『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

23 / 27
流れよシャルティアの涙 の巻き

 宝物殿中層   セキュリティ・ゲート前 

 

「ナァァザリックの、ゥワールドアイテム保有数はァァアアッ!

 世ェェ界イチィィィ!! アインズ・ウール・ゴウンに不可能は無いィィイイ   ッ!!」

 

ビシィッ!!

 

(うっわ  ! だっさいわ  ッ!)

 

 自分が手掛けたNPCの、あまりにもあんまりな惨状に…… モモンガは内心で絶叫する。

 

 テンションメーターが、悪い方向に振り切ったパンドラズ・アクター。 そして、長い事アクセスしていなかった為、案の定パスワードを忘れたモモンガは、セキュリティ・ゲートを解除出来ずに、セキュリティーゲートを前に悪戦苦闘していた。

 

 全てのギミックに精通しているという設定の、シズに聞けば容易にパスワードを解除できるだろう。 しかし、モモンガはシズに頼らなかった。 アインズウールゴウンのギルド長として、自力で開けなければ成らないと言う、矜持によって。

 

「う~~ん、仕方ないか…… 『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ』」

 

 電源の入っていない液晶画面のようだった、黒くのっぺりとした壁。 モモンガの一言によって、白い文字が水底から浮かび上がるようにジワリと、ヒントが浮かび上がる。

 

 『Ascendit a terra in coelum, iterumque descendit in terram, et recipit vim superiorum et inferiorum』

 

 浮かび上がったアルファベットの羅列を見て、片眉を上げた承太郎がある事に気付く。

 

「これは…… ラテン語か」

「わかりますか?」

「丁度、エジプトについて調べ物をしていたからな」

「タブラさんは凝り性だったからなぁ。    あ、この仕掛けを作ったギルドメンバーの一人なんです。 タブラ・スマラグディナさんはこの様な仕掛けが大好きでして……」

「タブラ・スマラグディナ……か。 成程、エメラルド・タブレットの読みは、ラテン語でタブラ・スマラグディナ。 そして、このヒントもエメラルド・タブレットの一節のようだ」

 

 承太郎は杜王町で、とある遺物の調査をSPW(スピードワゴン)財団に依頼していた。 その遺物の名は…… 聖なる弓矢。 射抜いた者から、スタンド能力を引き出す弓と矢…… 重要なのは鏃だが、その石でできた鏃をSPW(スピードワゴン)財団に調べて貰っていたのだ。

 

 聖なる弓矢の出処は古代エジプト…… そして、エメラルド・タブレットもエジプトのピラミッド内からだ。 まぁ、ただの偶然なのだが。

 

 聖なる弓矢の経緯はこうだ。 『ディアボロと言う名の少年が、カネ目当てで発掘のアルバイトをしていた際に出土した鏃を持ち逃げし、エンヤ婆に売り払った』のが最初だ。 彼は最初から年齢も国籍も名前も嘘の申告をしていて、最初から遺物を盗むつもりで参加していたのだと思われる。

 

 そしてエメラルド・タブレットと言うのは、錬金術の考え方の基礎。 基本思想が書かれた、巨大なエメラルドの宝石…… だとされている。 こうであると確定出来ないのは、そのエメラルドの石版自体は発見されていないからだ。

 

 12世紀…… 日本で言う所の平安時代の終わりに、ギザの大ピラミッドの内部に存在していた石版だとされいる。 現存するのは、羊皮紙にラテン語で書かれた、その石版の写しのみであり、目撃証言以外の、タブレットの存在を証明する証拠は存在しない。

 

 書かれている一文に『上は下の如し。 下は上の如し』というのがある。 これは、某エルリックな兄弟錬金術師が旅をする漫画にも登場する。 『一は全。 全は一』ってヤツだ。 これなら聞いた事があるだろう。

 

 そう、錬金術を題材にした作品を書くなら絶対に外せ無い! ってくらい、エメラルド・タブレットは基本なのだ。

 

