『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

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荒木先生「主人公は、常に勝って終わるのがベストだぞ」
    「連載開始当初はDIOにやられっぱなしで、アンケートで人気があまり出なかったぞ」
    「常にプラス方向で終わるのがコツだぞ」

わかってはいたんだけれどねぇ……
モモンガさんが謎の敵に一方的にやられてるのは、見たくないんだろうなって。
だけどストーリーの流れ上、仕方が無いのよこれはぁ~~っ!
モモンガさんの意識を「お前を殺すのに罪悪感無し!」って方向に持っていかないといけない。
「こんなヤツなら、モモンガさんに殺されても当然だ」って読者が思えないといかんのよ。

殺すにも、殺されるのにも理由が要るんだよなぁ……


超越者は二度杖を鳴らす の巻

                  ゴ ゴ ゴ

 モモンガ……いや、鈴木 悟の心には恐怖があった。

 

 ユグドラシルではPVPなど日常だった。 やって、やられて、やり返して。 全盛期の、勝ちまくっていた頃なんて…… 何十通の罵詈雑言(ラブコール)が綴られた電子メールが届くなんて、当たり前だった。

 

 だが…… 今は現実。

 

 模倣現実(ヴァーチャルリアリティ)などではなく、少しのミスが敗北に…… 即、死に繋がるのだ。

                  ゴ ゴ ゴ 

 目を閉じ暫くして、異変に気付き開いたら。 味方のハズのNPC達に囲まれて「こんにちは死ねェ   ッ!」と、なっていた可能性もあったのだ。

 

 円卓の間へと飛ぶ。 そして、何度かの沈静化を経て、ようやく冷静さを取り戻したモモンガは罠と奇襲を警戒し、飛行を解除して早歩きで向かう。 ……焦る心を抑え付けながら。

 

 NPCを配置していなかったからだろう。 赤い絨毯の敷かれた通路は、無傷の状態を保っていた。 やがて円卓の間へたどり着き、走り出す寸前の勢いをそのままに、荒々しく扉を開く。

 

ドグァァアアン

 

 開ききった扉が、勢いを殺しきれずに壁に打ち付けられ、轟音を響かせた。 普段のモモンガならば、こんな行儀の悪い行いなどしないだろう。 だが、今現在の、余裕の無い精神状態では、外聞(がいぶん)()(つくろ)う余裕など存在しなかった。

 

「ハァ…… ハァ…… ハァ……」

                  ド ド ド

 アンデッドの体は、酸素など求めていないというのに。 鈴木悟の残滓(ざんし)が…… 肉体があった頃の記憶が……

 

 名残(なごり)が。

 

 モモンガに呼吸を強要する。

 

「う…… うう……ッ!」

                  ド ド ド

 円卓を挟んで真正面に飾られているハズの、ギルドの象徴は。

 

「ク、クソッ……! 一体、誰が…… こんな……!」

 

 山吹色に、燦然(さんぜん)と輝いていた過去の栄光は。 

 

「くそォォッ!! この『敵』ッ!! 絶対にブッ殺してやるぅぅぅぅゥゥ      ッ!!」

                  ド ド ド

 現在のナザリックを体現するかのように、その身体を恥辱と屈辱に濡らしていた。

 

「うわあああああああああああああああああ!!」

 

 深く深く刻まれた、縦に走る一筋の亀裂によって。

 

 

 

 

 同時刻、9階層ロイヤルスイート通路。

 

「今の声はッ!」

 

 <エコーズact1>の優れた聴力を、レーダーのように使っていた康一が、モモンガの叫び声を鋭敏(えいびん)に感じ取る。

 

 先行するシズに導かれ、開かれたままの扉を(くぐ)った仗助の眼に映ったのは…… 亀裂の走った杖を前に、両膝を屈し拳で床打つモモンガの姿。

 

(金の杖! コッチが本物だったのか! これがねーと、白い服を着ていたアルベドって人を、蘇生できねーんだな!)

 

「大丈夫だ、サトルさん! 俺の<クレイジー・(ダイアモンド)>なら、消滅していない限り直せるぜッ!」

 

ガシィッ!!

 

 仗助のスタンドが、白い腕で杖をしかと掴む。

 

「そして<クレイジー・(ダイアモンド)>ッ! 依然問題無く!」

 

 そして、発動させた癒しの力は、仗助の精神力をパワーに変えてスタンド能力を発揮  

 

ズギュン!

