愚痴が多い小娘だ。
彼女の話を聞いていると、ボートの隅に動くものを見つけた。
反射的にそれを捕まえると何やら湿った生物の感触。
これはまさか…。
「トレバー!」
ロングボトムが嬉しそうに叫ぶ。
わしからトレバーを受け取り、よほど嬉しいのかトレバーに頬ずりまでしている。
…手が汚れたではないか。
カエルとの再会を喜ぶよりも、まずわしに謝れ。
苛立ちながらロングボトムを睨みつける。
一方、グリーングラスは今の光景にかなり引いていた。
カエルに頬ずりする男を見たのは初めてなのだろう。
ボートが向こう岸に着くと、大男の先導の元で再び歩き出した。
「…まだ歩くんですの?」
グリーングラスが嫌そうな顔をした。
生前は自分の足で歩く事は少なかったので、少し新鮮な気分だ。
ある程度体力作りはしておいたのでこの程度ではまだ疲れん。
城に辿り着き、樫の木で出来た巨大な扉の前に集まる。
扉が開くと、背の高い厳格そうな黒髪の魔女が現れる。
ここから先はこの女が先導するようだ。
広い玄関ホールを通り過ぎ、小さな空き部屋に案内された。
女はマクゴナガルと名乗った。
入学の祝辞と4つの寮の説明をした後、身なりを整えて待ってろと言い残して去っていった。
事務的な態度の女だが、言葉の節々に少しだけ温かみが感じられた。
隣でグリーングラスが私は大丈夫ですわよね、と聞いてきたので適当に頷いてやった。
彼女はその後も手鏡を出して髪型などをチェックしていた。
やがてマクゴナガルが戻ってきて、わしらは大きなホールに案内された。
美しい星空を感心して眺めていると
「あれは魔法で映しているのよ。ホグワーツの歴史に書いてあったわ」
とグレンジャーが聞きもしないのに解説した。
何百という視線を浴びながら一列になり歩き出し、小汚い帽子の前に立たされる。
…なんだこれは?
この汚い帽子で何をしてくれるんだ?
疑問に感じていると、帽子が突然歌い出した。
被れば入る寮を決めてあげるよ、といった旨の歌を歌い終えると帽子は静かになった。
「…組分けはあの帽子を被るだけなのか」
「私はお父様から聞いて知っていましたわよ、貴方、もしかしてマグル生まれかしら?」
グリーングラスが馬鹿にするような笑い方をしたが、わしは何も答えなかった。
どうやら、魔法使いはどこの生まれかと言うのを気にする性分らしい。
マグルの血があろうとなかろうと、同じ魔法使いという枠組みの一つだろうに。
いや、魔法使いだろうが何だろうが所詮は脆弱な人間に過ぎないのだ。
そこまで考えて、わしも今は人間に過ぎないことを思い出す。
…いかんな、早めに意識を切り替えなければ。
わしは区分としてはマグル生まれとなるのだろうか?
奈落は鬼蜘蛛とかいう卑しい人間だったが、妖怪たちを取り込んで半妖となった。
ならば今の奈落はどういう存在なのだ?
その奈落から生み出されたわしは?
