どうなることやら…
~前回のあらすじ~
内浦で彼方が死んでないか心配になる花陽。大丈夫だ、問題ない。(若干古い)
それをネタに凛と昔話に花を咲かせた。にっこり笑顔は浮かばなかったがな。
一区切りついたところで絵里から一通のメールが届いた。久しぶりに絵里宅へ向かうことにしたのだった。
ピンポーンと一般家庭でよく聞くインターホンがなる。あれから三年たった今でも絵里ちゃんちは変わらないままです。
「はーい…って花陽に凛!待っていたわ!」
「い、いつになく絵里ちゃんのテンションが高いにゃ…」
さぁさぁと押される感じで私達は絵里ちゃんの家に入りました。
「それにしても急だったよね。絵里ちゃん最近どう?」
「彼方君が静岡行ってからもう色んな事にやる気が起きなくなってるわ…私も静岡行こうかな」
どうにも絵里ちゃんは彼方君がいったそばからこの調子らしいです。
「ポンコツエリーチカにゃ」
「うるさいわねぇ…ボルシチにするわよ」
「え、絵里ちゃん目がマジにゃ…」
「あはは…なんか昔の彼方君みたいだね絵里ちゃん」
「あー確かにこんな感じだったにゃ」
そう、これは私の家に彼方君が初めて来たときの話です――――
まだ渋る彼方君を半ば無理やり小泉家に連れてきた日の夜。とりあえず私とお母さんで協力して目一杯ご飯を作りました。
『あ、あの…これは一体』
『いいからいいから。まずは彼方君を太らせないと』
『そうだね!これは腕がなるよー…!』
最初は見たことない量のご飯に驚いているのかと思ってました。しかし現実は…
『あ、あの…俺食べたら全部出しちゃうんですけど…』
『え、えぇ?そんなに不味そうに見える…?』
吐くほど不味そう、と私達は解釈していましたが実際は違いました。
『そ、そうじゃなくて…前に缶詰め食べた時もおもいっきり吐きました。その、何て言うんですかね…』
前に世界が仰天するニュースを見た時にある病気の名前を耳にした事があります。頭の隅っこにあったその言葉をふと思い出しました。
―――拒食症―――
普通は思春期の女子のダイエットの果てに発症する事が多く男子がなることはあまりないはずです。しかし今の彼方君を見る限りそうとしか思えません。
『お母さん!車だせる!?早く病院に連れていかないと!』
『え、えぇ…?』
『いいから早く!』
慌ててお母さんが準備している間に私は親友の一人に連絡を入れました。
『真姫ちゃん!?』
『は、花陽?どうしたの急に』
『ゴメン説明は後!今すぐ患者さん運ぶから結姫さんに伝えて!』
『―――――いくら友達の頼みでもそんな急には無理よ』
『そんな『と言いたいところだけど』』
『ママなら今うちにいるのよね。ってああちょっと私の携帯―――『花陽ちゃん、その患者さん事故と病気どっち?』』
『多分病気です!でもウイルスとかでは無いと思う!』
『わかったわ。すぐにうちに連れてきてちょうだい』
それだけいって結姫さんは電話を切ってしまいました。しかし今の私にとっては十分でした。
『お母さん!今すぐ真姫ちゃん家に!』
~西木野家にて~
急いで彼方君を真姫ちゃん家に運んだ後すぐに結姫さんに診てもらいました。私が予想した通り彼方君は拒食症でした。
しばらく彼方君のカウンセリングをしたいとの事でお母さんには先に帰ってもらい私と真姫ちゃんは廊下で待ってます。
『さて、そろそろ話してくれても良いわよね?』
『そうだね…じゃあちょっと長くなるけどしっかり聞いてね』
そこから私は細かく、出来るだけ丁寧に説明しました。あの少年は江口彼方という名前で父親は幼いときにいなくなって母がつい最近癌でなくなったこと、その少年と自分は従兄弟であること、など知る限りの情報を全て。
『…理解はしたわ。ただ納得はしかねるわね』
『言いたいことはわかるよ、いくらなんでも辛すぎる…』
その後はお互いに無言でした。
しばらくすると彼方君が出てきました。来たときよりもだいぶ改善したように見えたのは結姫さんのカウンセリングのおかげでしょうか?