 

「う、うおおおッ!? な、なんだこりゃあッ!」

 

 すると同時。 <クレイジー・(ダイアモンド)>の姿が、まるでミイラのようにやせ細る。

 

「す……()()()()()()ッ! パワーが…… スタンドパワーが! ううっ…… で、()()()。 そんな感じだ……! まるで真っ二つに割れちまった地球を直してるみてーだ!!」

「手を離せ仗助ッ! スタンドが消滅してしまう!」

「そうです! 仗助さんが、ここまでするメリットなんて無いはずです!」

 

 異変に驚き、承太郎とモモンガが肩を掴み止めようとするが。 仗助は、震える手で振り払い。 それでもなお、裂けた杖にスタンドパワーを注ぎ込む。

 

「い…いや…… もう少し…ッ!」

 

 自分自身。 存在そのものと言ってもいいだろう『それ』が削られていくような感覚が、仗助の心を襲う。 そう、まるで巨大なプールを、小さな水道から引いた水で満たすような感覚だった。 注いでも注いでも、一向に見えない終わり。

 

    !! そうか……理解したぜ……ッ! シズちゃんを直す時、スゲエ時間かかったのは…… LV差があるからだ! ガゼフのおっさんが、承太郎さんのスタープラチナに脇腹殴られてブッ飛ばされず、痣だけで済んだのは…… LV差の所為だ!」

 

 やがて、その『感覚』と、モモンガとの会話で知り得た『知識』が…… 点と点が、1本の線へと繋がった。

 

 そして気付く…… 事態の深刻さに。 スケールの規模に。 この世界は     

 

「……これだ! 今まで感じていた、違和感の正体は…… これだッ!  魔法だけじゃない…『この世界』ッ! ()()()()()()()()()()()()()()()()! 物理法則のように底の底まで!」

 

 ()()()()()()()()()と。

 

グラリ

 

 仗助の身体から力が抜け。

 

ドグシャァァアアッ!!

 

「い、いかん! 仗助殿ッ!」

「仗助君!」

「おい仗助ェ!」

 

 倒れこむように、身を床へと投げ出した。 仗助の身を案じる声と同時、モモンガは仗助を助け起こす。

 

 大量に精神力を使い、見事。 ギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを、元の状態に戻す事に成功した仗助。 への字に曲がった口からは「疲れた」を連発し、ゴールしたてのマラソンランナーのように息は荒く、四肢を投げ出し動こうとしない。

 

「なんでそこまで……!」

 

 利がないだろうと困惑する、モモンガの顔を見て仗助は薄く笑う。 疲労と倦怠感によって、泥のように感じられる身体を小刻みに揺らしている。

 

「さあな…… そこん所だが、俺にもよくわかんねーぜ。 俺がそうしたいから、そうした。 ただの、それだけだぜ。 …………なぁ、サトルさん。 何故っつーんなら逆に聞くがよぉ……」

 

 イタズラが成功した子供のように、ニカッと白い歯を見せ笑顔を浮かべると。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

  !!」

 

 理由の有り無しなんて、些細なことだと笑い飛ばす。

 

 あっけに取られ、口を開いたまま固まるモモンガ。 その背後で、後先を(かえり)みない仗助の行動に、承太郎が深い嘆息を吐いた。

 

「休憩を挟みながら、何回かに分けて能力を発動させれば済む事だろう」

「…………あ~~」

 

 今頃気付いたのか、との承太郎の言葉に仗助は、眼をそらし表情を引きつらせ、苦笑いをこぼしたのだった。 

 

「……ぷっ、くっ     あははは!」

 

 突然室内に、楽しげな笑い声が響く。

 

「い、いやすみません…くっくくく…… 同じ事を、仲の良かったギルドメンバーの人も言っていたなって     思い出しちゃいまして」

 

 モモンガの感情は、残念ながら途中で抑制された。 それでも、ジリジリと燻るような気分の良さは少しだけ残っていた。

 

 鼻歌のひとつでも歌いだしそうな気分の中、右手を虚空へと手を差し込んだモモンガ。

 

ズッ  

 

 手首より先が闇に消え、再び現れた指先に。 赤い水薬(ポーション)の入った、ガラス製の小瓶が(つま)まれていた。

 

