『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

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プリン天使って4位階だったのか……



荒木先生「火の表現は風を描くぞ。爆発はその時の空気の動きを書くと、表現できるぞ」
    「水の表現は重力を描くぞ。水飛沫やコップの水が、どうこぼれるか観察するといいぞ」
    「光の表現は影を描くぞ。光源の位置や強さを意識するといいぞ」

あえて、現象そのものを書くのではなく、2次的な結果を表現することで奥ゆかしい表現が出来る……という事かな?
強い炎が何々する、した。 では物足りないということか。

消し炭のように炭化した。 吹き上がった勢いで舞い上がった。 爆風が家屋をなぎ倒し、鋭利に割れた瓦礫が主人公を襲う。 とかなら、火の勢いや強さを表現できるね。

水の場合は流れと言うことで、海の波飛沫とか、川のせせらぎ。 あとは温度とかだろうか? 濡れた髪とか、服が透けるとかもGoodかも。

光……はどうだろう。 太陽が真上にあるなら、時刻が正午ってわかる。 影が長く伸びたとかなら、夕方か。 朝はなんだろう。 闇が晴れるとかかな?


『射程距離』まで近付け! の巻

     村外・丘陵頂上付近

 

 ニグンは焦れていた。 遅い、遅すぎると。 ガゼフの性格から考えて、村人に危険が及ばぬようにと、村から飛び出てくるはずだった。 日が暮れれば<暗視>(ダーク・ヴィジョン)の用意があるこちらが有利だと知っているのに、あと5分もすれば完全に日が沈む。 

 

「不可解だ。 篭城するつもりか? 有り得ない…… 謎の四人組の出現が気がかりだが…… まさかその四人組が集団で逃げられる(すべ)でも持っているというのか……?」

 

 ニグンの心に焦りが生まれ、心をジリジリと追い立ててゆく。 闇が、ガゼフ達のいるカルネ村を、包み隠すように覆いつくさんと迫る。

 

 闇と光が混ざり合い、視界が悪い。 もしかして、いやそんなはずが。 と、ニグンの心は、嵐が来る前の海のように激しくざわめき、波立つ。

 

 口封じのために突撃させた天使で、ある程度の威力偵察は出来ていたが、視界を共有していたわけではない。 細かなことは解らずじまいだった。

 

 ふと、カルネ村の家屋の影から、動くものが見えた。 馬だ。 全ての動体が、騎乗した騎兵だった。 ゆっくりと馬を歩かせ、整列している。

 

「フン、やっと出てきたか…… 考えていたよりも臆病者だったな。 日が陰るまでウジウジ悩むとは、戦士長失格だ」

 

   ド ド ド

 ニグンは、薄暗く見え辛いその影を、全神経を集中し観察する     と。

           ド ド ド

    !! な、なんだと!」

                   ド ド ド

 眼を見開く。 驚愕によって。 それは予想外の光景だった。

                           ド ド ド

 騎兵全員が、姿を覆い隠すように、外套のような布を肩から被っている。 顔には覆面。 ニグンには()(よし)が無いが、それは『シュマグ』と呼ばれる簡素な覆面だった。 

                                   ド ド ド

「小賢しいマネを……ッ! 一体どれがガゼフだ!? 仲間を捨石にして、この場から逃れるつもりか!?」

 

 全ての騎兵が同じ色、同じ姿。 布で覆われた顔では、人物を判別する事など不可能。 紛れていたガゼフが部下に接近したら、各個撃破されてしまうだろう。

 

「人数は… 全員いるな。 つまりあの騎兵のどれかがストロノーフだということ。   散会していた部隊員を集めろ! 密集して各個撃破されぬようにせよ!」

 

 村を囲っていた特殊部隊員が、徒歩だというのに凄まじい速度で野を駆ける。 数分もしない内にほぼ全員の、ニグンの部下が騎兵を中心とした隊形で集まった。

 

「愚かな事だ…… ストロノーフの得物は身の丈ほどもある大剣。 隠しきれるものではあるまい。 よく観察すればすぐに…… 何?」

 

 無かった。 あの目立ちすぎる剣が。 どの騎兵もそんな巨大な剣を持っていなかった。

 

「目立つのを避けるため、武器を変更したのか? 慣れぬ武器でこの私と渡り合うつもりか? 嘗められたものだな」

 

