『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

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オバロ11巻にウイスキーだかブランデーだかをエルフが飲んでたッぽいけど
蒸留酒が陰も形もなかった所から、急に出てきた点からこいつはプレイヤーかその子孫で、何らかの蒸留酒を生み出すアイテムとかがあるのだろうか?

蒸留酒自体は中世時代にすでにあったけどオバロ世界では未確認。
日本では、1540年くらいに米焼酎を飲んでいたってポルトガル人の日記に書いてあったし
1559年(信長に秀吉が遣えて少したったくらい)に、二人の大工が日付と署名入りで

其の時座主は、大きなこすてをちやりて一度も焼酎を不被下候(くだされずそうろう)
「神社の座主がケチで焼酎を一度も飲ませてくれなかった」

という恨みつらみを書き残していたぞ。

ザルなドワーフも蒸留酒はあんまり飲んだことが無いっぽかったから、市場にはあまり出回ってないのかな?


最高位の4番目 の巻

 武技を連続仕様し、アクロバティックに着地したガゼフ。 最大のチャンスを生かし、ニグンを背後から苛烈に攻め立てんと襲い掛かる。 そんなガゼフに加勢する為、走り出そうとする承太郎。

 

 だが、複数のニグンの部下が懐からスリングを取り出し、鉄球を番え射出した。 

 

ドシュドシュゥ    

 

 数十発もの鉄球が迫るが、銃弾ですら指先で『(つま)み取る』スピードと正確な動きが出来る<スタープラチナ>の拳に、容易に弾き返される。

 

「オラオラオラオラァッ!」

 

 数発の鉄球が射出者の元へと帰還し    

 

メメタァ

 

 メリ込んだ鉄球は顔面の骨を砕く。 噴き出す血飛沫(ちしぶき)と、砕けた歯の欠片を撒き散らしながら、数人が意識を失い地に倒れた。

 

 

 

 

 防御を捨て、身軽になったガゼフの動きは疾風の如く。

 

 ニグンは振り返りつつ、走り出す。 その視線の端には、凶暴な刃がニグンの身体を引き裂こうと迫っていた。

 

(避け…… 切れんッ!)

 

 魔法系のニグンより、格闘を主体とするガゼフのほうが、運動精度も敏捷性も上である。 即座に、後退するだけでは回避は困難だと判断し、姿勢を大きく変え、前後左右に上半身を傾ける。 そうする事で、少しでも凶刃から距離を取ろうと言うのだ。

 

ブォン

 

 鋭利な(やいば)が耳のすぐ側を掠める。 高速で振られた刃は、短く刈り込まれた髪を掠めて、抵抗無く頭髪を切断した。 耳を撫でる風が、切った髪を吹き飛ばしていく。

 

(ギリギリかわせたッ!)

 

 奇跡的に回避に成功したが、大剣はその膨大な質量を無視して軌道を変えた。 再び凶刃がニグンの命を狙って空気を切り裂き、迫る。

 

 身の丈ほどもあるというのに、大剣は小さく速く振られる。 その大剣には、1撃で一切合財を両断する、必殺の力など込められていなかった。 振りは小さく、当てる刃は狭く、狙いは急所へ。

 

 そう、それは魔法詠唱者(マジックキャスター)の急所。 呼吸をつかさどる気管   咽喉(のど)。 首を裂かれては魔法の詠唱は出来ず、命令も出来ない。

 

 一歩、二歩と後退を余儀無くされ、紙一重でかわす凶刃の殺意は、全身を悪寒で包み汗を噴き出させた。 3歩目。 ガゼフが4(たび)剣を(ひるがえ)す…… その時。

 

ドスゥッ

 

  (かかと)に衝突するやわらかい感触。 姿勢が後ろへと崩れる。

 

(……えっ?)

 

 想定外の事態に、ニグンの頭の中が真っ白になる。 此処はゴツゴツとした岩どころか、小石すらない…… なだらかな丘。 そんな場所で(つまづ)く? ()()

 

 スローモーションの世界で、眼だけを動かし、足元を見る。

 

「…………」

 

 『それ』は、草に埋もれていて見え辛かった。 弾力があって……丸くて、細長い。 視線をさらに移動させ    

 

 ハッ! と、『ソレ』の正体に気付く。

 

(こッ! これは! ()()()はァァアアッ!)

 

 足に当たった障害物。 そいつは…… そいつの名は。

 

「べリュゥゥゥス、貴様ァァアアッ!