「回復薬です。 効くかどうかは5分5分ですが、無いよりマシでしょう?」

「おおっ、気が効くぜサトルさん。 しかし…ク、クスリかぁ~~っ! やっぱよぉ~~…… 『良薬口に苦し』だよなぁ……」

 

 大理石の床の上に胡坐(あぐら)を書いた仗助は、カルネ村で産地直送された薬草を思い出し、眉間にシワを寄せる。

 

 「色は赤いし、シャバシャバしてんな」と、仗助はモモンガから受け取った小瓶を振って、チャプチャプと音を立てたり。 「……あのキッツイ匂いはしねーのか」と、ガラス製の栓を抜いて、匂いを嗅いだりしてモタついていたが……

 

 やがて覚悟を決めたのか。

 

グイィィッ!!

 

 仗助は眼を閉じ、一気に薬を(あお)咽喉(のど)の奥へと流し込む。 一瞬、胃から発生した熱が、カァーッ、と身体全体を熱くしたかと思うと、すぐにその熱は引いていく。

 

  おおっ!」

 

 変化は劇的だった。

 

 仗助は驚きに眼を見開き、感嘆の声をあげる。 見た目こそ変わらないが、全身の気怠さは全て霧散していた。 まるで「10時間熟睡して目覚めたような、モノスゲー爽やかな気分」だったのだ。

 

「どうやら効果あり…のようですね?」

 

 モモンガは満足げに頷く。 無意識的に魔法は使えたが、ユグドラシルのアイテムが、問題なく効果を発揮するのか一抹の不安があった。 どうやら、多少古くても問題なく作用する様だ。

 

「グレート! トニオさんの料理食った時みてーに、身体のワリーもん全部ブッ飛んだぜ!」

「それは良かった。 負属性のアンデットには、逆にダメージを受けてしまうので使い道がなかったんですよ」

 

 ユグドラシルにおいて、アンデットは負属性のアライメントに属する。 マイナスの数値にプラスの値を加えると、数値がゼロの値に近付いてしまうように、マイナスにはマイナス。 プラスにはプラスの効果がある行動を取らなければならないのだ。

 

 そして    深く傷付いたスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは……<クレイジー・(ダイアモンド)>の癒しの力を受けて。 色褪(いろあ)せた飴色(あめいろ)に染まった、41人の結晶は…… いつしか本来の輝きを取り戻し。 柔らかな光をその身に受け、ギラリと怪しく(きらめ)く。

 

「……よし。 それじゃあ、サトルさん」

   はい。 色々と借りが出来てしまいましたが…… お返しは(いず)れ、必ず」

「いーっていーって…… 見返りなんて、期待しちゃあいねーぜ」

「そう言う訳にも行かないのですよ。 『私がそうしたい』のですから、そうさせてください」

「……それじゃあ、あまり期待せずに待ってるぜ。 ほらよ」

 

 背伸びをし、立ち上がった仗助は。 もう一人の自分から、黄金の杖を受け取ると。 持ち手をモモンガに向け、差し出した。

 

 モモンガは左手で杖を受け取ると、感触を確かめるように握った手に軽く力を込める。

 

オオオォォォ……

 

 実際には、何も効果音等は出ていないが。 ギルド武器から立ち上った怨嗟(えんさ)の魂が…… 立ち上る漆黒のオーラが。 それを見る者の耳に、その咆哮を錯覚させる。

 

 コンソールやHUDは、隠れてしまって見えない。 それでも、自身のステータスがメキメキと上昇していくのが感覚で解る。 本物のギルド武器を手中に収めたモモンガは、左手の杖に視線を向けたまま、満足そうに数度頷くと。

 

カシイイィィン     

 

 鋭く尖った石突(いしづき)を床に打ちつけ、涼やかな音を響かせた。 深い貝紫の外套を(なび)かせ、堂々と黄金の杖を携えたその姿。 それはまさしく、王の誕生であった。

 

 ()くして、ナザリック地下大墳墓のギルド長…… モモンガの手に Ainz Ooal Gown は戻ってきたのであった。

 

 

 

 

 

 

「では、我がギルド…… アインズ・ウール・ゴウンの拠点、ナザリック地下大墳墓の守護者を復活させるため、宝物殿へ金貨を取りに行きます。 ……その前に」

 