 ニグンはそう断定し、忌々(いまいま)しいと舌打ちをする。

 

 その間、さらに日が落ちてゆく。 流石に視界が悪すぎる。 ニグンは素早く決断し、部下に指示を出す。

 

「総員、<暗視>(ダーク・ヴィジョン)を使用せよ」

 

 ニグンの部下はよく訓練されており、命令されなければ魔法を使わず、許可が無ければ返答すらしない。 命令によって、部下達はいっせいに<暗視>(ダーク・ヴィジョン)の魔法を詠唱し、発動させる。

 

 ニグン自身も<暗視>(ダーク・ヴィジョン)を発動させた。 闇に包まれていた視界が一斉に明るくなる。 虹彩の明順応(めいじゅんおう)によって明るさに慣れ、しだいに物が見えるようになってゆく。

 

 色までは無理だが、昼間のようにはっきりと輪郭が確認できる。 数秒の間、周囲の確認が不可能だったため、ニグンは油断無く視線を巡らせる。

                  ド ド ド

   違和感    

 

 ニグンの背を撫でる、ゾクリとした不快感があった。 先ほどと違う所がある。 どこだ、と焦る心を押さえつけて必死で探す。

 

 ガゼフの騎兵か? 違う、まだ動きは無い。 あの人数が動いたら、流石に気が付く。

 

 地形が変わったのか? 違う、そんな天変地異が起こせようハズがない。

                  ド ド ド

   いや、これは。 この違和感はもっと別のものだ。 そう、この違和感は……

 

 

 

 

 

 

『音』だッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

     ヒュゥゥウウ    

 

 小さい、(かす)かな間延びした音。

 

          ヒュゥゥウウ    

 

 少しずつ大きくなって行く、その音は。 まるで笛のような音だ。

 

               ヒュゥゥウウ    

 

 この音は『風切音』だ。 物体が高速で移動する際に発生する、空気の渦が音を立てているのだ。

 

 そして、ニグンは『それ』に気が付く。 ()()()()()()()()のではないと! ()()()()()()()()のだと!

 

「うおおおおおおおおおおッ!!」

 

 ニグンは思わず叫ぶ。 予想外の状況に    

 

 

 空中から飛来する何か…… 放物線を描いている。 大きさは人ひとりくらい。 形は丸い。 近付いてくるため加速度的に肥大する『それ』はッ!

 

 

バッギャアアアッ!!

 

 

 付近へ着弾した『それ』は『樽』だったッ!

 

 辺りに広がる、油が蒸発する不快な臭い。 地面へ衝突し砕け散った樽の中には、騎士に持たせていた錬金術油や生木などの可燃物が詰められていた。 よく見れば火種がチロチロと燃えており、次々と飛来してくる可燃物が詰められた樽は、着地と同時に砕け、一斉に燃え上がる。

 

 不可解なほどに黒煙を吐き出す樽に詰められていた可燃物の中に、一度も見たことの無い素材で作られたカードが裂かれて入れられていた    

 

 

 

    カルネ村・1時間前

 

「おーおー、あったぜ~ ガゼフのおっさんが、騎士は村を焼き   って言ってたからよぉ~ ぜってぇあると睨んでたぜぇ~~ この『油』がよぉ~~ッ!」

 

 遠慮という物を知らない億泰によって、工作員が所持していた荷物が紐解かれてゆく。 水や食料などの補給物資、略奪品だろう金品。 そして、キッチリと蓋が閉まる容器に入った……『錬金術油』。 ただし、火種となる着火具が見つからなかったのが不審だったが。

 

「旦那ぁ。 頼んまれていたもんはこれで全部だす。 村ん中にある、樽と木箱はこの2つが最後だぁ」

 

 話しかけられて億泰が振り向く。 そこにいたのは、ガゼフ達が村に来たことを知らせに来た村人だった。 

 

「おう、サンキューな! じゃあよー 中に生の枝とか葉っぱとかを、半分くれえ詰めておいてくれや」

 

 コクリと頷き、村人は作業に戻る。

 

 そして億泰は、油の容器を大量に抱えて来た道を戻る。 そう、そろそろ『準備』が終わっているだろう… その現場へ。

 