            このッ……糞の詰まった肉袋がァァアアッ!」

 

 工作員のお飾り、ベリュースであった。 ニグンが見捨てた、役立たずの死体だった。

 

 この無能は死んでもニグンの足を引っ張るのか。 それとも、見捨てられたゆえの恨みがそうさせたのか。 はたまた、ただの自業自得か。 死体に躓いたニグンの体勢が崩れ    

 

(まずい! 転倒してしまうッ!)

 

 降って湧いた大きな隙! 倒れこむニグンの首へ、鋭い切っ先が突き出され  

 

ザクゥゥウウッ!!

 

 (ほとばし)る鮮血。

 

  あぐぁッ!」

  ガフッ!!」

 

 が…… ()()。 1つはニグンの腕から。 もう1つはガゼフの背から。 ガゼフの背後には…… 1体の<アーク・エンジェル・フ(炎の上位天使)レイム>。

 

「何だと!?」

 

 肺にまで刃が達したのか、血煙を吐くガゼフ。 右手から力が抜け、剣が滑り落ち…… 地面に当たり、カランと頼りない音を響かせた。 そして、崩れ落ちるように膝を衝き、一拍置いて倒れ伏す。

 

「ストロノ―フゥゥウウッ!!」

 

 初めて承太郎の顔から焦りが生まれた。 背後を振り向く。 そこには戦闘不能にした天使が『5体』いた。 そう、1体足らないのだ。

 

(まさか……! 先程のスリングで天使にトドメを刺したのかッ!)

 

 再びガゼフへと戻した視線の先には、1体の<アーク・エンジェル・フ(炎の上位天使)レイム>が1体、炎の剣を振り上げて2撃目を打ち込まんとしている。 足元に転がっている鉄球を拾い「ウォオオラァァアッ!!」と、天使へ投擲。 頭部へ命中した鉄球は、天使の頭を砕き墜落させた。

 

 魔法が込められたローブごと切り裂かれた右腕を押さえながら、よろよろと立ち上がるニグン。

 

「あ……あぶなかった…… ギリギリ右腕を刀身の間に滑り込ませられなかったら…… 魔化されたローブを切り裂くこの威力! 俺の首は落とされていただろう……」

 

 懐から取り出した、青い液体を傷にかける。 するとピタリと止血が止まった。 取り出したもう1本を飲むと、グジュウジュと裂傷が回復して行く。

 

  ハッ!」

 

 背後に気配を察知し、向き直ると…… そこには、倒れていたガゼフが何時の間にか起き上がり、足を引き摺りながらニグンへと向かってきていた。

 

「……無駄だ。 お前は最早戦う所か、立ち上がることすらできない身体だ」

 

 フラつきながら、ガゼフは握り締めた拳をニグンの顔へ打ち込む…… が。

 

ガシ―ン

 

 素手で受け止められる。

 

「無駄だ。 鎧すら無い身体で、まともに上位天使の剣を受けたのだ…… 見ろッ! 足下に広がる多量の出血! すでに、魔法詠唱者の俺ですら楽に受け止められる程に! ()()()()()()()()()()()()()()

 

 えぐられる様に切り裂かれたガゼフの背中からは、足を伝って地面に大きく広がるほどの出血の跡が出来ていた。

 

「ぐっ…うう………」

 

 ふらつき、眼の光も曇り、虚ろな眼差しで…… ただ立っているだけのガゼフの胸を…… トン   と、軽く押す。 押されるがまま、グラァァッと倒れていくガゼフに背を向け  

 

「これで…… 2分もすればストロノーフは失血で死ぬ。 あとは…… 異世界人。 お前を始末するだけだな」

 

 と、承太郎に正対した。

 

 

 

 

    が。

 

 

 

 

ガシィィイッ!!

 

 と、ニグンを後ろから羽交い絞めにする腕があった。 肩越しに見えるのは、血に濡れたガゼフの姿。

 

「貴様ッ! この期に及んで、まだ諦めておらんのかッ!」

 

 脇腹へ肘を打ち込んでやろうと、右腕を振りかぶ     ろうとしてのだが。

 

ドン

 

 と、腹部へ衝撃があった。

 

「……?」

 

 腕を止め、視線を下げる。 腹に接触したのは……

 

「なんだ、これは…… 剣の…… 柄?」

 

 剣の柄だった。 剣の柄が、磁石のようにニグンの腹にくっついていた。

 

チクッ    チクチクッ

 

 背中に感じる、針で突かれるような軽い痛み。 肩越しに、ガゼフがニヤリと笑ったのが解った。

 

「嫌がる仗助殿に頼み込んで……『仕込んで』もらったのだ。 こうして…… ピッタリと距離を詰めれば…… 必ず当てられるから…な」

 

 背中の痛みが増す。 ガゼフが歯を食い縛り、何かに耐えるようにして…… 身体を硬直させている。

 

(仕込む? 剣の柄と関係あるものを? ハッ! ま、()()()!)

