[1]ノーゲーム・ノーライフの世界にチート転生者がきたようです 作:型破 優位
「おいまて。誰だ月壊したやつ」
開幕壊れた月に、佑馬が少し焦った様子で問いかける。佑馬には詳しい攻撃内容は分からなくとも、こちら側から攻撃があったことは分かったため、問いかける。
するとその手は、比較的低めの場所から上がった。
――例の地精種だ。
「地精種にはあの月を壊すことが可能デス。先程の負けがないよう、予め壊しておきマシタ」
「お、おう。そうか……」
この地精種。本格的にダメかもしれない。
ドラウヴニルはもう存在すら認識していないのか完全な無視を、森精種のニルヴァレン一家は嘲笑を浮かべている。いやまさか、開幕から月を壊してくるとは思わないだろう。
月を壊したことによりその破片が隕石として一瞬で盤上全体へと降り注ぎ、対応する間もなく全種族へと甚大な被害を出していく。そこに例の地精種が含まれているのが、なんとも言えないところだろう。
天翼種や
そして、異様な光景を見た。
森精種の被害ゼロ。地精種は先程の彼のみ。人類種にいたっては爆心地の近くにすらいない。機凱種は数が減ってはいるが、人類種の近くに全連結体が集まっている状態だった。
更に[ ]サイド。他の種類が甚大な被害を被っているのにも関わらず、人類種、獣人種、吸血種は完全な無傷。それぞれが隕石の落下地点二つの間に挟まるかのように固まっている。
佑馬はまたしても冷や汗をかくことになった。
佑馬サイドの人間があれを回避するのはまだ分かる。魔法や実際にリアルでの動きを観察しておけば、対処は出来るのだから。そして[ ]が月の破壊を察知することも理解はできる。だがどうやってその安置を割り出したのか。人類種を移動させるのは秒単位とはいえ時間がかかる。開始直後のそれを回避したということは、
しかも三種族分。寸分違わず。
佑馬がこの二十秒でそれをやれと言われたところで、百パーセント出来ないと
それを可能にしたということは、信じがたいことだが、こうなることを予め察知し、リクとシュヴィとのあの激闘を繰り広げながらも同時進行で計算していたということに――いや、もっと前からかもしれない。
佑馬は[ ]の本気をしっかりと見極めていたつもりだった。獣人種戦の時、それを確認したつもりだった。あの時の[ ]は間違いなく本気だった。だが最悪の可能性として、あの時のゲームの本気とこのゲームでの本気では、そもそものジャンルが違うという点だ。
あのゲーム単体で[ ]の本気を推し測ったこと。それが今後どのような影響を与えるのか想像もつかない。
「いや、参ったねこれは」
思わず呟いてしまった。それくらいには誤算だったということだ。だが佑馬は今、一人ではない。一時的とは言え、信頼に足るとは到底言えない人物たちではあるが、[ ]を倒すという意志を持った仲間がいる。そしてこの中で最優先で信じられる、ジブリール。
「どうかしましたか、佑馬?」
「いや、[ ]の力読み違えちゃったなーってさ。ちょっと自分のアホな行動を思い返してたところ」
「……アホかどうかは分かりませんが、その時最善だと思ったのなら良いのではありませんか?
「……そうだな。ありがとうジブリール」
「礼には及びませんよ」
ジブリールは本当に強くなった。それは力の強さではなく、頭脳面、駆け引き、精神面においてだ。未来など、見えるわけがない。見えて堪るものか。それは過去に未来を
「まあ主戦力は良い感じに残ってる。まだなんとかなるか」
「なんとかなるかと思いますよ」
なんとかなる、と言っても佑馬が動かせるのは佑馬自身のアバターのみ、ジブリールが動かせるもまたジブリール自身のアバターである。そもそも神霊種がいないのだから当たり前だ。その理由は簡単、あの[ ]相手に同時進行などしてられない。戦況把握に徹することに決めていたから。だがそれでもある程度前線に立たせて『反射は使わずやられない程度に、周りに合わせながら攻撃せよ』という命令のをしていたのだが、佑馬はそこで一つの指令書を投函。何故かエルキアまで後退させた。
先ほどまで前線にいたのにいきなり引いた指揮官に、若干名の視線が刺さる。だがその中でも約二名の視線が、佑馬へと強く突き刺さった。
現在前線を保っているのは森精種、地精種の二種族だ。巨人種や
機凱種で彼等の魔法を模倣することも可能だが、それに使用していざという時になったら使えないと困る、という訳で[ ]サイドは現在様子を窺っており、リクとシュヴィは常に何かをしているためにそちらに回す余裕はないのか、それともまたシュヴィの『感情』のインストールが終わってないのか、恐らく後者だろうが機凱種を動かそうとしない。
フィールは「動きが悪い犬っころですね~」と呟いているあたり、獣人種の活用を見出だしていないようだ。クラミーも顎に手を当てて考え込んでいる。後特筆すべきは、先ほど強く視線を突き刺してきた二人――シンクとドラウヴニルの雰囲気が同時に変わったことだろうか。
例え[ ]の本気を読み間違えたとしても、それはこの世界に来たときから付き合っていた佑馬に限る話。大戦時の英雄達は過去に痛い目を見ていることから、過剰評価過剰警戒上等と言ったところだ。つまり、佑馬が何かやるよりも任せた方が良い。
佑馬が前線にいた理由は前線を保つこと以外に、もう一つ。こっちが最重要な理由だ。則ち
次の瞬間、味方であるにも関わらず、佑馬サイドの森精種と地精種から全力の魔法が飛び交った。
◆◆◆
「……何やってんだあっちは」
「……内戦?」
一方の[ ]サイドはいきなり始まった佑馬サイドの内戦に少なくない困惑を見せている。罠なのかそれとも本当に揉めているのか、少なくとも
「でも、本気でやってるようにしか見えないよな」
「……間違い、なく……本気」
全力の
さっきから流れ弾で結構やられている。
一応巫女達が指示して離れているとはいえ、その火力は冗談でも笑えない。
「いづな、プラム、巫女さん。
「気は進まねえ、です。でも勝つためなら、がってん、です」
「まぁ、ゲームじゃなかったら首跳んでたことだけ承知しといてなぁ?」
「仕方ないことですけどぉ、ソラさん僕の扱い酷くないですかぁ?」
「それだけ優秀だってことだ。認めてるんだから喜んで働いてくれ」
「僕を顎で使ったことぉ、高くつきますからねぇ?」
そして[ ]サイドは、いづな、プラム、巫女という異色のコンビが、その内戦に足を踏み込もうとしていた。
頭使うぅ……