小鳥のさえずりで目が覚めた。
アイクは体を起こすと、大きく背伸びをして窓を開ける。春の暖かい日差しが入ってきた。
今日から、いよいよ傭兵団の仲間入りだ。
すぐにベッドから降り、身支度を整える。
青い服の上には簡素な皮の鎧を身に付け、少し前に17歳の誕生日で父からもらった赤いマントを羽織る。最後にハチマキを巻いて、準備は終わった。
「よし、いくか」
軽く鏡に映る自分を見てから、部屋を出る。
「あ、お兄ちゃんおはよ」
廊下でミストとすれ違った。水の入ったバケツと雑巾を持っている。部屋の掃除をするところなんだろう。
「おはよう。みんなはどうしてる?」
「もうみんな朝ごはん食べ終わって出撃の準備してるよ。お父さんとティアマトさんも下で待ってるみたいだからお兄ちゃんも早く」
「分かった、すぐに行く」
アイクはそう答えて、1階へ降りる階段へと向かった。
階段は、1階の食堂につながっている。ミストの言うとおり、そこには父グレイルと赤い髪のやや年かさの女がおり、何やら話をしていた。
階段からアイクが下りてきたのに気づき、赤髪の女がこちらを向く。
「おはよう、アイク。今日からあなたも、私たちの仲間入りね」
彼女の名はティアマト。グレイル傭兵団立ち上げの頃からここにいる古参で、今は傭兵団副長としてグレイルの補佐を務めている。
「ああ。よろしく頼む」
そう答えるアイクに、今度はグレイルがたしなめる。
「遅いぞ。他のやつはとっくに準備を始めている」
アイクが起きるのが遅かったのは、今日の初任務のことで興奮してなかなか寝付けなかったのもあった。
「すまない、次からは気を付ける。それで? 俺の任務は…」
「ティアマトの報告がまだ途中だ。お前は朝めしでも食いながら待ってろ」
そう言いながら目で示した方に、アイクの分の朝食がテーブルの上にぽつんと載っていた。
「わかった」
仕方なく、アイクは席に着く。食パン1枚と牛乳1杯だけという、この上なく簡素な食事だ。
グレイル傭兵団は、決して裕福な組織とは言えないレベルなのだ。団員自身も「貧乏傭兵団」を自称するほど。
それでも団員たちがこの仕事から逃げ出さないのは、やはり団長グレイルの高いカリスマありきと言ったところか。
アイクが食事を始めたのとほぼ同時に、ティアマトは報告を続ける。
「では、グレイル団長。依頼の話の続きですが…」
「確か、山賊退治のところだったな?」
「はい、近くのカリワ村からの依頼です。調べたところ、さほどの勢力ではなさそうですので、まず私と、オスカー、ボーレの兄弟で一当たりしてみようと思います」
それを聞き、グレイルは軽くアイクの方を見てから答える。
「だったら、アイクもその任務に加えよう。前の2つの依頼は、俺とシノン、ガトリー組でそれぞれ片付ける。ティアマト。アイクのことはお前に任せる。基本から鍛えてやってくれ」
「了解しました」
任務の話が付いたのとほぼ同時に、アイクも食事を終えていた。
「じゃあアイク。すぐに出発しましょう」
そう言って、ティアマトは玄関から出て行った。
「…よし。いよいよ初任務だ」
決意を新たに、アイクも玄関へ向かう。
「ティアマト副長。準備完了しました。副長の騎馬も連れてきましたよ」
緑の髪に緑の鎧を身に付けた糸目の男が、槍を片手に馬を2頭連れてやってきた。片方は栗毛、もう片方は白馬だ。
ティアマトは白馬の方の手綱を受け取る。
「そう、助かるわ。いつもながら手際がいいわね、オスカー」
「いえ、任務に行く前に準備を済ませるのは当然ですから」
しっかりした印象を与えるこの糸目の男の名はオスカー。ボーレの兄で、傭兵団の機動隊として活躍しているベテランの騎士だ。
「おれも準備いいっすよ」
そこへ、オスカーの弟のボーレも斧を担いで駆けつけてくる。
「あら、ボーレ。あなたにしては珍しいわね」
ティアマトに褒められて、やはり調子に乗るボーレ。
「へへっ、当然ですよ。なんたって今日からおれ、先パイなんすから。な、アイク!」
そう言いながら、アイクに肩を組んでくる。