 

 ニグンの顔が青褪めた。

 

「まッ!! ()()()()! 鎧を、あえて棄てたのはこの為か…ッ! き……貴様ッ! バカなッ!! なんて事を思いつくんだァァアアッ!」

「うぐッ…… そうだ。 その()()()、だ」

 

 羽交い絞めにしているガゼフの腕を、力尽くで引き剥がそうと暴れる。 だが…… ニグンは魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、ガゼフは戦士だ。 たとえ大量出血していたとしても、膂力では全く適わない。

 

「貴様ッ! バ…… バカなッ! は…… 離せッ! うおおおおお 死ぬ気か!? ストロノーフ!! 貴様ァァアアッ!」

「そして、仗助殿はこの場にはいないので…… 代わりに私が……」

 

 

 

 

 

「<クレイジー・(ダイアモンド)>ッ!!」

 

 

 

 

 

 メキメキと音を立てて、ガゼフの腹部から()()()()()が飛び出したッ! 剣の柄が、元の状態に戻ろうとして   ニグンの背中と腹を挟み込むッ!

 

「うおおおおおおお!! は、離せェェエエッ!」

 

 身体をやたらめったらに暴れさせ、肘をガゼフに打ち込み。 捕縛から逃れようと、獣のように暴れる。 背中からの出血に加え、腹部からも出血したガゼフの身体は…… もう限界だった。

 

「後は…頼んだぞ……承太郎殿……」

 

 腕から力が抜け、暴れるニグンに振りほどかれたガゼフの身体は、仰向けに倒れ伏した。

 

「ぐぅあああっ! つ、潰され……ッ! この剣を…… なんとかしなければッ!」

 

 鳩尾を、凄まじいパワーで圧迫する柄と、背中をえぐる刀身。 このままでは、いずれ魔化されたローブを引き裂き、ニグンの腹部へ突き立ち大動脈を切断するだろう。 痛みと、圧迫による呼吸困難により霞む意識の中で、ニグンは暴挙ともいえる手を打つ。

 

「魔法防御力は、この魔化されたローブにより高いハズだッ! <ファイアーボール>!」

 

 腹を突き破らんと食い込む短剣を、()()()()()()()焼くという暴挙。

 

「ぐうううあああああああッ!!」

 

 魔化されたローブ越しとはいえ、凄まじい熱量がニグンの皮と肉を焼く。 とめどなく流れる汗が滝のように流れて蒸発していくのが、感覚で解る。 焼け焦げ、グズグズになった短剣は力を失い地に落ちた。

 

 仰向けに倒れるガゼフを横目で見ながら、血が滲む脇腹を抑える。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…… 今のお前の行動…! 本当にオシマイかと思ったぞ…… ストロノーフ。 さっきお前の事を戦士長失格なんて言ったが、撤回するよ…… 無礼な事を言ったな……」

 

 ゴボリ、と。 血が流れる…ガゼフの腹部から。 血を吐き出す…ガゼフの口腔から。

 

 ガゼフに動く気配が無いことを確認すると…… やがて承太郎を鋭く睨んだ。 痛みにより顔が歪み、脂汗が噴き出ているが…… 魔法詠唱者(マジックキャスター)は走り回って攻撃するわけではないので、戦闘するのに支障は無い。

 

「褒めてやろう、異世界人。 部下達のMPを尽きさせ、この俺に切り札を切らせた…… 更に手傷まで負わせるとはな。 いや、本当に恐れいったよ…… その発想、判断力…… 正直なところ敬意すら感じるぞ? 本当によく戦ったよ、お前はな」

 

 任務は全て、無事に完了した。 後はこの敵対している異世界人を始末するのみ。 敵対してしまったからには、ここで放置するわけには行かないのだ。 放置すれば必ず成長し、対処不能の脅威となるだろう。

 

「全くその通りだな。 その賞賛、素直に受け入れさせて貰おう」

「フン、負け惜しみを…… まぁいい。 何か言い遺す事はあるかな?」

 

