【完結】白童子のホグワーツ生活   作:妖怪もやし

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第8話 飛行訓練

土日は薙刀の練習に費やすつもりだったが、城の外で多くの生徒達が世間話やお茶会を始めていたので予定が崩れた。

こんな所で薙刀を振っていたら良い見世物になるだけだ。

薙刀の練習は別の日にすることに決めて、開いた時間は勉強をすることにした。

 

図書館の隅のテーブルで勉強に励んでいるとグレンジャーと出会った。

奴は良く図書館を利用しているようで、これまでも何度か姿を見かけている。

 

「貴様は勉学に長けているようだな。スネイプの問いの答えが全て分かっていたのには驚いたぞ」

 

わしが話しかけると、彼女は少し頬を赤らめながらも

 

「私って昔から勉強だけは得意なのよ」

 

と返した。

彼女の表情に少し影が差した事に気づいたが、それには触れず話を続ける。

 

「貴様はどういう方法で勉強をしているのだ?」

 

わしとグレンジャーは、司書に目を付けられないように小声で勉強の方法を教え合った。

この日から図書館で彼女と会う機会が増え、共に勉強する事もあった。

勉強熱心な彼女には良い刺激を受けることができた。

 

 

 

『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です』

 

この掲示を見た者の殆どが肩を落としていた。

魔法薬学といい、憎み合う二つの寮に同じ授業を受けさせるとは解せないな。

競い合わせて刺激を与えようという狙いでもあるのだろうか。

 

「ある日、マグルのヘリコプターが家の敷地内に迷い込んできてね。僕の方にフラフラと飛んできたんだ。でも僕は冷静だった。ヘリコプターの動きを読んでそれを華麗に避けて…」

 

木曜日の朝。

マルフォイが取り巻きに武勇伝を話しているのが聞こえた。

何度も同じ話を聞かされてうんざりしているだろうに、彼らは律儀に反応を返している。

ご苦労な事だ。

 

魔法使いの家系に生まれた者は箒に親しんでいる者が多い。

彼らは聞いてくれる者さえいれば自分の箒乗りとしての力量を嬉々として語っていた。

その代表例がマルフォイだ。

一方、ダフネは今日まで箒に乗った事が無いらしい。

 

「淑女には箒など似合いませんわ」

 

彼女はそう言っていた。

わしは彼らから少し離れた場所で食事をしていたが、こっちに気づいたマルフォイが絡んできた。

 

「ところでヒトミ、君は箒に乗れるのかい?…おっとすまない。聞いちゃいけない事だったかな」

 

マルフォイの取り巻きが下衆な笑みを浮かべながらこちらを見ている。

気に入らん奴らだ。

 

「さぁな。やってみなければわからん」

「そうかい。じゃあ精々期待させて貰うよ。君の見事な転びっぷりにね」

 

取り巻き達が一斉に笑い出したが、視線を向けるとそれだけで目を逸らして黙り込んだ。

人の後ろで誰かをあざ笑うしか能のない馬鹿共め。

マルフォイは小さく鼻を鳴らすと、グリフィンドールのテーブルに向かった。

そこでポッター達と悶着があったのを見ると、また煽りに行ったらしい。

暇な奴だ。

マルフォイは汽車での一件以来ポッターに良く絡んでいる。

わしはと言うと、入学してからポッターとは話していない。

接点も薄いし無理に話そうとも思わないからな。

 

 

 

午前の授業が終わり図書室に寄ってみると、グレンジャーを見かけた。

軽く声をかけると

 

「今は話しかけないで」

 

とピリピリした様子だった。

少し頭にきたが、彼女が手にしている『クィディッチ今昔』を見て納得がいった。

大方、午後の飛行訓練の為にコツを仕入れようとしているのだろう。

彼女の邪魔をしないように遠くの席に座り、静かに読書を始めた。

 

 

 

 

午後3時半になり、飛行訓練が始まった。

せかせかとやって来たマダム・フーチは皆を箒の傍に立たせる。

 

「右手を箒の上に突き出して。そして、上がれ!と言う。さあ、始めなさい!」

 

他の生徒がそうしたように、その言葉を発する。

 

「上がれ」

 

箒はすぐに飛び上がって手の中に収まった。

ポッターやマルフォイも一度で成功させていた。

ダフネは3回目で箒が上がったが、ロングボトムの箒は最後までビクともしなかった。

 

マダム・フーチは生徒達の間を回って箒の握り方を注意していった。

わしやマルフォイも握り方を治されたので、ポッターと赤毛の小僧が嬉しそうにしている。

奴らも中々いい性格をしているようだな。

 