「まあ…一応な」
とりあえずアイクは、そうとだけ答えておいた。
そんなやり取りの合間を見つけて、すでに馬に騎乗していたオスカーは、アイクに聞く。
「いよいよ初陣だね、アイク。緊張してるかい?」
「そうだな…どちらかというと昨日の晩の方が、緊張してたな。今は、割と落ち着いたというか…」
そう答えたアイクだったが、不自然に肩がこわばっているのを、オスカーは見逃さなかった。
鎧と同じくやはり緑色の兜をかぶりつつ、アイクの緊張を解かせる。
「少し肩の力を抜くといい。私たちも一緒なんだし」
「ああ、そうだな」
アイクが落ち着いたのを見て、ティアマトは団員たちの注意を引いた。
「さ、ボーレはオスカー、アイクは私の後ろに乗って。出発するわよ!」
「了解! ボーレ、しっかり捕まってろよ」
「おう兄貴!」
ボーレとアイクは、それぞれ馬に乗せてもらう。
「アイク、振り落とされないでね」
「わかった」
「目的地はカリワ村。オスカー、ちゃんとついてきてね」
「はい!」
カリワ村は、傭兵団の砦からそれほど離れていない場所にある。
岬の突端に作られた小さな村であり、付近の広大な山を利用しての自給自足の生活を営む、平和な村だった。
だがここ最近、「イカナウ山賊団」と名乗る山賊たちが村にやってくるようになって様子は一変。村人たちは恐怖に駆られることとなった。
山賊たちの要求は日々エスカレートしてゆき、とうとう村を治める領主館までもが山賊によって奪われてしまったという。
命からがら逃れることができた領主は、グレイル傭兵団に助けを求めた、というわけである。
傭兵団の4人は、カリワ村の近くの雑木林に身をかくし、様子をうかがっていた。
ティアマトはカリワ村の見取り図を開き、団員たちに作戦を伝える。
「ここがカリワ村。敵の数は大したことないけど…油断は禁物よ。北側にある領主館には『ザワナー』と名乗る山賊たちの幹部が居座ってるわ。ザワナーを倒して領主館を制圧し、この村を山賊たちから解放しましょう」
そう言ってティアマトは見取り図をたたむと、横からボーレが口をはさんだ。
「アイク、よく聞けよ。先パイのおれさまから、ありがた~い忠告だ。自分によっぽど自信がない限り、1人でいきがって前に出たりはしねぇことだ。必ず痛い目を見る」
それはボーレの体験談じゃないのか、とアイクは言おうとしたが、やめておいた。
続いてオスカーも声をかける。
「アイク、無理はしなくていい。危ない時はいつでも、私たちを頼ってくれ。敵の動きをよく見れば大丈夫。最初は、勉強するくらいの気持ちでね」
「ああ。オスカー、ボーレ、よろしく頼む」
「こちらこそ」
「ま、おれの戦いぶりを見てろって!」
そんな3人の注意を、ティアマトが引く。
「気を引き締めて、3人とも! どうやら、敵が気付いたみたいだわ!」
山賊たちがこちらに気付き、向こうも迎撃するかどうか相談しているようだ。傭兵団はいつでも戦えるよう、村の入り口付近ですでに武器を構えて攻撃態勢を取っている。
緊張するアイクに、ティアマトが話しかける。
「…アイク、戦う前に相手の武器をよく見ておくのよ。武器は、その相性によって有利か不利かが決まる。例えば私が使う『斧』は、『槍に強い』。その反面『剣』には弱いわ」
オスカーも手にした槍を示す。
「私の使う『槍』は『剣に強く』、『斧に弱い』。…そうなると残りは?」
そこまで言われれば、アイクもすぐに理解できていた。
「俺の『剣』は『斧に強く』、『槍に弱い』か…」
「そう、正解よ。相性がいい武器だと攻撃が当てやすいうえに威力も普段より少し強くなるけど、相性が悪いと相手の攻撃も避けにくいし普段より大きなダメージを受けてしまうわ。気をつけてね」
「ま、戦術の基本中の基本だ。よーく頭に叩き込んでおけよ」
ボーレがそう口をはさむ。アイクは言われたことをもう一度整理してみた。ボーレが担いでいる鉄の斧を見て。
「『剣は斧に強い』…俺はボーレに強い、と覚えておくか」
至極真面目にそういうアイクにボーレは肩を落とす。
