追憶
「はっ! でやぁーっ!」
春の陽気に包まれた野山に、威勢の良い少年の声が響く。
「くっ、やあっ! えいっ!」
父親と少年は、お互いに木刀を手に打ち合っていた。どうやら、剣の稽古のようだ。
蒼い髪に緑のハチマキが妙に似合う少年は、力任せに父親に木刀を繰り出す。だが、短めの茶髪をした精悍な顔つきの父親は口元に笑みを浮かべ、それらを苦も無く避ける。
「だーっ! う、うがっ・・・」
木刀を振りかぶられた少年の木刀が振り下ろされるのよりもはるかに速く、父親の突きが当たる。勢い余って蒼い髪の少年は仰向けに倒れた。
「どうしたアイク? ・・・もう終わりか?」
心配して、というよりは「こんな程度で終わっていいのか?」という口調を含めて、父は少年の名を呼ぶ。
案の定少年・・・アイクは立ち上がった。
「ぐ・・・はぁはぁ・・・やあーっ!」
その後もアイクは全力で木刀を振るが、全く攻撃が決まる様子はない。渾身の一撃も、あっさりと相手の木刀に受け止められてしまった。
そこへ、少女の声が遠くから聞こえてきた。
「お父さーん! お兄ちゃーん!」
2人が声がした方を向くと、父とよく似た髪色に淡い黄色の服を着た少女が、手を振りながら笑顔で走ってくるところだった。
父の表情がほころぶ。
「おお、ミスト・・・」
その瞬間に父が無防備になったのを、アイクは見逃さない。「もらった」と言わんばかりに、木刀を思い切り振りおろす。
「だぁーっ!!」
だが父の反応は早かった。瞬時に攻撃をかわし、その勢いを殺さぬまま無防備な息子の背中に、強烈な打撃をお見舞いする。
「うっ、ぐわぁあっ・・・」
アイクは大きく吹っ飛ばされ、気を失った。
「お兄ちゃん!? お兄ちゃーん!!」
妹ミストは心配そうに、兄に駆け寄った・・・
夢を、見ていた。
これはずっと前のことだ。
もう何年前のことだろう。あまりに昔のことでよく思い出せない・・・
ベッドの上・・・ほのかなぬくもりを感じる。そこにいるのは・・・
優しげな旋律が聞こえてくる。そう、これは俺がガキの頃よく聞かされた子守唄だ。
その子守唄を唄っているのは・・・
「・・・母さん・・・」
目の前に、アイクとよく似た蒼い髪の女性が現れる。ずっと昔、病気で死んでしまった、アイクとミストの母親。
母は、にっこりとほほ笑んだ・・・
額に何か冷たいものを感じて、アイクは目が覚めた。背中に感じた感触は布団ではなく、春の草花。
すぐに思い出した。父グレイルにいつものように剣の稽古を頼み、その最中に気絶したのだと。
夢の中で聞こえた母の子守唄の旋律が、春風に乗って聞こえてくる。
体を起こすと、額の冷たさの理由がわかった。水を含んだハンカチがずり落ちたからだ。
ハンカチを手にとってあたりを見渡すと、子守唄の旋律の出所もすぐに分かった。
すぐ近くでミストが花を摘みながら、鼻歌を歌っていたらしい。
「ミスト、その歌・・・」
「あ、お兄ちゃん。気が付いた?」
アイクの声に反応して、ミストは笑顔で振り返る。
その笑顔は、夢で見た母親の笑顔とあまりにもそっくりだった。
※基本的に後書きには、キャラクターやアイテムの紹介を書かせていただきます。
アイク:レンジャー
本作の主人公。蒼い髪に緑のハチマキ、赤いマントでおなじみ。現在17歳。右利き。
クリミア王国西部を拠点とする「グレイル傭兵団」団長のグレイルの息子。
将来は団長の座を継ぐ者として期待されているが、一部そのことに否定的な意見の団員もいる。
また、アイク自身はまだ正式な団員とはなっておらず、まだまだ見習いである。
基本的にぶっきらぼうだが、情熱的な面もある性格。曲がったことが大嫌いで、考え方も行動も全てにおいて真っ直ぐ。
父グレイルからは団長を継ぐ者として、日々厳しい稽古を受けさせられている。
それ以外にも読み書き計算に関しては、生活に不自由しない程度に身についている。
ただその一方で、目上の存在への対応の仕方(敬語など)はさっぱり分からない。
食べ物関連では、肉が好み。だがそれ以外のものも食べる。わりと大食いのようだ。
グレイル:勇者
アイクとミストの父親であり、「グレイル傭兵団」の団長その人。右利き・・・らしい。
リーダーシップ溢れる古強者で、戦場では巨大な戦斧を手に団員を優れた統率力で動かし、戦いを勝利に導く。
自身の戦闘能力もかなりのものであり、クリミアの並の将軍などよりもはるかに強いとの噂。
グレイル傭兵団はたった8人という少人数にも関わらず、近隣では名の知られた傭兵集団となっているのは、ひとえに彼の存在故とも言える。
傭兵団員を「血のつながりはなくとも家族である」と考えており、よく「誰も死ぬな」、「家族を悲しませたくなければ、生き延びろ」と言う。
圧倒的な物量で戦い、死をそれほど重く考えないことの多い一般的な傭兵団と比較すると、かなり変わった傭兵団であるともいえる。
過去に何らかの出来事があったようだが、決して口を割ることはない。
なお、彼がよく使っている戦斧は「ウルヴァン」と言うらしい。彼が自分で鍛え上げたもののようだ。