 覚悟を決めたように棒立ちになっている承太郎に、せめてもの情けだと、随分と梃子摺らせてくれた腹いせに、薄く笑いながら最後の言葉を聞いてやろうと問う。 命乞いでもしようものなら、素気無く断ってやろうと考えて。

 

「そうだな…俺達のほうが不利だから。 近付けさえさせなければ雑魚だから。 そう考えて俺の話に食いついてくれた事に、深い感謝を贈るぜ、ニグン。 お前がもっと注意深ければ、ここまで上手く事は運べなかった」

「…………はぁ?」

 

 異世界人の口から出てきたのは予想外の言葉だった。 それは感謝すると。 ()()()()()()()()()()()()()、と言っているのだ。 口をポカンと開き、全く理解出来ない様子のニグン。

 

「神様の話は面白かったろう? 続きが聞きたいと思っただろう? ……目の前に敵がいるのにペラペラ、ペラペラ…… 時間稼ぎに決まっているじゃあないか。 フッ…フフフ……」

「それでは…… 今までの…話は…… ウソだったと言うのか!?」

「やれやれだぜ…… 適当な事を言っているに決まっているだろう? それらしく言えば、会話に食いついて来ると思っただけだ」

 

 答え合わせ、するように。 手品の仕掛け、教えるように。 

 

「最高位天使を前に、何故そんな態度が出来るッ!」

 

 言い聞かせるように、丁寧に…… こう、煽る。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。 

 

「ただ単に、デカくなっただけじゃあねーか。 その上、神学に基づく天使のヒエラルキーにおいて、ドミニオンは第四位に数えられる天使の総称だ。 それが『最高位』? 笑わせるぜ」

 

 一瞬で血液が頭へ上り、思考が沸騰する。 自分だけでなく、秘宝によって召喚した最高位天使まで…… 神官長の誇りまで侮辱したその言動に。

 

「やめろォォォオオ! 知ったような口をきいてんじゃあ無いぞォォオオ!」

 

 咆哮する。 最早、数秒たりとて生かしては置けぬ。

 

「<ドミニオン(威光)()オーソリ(主天使)ティ>ッ! 善なる極    

 

ガボァァッ!

 

 右の(かいな)を横薙ぎし、天使を見上げたその瞬間。 地面が爆破されたかのように、土が吹き飛ぶ。

 

善なる極撃(ホーリースマイト)を放て」そう、言おうとして…失敗した。 拳によって、阻まれた。 自分の真下から、突き上げられた…… 白い腕によって。

 

バグチョアッ!

 

 下方から鋭く打ち込まれるアッパーカット。 顎の骨がミシミシと音を立ている。

 

「ガハッ! うっ…… あっ……」

 

 殴られて吹き飛ぶニグン。 脳が揺さぶられ、一瞬気が遠くなり、受身も取れずに頭から墜落し、倒れ伏す。 やっとのことで、激痛に耐えながら上体を起こし、仗助を睨む。 聞こえてくるのは、ボタボタと水滴が落ちる音。 見ると、顔から血が溢れるように流れていた。 裂けた唇と折れた鼻を左手で押さえ、止血する。

 

 さらに数人の…… 若い少年が2人、仗助が開けた大穴から<クレイジー・(ダイアモンド)>の手に引っ張ってもらいつつ姿を見せた。

 

「<エコーズact1>は…遠距離操作型なんだ。 だから…障害物があっても正確に操作出来る。 そう…壁があろーと…… 土があろーと…… サポートするのは簡単だったよ。 あんた達は上ばっかり見ていたからね」

 

 ふよふよと浮かぶ、奇妙な姿をした生き物の手には…… ニグンには読めないが…… 『ドグシャァアッ!!』の文字が抱えられていた。 

 

ボコッ! ズボッ!

 

 次々と地面から姿を現すガゼフの戦士達。 その姿は、墓から這い出てくる古いゾンビ映画を思い起こさせる。 ニグンは倒れた姿勢のまま、辺りを見回し…… 何故、どうやって近付いて来たのか理解する。

 

「穴だッ! こ…こいつらッ! 穴を掘って近付いて来やがったッ!」

 

 魔力切れを起こしているニグンの部下は、地面から這い出てきた戦士達に、首に剣を突きつけられ無力化されていた。 援護は期待できない。 元より、使()()()()()MPで戦うニグン達と、()()()()()()HPで戦うガゼフ達では、此処から部下達が独力で巻き返しを図るのは不可能であった。

 

