『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

13 / 27
荒木先生「自分と違う意見はアイデアが出てくる気配がプンプンするぞ」
    「アイデアは面白いとおもった事をメモしたアイデアノートに纏めているぞ」
    「メモしてる内容は、良いと思ったこと・自分とは違う意見、出来事、理解出来ない人・
     怖い出来事や笑える出来事、トラウマになりそうな事の3つだぞ」


つまりアイデアっつーのは、自分一人じゃあ出てこない……でにくい? もんなのだよ。
好奇心こそがアイデアを生み出す鍵ってワケよ。 飽きと熱意の欠乏こそが作品を殺すんだね。

料理や酒に興味のある作者は、例えば戦国時代にフォーカスを当てたり外国だったりの世界観と絡めれば、料理漫画……小説もか。 が、書けちゃうっつー事ね。
自衛隊上がりの作者だったら異界軍vs現代軍な、泥臭い話が書けるし、自衛隊あるあるネタとか軍事トリビア的な事を絡ませれば、面白い話が書ける。
経済に強いんだったら、(OVER ROADと絡ませるなら)人類が社会をどんなフウに発展させてきたかを、歴史を交えて書けばイイジャナイ!
アイデアは自分の生活に、密接に関係してんだなぁ。
自分の趣味とかを題材にすれば、モチベーションもネタ出しもスイスイなんじゃあないかな?

特に詳しく分析するべきなのは『自分と違う意見』って荒木先生も言っている通り、コレは「あ~そーゆー見方もできるのね……」って気付かせてくれる。
その気付きがアイデア誕生の足がかりなのだよ。
偏屈になって耳心地の悪い意見をシャットアウトしていてはいけないっつーワケかね?
まぁ、欲しいのは『意見』であって『批判』では無いんだけど。 経験値になるのは意見の方だからね。

特に気を付けてるのがミリタリー系統。 ミリオタは苛烈な人多いのよ。
軍事ってのは究極のリアリストが多くて、妥協するとすぐ批判されっちまう。
特に多いのが、撃つ直前までトリガーに指を掛けるな! 弾庫内以上に弾出てるぞ! です。
コレがね…… 色々とね…… リサーチが大変でね……
軍の歴史とか、作戦の因果とか、武器の名前とか、調べること多い多い。
だから『ココ違うで!』って情報スゲーあり難いです。


ちっぽけな犠牲 の巻

                  ド ド ド

「く、くそっ! <ショックウェイ>! ……あ、ああっ、しっ…… しまった! MPが、もう!」

「隊長ッ! 部隊員の殆どが、魔力を枯渇させています! 指示を!」

「その程度自分で考えろ! 俺はお前の母親ではないのだぞッ、このマンモーニがッ!」

                  ド ド ド

 湧き上がる苛立ちから、声を張り上げてしまう。 そしてなお鎮火しない怒りの炎に、ギリギリとニグンは歯を噛み締める。 天使は捕らえられ、部下の魔力も尽きてしまった…… なんと無様な状況だろうか? これほどまでの屈辱は、あの日以来だった。 そう、あの女冒険者によってもたらされたあの屈辱は。

 

(あり…えない……ッ こんな……こんな状況、あっていいはずが無い……!)

                  ド ド ド

 無意識に左手で古傷を撫でる。 指に、ざらついた傷の感触が伝わってくる。 それと同時に、1度たりとて忘れたことの無いあの屈辱感も。

 

(だが、まだだ…… まだ私は負けた訳ではないッ!)

 

 右手で懐の感触を確かめると、確かにある固い感触。 まだ、1つ、切り札がある。 最高最強の切り札が。 だが、この切り札を切るのは非常に覚悟のいる事であった。

 

 そして、重なりすぎている想定外。

 

  撤退するか?