 1本の杖に、2匹の薬師蛇(クスシヘビ)が螺旋状に絡みついた…… アスクレピオスの杖と言う、ギリシャ神話がモチーフの銀色の指輪をシズ以外に配る。

 

「この指輪を差し上げます。 これは装備者に、毒の完全耐性を与える指輪です。 必ず装備して下さい」

 

 階層守護者NPCなどに装備させている、毒や病気を無効化するアイテムとは違い、この指輪は毒無効の効果しかない。 課金で増やせる、指輪の装備枠に限りがある   実際にモモンガは左薬指以外全てにリングを装備している   上に、その耐性を貫通してくるプレイヤーだっている。 モモンガにとってこの指輪は、捨てるのも勿体無いなぁ~~くらいの物でしかないのだ。

 

「ありがとうサトルさん。 そして宝物殿……ですか。 『敵』が真っ先に狙いそうな場所ですね……」

 

 中指に装着しながら康一は、果たしてNPCを蘇生させられるだけのリソースが残っているだろうか? 待ち伏せされないだろうか? と、不安そうな表情を浮かべる。

 

 そんな康一の不安を払拭しようと、モモンガは努めて明るい声で否定する。

 

「大丈夫ですよ。 宝物殿は物理的に隔離された場所にあります。 この……」

 

 モモンガは、紅玉が()まったリングを、全員に見せた。 よく見ると、透き通った赤の向こうに、何らかの模様が見て取れる。

 

「ギルドサインが刻まれた、マジックアイテムの指輪が必須なんです」

「ギルドサイン……『家紋』の様なものですね」

「ええ。 そしてナザリックには転移を阻害する仕掛けが施されています。 リング・オブ・AOGを装備し魔法を発動させるか、指輪を起動させないと宝物殿へ進入できません。    ですが」

 

 視線を逸らし、少し考え込む仕草で言い淀む。

 

「宝物殿最奥には、私が作成したNPC…… パンドラズ・アクターが詰めています。 …………もし、戦闘になったら。 私が相手をしますので…すぐに離脱してください」

「加勢は必要ねーのかよ? サトルは一人で戦うつもりなのか?」

 

 モモンガは、億泰の申し出を首を振って否定した。

 

「パンドラズ・アクターはLV100…… プレアデスのシズですらLV46です。 LVの差が絶望的過ぎて、戦闘になったら一瞬でやられてしまうでしょう」

 

 とはいえ、まだ襲撃者が潜んでいるかもしれないナザリックで、5人に円卓の間で待機してもらうのは愚策だ。 とりあえず固まって行動し、自らの手で護衛する。 もしくは、隔離されている宝物庫で待っていてもらうだけなら安全だろう。

 

「なるほどよぉ~~。 足手纏いにならねーよーに、大人しく離れていた方が良さそうッスね。 サトルさんも、危なくなったら離脱するんだぜ」

「はい、十分警戒します。 では、()ず私が転移しますので、後で来て下さい」

 

 モモンガは振り返り、仗助達に背を向けると、手馴れた様子で魔法を発動させる。

 

「<異界門(ゲート)>」

 

 モモンガの目の前の、何も無かった空間に亀裂が走り。 亀裂は瞬時に楕円形に広がると、暗黒の渦が虚空に現れた。 あざ笑うハロウィンカボチャの口穴のように、暗黒の渦がガッポリ開いたのだった。 どんな豪胆な偉丈夫(いじょうふ)でも、一歩踏み出すことを躊躇してしまうであろうその穿孔に。 モモンガは、一片の躊躇無くその身を沈みこませる。

 

ズブリ

 

 身長2メートルを越すモモンガの身体は、呆気なく暗黒の穿孔に飲み込まれ、消えた。

 

「…………」

 

 たっぷりと十数秒待機し。 仗助が空間の亀裂を通り、ついつい閉じてしまっていた眼を開くと。

 

    す…すげえ……」

「床に直置きって…… いいのかよ……」

 

 無意識の内に、感嘆の声が漏れ出した。

 

 旭光(きょっこう)の様に眩ゆく輝く、数えるのも馬鹿らしくなる量の金貨、財宝、工芸品。 仰ぎ見る程高い天井に、届きうるかと思える程の量の財宝が、山脈の様に連なっていたのだ。

 

「雑然としていますが、此処にあるのはレア度の低いものばかりなので心配要りませんよ」

 

