『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

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さらば愛しき主人よ の巻

 昂ぶった心が精神の沈静化により冷却され、妙に思考がクリアになったモモンガは、この奇妙な感覚には慣れそうもないなと思いつつ…… 顎に右手を当てて、シズから聞いた情報を分析する。

 

(原因不明の精神異常で、NPCが同士討ちし始めた…… そして、何者かの攻撃でスタッフ・オブ・AOGが破壊された?)

 

 PG(プログラム)で動作するNPCが、一人歩きしているのは有り得ない。 さらに、精神攻撃を無効化する特性や、耐性スキル、装備をさせている守護者達が混乱、又は狂戦士(バーサク)化させられるなど有り得ない。

 

(いや、杖の破壊の方が先だったか? ……うん? じゃあこの杖は、破壊されていないとおかしく無いか?)

 

 モモンガの左手には、無傷のレプリカが握られている。

 

 運営が狂っていると言われる、数多くの理由の一つにユグドラシルのとあるシステムの仕様上、神器級(ゴッズ)だろうがノーマルだろうが、一度破壊された装備は2度と元に戻らないと言うものがある。 装備破壊の攻撃や罠がフツーにあるくせに、だ。

 

 壊された装備を、高かろうと一部分でも直す課金アイテムを実装すれば、飛ぶように売れただろうに。 あのクソ運営は、(かたく)なに売り出そうとはしなかった。

 

(なーにが、覆水盆に返らずだよ。 変な所ばっかりこだわりやがってさ)

 

 モモンガは口には出さず、心の中で悪態を吐く。 だが、内心それもそうかと…… 納得もしていた。

 

 破壊された装備を直す、そんな便利な課金アイテムなんて実装すれば、敵の装備を破壊する事に特化した、ヘロヘロのスキルビルドが無駄になってしまう。 スライムという種族特性上、筋力が上がり辛い為、嫌がらせに特化したPVP特化スキルビルドなのだ。

 

 人的にも物的にも時間的にも、莫大なリソースを注入し、苦労して作成した装備を破壊してくるヘロヘロ。 その特徴的なスキルビルドのおかげで、ヘロヘロの姿を見ただけで敵対プレイヤーが逃げ出す程に、彼は蛇蝎(だかつ)の如く嫌われていたのだ。

 

(ペロロンチーノさんは、ヘロヘロさんのスキルを『装備だけ溶かす、都合の良い液体』と言っていたけど…… なんでだ? HPにほぼダメージが入らないんだから『都合の悪い』が正解じゃあ無いのか?)

 

 その後、姉の茶釜に殴られていたので何かしらの冗談だったのだろうか。

 

「シズよ。 この通り杖は無傷だが…… 本当にこの杖が破壊されたのか?」

 

 コクリと頷くシズ。

 

「彼に戻の状態に戻してもらった」

                  ゴ ゴ ゴ

 有り得ない。 と、モモンガは。 眼孔の闇に灯る、赤い炎を大きくさせ、瞠目する。

 

「まさか……!」

 

 本当に彼等は、本物のスタンド使いなのか。

                  ゴ ゴ ゴ

 そしてこの訳の解らない状況は何なのだ? 視界に映っていたHUDは、いつの間にか消えていた。 いくらモーションコマンドを入力しても、GMコールが繋がるどころかコンソールすら開かない。 おそらく、これではログアウトも強制終了も不可能だろう。 そして何より不思議なのは、シズの言葉を信じればだが…… モモンガは、3日も意識を失ったままだったと言う事だろう。

 

「おい…… 何でオメーは承太郎さんの名前を知ってんだ? 敵なのかよオメーはよぉ~~」

                  ゴ ゴ ゴ

 一人で考え込んでいたモモンガに、仗助が誰何(すいか)した。

 

「……あなた達は、本当にあの?」

「……オメーの言ってる『あの』ってのが何なのかは知らねーけどよぉ~~」

 

 ふん、と仗助が軽く鼻を鳴らした。 胸をそらしつつ、唇を突き出すようにしながら言う。

                  ゴ ゴ ゴ

「その杖を直したのは俺達だぜ。 頼まれたからな…… それでよぉ~~ オメーの質問に答えたんだから、俺の質問にも答えろよコラ」

 

 どうやら、迂闊に承太郎の名前を口にした所為で、モモンガに敵意があるのか疑われているようだった。 シズ(みずか)ら、モモンガの足元で臣下の礼を執っているので確信が持てず、図らずも膠着していたのだ。

 