 

 馬鹿な…… そんな事出来るはずがない。 あと1手…… あと1手でガゼフを始末出来る所まで追い詰めたのだ。 此処で撤退しようものなら、何も得られないどころか、払った代償が大き過ぎる。

 

「くっ…… 動かしたくなかったが、仕方が無いッ! <プリンシパリティ・オブザベ(監視の権天使)イション>! 奴らを近寄らせるなッ!」

 

 控えるようにニグンの後ろで静止していた、2階建ての家くらいある巨大な天使が前へと移動する。 巨大な物体が音も無く移動する様は、強烈な違和感を覚えさせた。 でかい図体の割りにそこそこ速い速度で、ニグンの前に立ちはだかり自らの身体で壁を作る。

 

 左手に持っている円形の盾を油断無く構え、右手に持つ巨大な槌鉾(ついぼう)を振り子のように振って下段に構える。 電柱ほどの太さがある柄に、大型バスより一回り小さい大きさの柄頭が差し込まれた巨大な武器は、まさに1撃必殺の威力を持つだろう。

 

 腰をひねり、大きく溜めを作った<プリンシパリティ・オブザベ(監視の権天使)イション>。 荒れ狂う暴風を纏わせて、天使は巨大なメイスを地面へ向けて振り抜く。

 

ボゴァァアアッ

 

 巨大な槌鉾は大地を抉り出した。 岩混じりの土砂が、まるで榴散弾のように2人へと迫る。

 

 凄まじい破片飛沫の広がりと、その爆発さながらのスピード! この岩1つにでも当たりようものならば、全身の骨が砕け、内臓が破裂し、死が訪れるだろう。

 

 地面に伏せるか!? それとも飛んで避けるか!? だめだ、どうしても広がり飛んでくる飛礫(つぶて)のどれかにあたってしまうッ!! 

 

 

  2人の姿が、巻き上げられた土砂と土煙の中に消える。 ゴゴゴ…… と、地響きの音が聞こえる以外、誰も音は立てず。 誰も喋らずに、土煙に飲み込まれた2人を通意深く伺う。

 

 

 

  静寂。 微風によりゆっくりと土煙が晴れて行く。

 

「……殺ったか?」

 

 部下の一人が呟いた。

 

「死体を確認するまで気を緩めるな! 周囲を警戒せよ!」

 

 ニグンは血走った眼で2人がいた場所を睨む。 ニグンの勘が告げていた。 あっけなさ過ぎると。

 

    土煙が完全に晴れた。 そして…… そこには穴が深く掘られていた。 地面を縦に掘って、塹壕のようにやり過ごしたのだ。

 

「やはり図体だけのデクノボーだったな。 小さいやつより動きがスットロイぜ。 まぁ、パワーだけはDIOよりも上だったが…… 命中しななければ意味が無いな」

 

「「 !! 」」

 

 意外な方向からの声。 停止した時間の中で土を掘り返し、身を隠した承太郎の声が上から響き渡った。 一斉に、視線が上に…… <プリンシパリティ・オブザベ(監視の権天使)イション> の首筋辺りに注がれる。

 

 <プリンシパリティ・オブザベ(監視の権天使)イション> は、なんとか振り落とそうと腕を伸ばしたり、身体を振り回したりしているが……

 

「デカイ図体は上りやすかったぜ…… ()()()()どうにもできねーだろう? カッタルイ事は嫌いなタチなんでな。 このまま…… ブチ壊させてもらうぜ」

 

 なぜ生きている。 どうやってあんな所に。 何時の間に移動した。 そんなニグン達の叫びを無視し、承太郎はそう宣言して分身を実体化させ  

 

 フッ  と承太郎の姿が消えて地上に現れるのと、

 メギャン  と天使の全身にクレーターが出来るのと、

 バグォォオン  と天使が墜落するのは、全て同時だった。

 

 そして……

 

ウオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 聞こえてくるのは咆哮。 しまったと思いながらニグンが振り向く。 ガゼフが静かな事に、疑問を持つべきだったのだ。 承太郎が、わざわざ目立つ行いをしたのは、ガゼフから気を逸らすためだった。

 

 呼吸を整える時間はたっぷりとあった。 自身が使える武技を、次々と発動させていくガゼフ。 最高の瞬間火力を解き放つのは! 今!