「ふぃ~~ つっかれたぜぇ~~ッ! なにぶんこの距離だからよぉ。 ズゥ~~ッと腕振りっぱなしで肩がこっちまったよ! 空間ごと削り取ってっからよぉ 掘った土の捨て場所も、空気の心配もしねーでいいっつーのはいいんだがなぁ…… 1人でここまで掘ったんだぜぇ?」

 

 億泰が、心底疲れたといった表情で深呼吸する。 左手で肩を揉んだり、肩の関節を回したりしてコリをほぐすような動きをしていた。 そして、急に真顔になった億泰。

 

「おれは頭ワリーけどよぉ~~……… 兄貴から(おそ)わって歴史だけは得意なんだよ。 2500年くれー前の中国っつー国に『孫子』っつー兵法書があってよ。 こう書かれてんだよ。 『勝利というのは 戦う前に 全て すでに 決定されている』」

 

 少しずつ億泰の表情が崩れ、笑うのを(こら)える様な顔になり……

 

「つまりだなぁ……… 説明すっとよぉ……… 戦う前に 敵に気付かれねーよーに、いろんな作戦を練っとくんだよ!! おめーは策を考える頭が俺達よりバカって事だなぁ   ッ!!」」

 

ギャハハハハ!

 

 自身の頭を指差し、皮肉に満ちた表情で大笑いした。

 

「うぬぬう…… き、貴様……ッ」

 

 血走った眼で億泰を睨む。 背後に、ゆっくりと近付く1人の気配を感じ、振り向く。 そこには歩いて近付いて来た承太郎が立っていた。

 

「俺からも、孫子から1つ教えてやろう。 『兵は詭道(きどう)なり』 戦いとは詭道(きどう)!(あざむくこと) 敵を怒らせて心を動揺させれば、その力に隙が生じる。 と、いうことだぜ……」

 

 ニグンはそこで初めて気が付く。 ずっとイライラしていたのではなく、させられていたのだと。 挑発的な言動はわざとだったのだと。 思考能力を低下させられ、撤退の手段を封じられていたのに、今頃気が付いたのだ。

 

「そして…… ニグン。 お前には致命的な弱点があるぜ。 『口で命令』しなければ、スタンドに攻撃させられないという弱点がな。 数瞬、タイムラグがあるんだよ、お前にはな」

「謙虚に振舞って、さっさとトドメを刺せ。 それを怠った事がお前の敗因だ」

 

 そして…… 完全なる敗北を知る。 無傷で立っているガゼフと承太郎の姿を()の当りにして。 せっかく減らした2人のHPが、何らかの方法により全快してしまった事を悟った。

 

 

 

    だが。

 

 

 

 うつむき、顔を手で押さえた下で、口角を邪悪に歪める。

 

(まだだ…… まだ終わってはいないッ! こいつらは、思念で天使に命令を下せる事を知らないッ!)

 

パキィィイイン   

 

 突然、巨大な天使が持っていた笏が涼しげな音を響かせ、硝子のように粉々に砕け散った。 巨大な天使自身が放つ光をキラキラと反射しているその破片は、巨大な天使の周囲を衛星のように、土星の輪のように、ゆっくりと旋回しだす。

 

(奴らが1箇所に集まっている今が好機ッ! ()()()善なる極撃(ホーリースマイト)を打ち込み…… 一網打尽にしてくれる!)

 

 ヘラヘラと、虚ろな表情で笑うニグン。

 

「フ…フハハハハ…… 最後の最後でヘマをしたな…… こうなっては最早俺でも止められん!」

 

 その濁った双眸は、完全に狂気に取り付かれていた。

 

「スデに勝った気でいたなッ! それがお前の…敗因……だ?」

 

 最後に慌てふためくガゼフ共の顔を拝み、法国の神官に蘇生されるその日までの手土産にしようと、俯いていた頭を持ち上げた…… が。

 

「ン! そうだったな…… まだ1匹残っていたんだったか……」

 

 何も問題が無いかのように、5人全員涼しい顔をしていた。 危機感など、微塵も感じていなかったのだ。

 

「な… 何故だ! なぜそんな落ち着いていられるッ!  魔神の1体を単機で打ち滅ぼした伝説の存在だぞ!? 絶対にお前らなどに打ち倒す事も、善なる極撃(ホーリースマイト)を防ぐことも出来んッ!!」

「ブッ倒す? オレはよぉ   ブッ倒すなんてことはするつもりね―な……」

 

  キラッ   キラ キラッ

 

 仗助のスタンド<クレイジー・(ダイアモンド)>の右手には…… 光を反射する水晶の欠片が握られていた。

 

「逆だよ逆。 治してんだよ…… この水晶から出てきたっつーんならね……」

 

 ビデオを逆再生するかのように集まっていく水晶の欠片。 それに吸い込まれ、小さくなっていく<ドミニオン(威光)()オーソリ(主天使)ティ>

 

 昼間のように明るかった丘は、夜の闇を取り戻し、正しくあるべきへと戻った。 最大の切り札は…… 仗助の能力により、呆気なく無効化されたのだった。

 

 完全な状態まで怪我が癒えた承太郎が、眼にも止まらぬスピードで<スタープラチナ>を出現させ   

 

ドグシャァッ!!