 次々と上がる感嘆の呟きに、モモンガは機嫌の良さそうな声で「もっと凄いアイテムが奥にある」と、言外に指摘した。

 

 目に痛いほど一面金色だが、この宝物殿表層にあるのは莫大な量の金貨だけではない。 眩しくて良く見え無いが、良く観察するとルーブル博物館に展示されるような、見事な美術品の数々が無造作に放り出されているのだ。 例えば黄金の食器、様々な宝石を埋め込んだ王笏、白銀に輝く獣の毛皮、つるりとした埴輪の頭    

 

「……ン? 埴輪の頭?」

 

 記憶にない物がモモンガの視界を(かす)め、思わず二度見する。

 

「……はぁ?」

 

 一瞬、何が金貨に埋まっているのか理解に苦しんでいた。    その時であった。

 

 なんと! 金貨の山が、モコリと盛り上がり! 出て来た長細い4本の指を、真っ直ぐに揃えた手で敬礼をしたのだ!

 

「ようこそおいで下さいましたッ! 我が創造主たる、モ・モ・ン・ガ様ッ!」

 

 

 

「お前そこで何をやっているんだパンドラズ・アクタ    ッ!

   行為はともかく理由(ワケ)を言えェェ   ッ!」

 

 

 

 自作NPCの常軌を逸した行動に、思わず声を張り上げたモモンガは、パンドラズ・アクターに、ビシィッ! と人差し指を突き出し、何のつもりだと問いただす。

 

 モゾモゾと、金貨の山から這い出して来たパンドラズ・アクターは、踵を打ち鳴らし再び敬礼をすると  

 

「マジックアイテムの山に身を滑り込ませ、圧迫されていましたッ!」

 

 オペラ歌手の様に、非常に良く通る声で「圧迫祭りです!」と。 さらに、胸に手をかざしたり振り上げたりして踊る様に話す。

 

「あれは、数日前の事でした…… 宝物殿奥にて待機する(わたくし)の心に、突如! 狂おしいまでの愛が! マジックアイテム愛が! 到来し・た・の・で・すッ! ……(わたくし)、辛抱堪らなくなってしまいまして。 引き止める心を振り払い、身体が勝手にマジックアイテムを求めてしまいました!」

「………それで、わざわざ此処まで圧迫されにやって来たのか……レア度の高いアイテムだと気が引けるから。 俺、そんなフウな設定にしてたっけ?」

「まさに! この気持ちはモモンガ様から頂いたものッ!」

「アッハイ」

 

 宝物殿の安全確認の道すがら、自慢もかねていろいろ紹介して行こうと思っていたのだが。

 

(う~~ 何だかなぁ……)

 

 出鼻を挫かれ、そんな気分ではなくなってしまった。

 

 ざっと見た所、モモンガの作成したNPC、パンドラズ・アクターが攻撃して来る様子は無い。 狂っているようには    設定通りと言う意味で    見えなかった。

 

「ところでモモンガ様。 宝物殿へはどのようなご用件で参られたのでしょうか?」

「ああ、お前は隔離されていたので何も知らないのだな」

 

 モモンガは右手を顎にやり、今の状況を整理しながら話し始めた。

 

「正体不明の敵プレイヤーに一瞬の隙を突かれ、ギルド武器を狙われたようだ。 間一髪の所で完全破壊は免れ、修復に成功したが……守護者達が犠牲になってしまった。 傷付いたナザリックを元の姿へと修復し、守護者達を復活させる為に、宝物殿の金貨が必要なのだ」

「なんと! 我らが栄光あるナザリックに楯突こうなどとは…… 笑止! 必ずや、然るべき報いを与えてやりましょうッ!」

「それで…… 今はどうなんだ? その、妙な精神の動きは」

 

 鬱陶しく動いていたパンドラの動きが、ピタリと止まる。

 

「それが……奇妙な事に、マグマのように熱く煮え滾っていた、愛が! 先程、急激に冷え込んでしまいました。 私にも何が何やら、見当すらつきません」

「サトルさん、これって……仗助君がギルド武器を直したタイミングと重なりませんか? 精神異常が現れたのも、武器が破壊されたタイミングです!」

 

(いや…… ギルド武器の破壊にそんな効果はないハズだ)と、康一の推理に納得しかねていると。

 