 

「ぬうううあああ!! <六光連斬> <六光連斬>! <六光連斬>ッ!! 」

 

 身体の許容値以上の負荷が掛かるのが、妙に思考が晴れ渡ったガゼフの脳裏に理解できた。 何もかもがスローモーションに見える中で、プチプチと筋肉や毛細血管が断裂していくのが、手に取るように解る。 せめて腱だけは切れないでくれと、居るのかすら解らない神に祈る。

 

 1振りで、同時に6本の輝く光の筋が、3回放たれる。 三日月形の(まばゆ)い光が、<プリンシパリティ・オブザベ(監視の権天使)イション>のヒビ割れた身体を切り刻む。 手加減する余裕が無かったのだろう…… 星空を切り取ったかのような光の粒が、キラキラと輝きながら虚空へと消える。

 

 「ガッハァッ!!」

 

 それと同時に、吐血するガゼフ。 すでに承太郎の表情からは余裕が消え、苦々しいものへと変わっていた。 呼吸を整え、全身の状態を確認する、が…… 状況は良くない…… 手足の感覚が痺れてきている。

 

(まずいぜ…… 想定以上にダメージが深い。 ストロノーフも限界に近いか…… 恐らく気管辺りにダメージがあるな)

 

 チラリと横目でカルネ村を確認し、

 

()()()()()……)

 

 と予測する。

 

 光の粒になって消えていく<プリンシパリティ・オブザベ(監視の権天使)イション>を、呆然と眺めているニグン。 そんなニグンに、満身創痍のガゼフが唐突に笑い出す。

 

「フ、フフフ…… ハ  ッ ハッハッハ! ハハハハハハ!」

「何が可笑しいッ!」

「無様だな……と、思ってな、ニグンとやら。 どうだ? 倍以上の戦力差を持ってしても、それが覆されつつあるこの状況は?」

 

 血走った眼を一層見開いて、ニグンは吼える。 剣を杖代わりに、身体をもたれさせながら…… やっとの事で立っていられるガゼフの言葉に怒りを爆発させて。

 

「小癪な事を! お前はまだ、この俺に傷1つ付ける事が出来ていないではないかッ! 今のお前が、この俺に勝てる訳がなかろうよ!」

「いいや、お前は負けるよ……ニグン。 私達には、異世界からの助っ人が味方しているのだからな」

「何だと!?」

 

 チラリ、と。 ガゼフの隣りにいる、白いコートの男を見る。

 

「お前がその、『異世界人』か!?」

 

 驚きから声が裏返る。

 

(まさか、ぷれいやーだというのか!? なんでこんな場所にいるんだ!?)

 

 フ―ッ、と承太郎は深呼吸をし、緩慢に頭を左右に振った。

 

「やれやれだぜ…… 随分(ずいぶん)口が軽いな、ストロノーフ」

「フフフ…… 知っているか? 『彼等』は魔法を使わず、音の3倍もの速度で空を飛び、星々を巡る船に乗り月に降り立つのだぞ? お前にそれが出来るか、ニグン」

「おい、ストロノーフ。 言っておくが、私が飛んだり行ったりしたワケじゃあないからな。 月には国の代表が数人行っただけだ」

 

 一見…… 和やかに会話している2人を他所(よそ)に、ニグンは思考をめぐらせる。 もしかしたら()()()()()()()()()かも知れない、と。

 

「…………。 異世界から来たという証拠を見せろ。 まぁ、魔法もマジックアイテムも無しに、人が飛べるとは思えんがな」

 

 その言葉に、承太郎はうんざりとした調子で懐へと手を入れ、手帳を取り出した。 適当な白紙のページを、ビリィッ! と破り、紙を折る。 そしてその折られた紙を、ニグンに向かって投げつける。

 

 その『紙』は、フワリ フワリ と空を(ただよ)い、時折上昇したりしながらニグンの手に収まった。 驚愕に表情と身体を硬直させたニグンの手にあるのは…… 紙飛行機。 

 

 その手に収まる紙は、こうニグンに語りかける。 飛ぶ事なんて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

「これで理解したか? 満足したか? ではこちらが質問する番だな…… お前…… 確かニグン、と言ったか。 お前が先程言っていた…… ガゼフを始末すると、神の望んだ平和が訪れると言うのは、一体なんだ?」

 

 この異世界人を寝返らせれば、莫大な利益があるだろう。 うまくいけば、人間の救世主たりえるかもしれないのだ。

 