『それじゃあ江口君、しっかり食べるのよ』
『…善処します』
『花陽ちゃん、江口君のこと、頼んだわよ』
『…はい』
こうして私達は帰路に着きました。
『なぁ、かよねぇ』
『なぁに?』
『西木野先生、おもしろい人だな』
『…そうだね』
『…ご飯、食べられるかな』
『…食べないとダメだよ』
『うん…』
その後、何なら食べれるのか試行錯誤したところサンドイッチとみかんなら戻さないことがわかりました。なぜだかは今でもわかりませんが…
恥ずかしい話、私一人には彼方君の心をほぐしてあげることは出来ませんでした。μ'sを立ち上げた時の穂乃果ちゃんのファイト魂を胸に何度も話しかけましたが応じてくれません…まともに会話したのはあの夜だけです。
でも私には心強い友達がいます。絵里ちゃんと会う予定があったときに彼方君も連れていきました。
『絵里ちゃん、彼方君呼んでくれてありがとうね。ほら彼方君自己紹介』
『………ども。江口、彼方です。よろしく、お願いします。』
えっと、と彼方君が口を開く前に絵里ちゃんが割り込みました。
『はじめまして。私は絢瀬絵里。花陽から事情なら聞いてるから話さなくていいわよ?』
そうなんです。多分彼方君は周りを遠ざけるためにわざと身の上の話をしようとします。なのであらかじめ皆には話を通しておきました。皆の反応は実に多種多様で…
『なら私達が友達になろうよ!悲しい過去は楽しい未来で塗り潰せばいいんだよ!』
『…大変だったのね。何故かしら、私ったら彼方君の事を助けたがってる…』
…誰が誰だかは今更言うまでもありませんがとにかくμ'sの皆で彼方君を助けることにしたんです。
恨みがましい視線を受けましたがあえてスルーします。
『今から私達が貴方の家族よ。だから困ったら遠慮せずに頼りなさい!』
『………家族、ですか。ずいぶん勝手に言ってくれますね』
『そんな簡単に家族とか言わないでくださいよ!』
いきなり彼方君は大声で叫びました。
『か、彼方君?』
『うるさいな…かよねぇは黙ってろよ!』
『…なぁ、事情聞いてんならわかってるだろ?クソ親父は母さんと俺をいじめるだけいじめてほったらかし。母さんは俺なんかのために自分を殺して金を稼いだんだ!俺はただ母さんが死に物狂いで稼いだ金を浪費させただけなんだ!それでも母さんは俺のことを世界で一番愛してくれたんだ!俺にとって家族は母さんだけなんだよ!赤の他人が簡単に口にするな!!』
パシンッ!!!
彼方君が叫び終わると同時に絵里ちゃんは彼方君をはたきました。
『いい加減にしなさい!いつまでそうやってお母さんに固執してんのよ!?確かに軽はずみに家族だなんて言った私にも非はあるわ。でもね、赤の他人だなんて呼ばないで欲しいの。』
『…え?』
今回彼方君を絵里ちゃんの元に連れてきたのには理由があります。それは、絵里ちゃんの家庭状況が彼方君と少し似ていたからです。
『私ね、お母さんとお父さんと最後に会ったのってもう七年以上前なの。』
『でも生きてるんだろ…なら』
『生きてるか生きてないかなんてこの際はっきり言ってどうでもいいわ。すぐそばに親がいない事に変わりはないもの…』
絵里ちゃんのご両親はロシアで働いていて現在は日本にいません。彼方君の話をしたときも自分と状況が似てるから、と真っ先に会わせてほしいといってくれました。
『もちろん私の辛さなんて彼方君の比じゃないと思う。あなたの方がよっぽど辛いはずだもの…だからね?私は貴方と仲良くなりたいの。そんな私とあなただから仲良くなりたいの…』
『……すみませんでした。えっと…絢瀬さん』
『絵里でいいわよ♪』
『じゃあ、絵里姉さん…とかでいいですかね?』
『もちろん!私弟欲しかったのよねぇ…』
やっぱり絵里ちゃんに任せて正解だったみたいです。彼方君は大分心を開いてくれたみたいで表情に少し抑揚も見えて心底ほっとしました。
それからというもの彼方君は性格も人格もガラリと変わりました。μ'sの皆が暇を見つけては彼方君の所に来てくれたり一緒に遊んだりして空白だった十年近くを取り戻してくれたからだと思います。
「また彼方君と遊びたいなぁ…」
「ならこんど遊びにいくにゃ!静岡ならわりと近いし!」
「じゃあ皆にも連絡入れておくね!」
彼方君、こっちの皆は相変わらずです。向こうでも元気にやってることを願います。