「はぁーあ。 カメユーのポイントカード。 半分たまってたんだけどなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 高く詰まれた木箱や樽の側で、渋る仗助と億泰から巻き上げたポイントカードやクレジットカードを素手で引き裂く。 細かく千切られた『ソレ』を樽に詰め、油をたっぷりとかけて蓋をする。 『ソレ』とは。

 

 

    プラスチック   

 

 

 合成樹脂と呼ばれるその素材は、天然樹脂のゴムやロジン(松ヤニっぽいやつ)と異なり、人工的に石油から作られる。 広く日常的に使われるこの素材は、当然のことながらよく燃えるが、不完全燃焼する際に非常に大量の黒煙…… ススを発生させる。

                  ゴ ゴ ゴ

 熱によって、可燃性液体である油が気化。 空気中の酸素と結合し、熱を出し燃焼する。 だが、油を燃焼させる場合、油の蒸発する速度に酸素の供給が追いつかず、一酸化炭素以前の状態で冷えてしまう。 そう、炭素の状態で。 それがさらに大量のススに変わるのだ。

 

 そして、不純物を多く含む生木も詰めるという念の入れ様。 それによって、莫大な量の『煙幕』の生成に成功する。

 

                  ゴ ゴ ゴ

 火種を(ともな)って飛来した樽は、着地した衝撃でバラバラに砕けた。 新鮮な空気と接触する面積が増えた可燃物は、火種によって一気に引火する。

 

 発生した煙は視界を遮り、プラスチックから生じた硫化物は、水分と反応して希硫酸へと変化する。 さらに燃焼ガスに含まれる二酸化炭素も、炭酸水に変わることで、ことさらに眼や気管の粘膜を刺激するのだ。

 

 

                  ゴ ゴ ゴ

 準備がほぼ終わったところで、それを見ていた不安そうな表情をしたガゼフが口を開く。

 

「それほどまで大きな物を、本当にあの小高い丘まで飛ばせるのですかな?」

「大丈夫ですよ。 僕のスタンドで、地面にボヨヨォォ~~ンの尻尾文字を貼り付けました」

「その地面にパワー型のスタンドが樽を投げつけるっつー作戦ッス」

 

 火種を差し込んだ樽を抱える3人。 3者3様の掛け声と共に、樽は凶悪な砲弾へと姿を変え、天高く昇っていく。 次々と飛んでいくその姿は、まるで迫撃砲だった。

 

 

 

 

 

    村外・丘陵頂上付近

 

 催涙ガスをまともに食らったニグン達は、一斉に咳き込み、目も開けていられない。

 

 事態を収拾しようと指示を飛ばそうとした時だった。 樽が砕ける音にまぎれて別のものが近付いてくる。

 

ダダッ ダダッ

     ダダッ ダダッ

          ダダッ ダダッ

                ダダッ ダダッ

                       ダダッ ダダッ

 

 ニグンは涙があふれ、痛む目を無理矢理開き、前方を睨む。 少しずつ大きくなる音の正体は、戦士団の騎兵が上げる蹄の音だったッ!

 

「煙に紛れ、距離を詰めるつもりかッ! 小賢しいぞッ! ガゼフ・ストロノーフ!」

 

 してやられ、先手を取られた悔しさに吼えるニグン。 混乱する部下に激を飛ばす。 即、臨戦態勢へと移行させた。

 

「全部隊員に告ぐッ! ストロノーフが突っ込んでくるぞッ! 天使を自身の元へ呼び戻し、防御を固めろッ! 迎撃だッ!」

「うおおおおおッ! 来いッ! <アーク・エンジェル・フ(炎の上位天使)レイム>ッ!!」

 

 口頭で命令を受け、指示通りに動く部下と天使達。

 

 燃え上がる炎で辺りは明るい。 <暗視>(ダーク・ヴィジョン)の優位性は失われ、魔法による遠距離攻撃も煙によって当て辛い。

 

 戦士団の騎兵は、真っ直ぐこちらへ突撃してくる。

 

 だが、自身の背後にいる <プリンシパリティ・オブザ(監視の権天使)ベイション> は動かすことが出来ない。

 

 <プリンシパリティ・オブザ(監視の権天使)ベイション> の特殊能力は、視認する自軍構成員の防御能力を若干引き上げる効果。 だが、移動していない時に限るのだ。

 

「遠距離魔法は効果が薄いッ! 天使を突撃させよ!」

 