「……リ・エスティーゼ王国は国王派と貴族派がお互いの足を引っ張り、貴重な国力を消耗させている。 王国が…… まだ国力を残しているうちに『効率良く』滅び、帝国に吸収されれば…… 確実に国を立て直すだろう」

 

 話に少しずつ熱がこもる。 伏目がちに視線を下げ、言葉は苦々しく吐き出される。

 

「現在、人間の生存圏に侵攻を続けるビーストマンは人間を食料としか見ていない。  絶滅するまで止めないだろう…… 今は少しでも多くの力が必要! 人間同士で争っている場合ではないのだッ!」

「それが何故、神が望んだ事になる?」

「過去に神は、亜人や異形の者に滅ぼされ行く運命にあった人類を、お救いになられた! だが今は、そのお力に頼ることが出来ぬ…… 我々だけの力でやらねばならぬのだ! その為にはストロノーフは死なねばならぬ!」

 

 興奮した様子のニグンを、冷ややかに見て承太郎は…… 肩を竦めて挑発するように。

 

「成程。 それで次は……そうだな。 お前は月の裏側はどうなっているのだろう。 だとか、物質とは一体なにで出来ているのだろう。 とは疑問に思わないのか?」

「そもそも、月に行って何か良い事でもあったのか?」

「まぁ、然程(さほど)…得られるものは無かったな。 新雪の地に足跡を残したくらいの…… 満足感はあっただろうがな」

(月自体には、な)

 

「フン…… 月に行って見たいなど、これっぽっちも思わんな。 その話を聞いて、そんなどうでもいい事、考えている暇など無いと益々思うようになったぞ」

 

 そうか。 と、承太郎は落胆する。 ()()()()()()()が…… 成長することに興味が無いとの返答に。

 

 月にまで…届く努力の果てに。 それがたとえ、軍事偵察衛星(かみのしてん)が得られようとも。

 

 物質への…飽くなき探究心の果てに。 それがたとえ、大量破壊兵器(ぎじたいよう)を操る法が解ろうとも。

 

 この世界の住人は、まるで興味が無いと言うのだ。

 

「そもそも神とはなんだ? 強者ならば神か? 一発の魔法で数万人殺す力があれば神か? ならば一発の爆弾で17万人以上殺した大統領は神を超えたという事だな?」

「……何の事だかさっぱり理解できんが… 神を  

「『疑ってはならない』なんて詰まらねー事を言うんじゃあねーぜ」

 

 言葉をあえて被らせ、ニグンを指し、黙らせる。

 

「『疑うな』なんて言葉は、『疑われると困る奴』…… 詐欺師が使う言葉なんだからな」

 

 ニグンは、一瞬言葉に詰まったが…… やがて口を開く。

 

「『神』とは…… 我等が法国では、異界より参られる…… ぷれいやーと御自身の事を(おっしゃ)られる、神の如き力をもたらして下さる御方々の事だ」

「本当に『暗殺』なんて手段で人類が救えると?」

「思っているッ!」

 

 限界以上に見開いた、血走った眼をギョロリとガゼフに向け、指を指す。

 

「100年毎に訪れる、神人にすら…… ストロノーフ! お前の国の王は、お前に噛み付けと命令するだろう! 神の尊さも、その素晴らしさも、偉大なる力もなにもかも理解できぬ王国の貴族と王によってな! そして、そのとばっちりで何万もの罪無き人々が死ぬ!」

 

 左手で握った拳を、遠心力で開かせるように勢い良く振るう。 それはニグンの、拒絶の心を表していた。

 

「お前は死なねばならぬ! お前の存在が、世界中の人類を不幸にするのだッ!」

「フ、フフフ…… くだらぬ理由よ。 貴族の馬鹿共が、理解できぬと言うならば……

 

     あえてこの命! その神とやらに差し出すまで!」

 

 ガゼフは立ち上がる。 背筋を伸ばし、大地を踏みしめ、敵を見据えて。 

 