「嫌な覚え方だなおい…」
もう一つ思い出したことがあったらしく、ティアマトはまた声をかけた。
「あ、そうそうそれから…近くに『民家』があったら訪ねるのを忘れないで。近くで戦いが起こっていることを住人に教えてあげるのもすごく大切なことよ。それに、住人たちは村を助けに来た私たちに協力的なはずよ」
「なるほど、戦場でやらんといけないことは戦いばかりじゃないんだな」
「そうね。あ、それと民家の訪問はなるべく早く済ませたほうがいいわ。いつ敵や第三勢力によって破壊されるか分かったものじゃないものね」
一方領主館の前では、山賊団の幹部のザワナーが部下からの報告を聞いていたところだった。
「なんだあ、どっかの軍の攻撃かあ? ケッ、おおかたくいっぱぐれた傭兵どもが村の連中にやとわれたんだろうよ。おい、野郎ども! 思う存分、いためつけてやれ! 連中が二度と逆らう気なんておこさねぇくらいにな!」
ザワナーの指示で、山賊たちは一斉に攻撃態勢を取る。斧や剣を手に、村中に待機をする。
ピリピリとした空気が張りつめた。これから、本物の「戦場」というものをアイクは経験するのだ。
今までの訓練とは違う、生と死が交錯する世界。
今まさに、そこへ足を踏み入れようとしていた。
ティアマト:パラディン(斧・槍)
グレイル傭兵団の副長を務める赤い髪の女パラディン。右利き。
傭兵団立ち上げの頃から参加している古参の団員で、現在はグレイル団長の補佐をしている。
かつてはクリミア王国の王宮騎士団に所属していた時期もあり、その頃の実戦経験も豊富なため傭兵団の中ではかなりの実力者。
王宮騎士団に勤めていた彼女がなぜ傭兵団に参加したのかは不明。
戦場では白馬を繰り、主に斧を使った戦いを得意としている。また、槍も少々扱うことができたりするが、3年後には使い方を忘れてしまっているのはまた別の話。
FEシリーズ恒例のジェイガンポジションだが、前作のゼトと同じくゲーム終盤でも余裕で使って行ける、いわゆるハイパージェイガン。
長い赤髪のお姉さんキャラという設定になったのは、開発当時のとあるFEスタッフの強い要望によるものだとか。
オスカー:ランスナイト
グレイル傭兵団に参加する騎士。右利き。
全身緑色の鎧に、緑の兜、さらに緑の髪、そして糸目が特徴。
ボーレの腹違いの兄で、いつもやんちゃな弟に手を焼いている。三男のヨファの保護者代わりでもある。
戦場では馬に乗り、機動力を生かした戦いをする。槍を専門に扱っている他、弓に関しても少々知識があったりする。
かつてはクリミアの騎士団に勤めていたが、家庭の事情で引退し、傭兵団に参加したという事情がある。
料理が得意で、ミストが料理係を引き受けるまでは彼が傭兵団の食事を作っていたようだ。どこの町の料理店に勤めても恥ずかしくないほどの腕前だという。
常に冷静沈着で、しっかりとした性格。
アベルやランスなどと同じくFE恒例の赤緑の緑の方。「じゃあ赤い方はティアマト?」と思ったあなた、残念ながら違います。赤い方はもっと後に登場しますよ。
ランスナイト・・・
槍を専門に扱う騎士。下級騎馬系の中ではおそらく最もこの兵種の者が多い。
下級騎馬系の兵種のうち、最も平均的な能力値。しいて言うならやや守備が高めな点だろうか。
高い機動力を活かした前線展開はもちろん、騎乗系共通の特徴として攻撃後などに再移動ができる。これを活かしたヒット・アンド・アウェイ戦法は非常に使える。
パラディン・・・
下級騎馬系4種(ランスナイト、ソードナイト、アクスナイト、ボウナイト)共通の上級職。
武器は下級職時に専門としていた武器の他に、もう1種追加で使えるようになる。まあ攻撃力が高い斧か間接攻撃ができる弓あたりが鉄板か。
上級職になってさらに上がった機動力や、武器の使い分けのおかげで、更なる大活躍が見込まれる。
蒼炎の軌跡における戦場の華と呼べるだろう。もちろん、敵に回すと非常に厄介な相手になるが。
使用できる奥義は「太陽」。これについての説明はまた後日。