「きゃっ…。 こ、このっ…!」

 

 隣にいるダフネは手元で不規則に動く箒に困っているようだ。

 彼女の手を支え、耳元で『落ち着け。大丈夫だ』と囁く。

 ダフネ頬を赤らめながらも深呼吸してしっかりと箒を握りしめ、揺れは収まった。

 相手が淑女ぶってるダフネであることを思い出し、『急に体に触れてすまなかったな』と謝っておく。

 彼女は口元で何事かをモゴモゴと呟いた後、『構いませんわ。助けてくれて感謝します。』と、優雅ぶった口調で返礼した。

 少しぼうっとした目でわしを見ていることは誤魔化せてなかったが、気づかないふりをすることにする。

 

 

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。1、2の…」

 

余程緊張していたのだろう。

ロングボトムは教師が笛を吹く前に地面を蹴ってしまった。

彼は十メートル近くのところまで飛び上がった所で箒から手を放してしまい、真っ逆さまに地面に墜落した。

駆け寄ったマダム・フーチは

 

「手首が折れているわ」

 

と呟き、皆にそのままで居るように伝えるとロングボトムを医務室に連れて行った。

 

わしはその間、ただ一連の流れを見物していた。

10m近くの高さから落ちて腕一本の怪我とは、案外頑丈な奴だ。

 

「あれを見たかい?あの大まぬけの」

 

マルフォイやその取り巻きが騒ぎ始め、それにグリフィンドール生が反論する。

あれよあれよと言う間にスリザリン生とグリフィンドール生の言い争いが始まっていた。

わしは高みの見物を決め込んでいたが、ロングボトムが落ちた辺りの草むらに何かを見つけた。

拾ってみると白い煙が中に充満しているガラス玉だった。

ロングボトムの持ち物だろうか。

あの高さから落ちて壊れないとは頑丈な道具だ。

 

「それをこっちに渡してもらおう。ネビルのものだ」

 

近くに居たポッターがそれを咎めると、自然と周囲の視線が集中する。

 

「貴様の指図を受ける義理はないな。わしが後で返しておく」

「そんな事言って盗むつもりじゃないだろうな!」

 

赤毛の小僧が噛みつく。

このまま素直に返してもいいがそれは少し癪に障る。

さてどうしたものかと考えているとグレンジャーが割って入って来た。

 

「ちょっと、ロン! ハクドウシはそんな事しないわよ」

「へぇー! 知らなかった。君こいつに気があったのか!」

 

赤毛は不愉快そうに言い放つ。

一瞬顔を赤らめるグレンジャーだが、すぐに反論を始める。

それを見物していると

 

「返せって言っただろ!」

 

業を煮やしたのか、ポッターが強引にガラス玉を奪おうとしてきた。

わしは反射的に彼の腕を掴んで、そのまま投げ飛ばす。

ポッターは無様に地面に倒れ込むと呻き声をあげた。

毎日薙刀の練習をしていたからか、少しは生前の体の切れが戻ってきたようだな。

 

「あら、やりますわね」

 

一連の流れを傍観していたダフネが呟き、スリザリン生が歓声を上げる。

グリフィンドール生はバッシングの声を上げていた。

ポッターは赤毛の手を借りながら立ち上がりこちらを睨みつけてきたが、もう一度投げ飛ばされることを警戒したのか手は出してこない。

懸命な判断だが、先に手を出しておいて反撃されたら大人しくなるとは情けない奴だ。

 

「もう! 2人ともやめなさいったら!」

 

グレンジャーが怒りの声をあげる。

そろそろ先生も戻ってくるだろうし潮時だろう。

わしはポッターにゆっくりと近づき、ガラス玉を差し出してやる。

 

「受け取れポッター。投げ飛ばした詫びだ」

 

意図的に見下すような声を出すと、ポッターは悔しそうにガラス玉を受け取ろうとする。

それを横からかっさらう男が居た。

そう、我らがマルフォイだ。

 

「惨めだな、ポッター!そら、来れるものなら来てみろよ!」

 

マルフォイはガラス玉を持ったまま箒に乗るとそのまま飛び上がっていく。

自慢話をするだけあって見事な動きだ。

ポッターは箒に近づき、こちらを睨みつけるとグレンジャーの制止も無視して飛び上がっていく。

どうやらポッターから敵とみなされたようだな。

まぁ当然だが。

 

「全くもう!ハリーと言いマルフォイと言い、男の子って本当に子供なんだから!」

 

グレンジャーの言葉に全くだな、と返すと

 

「貴方もよ!」

 

と睨まれた。

心外だ。

わしはあいつらとは違う。

 

 