…生まれ変わってから、奈落とは必要最低限の事しか話さなかったのが痛いな。
聞いておくべきだったかと後悔しかけるが、奈落に聞くのは気が進まん。
今度ふくろう便で神楽に聞いてみるか。
『アボット・ハンナ!』
考えに没頭している内に、組分けは始まっていた。
金髪をおさげにした小娘が視線を浴びながら恥ずかしそうに帽子の元へ走っていく。
帽子を被ると一瞬の沈黙の後
『ハッフルパフ!』
帽子は叫んだ。
アポットは拍手に迎えられながらハッフルパフのテーブルに着いた。
なるほど、簡単じゃないか。
そのあとも何人かの名前が呼ばれ、帽子が寮の名を叫ぶという事が繰り返された。
グレンジャーとグリーングラスの名も呼ばれた。
グレンジャーは本人の希望通りグリフィンドールに。
そして、グリーングラスはスリザリンに選ばれた。
嬉しそうにグリフィンドールに駆けていくグレンジャーとは対照的に、グリーングラスは当然だという表情で落ち着いて歩いて行った。
『ヒトミ・ハクドウシ!』
…ああ、わしの名か。
ゆっくりと帽子に歩を進め、今までの者たちがそうしたようにそれを被る。
(…ヒトミ・カグラの弟だね。君も彼女と同じく心の奥が読めん。警戒心が強い姉弟のようだ。)
帽子が脳内に話しかけてきた。
こいつの言葉から推測すると、奈落は神楽が入学する時もあの術をかけていたらしい。
…神楽が入学したという事は、奴は子供の姿で生まれ変わっていたという事か?
神楽の子供時代…想像がつかんな。
(君は目的の為なら眉一つ動かさず誰かを犠牲にする冷徹さを持っている。
だが、その一方で自分に付き従う者にはそれなりの扱いもしてきた。)
…当たっている。
長く生きているだけはあって大した観察眼をお持ちのようだ。
(ならば…君の寮は)
『スリザリン!』
スリザリンの寮から歓声が上がり、他の寮の女子生徒が残念そうな声をあげていた。
…何故残念そうなのだろう。
疑問を感じながらテーブルに向かい、グリーングラスの隣に座る。
「貴方もスリザリンですのね。
マグル生まれと言った事は訂正しますわ。これからよろしくお願いします」
…調子の良い女だ。
わしは少し呆れながらも、彼女の差し出した手を握り返した。
スリザリンだからマグル生まれでは無いと彼女は言ったが、それは間違いだ。
神楽から聞いたが、マグル生まれがスリザリンに組分けされることは十分ありえるらしい。
どうやらグリーングラスは組分けの仕組みを勘違いしているようだが、あえて訂正する必要もないので黙っていよう。
彼女はマグル生まれかそうでないかを気にする性格のようだ。
その割には得体のしれない存在であるわしやグレンジャーに気さくだったが、あれは新学期で浮かれていたからだろうか。
『ポッター・ハリー!』
組分けは順調に進む。
そして、ある名前が呼ばれた事で大広間は一瞬静まり返る。
ポッターは居心地が悪そうに視線の中を歩き、座席につき帽子を被る。
長い沈黙が流れる。
ポッターは何かブツブツ言っているようだが、遠くて聞こえない。
『グリフィンドール!』
やがて、帽子が叫び声をあげる。
グリフィンドールのテーブルからは歓声が上がり、他の寮からは失望の声が上がる。
スリザリンのテーブルからは舌打ちや悪態が聞こえた。
「ハリー・ポッター…どれ程の男か、まぁ期待しておきましょうか」
グリーングラスが値踏みするように呟いた。
やがて、新入生全員の名が呼ばれ、それぞれの寮のテーブルへと座った。
ロングボトムと赤毛の小僧はグリフィンドールに配属された。
…あれほど嫌がっていたハッフルパフで無くて良かったな、ロングボトム。
そして、例の金髪の小僧はわしの寮に入ることになったようだ。
名前はドラコ・マルフォイとか呼ばれていたか。
マルフォイは嫌そうにわしを見つめ、わざとらしくため息をついた。
「…君と7年間同じ寮とはね。まったくゾッとするよ」
「ま、楽しくやろうじゃないか。お互いにな」
笑みを浮かべながら手を差し出すが、マルフォイは顔を背けて握手に応じなかった。
そのやり取りを隣でクスクス笑いながらグリーングラスが眺めている。
ふふふ、なかなか楽しめそうな奴らだな。
・8/21 誤字報告ありがとうございます。修正しました。
・9/1 文章をすこし修正しました。
・10/23 ご指摘ありがとうございます。文章を一部修正しました。
・2017/05/09 文章を修正しました。