 だが。  モモンガに、言葉を濁して答えない選択は無い。 スタンド使いの一人、虹村億泰は、かつてのギルドメンバーやまいこのような性格をしている。 このまま煮え切らない態度をとっていれば、もしかしたら…あの脳筋教師のように「一発殴って見ればわかるかも」とでも言い出しかねなかった。

 

 当然、モモンガは殴られたくは無いし、削られたくも無い。 痛い思いなんてまっぴらだ。 なので  

 

 「い、いやいやいや!」

 

 手をチョップの形で突き出し、パタパタと左右に振る。

 

「昔読んだ本に書いてあって! それを思い出したときに、思わずポロっと言ってしまっただけで!」

「本って…何の本なんだ?」

                  ド ド ド

 ギクリ。

 

 モモンガは 言葉に詰まる。 ケツの穴にツララを突っ込まれたような、気味の悪い寒気が襲う。 正直にマンガの本ですと言っても、絶対に信じてなどくれないだろう。 必死で頭を働かせ、何かヒントになる物は無いかとあたりを見渡す。 そして、承太郎へと目が止まる。

 

(    !!)

 

 モモンガの脳裏に、一筋の光明が射す。 これだ、これしか無い! と、モモンガはそれに飛びついた。

                  ド ド ド

「ろ、論文…… とか?」

「……そーかよ。 まぁ、モノスゲー未来っつーんなら…… 有り得なくはない…かもな」

 

 よっしゃ! と言いたくなったが、ぐっと堪える。 まだ、仗助の表情から半信半疑なのが見て取れるからだ。

 

(そーいやぁ承太郎さんが、ヒトデの論文を書いてるっつーのを聞いた事があるぜ。 もしかしたら、それを読んだのかもしんねーな)

                  ド ド ド

 仗助の質問が途切れたのを見計らい、承太郎がモモンガへ「私からもいいか?」と話しかけた。

 

「あ、はい。 どうぞ」

「先程呼ばれていた『モモンガ』という名前は、何かしらのコードネームか渾名(あだな)だろうか?」

「あ…いえ、それは違います。 モモンガはキャラクター名でして。 コードネームなんてそんな…… 中身はただの、鈴木 悟っていう会社員です」

「…………? よく、理解出来ないのだが……」

 

 ガイコツ姿の恐ろしい外見とは裏腹に、受け答えの端々(はしばし)に見える『普通の人』っぽさ。 最初の印象とは真逆の、なんというか『人の良さ』が滲み出ていたせいだろうか? それとも、見た目とのギャップのせいだろうか? 1発目の台詞を思いっきり噛んだ際に流れた、緩い空気が更に緩んで行く。

 

「何故そのような姿になったのか…… 聞いてもいいか?」

「え、ええ。 実は、自分でも今の状況がよくわかってないのですが……」

「それでも構わない。 知っている事は何でも話してくれ。 どうやら、私達と似たような状況に(おちい)っているようだ…… 何か、力になれるかもしれない」

「ええと…… 僕はさっきまで、ゲームを…… あっ、ナノマシンを使った、YGGDRASIL(ユグドラシル)ってタイトルの『没入型 大規模多人数通信(DMMO) RPGゲーム』なんですが」

 

 ナノマシン。 未来科学と言えばコレ。 と言っても、過言ではない程メジャーな技術。 それが…… さも当然のようにゲームという遊戯に取り入られていると、モモンガは語る。

 

 いきなり出てきた超科学の単語に、高校生三人は沸き立った。

 

「おおっ! ナノマシンだってよ億泰! スゲーよな、未来の科学ってヤツはよぉ~~ッ!」

「お、俺にはムツカシー事はわかんねーんだがよぉ。 いったいなんだよ…その、何マシンって?」

「ナノマシンだよ、億泰君! 眼に見えないくらい小さい機械を身体に入れて、ガンとかの病気を治しちゃうんだよ!」

「ヘェ~~ッ、未来ってスゲーんだなぁ」

 

 ……話に全く付いて行けないガゼフを置き去りにして。

 

 ナノミリメートル   10のマイナス9乗(0.000,000,001)の大きさ。 このサイズの機械を作り、直接体内に注入するという技術を、一塵大の機械(ナノマシン)という。 癌細胞『だけ』に抗癌剤を直接吹き付けたり、サイエンス・フィクションの作中では、ナノマシン同士が結合。 あたかも、生命体の細胞のように振舞(ふるま)ったりする…… という物もある。

 