空中で軽い言い争いをしたあと、ポッターがマルフォイの元に真っ直ぐに突っ込んでいく。

マルフォイは危うく避けていたが、その表情は引きつっていた。

分が悪いと踏んだのか、マルフォイはガラス玉を放り投げて地上に降りて行った。

ポッターはガラス玉を追って十数メートル上空から凄まじい勢いで地面に急降下する。

そしてガラス玉を掴もうとしたその時

 

「インペディメンタ(妨害せよ)」

 

彼の体は衝撃を受けて吹き飛ばされていた。

ガラス玉に気を取られているポッターに、呪文をかけたのだ。

図書館で読んだ本に書いてあった妨害呪文…『インペディメンタ』。

対象を妨害して動きを一時停止させる呪文だが、思ったよりも効力が弱いようだ。

わしの技量不足だな…。

今の出来事を招いたことで周囲から視線が集まる。

グリフィンドール生からは敵意を、スリザリン生からは賞賛を感じた。

 

「くっ…」

 

ポッターは泥だらけになりながらヨロヨロと立ち上がると、厳しい瞳で睨みつけてきた。

その視線を受けながら、ポッターの右手にガラス玉が握られている事に気づいた。

やつは妨害呪文を受けて吹き飛ばされながらも、ガラス玉を見事掴んだ事になる。

大したものだ。

 

「ポッター!!」

 

聞きなれた声に振り返ると、マクゴナガルがせかせかとこちらに歩いてきた。

 

「違うんです、マルフォイとヒトミが…」

「ハリーは悪くないんです!」

 

グリフィンドール生の懸命の訴えも聞かずに、マクゴナガルはポッターを連れて去っていった。

グリフィンドールの生徒達はポッターが退学になるかもしれないと落ち込み始める。

対照的にスリザリン生は大喜びだった。

話した事も無い奴らが周りに集まり、馴れ馴れしく声をかけてくる。

 

「よくやった! マルフォイ! ヒトミ!」

「ポッターの奴ざまあないぜ!」

 

ポッターの退学は確実という空気の中で少し違和感を感じていた。

マクゴナガルの態度は、生徒を退学させようという雰囲気ではなかった。

言いつけを破った事で退学させるなら、マルフォイも連れていかれる筈。

それをしないという事は…。

 

「まさか…な」

 

一つの可能性に思い当たり、目を細める。

箒に乗って飛び回り、複数のボールで点を取り合う競技…『クィディッチ』の存在。

グリフィンドールのクィディッチ・チームのメンバーが一人足りないという噂を。

ポッターの箒の腕前。

魔法による攻撃を受けてもガラス玉を掴む事を可能とする反射神経。

これらの情報を集めると、導き出される結論は一つだった。

 

「どうしてハリーにあんな事をしたの?」

 

甲高い声に振り返ると、怒りを露わにしたグレンジャーがいた。

わしは肩を竦め、その答えを口にした。

 

「なに、ただの戯れだ」

 

 

 

 

その晩、スネイプから呼び出しを受けた。

罰則を受けるのかと憂鬱な気分でついていくと、スネイプは何故か競技場に向かった。

 

「飛行訓練の授業であった事は聞いている」

 

スネイプは箒を差し出すと、乗ってみろと促してみせた。

彼の真意を悟り、箒に跨って暫し飛行場を飛び回る。

あの一件の後、マダム・フーチの授業が再開されて箒の乗り方の基礎程度は習っていた。

ポッターやマルフォイ程では無いが、クラスの平均以上には飛ぶことが出来るようになっていた。

 

飛行場を飛び回りスネイプの前に着地すると、彼は及第点かと呟いた。

 

「急降下するポッターに妨害呪文を当てたそうだな。飛行技術も悪くない…。貴様にはビーターの素質があるかも知れんな」

「ビーターだと?わしにクィディッチをやれと言うのか?」

「そうだ。今のスリザリン・チームは2人の選手が7年生で、今年卒業してしまう。来年はシーカーとビーターの2つのポジションが開く事になる。貴様は来年ビーターに立候補しろ」

 

スネイプの言葉を聞き、黙り込んで考え始める。

面倒だという気持ちもあったが、ここで断れば罰則にもなりかねない。

結局、その場で結論は出せず、考えさせてくれと茶を濁してその場を去ることにした。

 

談話室に帰ると、マルフォイが取り巻きに自慢話をしていた。

何でもポッターを言葉巧みに誘導し、夜に外出するように仕向けたらしい。

…これは使えるな。

わしは荷物から久々に和服を取り出し、夜に備え始めるのであった。




・8/5 呪文を少し修正しました。

・2017/05/25 文章を修正しました。
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