 さて、エメラルド・タブレットに書かれている錬金術というのは、文字通り金を生み出すすべを求めたものである。 決して錆びず、美しさを失わない完全な金属…… 金。 その不変の金を合成し、人工的に生み出そうと言うのが錬金術なのだ。

 

 科学理論の発見に、重要な役割を果たした錬金術なのだが…… 初期の錬金術の実験はそれはそれは酷い物であった。

 

 たとえば(リン)(元素記号P)は、錬金術の実験をしていたドイツの商人が、尿から偶然発見したものだ。 燐は人類が発見した、最古の元素と言われ、肥料やマッチなどの生活を豊かにする物から、白燐弾と言う人を焼き殺す事を目的とした、非人道的兵器などまで発明された。

 

 発見の経緯(いきさつ)は、腐敗させた馬の尿から金を取り出すために    黄色だからと言う理由だろう    バケツ60杯分も煮詰めたら、燐が残ったというわけだ。(絶対臭い。 オゲェェェッ!)

 

 だが、このような失敗を繰り返し、諦めずに実験を繰り返したおかげで    結局、金は作れなかったが    科学は発展した。 そのうち錬金術も少しずつ発展し、錬金術の理論から科学技術を分離させ、新しい理論である科学理論が生まれたのだ。 実際に金を作るとなると、高温高圧の環境で核融合させるしかないのだが…… そこまでするよりも鉱石を掘ったほうが安いので誰もやらないのである。

 

 ただ、初期の科学理論も粗が多く。 パラケルススという黎明期の科学者が、水銀 (元素記号Hg) と硫黄 (元素記号S) を混ぜると新しい化合物を作れる根拠として『硫黄油』なる物を作り出した。 しかし、実はこれはジメチルエーテル (元素記号C26O なんか食べられそう) というガソリンや、灯油によく似た燃え方をする別の物質だ。 もしかしたら、法国の特殊部隊が使用した錬金術油とは、ジメチルエーテルが起源なのかもしれない。

 

 閑話休題。

 

「もしタブラさんがいたら、やっと理解して貰える人がいたって喜んでくれるかな……」

「かも知れないな。 私の高祖父…… ジョナサン・ジョースターは、大学で考古学を専攻していた…… 古代の事柄に縁が深い血統なのかもしれないな」

 

 興味無さげに、ポケェェ  ッと眺めていた仗助は、画面を指差し「これなんて読むんスか?」と質問した。 承太郎は、(いま)だに腕を組んで頭を捻り、パスワードを思い出そうとしているモモンガをチラッと見た後、口を開く。

 

Ascendit(アスケンディトゥ) a() terra(テッラ) in(イン) coelum(コエルン),

    iterumque(イテルンクエ) descendit(デスケンディトゥ) in(イン) terram(テッラン),

        et(エトゥ) recipit(レキピトゥ) vim(ウィン) superiorum(スペリオルン) et(エトゥ) inferiorum(インフェリオルン)

 

 意味は   と続ける承太郎。

 

「『大賢を持って、祖は大地より天に静かに上り、再び降る』と、書いてあるようだ」

 

 と答えた。

 

 それを聞いていたモモンガは、ヒントの訳を呼び水にして記憶の底からパスワードを思い出す。 そのままポンと手を打ち「思い出した!」と嬉しそうな声を上げる。

 

「斯くて汝。 全世界の栄光を我が物とし、暗き物は全て汝から離れ去るだろう  !」

 

 シズに、確認の意味も込めて視線を向ける。 シズがコクリと頷くと同時、道を塞いでいた闇が、まるで凝縮されたかのように1つの塊になって宙に浮いた。

 

 空洞の先は、博物館の展示室のようになっていた。 ギラギラと照りつけていた照明の光は、柔らかく抑えられたシックなものへと変えられている。  艶やかな濡羽色の床に、展示用の台座がキッチリと整列して並んでいた。

 

 パンドラズ・アクターの武器紹介を右から左に聞き流しつつ歩いていく。 やがて、中央にソファーとセンターテーブルが備え付けられた、開けた場所へと出た。 後ろを振り向くと、縦に長い長方形の出入口が5つ並んでいる。