「たとえ、このちっぽけな手から多くの命が溢れ落ちようとも! 目の前にいるたった一人しか救えずとも! それがたとえこの命犠牲にしようともッ! 」

「愚かなッ! 自らの命を、噛ませ犬として差し出すとでも言うつもりかッ!? あえて見せしめになる事で、愚かな王が神に反抗せぬ様にと! 犬死にだぞ!! そんなちっぽけな犠牲1つで…… あの愚か者共が理解できるものかッ!」

「それでいいッ! 民の為に死ぬのならば本望!」

「狂っている! お前は狂っているぞッ、ガゼフ・ストロノーフ!」

 

 傷だらけの身体で…… 火傷だらけの太い右腕で…… 亀裂が入り、所々砕けている鎧をしかと掴み。

 

 

 

「貴様に俺の心は永遠にわかるまいッ!」

 

 

 

 力任せに、重い鎧を引き千切る。 防御を捨てるは決意の証か。

 

 ニグンの口から、唇を噛み締めたために血が流れる。 ()()()()()()()()()()()()()、と。 怒りのままに握りしめた拳に爪が刺さり、血がにじむ。

 

 そんなニグンに承太郎が人差し指を、ビシィッ! と、突きつけ。

                  ゴ ゴ ゴ

「その余裕。 お前、まだ何か『切り札』を持っているな?」

 

 と、ニグンの心を読んだかのような問いをする。

 

「……そうだ。 最高位天使、<ドミニオン(威光)()オーソリ(主天使)ティ>を召喚する秘宝を使用する」

                  ゴ ゴ ゴ

    覚悟を決めろ。

 

 心の中で、不甲斐無(ふがいな)いばかりに…… 切り札を切らざるを得ない状況に陥ったことを、『秘宝』を授けてくれた神官長に謝罪する。 右手で掴んだクリスタルを、懐の中からゆっくりと取り出す。

 

 そんなニグンに、承太郎は  

                  ゴ ゴ ゴ

「出しな…… お前の……ドミニオン…………オーソリティ…を」

 

 さっさと切れと…… ()()()()()()()

 

「…………。 クソ… クソ、クソッ!、クソォォオオッ!! いいだろう! 最高位天使を召還するぞッ!!」

 

 頭上へと掲げられる、光り輝くクリスタル。 元からあった輝きが、力が開放されて行くにつれて、更に光が増していく。 手に握られたクリスタルから溢れ出す光は、力強い風へと姿を変え、夜の(とばり)を吹き飛ばす。

 

 透き通るクリスタルにヒビが入った。 ガラスが割れる音よりも透き通った音を奏で、秘宝は砕かれる。

 

パキィィイイン  

 

 爆発的に広がる白い光。 神聖な光は夜の闇を圧倒し、丘の上を昼へと変えた。

 

 圧倒的な光と存在感に、ニグンの心は平静を取り戻し、安心感に包まれる。

 

「見よ! 最高位天使の尊き姿を! そして後悔するがいい……ッ! 切り札を切ったからには…ガゼフ・ストロノーフ、貴様は何が何でも始末する! ……だがッ!」

 

 余裕を取り戻したニグンは2人を見下す。 辺りを照らす光は、余裕の光だとでも言いたげな表情をしていた。

                  ド ド ド

「異世界人。 お前だけは助けてやる。 我らが法国に…その力、その知識。 惜しみなく提供するというのならば、な」

 ニグンの頬が釣り上がり……  嫌味な嘲笑が張り付いた顔で、ガゼフを指差し無慈悲に告げる。

 

「ストロノーフにトドメを刺せ。 そうすれば君達を受け入れ、歓迎しよう……」

 

 両手を広げ、好意的に抱きしめるようなポーズをとる。 が、ニグンの表情は一貫して邪悪に歪んでいた。

                  ド ド ド

「言葉ではなく行動で示せ。 そして、法国に協力するのなら…… そうすれば…… お前達のその命、故郷の情報や、帰る手段を探す助力を約束しよう」

「………」

 

 口調までも優しく。 柔らかな微笑を(たた)え、子供に言い聞かせるように説得する。 そんなニグンの言葉を聞き、承太郎は俯いて長考する。 

 

 そしてついに。 意を決したかのように頭を持ち上げ、再度確認する。

 

