[1]ノーゲーム・ノーライフの世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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読み返せば読み返すほど初心の拙さ故に恥ずかしさが上回る作品ですが、完走までは頑張ります。
一応後半を読んで欲しいと言っていましたが、これ今読んだら後半でも十分お恥ずかしい……それでも書きますけどね!

というわけでお待たせしました。


交わる策略

 何かを実行するとき、何かを制限するとき、何事においても限度というものが存在する。その限度を超えると起きるのは、崩壊、自滅、そして破滅。

 しかし目の前の光景を見るに、その限度が無いのではないかと思ってしまう。シンク、ローニ共に投函の手を止めることは無く、寧ろ投函に魔法を行使してまでの正真正銘全力(・・)で潰しあっている。

 

 

「全力でやるのは良いけどちょっとは戦況を、特に[  ]の動きも見ててくれよ」

 

「はぁい。戦況を見て考えたのですがぁ、やっぱりあの男(・・・)を始末するのが最優先だという結論に至ったわけなのですよぉ——あ、ニーナその指示書は少し待ってください」

 

「は、はいな。では此方を入れますね」

 

 

 少し語弊があった。

 投函しているのはあくまでニーナであり、シンクは始めに座った場所から一切動くことはなく投函書を書いているだけ。これが二人のいつも通りだったのだろう。そこに違和感は全くない——ニーナの男としての尊厳も全くないのはご愛嬌だろう。

 シンクがこれならローニも全く同じ理由だろう。二人は信じたくないことだろうが、二人の思考回路は非常に似通っているのだ。

 そして佑馬はこの争いを止める気はない。

 この争いは全力ではやっているのだが、あくまでも誘い出しを目的としている。そして佑馬が止めるべきは、隙を晒して誘い出したと勘違いしてハメられる(・・・・・・・・・・・・・・・・)可能性。普通の獣人種や吸血種等が相手などであれば万が一にも遅れを取ることはない。

 

 だが相手はあの[  ]であり、その下にいるのは大戦時代の獣人種以上の力を内包した巫女、同等の力を持っているであろういづな。未だに様々な分野で伸び代があるステフ。そして何よりシンクとローニはその三人——特に巫女といづな——の存在や可能性を知らないことは問題だ。

 だがそんなことよりも危険視していることがある。全体的に見れば[  ]という脅威に次ぐ二番目の、局所的に見れば一番脅威になりうる存在。

 

 

「それにしても良く消えるよ。毎秒八時間というのは失敗だったな」

 

 

 佑馬の目は恐らくこの中の誰よりも異常を察知できる。それほど使いこなせているし、その自負もある。だが空の血を採取したプラムは、アヴァントヘイムの力を内包したアズリールをすら欺くことができる大戦時以上の力を発揮する。毎秒八時間が過ぎるその世界において、プラムの存在は脅威そのものだ。

 その隠密能力は、指令書込みとはいえ佑馬が張り付かなければ見失うほど。これだけの隠密能力があれば、あえて作った隙が本物の隙となって佑馬達を襲う。懐にまで入ってしまえば、獣人種に叶う生物(・・)はいないのだから。

 加えてプラムも[  ]に劣らない実力を持っている。その両者が今は手を取り合って挑んできているのだ。何度か見失いかけているということは、佑馬の能力が遥かに高いというだけであり、采配勝負は佑馬が一歩二歩遅れをとっていると言っても過言ではない。

 

 

「本当はこっちに構っている暇ないんだけどなぁ……」

 

 

 相手にとって一番の脅威となっている存在は戦況を一気に変えることが出来る機凱種、ではなく間違いなく佑馬だろう。佑馬という神出鬼没の個の勢力に対して抑止力となるのは機凱種のみ。機凱種はこのゲームのキーカードというのは共通認識のためそこでカードを使っているのはなんともやりにくい状態なのだ。

 そして佑馬自身も抑止力という自負はある。あるからこそ、佑馬にしか対応できない状況を作り上げられたいことに顔を歪ませている。

 

 

「ジブリール、悪いけどアズリールやラフィールと一緒に相手の機凱種を牽制してて欲しい。天撃の一発ぐらいは模倣されたとしても仕方ないけど、転移だけは絶対にダメだ」

 

「了解しました」

 

 

 そしてシンクとローニは絶賛潰し合い中で、地精種は存在が概念である故に不活性化している神霊種の核となる存在、『神髄』を起爆させる秘密兵器、『髄爆(ずいばく)』を。森精種は幻想種を自壊させ兵器にする霊壊術式、『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』を。お互いがお互いを完全に、いや他種族までも滅ぼすであろう兵器まで使おうとしている始末だ。