   ! ああっ、そうか……ギルティー武器……!」

 

 ガゼフが「ようやく思い出した」と悔しげに顔を歪め、額に手を当てた。

 

「子供を寝かしつける時に聞かせる、ただの寝物語かと思っていた……! まさか、あの伝説は事実だったのか!」

 

 全員の視線が、一斉にガゼフヘと注がれる。

 

「数百年もの昔、突如として現れた人智を超える力を持つ魔人が…… この世界に現れ、討ち倒されたと言う話だ。 その際に、ギルティー武器なる宝が破壊されると、魔人が狂い出し仲間割れをし始めた…… と、知人が言っていた」

「人智を超える力……ですか。 この世界の平均LVが分からない事には、どの程度なのか判断がつきませんね」

 

 考え込むモモンガの耳に、カツンと踵を打ち鳴らす音が聞こえた。

 

「モモンガ様! 私の見立てによると、彼は30LVでございます。 そして彼らは20LVに届くかどうかの値です」

 

 尚も続ける、オーバーな所作に。

 

(能力は優秀なんだけどなぁ……)

 

 パンドラズ・アクターを半目で    出来ないが    見る。

 

「……そうか。 王国最強の戦士が30LV前後と言うのならば、現地勢の脅威は低い…か。

 やはり警戒するべきは、他プレイヤーだな…… ご苦労だった、パンドラズ・アクター」

「ハッ! 恐悦至極にござ   

「ところで! ストロノーフさん。 その伝説を知っている、知人の方と話せませんか?」

   あ、い、いや…彼女はかなりのご高齢だった。 話を聞かされたのも、何十年も前。

 恐らくは……」

 

 力になれず、申し訳ない。 と、ガゼフは頭を下げた。

 

「そう……ですか。 いや、ギルド武器が修復されたなら、NPCの精神異常は解決された。

 それが判明しただけでも良しとしましょう」

 

 宝物殿最奥、武器庫の方角へと踵を返そうとしたモモンガの背に。 パンドラズ・アクターの呼び止める声が掛かる。

 

「モモンガ様。 不敬を承知で申し上げたい事があります。 よろしいでしょうか?」

 

 一歩踏み出そうとしていた足を止め、向き直ると。

 

「……なんだ?」

 

 と、短く返答した。

 

「ナザリック初の緊急事態なのでしたら、この私めも宝物殿を出て働くべきかと愚慮します」

 

 パンドラズ・アクターの提案は、グウの音も出ない正論だった。 モモンガは、しばらくの間パンドラズ・アクターを眺めていたが。 やがて決心したのか、虚空から取り出した指輪をパンドラズ・アクターに投げ渡した。

 

「おお……! これはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。 至高の御方のみに所持を許された    

 

 アイテムの事を語らせると、延々と話し続けるのでモモンガは片手を上げ黙らせる。

 

「持ち主の決まっていない予備だがな。 今から宝物殿最奥のワールドアイテムが保管された武器庫に、異常が無いか調べに行く。 私の身を護れ、パンドラズ・アクター」

 

 瞬間。 モモンガにもハッキリと感じ取られるほど、空気が変わった。

 

(まずい…… 早まったかもしれない……)

 

 指輪を握り締め、小刻みに震えるパンドラズ・アクターを見て、モモンガはそう思う。

 

 ピンク色の卵に、マジックで丸を描いただけの顔に喜色を浮かべ。 キレッキレの動きで踵を打ち、敬礼をすると。

 

我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)ッ!」

 

 モモンガの悪い予感通り、気合の入りまくった声でこう宣言したのだった。

 

 

 

 

to be continued・・・

 

 




モモンガの一人称は、仲の良いギルメンに対しては『俺』
パンドラに対しても『俺』で、独り言も『俺』
だけど余所行きとか、緊張している時とか、NPCに対しては『私』を使っているっぽい


――没ネタ――

~~山河社稷図が暴発して、閉じ込められました~~


モモンガ「時間経過で外に出られる流法(モード)ですね」
仗助  「なぁ~~んだ、じゃあゴロゴロしようっと」
億泰  「俺と同じリアクションするなぁぁああッ!」


すきなとこ:やっぱり親子ですなぁ ジョセフそっくりだわ
      
ボツりゆう:ラリホ~~っと、敵の攻撃じゃあないとただの事故じゃん

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