 細菌やバクテリア以下、ウイルス(10~100ナノミリメートル)サイズの機械を作ることは不可能だ。 という意見もある。 だが、現状ではリソグラフィー技術(3Dプリンターのようなもの)を用いて製造し、歯車からモーター程度の機械的部品の試作に成功している。

 

 ちなみに。 ウイルスは増殖する際に、他の生物の細胞内に取り付く事が必要だ。 自己増殖が出来ないので、ウイルスは生物学的に、生命とはみなされていない。 天然のナノマシンだと表現する者もいる。

 

 彼等が驚くのも、無理も無い。 仗助達が生活していた1999年では、情報通信技術がこれ程まで発達するとは予想すらされておらず、例えば、スマートフォンどころかインターネット技術も未成熟だったのだ。

 

 彼らが生きていた1999年は、ようやく携帯電話からのインターネット接続サービス(携帯電話IP接続サービス)が開始された頃だ。 それからたった8年が経過した2007年に、Apple社の最高経営責任者(CEO) 故スティーブ・ジョブス氏が、高機能携帯電話(スマートフォン)のiPhoneを発表した。

 

 事実は小説よりも奇なりと言おうか。 科学技術は、予想を超えるスピードと方向性で進化していく。 近未来を題材にした過去のSF作品で、スマートフォンの登場・発達・普及を予想できた者はいただろうか? 様々な巨匠が未来を予想し、(えが)いてきたが、この、ただの板にしか見えない端末を1人1台持つ未来が来るとは…… 誰も予想できなかった。

 

 勝手に騒ぎ出す高校生に遠慮してか、モモンガは話を先に進めて良いのか迷う。 それに気付いた承太郎は「気にするな」とモモンガに告げる。

 

「その…… ナノマシンを使ったゲームが、これとどう関係するんだ?」

「え、ええ。 このゲームも、サービス終了が決まっちゃいまして    

 

 モモンガは、話し始めるうちに少しづつ…… 饒舌(じょうぜつ)になっていった。 自分で考えていたよりも、寂しかったのかもしれない。 まるで老人の思い出話のように、モモンガの話は留まる事を知らなかった。 そして……

 

「それで、ここ…… ナザリック地下大墳墓って言うんですが、最初のギルドメンバーの9人の内の1人。 弐式炎雷さんが、1人でナザリックを見つけて来ちゃったんですよ!」

「モンスターだらけの沼を、1人でですかァ~~!?」

「仲間を呼ばれる前に1撃死させれば問題は無いって。 頭おかしいですよねー」

「いやー、ゲーム廃神って人はブッ飛んだ人が多いから。 おもしろそうだなぁ…… 僕もそのゲームやりたくなってきましたよ!」

「ハハハ。 サービス終了しちゃいましたけどね。 あとナノマシンの注入と、端末に接続するために手術が必要ですよ」

 

 聞き手の康一が、興味津々と言った様子で。 相槌(あいづち)を入れたのも、モモンガの話に拍車を掛けたのだった。

 

「でもまぁ、ヘロヘロさんを呼び止めなくって良かったと思います。 もしかしたら、ヘロヘロさんも閉じ込められていたかもしれませんし。 もしそうなったら、なんと言って謝ったら良いか……」

「サトルさんはよぉ~~ 元の世界に戻りてぇーって思わねぇーんスか?」

「うーん…… どうでしょう? 戻ったって恋人も家族もいませんし…… 孤児なんですよ、僕」

 

 実は年上だったと知り、微妙な敬語で質問した仗助の表情が。 (マジぃ、ヤベェ事聞いちまったかなぁ)と、曇る。

 

「ああ、そんな(たい)したことじゃあ無いんですよ」

「ハァ!? え…な、なんでッスか?」

「あまり珍しいことじゃあ無いんです…… 僕の居た時代は。 環境汚染が進みすぎてしまって、強化人工心肺化の手術とマスクが無いと…… 外にも出られない始末でして」

                  ゴ ゴ ゴ

 表情が凍りつく。 気楽に話すモモンガと、側で姿勢を正した状態で待機するシズ   元から無表情だが   を除いた全員が。

 

 星の汚染によって、文明が滅びかけているだと? 何だ…… その、メソメソとした夢の無い滅び方は。 これじゃあまるで、自分が垂れたクソが溜まった…… 「肥えだめ」で溺れかけているネズミみたいじゃあないか。 人間はそこまで愚かだったのか。

 

 それならまだ、愛で空が落ちてきて世紀末になったとか。 とある石油掘削員が小惑星の破壊に失敗して、地球に衝突して破壊されたとか。 そんなフウな、パッと燃え尽きるような滅び方の方が、まだマシだ。