 

 モモンガは半ばまで進んだところで振り向くと、自身の指に収まっているリング・オブ・AOGを外す。

 

「この先の中には私が作成したゴーレムに、ギルドメンバーのメイン装備を装備させた不死の化身(アヴァターラ)が配置されていまして。 この……」

 

 リングがよく見えるように、視線の高さまで持ち上げる。

 

「指輪を持つ物を迎撃する様になっています。 それは、私やNPCも例外ではありません」

「ほう……」

 

 心底感心したと、ガゼフが感嘆の声を上げる。

 

「ここへ来るまでの鍵である、指輪自体を目印にしたのだな。 それならば確実に罠が作動する…… ううむ、見習わねばな」

「それだけではないぞ、ストロノーフ。 此処は指輪が無ければ外に出る事も叶わない密室だ。 心理的に、例え一瞬でも手放したく無いと考えるだろうな」

 

 思いがけないベタ褒めに、気恥ずかしくなったモモンガは頬を掻く。 骸骨の身体に表情筋など無いが、なんとなく後ろをむいてしまうのであった。

 

 空間の中に仕舞っておいたリングケースを取り出し  

 

  おっと! 危ない、忘れる所だった」

 

 持ち手の決まっていない、インベントリの中に仕舞っていたリングも全てケースに入れる。

 

「……ちゃんと全部あるよな?」

 

 出かける前に、ちゃんと鍵を閉めただろうか? とか。 ガスの元栓はどうだったか? とかの、ありがちな不安がモモンガを襲う。

 

 リングの数がどうしても気になってしまったモモンガは、改めてリングの数を数え直す。

 1つ、2つ、3つ……

 

  うん。 パンドラに渡した数を除いて、ちゃんと47個全部あるな」

 

 念入りに、3回確認した所で納得がいったモモンガは、パンドラズ・アクターにリングケースを渡す。

 

「お前1人をここに残す事になるが…… リングは絶対に奪われてはならんのだ。 まぁ、解っているとは  

 

 短い間だが、再び1人ぼっちにさせてしまうことに罪悪感を覚えたモモンガは。 下げていた視線をパンドラズ・アクターに戻した瞬間、呆気に取られた。

 

「おお……! 至高の方のために作られたリングが……! 私の手の中に…こんな量が……!」

 

 理由を言う口を止めたのは…… 至高の方々専用のリングが触れ、私の手が圧迫されている! ……とでも言いたいのだろうか? 埴輪顔を、器用にホクホク顔へと変化させたパンドラズ・アクターだった。

 

「……まぁ、お前がそれでイイんなら……いいんだ。 ……うん」

 

 マズイ物を見てしまったかのように、モモンガは顔を逸らす。 

 

 忘れよう。 今はワールドアイテムの確認が急務だ。 半ば無理矢理、思考停止させたモモンガは霊廟へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

コツ   ン     コツ   ン     コツ   ン 

 

 光量の落とされた薄暗い空間に、乾いた足音が反響していく。 まるで、革靴が立てる音ですらピシッと背筋を伸ばしているような。 霊廟の空気は、そんな雰囲気に包まれていた。

 

「ここは霊廟です」

 

 モモンガが静寂を切り裂き、皆に説明する。

 

「左右の窪みに設置された像が、先程話していたアヴァターラ。 辞めていったギルドメンバーが、もう使わないからと私にメイン装備を譲ってくれたんですよ」

 

 勿体無いから、護衛とマネキンを兼ねてゴーレムに装備させたんです。 と、モモンガは感情の読み取れない平坦な声で話す。

 

 飴色のゴーレムの腕や足は、太さや長さが揃っておらず、不可解に歪んでいた。 巨大な頭蓋、長すぎる尾、足らない指等。 言うなれば……奇形。 左右の壁にズラリと整列するゴーレム達は、まさに異形種の冠を体現していた。

 