 リクとシュビィはまだ何か企んでいるため下手に仕事は与えられない。そうなると抑止力として使えるのは天翼種のみ、というよりも天翼種が一番妥当だろう。

 ジブリールは軽く頭を下げるとラフィールとアズリールのいる元へと向かい、その指示を伝える。天翼種は外部から確実に敵勢力を減らす役割を担っていたが、この際は仕方がない。

 

 天翼種が一瞬で定位置に着いたのを確認し、絶対に見失わないように細心の注意を払いながらも戦況の確認を行う。

 両者の戦力差、特に個人的な能力差は圧倒的に佑馬側に軍配が上がっている。ただそれだけだ。

 個人的な能力など優秀な戦術、機凱種の存在により一網打尽にされる。勿論個人的な能力が高いに越したことはないが、それも使い方によるというだけだ。

 

 特に前述の通り佑馬の能力は非常に強力で例え一人でも生命を含み何種族も相手に出来るものだが、機凱種に取られた場合敗色が濃厚となる。それに加えて機凱種という存在故に[  ]側の戦力が低いことが逆にネックとなる。総合戦力でいえば個人的な能力差等簡単にひっくり返されてしまうのだ。

 だから佑馬達は種の数で押すしかない。開幕総攻撃は[  ]に対しての宣戦布告というだけでなく、そうしないと勝てないからなのだ。

 

 恐らく、ここにいるほとんどの者がそれを感じている。だからそれを理解させられた三回戦目、お互いが奇策を使うようになるのは必然と言うべきだ。

 こちらの奇策は恐らく本気九割の森精種と地精種の全面戦争。あちらの奇策は獣人種と吸血種のたった二種族で佑馬を抑え込む。

 どちらも奇策として成り立っているが、両者完全に成功しているとはいえない。

 

 

「リク、シュビィ。上手く行けそうか?」

 

「完璧に、とは行かなそうだけどな」

 

「あのとき、よりは……上手く、行くよ?」

 

「ああ、そうだな。だから安心して追いかけっこしていてくれ」

 

「そいつは重畳だ」

 

 

 主語はない。だが三者三様理解が及んでいることは明白だった。

 森精種と地精種の戦争の被害は決して少なくはない。特に生物と定義される種族のほとんどは巻き込まれたら最後、再興不可能な程の甚大な被害を被ることとなる。

 そして実際ほとんどの種族が被害を被っている中、未だ人類種の被害はゼロ。完全に雲隠れしており、可視化できる状態でなければ味方ですらその位置を把握するのは不可能だと言いきれるほどに死角という死角を突いている。相手からしたら厄介極まりない。

 

 だが確実に崩れていく均衡状態。崩すなら自分のタイミングだ。

 さらさらと何かを指令書に書き込んでいく佑馬。佑馬としても確証はない。だが吸血種、獣人種がやれる撹乱は一つしかない。となれば、やることは一つだろう。

 非常に曖昧な指令書だが、与えられた能力自体はしっかりと評価している佑馬。その能力もゲームのNPCとなれば、もしかしたら自分よりも十全に扱ってくれるのかもしれない。

 

 本当なら明確に指令書を書いた方が良い。NPCがどこまで設定されているのか、どこまで力を扱えるのかが明確化されていないため、この指令は運が絡んでくる。だが明確な指令を出すよりはまだ期待値は高い。

 一旦静かに目を瞑る。

 崩すのは自分のタイミングとは言ったものの、そのタイミングは現在[  ]が握っている。いや、握らせている(・・・・・・)

 

 均衡状態を崩す。佑馬が行動に移す前に[  ]が、[  ]が行動に移すよりも前にシンクとロー二が行動に移している。行動を移し成功している者が主導権を握るこの戦いは、次が最後の主導権争いだ。

 ここで[  ]に勝てる未来が潰れる可能性だってある。

 その緊張を押しつぶす為に行った、一つの深呼吸。他の人にバレないよう最低限に行った動作だったが、どうやらそうもいかなかったようだ。

 隣にスっと近づく気配に、佑馬は閉じていた目を開ける。

 

 

「私に佑馬の考えていることは恥ずかしながら理解できません。しかし、それが正しいと佑馬が信じたのなら、私はどのような結果になったとしてもそれを受け入れます」

 

「……ありがとう」

 

 

 こういう時に隣に寄ってくれるのは非常に嬉しいし心強い。そういう人間臭いところが安心出来る。

 ジブリールの掛けてくれた言葉をしっかりと受け取った佑馬は、森精種と地精種の争いに近づいていく吸血種と獣人種を見据える。

 タイミングは一瞬。魔法を使えば誤差が生じていることは察知される。

 

 点滅する二つの種族と争いを続ける二つの種族。お互いが混じった瞬間に投函された指令書。

 その瞬間、盤面にはかつてない程の静寂が訪れた。




良いお年を

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