 煙によって下がった視認率で、無駄撃ちを恐れたニグンは部隊に命令する。 

 

 浮かび上がるように <アーク・エンジェル・フ(炎の上位天使)レイム> が飛び立ち、十数体の天使が炎の剣を翻しながら戦士団の騎兵に突撃していく。

 

 

 

 

    だが。

 

 突撃してくるかと思われた戦士団の騎兵。 2手に分かれるとニグンを無視し、手薄になった両翼の部隊員へと方向を変える。

 

 ニグンは慌てた。 待機させていた天使に、援護しにいくよう命令を出す。

 

()()()()()! 本当にこの騎兵達は、ストロノーフの部下なのか!? 一体何が起こっているというのだッ!)

 

 額から汗を噴出させ、声を張り上げ部下に指示を出す。

 

 想定外が積み重なり、1体 2体と、予備の天使が前線に投入されていく。 それもそのはずだ。 2手に分かれた騎兵が、近づいたと思ったら(きびす)を返し逃走する。 逃げたかと思ったら、守りの薄い箇所に回り込もうとする。 すぐ逃げて、付かず離れずで戦おうとしないのだ。 1発でも魔法が当たろうものならば、脱兎の如く逃走し、村の奥へと隠れてしまう。 それが例えかすり傷であろうともだ。 そして、不思議なことに…… 無傷の状態になって戦線に復帰するのだ。

 

 ニグンは後ろを振り返って現状を確認する。 4人の部下が、ニグンの近くで護衛にあたっているし、無傷の天使も4体いる。 予備戦力はほぼ投入してしまったが、このまま攻め立てていけば…… いずれ馬が疲労し、討ち取られる騎兵も出てくるだろう。

 

 前へ向き直る…… と。

 

「なんだ? さらに…… 分かれただと?」

 

 騎兵が2騎、こちらへと突撃してくるのが見えた。

 

 ニグンは、侮蔑の笑みを浮かべてフン、と鼻を鳴らす。 たった2騎で何が出来るというのか? と。

 

 右腕を水平に持ち上げ、部下に攻撃魔法で狙撃を命じ    

 

 

 

 ようとした、その時であった。 横並びに突っ込んでくる騎兵が、腰の辺りから…… なにやら棒状のものを取り出した。

        ド ド ド

(……なんだ、あれは? なにをしようとしている? まさかあんな棒で戦おうとでも……)

               ド ド ド

 屈強な体付きをしたその男は、その棒を天へと突き上げる。 丸太のような腕に握られているその棒は、どこかで見た事のある形をしていて    

                  ド ド ド

 

キラッ     キラッ キラッ

 

 

 光る  男の後方が。 移動している  その光が。

 

 その光が、屈強な男へと凄まじい速度で迫る。 矢のように真っ直ぐに。

                  ド ド ド

 いや、男へではなかった。 その()()()()()()()()()へと向かっているのだったッ! 光はまるで吸い込まれるように……ッ!

 

 

 バチィィイイン! 

 

 

 光は『刀身』だった! 身の丈ほどある、鋭利でブ厚い(やいば)だったッ!

 

 強力な磁石同士が、高速で衝突したような轟音を響かせ元の形へと()()()両手長剣。 高速で飛来した刀身が巻き起こした旋風に煽られ、男のフードと覆面が剥ぎ取られ、飛ばされていく。

                  ド ド ド

 そこから覗かせた顔は…… たった2騎で突っ込んでくるその男の名は    ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「来るか………! ガゼフ・ストロノーフッ!!」

 

 

 

 

 

to be continued・・・




ダイオキシンが発生するので緊急時以外にタイヤとか燃やしちゃだめだよ! ぜったいだぞ! タイヤネックレスでググっちゃだめだぞ!
黒い煙なら曇り空でも気が付いてもらえやすい。 遭難した時とか、発炎筒無いなら一考の価値有り。

――没ネタ――

~DIOがジョナサンの恋人にちょっかい出すシーン~

「クライム…… ラナーとキスは済ませたのか? ()()()()()()? 初めての相手はラナーではないッ! このガガーランだッ!」


すきなとこ:絶望感がすごくつたわる
      ズッギュゥ――ン 程度じゃあすまなさそう

ボツりゆう:書いててつらい
      クライムがカワイソーすぎるぜ

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