「ハハ、不恰好でしょう? 絵心と言うかなんというか…… 実は、こういった外装を作るのは苦手なんですよ。 なるべく似た出来合いのゴーレムパーツを組んだんですが……」

 

 改めて見て、記憶の中のギルドメンバーの姿と比べると…… かなり変だ。 まるで、子供の頃に作った人形を引っ張り出し、友人に見せるような気恥ずかしさがある。

 

 だが、そんなモモンガの心配を他所に、物珍しそうにアヴァターラを眺める億泰は、表情から見るに結構気に入っているようだ。 トニオ・トラサルディのレストランへ行った時のように、口角を上げ笑顔を浮かべていた。

 

「味があってよ~~ イイんじゃあねーか? ピカソみたいでよぉ~~っ」

「億泰の言う通りだぜサトルさん。 ありのままを、そっくりそのまま残すんならよ~~ 写真撮りゃあいいんスからね」

「う、うん? ありがとうございます……?」

 

 果たしてそれは褒めているのだろうか? イマイチ腑に落ちない例えに、モモンガは首を捻るのだった。

 

「フム…… 何も異常は無いようですね」

 

 ナザリックが保有するワールドアイテムは11だ。 アルベドが所持していたこの『ギンヌンガカプ』や、玉座にある『諸王の玉座』。 そして現在装備中のモモンガ玉を除いて数えれば、確認するのはたった1ケタだ。 たいした時間が掛かるはずもない。

 

 霊廟の外、待合室まで戻ったモモンガは、次の手を打つべく行動に出る。

 

「パンドラズ・アクター」

 

 命令通り待機していたパンドラズ・アクターから指輪を受け取ると、自分にも言い聞かせるように力強い声を発した。

 

「お呼びでしょうか我が主よ!」

「守護者復活の為の金貨を、随時玉座の間へ移動させておけ。 供としてシズを付ける」

「ヤヴォ…… 了解いたしました!」

 

 わざとらしくカツカツと床に軍靴を打ちつけ、命令を遂行するため浅層へ歩いていったパンドラズ・アクターを見送り、いつの間にか緊張していた肩の力を抜くモモンガ。

 

「さて…… どうやら目処が立ってきたようで、一安心です。 一先ず何とかなりそうですね」

 

 ワールドアイテムを根こそぎやられていたら、致命的を通り越して最早対処不能の域に達する所であった。

 

 しかし。 深呼吸をして肩の力を抜くモモンガとは対照的に、仗助達3人の表情は硬い。

 

「まーな…… だが、犯人の姿が一向に見えねーっつーのが気掛かりだぜ……」

「犯人は逃げてしまったんでしょうか? それとも、この世界に来ていない……?」

「仗助と康一の心配はわかるぜ。 臆病っつーのはよぉ~~ そのまんま用心深さに繋がるからなぁ~~っ」

 

 うーむ。 と、モモンガはしばらく考えていたが。

 

「そこの所は、情報が少なすぎてハッキリしませんね…… 守護者が復活したら、何か見ていないか聞いてみましょう」

「それしかね~~のかねぇ…… まぁ、マトモに準備もできねーで戦いになるよかマシかなぁ~~」

 

 今の状態で考えても、(らち)が明かぬという結論に至り、来た時と同じように、暗黒の渦に身を投げるのだった。

 

 

 

 

 

          …………

 

   ザザッ  

 

  ンガ様…… モモンガ様……! 起きてください、モモンガ様! 眼を…… 眼を覚ましてくださいモモンガ様!」

「止しなさい、アルベド」

「…………。 此処で…… 何をしているのかしら?」

「……何、とは?」

(とぼ)けないで! 階層守護者であるあなたが、一体ここで何をしているのかと聞いているのです! この状況が分からないの!?」

「無論、状況は把握していますとも。 むしろ、状況を把握していないのは其方(そちら)の方では?」

 

ザザッ   ザリッ  ザザ  

 