 

 ニグンを真上へ蹴り上げた。 天高く上昇し、錐揉み回転しながら落ちるニグンは  

「合わせろォォオオ!! 仗助ェェエエッ!!」

「了解ッス! 承太郎さん!」

 

 落ちた先が地獄であると錯覚したのだった。 だが、はたしてこれは錯覚だったのか。 この、加速度的に近付く2人の鬼。

 

 大理石の如く、曇り無き<クレイジー・(ダイアモンド)>の白き右の(かいな)  

 幾億もの星屑を抱える夜空の如く深い<スタープラチナ>の紫の右膝が  

 

 落下するニグンの肉体を正確に捉える。

 

「オォラァァアッ!!」 「ドララァァアアッ!」

 

 何十トンもの圧力を掛ける、プレス機に挟まれたかのように身体を潰されるが  <クレイジー・(ダイアモンド)>の能力によって、ニグンには()()()()が無い。

 

ボギャァァアアッ!!

 

 全身の骨が砕けた。 身体を伝わる衝撃と激痛がそれを教えてくれる。 しかし、瞬時に砕けた骨も、潰れた臓物も、瞬く間に治癒されてしまう。 両の拳を振り上げた2人の鬼によって、強制的に破壊と再生の渦にブチ込まれたのだった。

 

 

 

ドゴ   バゴ   ドゴ   グシャ   メキ   ドゴ   ドゴ   ズドッ   ドゴッ   メギ

                                            

    オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラァァア!!

    ド ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラァァアア    ッ!!

                                            

 ズドッ  ドゴッ  ドゴッ   ドッ   ドガ   ドグォ  バキ   バゴ   ドゴ   グシャ

 

 

 

 鏡のように寸分の狂い無く、正確に拳を打ち込んでいく。 眼にも止まらぬ拳速は、残像による錯覚によって、あたかも分裂したかのようだ。

 

「あああああがあああ  !! ぐあばああああ  !!」

 

 

ドグシャァッ!!

 

 

 燃えていた油も、木屑も、今ではすべて燃え()しとなり。 元通りの、星の光を邪魔する物など全く無い…… 満点の星空が、承太郎達4人の頭上に広がっている。 見事過ぎるその星の海に、見上げた仗助の表情が思わず綻び、承太郎へ話しかける。

 

「承太郎さん、見てくださいよ。 (星空が)スゲーッスよ」

 

 仗助の言葉に、承太郎は空をチラリと見るが、興味を失ったように首を振った。

 

「フン…… (極地のオーロラと比べて)全然大した事ね―な。 この程度なら、仕事中に何度も見ているぜ」

「もっとスゲーのを見たことあるんスか? 俺もいつか見れるッスかね―ッ!」

「ああ…… 元の世界に戻れたら、幾らでも(絶景を)見る機会はあるさ……」

 

 猿轡と、縄を打たれて捕縛されていく法国の特殊部隊に背を向け「あ~~! 疲れたぜェ~~ッ!」と、一人愚痴を零す億泰。 その言葉に、心底同意する3人は、休息を求めカルネ村へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

to be continued・・・




スリングって遠心力で投げるのだけど、鉄球使うのはゴムの張力使ったスリングショットだよね
どっちが正しいのかな

――没ネタ――

~忠犬クライム、ジョースター家に行く~

ラナー「紹介するよ。 クライムっていうの! 私の愛犬(意味深)でね、利口な猟犬なんだ」

ボギャァァ!!

ラナー「なっ! 何をするだァ   ッ! ゆるさん!」


すきなとこ:ラナーなら、若DIOに勝てる。 絶対勝てる。 すごく見たいです。

ボツりゆう:思いつくクライムネタって、ぜーんぶクライムが酷い目にあうやつばかりだ……
      どっちかってーと、ラナーと若DIOって同じような性格してるよね。

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