「法国に協力すれば…… 本当に…… 帰る手段を探してくれるのか?」

「ああ…… 約束するとも…… 奴の命と引き換えの ギブ アンド テイクだ……」

 

 承太郎は振り向く。 視線の先には傷ついたガゼフが、こちらを真っ直ぐに…… だが、覚悟を決めた表情で見つめていた。

 

「ストロノーフ……」

「辛い役を任せてすまなかった……承太郎殿。 ……覚悟は出来ている。 やってくれ」

 

 腰を落とし。 身体を捻り。 全身のバネを使い。 承太郎は、振り上げた右足を加速させる。

 

 残像で、小型の台風のように流れて見える。 目視で見るには、彼の攻撃は早すぎたのだ。

 

 

 

ドグシャァアッ!!

 

 

 

 残像すら置き去りにする速度で放たれた決死の蹴りは、ガゼフの腹部に深々と突き刺さり、物体が物体に衝突する大きな音を響かせ、弾き飛ばし、宙に浮かせる。

 

 身体をくの字に曲げて、腹を抱えこむように飛んでいくガゼフの身体。 ニグンの頭上を山なりに、放物線を描いて飛び越していく。

 

 嗜虐の快感に浸ってるとも見られる微笑みを、更に深く刻み、濁った眼を見開いて、狂喜に囚われ高笑いしようとするニグンに……

 

「ああ、さっきの返答がまだだったな……」

 

 落ち着いた声で承太郎が、家に忘れ物をしてしまったとでも、言うかのような気軽さで……

 

「俺の返答…… それは」

 

 振り向いた承太郎の眼には卑屈さなど、全く無い。 輝やかしき決意を湛え、これから起きる事への自信に満ちていた。

 

 そして。 帽子の鍔に指を…… ツッ   と沿わせて。 傲岸に、不遜に、高らかに    宣言する。

 

 

 

 

 

「だが断る……! だぜ」

 

 

 

 

 

 

 吹き飛ばされたはずの、ガゼフの瞼が開き、眼光が鋭く光る。 たたまれていた身体を開く…… が、そこに蹴られた跡など無い。

 

「隊長ォォオオ  !!」

 

 部下の叫びで、ハッと気付く。 ガゼフにトドメが刺されていない事にッ! 

 

「インパクトの直前。 時を止め、ガゼフを投げ飛ばした。 蹴ったように見せかけてな……」

 

 よく見ると……白い承太郎の衣服に白い文字で…… 『ドグシャァアッ!!』 の文字が()()()()()()()

 

 地上に、傷付いた全身を打ちつけられる瞬間、刹那を切り裂き、ガゼフの武技が発動する。

 

<即応反射>

 

 物理法則を無視した動きで、ガゼフの両足が大地をしかと掴む。

 

<疾風走破>

 

 左後方に大剣を構え、低い姿勢で疾走する様は、まるで1匹の猛獣のようだ。

 

<戦気梱封>

 

 精神は鋭く研ぎ澄まされていた。 プラチナで出来た星の光を受けて、薄く開かれた眼がキラリと光り…… 残像で尾を引いた。

 

「なんだとォォオオ   ッ!!」

 

 ニグンは、全力で身体を捻る。 後方から迫る殺意に正対せんと振り向く。

 

 視界の端に、かろうじて捕らえられたのは…… 右から迫る、逆袈裟切りを振るうガゼフの大剣だった。

 

 

 

「射程距離   『内』だッ!」

 

 

 

 

 

 

to be continued・・・




黒き豊穣への貢=原爆だと考えています。 17万人の犠牲、黒い雨、奇形の子。
非戦闘員を巻き込んでないだけマシということなのだろうか。
初手、戦略兵器とかモモンガ様マジパネェッス。 某ゲームのガンジーみたい。

――没ネタ――

~ジル君が、最強の1撃を頼む相手を間違えたら~

シル君「最強の1発希望」
(キム)将軍「おk 派手だからボタンポチーで」

すきなとこ:勘違い、すれ違い系漫才ってグーよね。
      魔法は汚染が無いエコだから、地球を汚さないね。

ボツりゆう:派手だからって理由で、戦術核ブッパされてはかなわん!
      ジル君は、核の恫喝受けてるだけだから許してさしあげろ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告