                  ゴ ゴ ゴ

「だからですかねぇ…… 結構居心地いいんですよ、この身体。 暑くも寒くもないし、眠くもならない。 僕の知ってるアンデットと同じ性質を持つなら、一々あのクソ不味いペースト食も食べる必要は無いですし、疲れ知らずなのでノンストップで山登りも出来ちゃいます」

 

 そういえば、会社の上司が「昔は綺麗だった」とか「山の頂上から見る景色は最高だぞ」とか、聞きたくも無い自慢話をしてきた事があった。 だが、当時はブ厚いスモッグに覆われて、景色なんて見えるハズが無かったし、山登りなんて強化人工心肺に多大な負荷を掛ける娯楽なんてもっての他だ。 レンタルだし。

                  ゴ ゴ ゴ

 それになにより、生まれてこのかた一度も自然に触れた事の無かったモモンガは。 ゲーム内では上ったことがあるが、リアルでの山登りなんてものに…… 全く興味が沸かなかった。

 

「……成程。 つまりゲームの終了と共に、鈴木君はこの世界に飛ばされてきた…… 体感的には、ゲームの中に閉じ込められた。 と、言う事か。 災難だったな」

「承太郎さん…… コイツぁ~もしかして…… 吉良の野郎の能力のせいじゃあないッスかね?」

「……そうだと言えない所が、もどかしいな。 吉良と鈴木君の接点が無い。 此処に岸辺 露伴(きしべ ろはん)川尻 早人(かわじり はやと)が飛ばされてきていない以上、ヤツは私達4人『のみ』を狙ったハズだ」

                  ゴ ゴ ゴ

 モモンガが話す、予想外の内容に驚きつつも。 現状を把握する為、情報を噛み砕き考え込む2人に。

 

「あの…… どうして此処へ来たのか、聞いてもいいですか?」

 

 モモンガが沈黙に耐えかねたのか、承太郎へ質問した。

 

「私達は『吉良 吉影(きら よしかげ)』という殺人鬼を追っていたのだが…… その男の『バイツァダスト』という能力で、どうやらこの世界へ飛ばされてきてしまったようだ」

「ああ、スタンド能力ですか」

「……よく知っているな」

  ! わ、私の友人に詳しい人がいて! 聞いてただけで、そこまでよく知らないんですけど! そ、それで『この世界』って何ですか?」

 

 慌てるモモンガに疑問を(いだ)きつつも、承太郎は片眉を上げただけで流す。

 

「先程までは『未来の地球』だと考えていたが…… どうやらその線も怪しい。 ナザリックと言ったか…… この巨大建造物を地下ごと飛ばす、なんてナンセンスだ。 何か目的があるならば、鈴木君のみを狙えばいい話だからな……」

「え? じゃあ地上は、毒の沼に覆われて無いと?」

「そうッスよ。 丘も谷も無い、ただの平坦な草原だったぜ」

「……草が鋭く凍っていて、歩くたびにそれが突き刺さる。 とか……」

「なんスかそれ。 ゲームじゃぁ無いんスからよぉ~~ そんなことあるワケ無いッスよ。   第一、そんな地形だったら此処まで来れねぇッス」

 

 それもそうだと、納得したモモンガは。 それと同時に、自分の置かれている状況が逼迫(ひっぱく)しており、最早YGGDRASIL(ユグドラシル)というゲームの世界ではないと。 そう、理解せざるを得なかった。

 

 アンデットの種族特性のおかげか。 奇妙に思える程、思考がクリアで落ち着いていられるのに、モモンガが不幸中の幸いだなと胸を撫で下ろしていると。

 

「随分とよぉ~~」

 

 億泰が、両手を頭の後ろで組みながらモモンガへ話しかけた。

 

「落ち着いていられるんだなぁ。 スゲー肝っ玉が据わってるっつーか…… 覚悟があるっつーか…… 感心しちゃうぜェ~~」

「あ~~っと…… どうやら、この身体…… 死の支配者(オーバーロード)って種族なんですが、精神作用無効の特性が効いているらしくって。 驚いたりすると沈静化するんですよ」

「ずっとクールでいられるっつー事かよ。 うらやましいぜ」

 

 驚いた表情で感心する億泰に、ハハハと笑うが。

 

(良い事ばっかりじゃあ無いのがなぁ……)

 

 喜んでいいものかと、悩ましく思うモモンガ。

 

