組分けの後はダンブルドア校長の挨拶が始まったのだが…。
「そーれ、わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」
余りに奇妙なものだったので、呆気に取られてしまった。
世界一の魔法使いと聞いていたが少しズレた人物のようだ。
挨拶(アレがそう言えるのならだが)が終わると、空だった大皿が食物で満たされた。
…ま、今更この程度で驚きはしない。
グリーングラスとマルフォイが特に驚いていないのを見ると、よくある魔法なのだろう。
だが、食事の殆どが肉類な事には難儀した。
わしが居た頃の日本では主に魚や野菜が食べられていたので肉の味には慣れていないのだ。
仕方がないのでパンや肉類や野菜を小皿に取ってバランス良く食べ始める。
生徒達は一様に食欲旺盛で大皿の料理はどんどん減っていく。
昼食から時間が立っていたので腹が減っていたのだろう。
「そういえば、貴方、名前はなんとおっしゃったかしら?」
隣のグリーングラスが上品に口元を拭きながら訪ねてくる。
船の中で名乗っただろうに、と思いながらも素直に名乗る。
「わしの名はハクドウシ。ハクドウシ・ヒトミだ」
「何…!?ヒトミだと」
前の席に座るマルフォイが驚いた声をあげる。
その声には嫌悪感が混じっているように感じだ。
「知っているのか?」
「…いや、知らないな。下賤な成金の事など」
…成金か。
奈落はここではそういう扱いを受けているのか。
奴の魔法界での立場を詳しく聞こうかと思ったが、この様子では答えてくれそうに無いな。
だが、マルフォイの反応で疑問が一つ解消された。
家に飾ってあった美術品や彫刻…あれは褒められないやり方で手に入れたものなのだろう。
さぞかし嫉妬や憎しみを買っていることだろうな。
一方、ダフネは何かを思い出そうとするかのように首をかしげていた。
「ヒトミ…どこかで聞いたような。まぁいいですわ。貴方は東洋人ですのね?」
「そうだ」
「どうしてこの国の学校に?」
「さあな。父に聞かないと分からん。それよりも貴様らは魔法界に詳しいようだな」
どうしてこの国に居るのかはこっちが聞きたい。
自分の事を聞かれるのは都合が悪いので、少し無理やりだが話題をそらす。
「それはそうですわ。私、ダフネ・グリーングラスは聖28一族ですもの」
「なんだそれは?」
「あら、御存じないんですの?」
初めて聞く言葉に反射的に問い返すと、驚いた顔をしながらも説明してくれた。
聖28一族は間違いなく純血の血筋と認定された家系を意味しているらしい。
彼女はこの血筋がどれほど高貴で尊いものかを得意げに話していた。
選民思想という言葉を聞いたことがあるが、それにどっぷり浸かっているようだな。
「僕は純血の中でも特に格上であるマルフォイ家とブラック家の血を継いでいる。
本当なら君如きが気安い口を利ける男ではないんだ」
マルフォイがフレンチフライを皿に取りながら話に入ってくる。
隣に座っている血みどろのゴーストがお気に召さないのか、少し顔色が悪い。
「なるほどな。それは大したものだ」
皮肉な言い方だと思われないよう注意を払いつつ相槌をうつ。
その後もグリーングラスとマルフォイは純血一族の事を饒舌に話していた。
魔法界で生きてくためには必要な知識だ。
わしは媚びすぎ無いように注意しつつ彼らを気持ちよく喋らせ、知識を吸収していた。
「まぁ、こんなところだね。君は思ったより素直じゃないか」
大皿から料理が消えてデザートが現れる。
マルフォイはエクレアを皿に取りながら上機嫌に笑った。
腹も膨れたし、自分の持つ知識を思う存分話せたからだろう。
単純な男だ、と内心で笑う。
「貴方は中々話せますわね。私をダフネと呼び捨てにしても構いませんことよ」
上機嫌なのは彼女も同じのようだ。
グリーングラスという名は長いので有り難く呼び方を変える事にした。
「分かった。わしの事も白童子と呼んで良い」
マルフォイが何かを言おうとしたが、ダンブルドアが立ち上がったので口を閉じた。
彼はいくつかの業務連絡を述べると、最後に校歌を歌うよう皆を促した。
皆が大声で歌う中で、ダフネやマルフォイを含むスリザリン生の多くは口を閉じたままだった。
わしも皆で仲良くお歌を歌うなど御免なので黙り込んでいた。
…それにしても、妙な歌詞だ。
生徒達が校歌を歌い終えると、ダンブルドアは大きな拍手をして締めの挨拶を述べた。
「スリザリン生はこっちだ。ついて来い!」
スリザリンの上級生が声を張り上げて新入生を誘導している。
それに着いていこうと思って席を立つと、なにやら強い視線を感じた。
反射的に振り返ると、教職員のテーブルに居るダンブルドアと目が合った。
彼は真意の読めない目で見つめてきたが、すぐに笑顔になって手を振ってきた。
それを無視して静かに背を向ける。
だが…ダンブルドアめ。
わしに何かを感じたのか?
ただ偶然目が合っただけだと思いたいが、楽観もできないな。
上級生は新入生が集まったことを確認すると一列に並ばせて寮の方向に歩き出す。
階段を降り、廊下を歩き、時には彫刻や肖像画の裏を潜りながら進んでいく。
ダフネが小声で
「この学校はどれだけ歩かせれば気がすむのかしら。」
とぼやいた。
10分程歩き続けると、地下の細かい装飾がされた扉の前に辿り着いた。
「純血」
上級生が合言葉らしきものを唱えると扉は開いた。
中に入ると、そこは見る者に冷たい印象を与える地下牢のような空間だった。
「寮に入るには合言葉が必要だ。合言葉は他の寮の生徒に教えてはならない。
この学校では生徒が良い行いをすれば加点され、悪い行いをすれば減点される。
集められた点数は一年の終わりごとに発表され、スリザリンは6年連続でトップに立ってきた。
俺たちは…スリザリン生は他の寮の奴らとは違う。
魔法界の中でもより優れた存在なのだ!
それを心に刻み勉学に励むように」
上級生が短い演説を述べる。
彼の後ろにはねっとりとした髪をした鉤鼻の男が佇んでおり、無言で新入生を見渡している。
…あれがこの寮の寮監か。
その後も上級生(監督生という立場らしい)の話は続き、様々なルールを教えられた。
スリザリンは男子寮と女子寮に分かれており、一部屋に二人の生徒が入る仕組みらしい。
監督生は次々と部屋割りを決めていき、偶然にもマルフォイと同じ部屋になった。
「お休みなさい。良い夢を」
軽く手を振って女子寮に向かうダフネを見送り、自分の部屋に向かう。
マルフォイのような貴族も通っているからか、部屋はとても綺麗でよく整えられていた。
既に荷物が運ばれていたので厨子を出してベットの傍の机に置いて餌を与える。
「君と同室になるとは、全く嫌な偶然だ。…僕はまだ君に気を許したわけじゃない。だが、これから同じ部屋でやっていくんだ。せいぜい僕の迷惑にならないように頼むよ」
気取った口調で注意してくるマルフォイに
「お互いにな」
と返しベットに入る。
今日あった出来事を思い返していると、すぐに夢の世界へと旅立った。
・2017/05/09 文章を修正しました。