 思い出話に花を咲かせている際、何度かこの沈静化が起こった。 焦りや怒りで我を忘れる心配が無い、というのは…… 何者かに攻撃を受けた状況では、喜ばしく思う…… が。 楽しかったりした時でも発動するのが、非常に不快だった。

 

「しかしよぉ~~ サトルさんが、NPC? の争いに巻き込まれなかったのは奇跡ッスよ。 今までずっと気絶してたってんだからよ」

「いや、恐らくは…… だが」

「……?」

                  ド ド ド

 承太郎が指差す、床に視線が集まる。

 

「鈴木君が座っていた玉座だが…… 不自然な程、無傷だ。 誰かが妨害した…… ()しくは、護っていたのだろう」

 

 承太郎の視線が。 白い布の包みに注がれる。 玉座の傍らに寝かされている…… 女性の遺体へと。

 

「……アレ、は? 一体、何です……か?」

「…………」

 

 承太郎は顔を伏せたまま答えず。 やがて、恐る恐る…… モモンガが布の端を持ち上げ    

                  ド ド ド

    !!」

 

 絶句した。 名状しがたい、複雑な感情が湧き上がり…… 沈静化する。

 

「ア…… アルベド……」

 

 辛うじて、だが。 彼女の名前を口にするモモンガ。 ヨロヨロと、彼女の横で両膝を着く。

 

「勝手に調べさせてもらった…… 申し訳ない。 死因は鋭利な刃物による裂傷、それに伴う失血だ。 背後に怪我が無く、前面に裂傷が集中している点を考慮して……  自らを犠牲に、鈴木君の命を護ったのだろう」

                  ド ド ド

 何故、こんな僕の為に。 ましてや、命まで失って。 動揺するモモンガには理解不能……   いや、見当は付いていた。

 

(アルベドの設定を…… 変えたからだ……ッ!)

 

    僕のせいだ。

 

 強く、強く。 骨の拳を握り締め。 歯は、食いしばり過ぎてギリギリと音を立てた。 後悔と、不意打ちで襲ってきた誰かへの怒りが。 心の中で、嵐となって渦巻いた。

 

「生きていたら…… 俺の<クレイジー・(ダイアモンド)>で治せたんだけどよ……」

 

 唇を。 血が(にじ)む程噛んだ仗助が、申し訳なさそうにモモンガへ謝罪した。

 

「い……いや、違う! NPCなら…金貨で復活出来る……!」

 

 モモンガはまだ、取り返しが付くことに気が付いた! まだ、助ける方法があることに気が付いた! 宝物庫にある金貨5億枚と、スイッチの役目のギルド武器があればッ!

 

 唯一、たった1つ残された! 一筋の希望! 左手に持つ、ギルド武器へ視線を移し   

 

    !! そうだ、ギルド武器……! 本物は円卓の間に飾っておいたままだ!」

 

ガバァアッ!!

 

 『本物』の、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手中に収める為。 勢い良く立ち上がったモモンガは。

 

「<飛行(フライ)>!」

 

 無意識に、さも当然のように。 手馴れた様子で、飛行の魔法を発動する。 無我夢中だったのか、異世界で魔法が使えるのか実験すらしていないと言うのに。

 

ドヒュゥ  ッ!!

 

 瓦礫で塞がった、足場の悪い室内を一直線で飛び越え。 モモンガは巨大な扉を越え、円卓の間へと凄まじいスピードで向かっていった。

 

「待ッ  ! ヤベェッ!! サトルさん1人で行っちまったッスよ!」

「しくじった……! 非常に理性的だったので、油断した……ッ! 私のせいだ! もっと慎重になるべきだったッ!」

 

 こんな殺人鬼がいるような部屋に居られるか! ワシは部屋に戻るぞ!

 

 こんな台詞を吐き捨て、たった一人で自室に閉じこもった人物がたどる運命は。 殺意を持った襲撃者に襲われ、無残に命を散らすだろう。

 

 いきなり去って行った、モモンガの突出した行動に出遅れた一同は、慌てて後を追う。 まだ、ナザリック内が安全だと確認していない現状、モモンガを1人にするのは危険過ぎた。

 

 モモンガの後を追うシズに遅れること数秒。 承太郎達は、シズの小さな身体を見失わぬよう、尋常ならざる身体能力で走る後ろ姿を、必死で追ったのだった。 

 

 

 

 

to be continued・・・




SF書くのってスンゲーむずかしいのさ。

そして、今の所モモンガさんがやられっ放しだ
だが今は試練の時! 耐えるんだモモンガさん!



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