  のような細事に(かま)けている時間などありません」

「……一体、何をするつもり? まさかとは思うけど」

「そのまさかですよ。 アルベドも気付いているはずです…… もう二度と! ……モモンガ様が眼を覚ます事がないと。 アンデッドは眠らないのですよ?」

「違う! モモンガ様は眠っているだけよ! いずれ眼を  

「やかましいッ! ウ…ググ……! ふ、不敬……など……!」

「……!? 何か…… 何か様子が変よあなた……」

 

ガリガリ   ガガ   ザ    

 

  までも、眠っておられると。 そう言い張るつもりですか。 ならば…… その執着。 私の手で断ち切って見せましょう」

「モモンガ様には…… 指一本たりとも触れさせないわ……!!」

「……お待ちください。 いくらなんでも…無礼が過ぎますよ?」

「ほう…… 私の前に立ち塞がりますか。 セバス」

「これ以上の勝手。 至高の御方々が許そうとも…… この、セバス・チャンが許しません」

「ふ、二人とも、何を! 止めなさい守護者同士でッ! モモンガ様の御前(ごぜん)なのよ!?」

「いつか…… 決着をつけなくてはと。 常々(つねづね)そう考えておりました」

「ああ…… 確かにいい機会だね、セバス。 決着を付けるのは今。 今以外ありません」

「……1つ。 貴方を殺す前に伝えておくべき事があります」

「奇遇だね。 私にもあるのだよ」

「いい機会です。 同時に言いましょうか…… デミウルゴス」

 

 

「「私はずっと、あなたの事が嫌いでした」」

 

 

 

     ブツッ…………

 

 

 

 

 

「夢を  

 

 純白のドレスに身を包んだ美女は、眼を覚まし。

 

「夢を見て…… おりました…… 酷い悪夢を……」

 

 一人の男の腕の中。 ポツリ、ポツリと、熱にうなされる様に呟く。

 

「モモンガ様が…… お眠りになって…… 眼を覚まさなくなってしまう…… 最悪な夢……」

 

 うっすらと開いた、揺れる瞳で男の顔を見つめる。 

 

「大切なものが…… 次々と壊れていって…… みんなの心がバラバラになって…… どうしようもなくて……」

 

 やがて、その瞳は濡れてゆき。

 

「それでも…1つだけ……護れました…… 私の一番大切な御方だけは…… フフ、笑えてしまいます…… 良く考えれば…夢だってわかった…… あんな事…有り得ないのに……」

 

 大粒の欠片が流れ出た。 幾つも幾つも、限界などなく。

 

「ああ…… アンデッドの私が眠るなど有り得ぬ事だ。 もう何も心配する事は無い。 全ては夢だったのだ…… ただの……な。 くだらない悪夢など…忘れてしまえ、アルベド」

 

 うっすらと開かれていた(まぶた)は落ちる。 これが最後と、溢れ出た悲しみと安堵の感情が、粒となって流れ落ちたのだ。

 

「気を失った……か。 私の命を護ってくれた事。 感謝するぞ……アルベド」

 

 モモンガは毛布代わりにと、空間から取り出した厚手の布をアルベドへ掛けた。

 

「モモンガ様」

 

 モモンガは肩越しに振り返る。

 

「プレアデスと同じく、支配などの精神異常は確認できません」

「そうか…… ご苦労であった、パンドラズ・アクター」

「いえ! わたくしめの事など御気になさらず、なんなりと御申しつけ下さい!」

 

 NPCの蘇生において、モモンガは冷徹とも言える判断を下した。 100LVであるアルベドを蘇生する前に、モモンガ1人でも対処可能な、プレアデス達を実験的に蘇生させていたのだ。

 

 蘇生の失敗で金貨を失うリスク。 トラブルで二度と復活できなくなるリスク。 精神異常が続いていて戦闘になるリスク。 様々な理由から、ギルド武器を使って正常にNPCが蘇生できるかの実験をしたのだ。  真っ先に彼女を蘇生させたいのは、モモンガ自身であるハズなのに…だ。

 

 蘇生実験の結果は正常。 玉座の間だけで使えるコンソールでも調べたが、何処にも異常は見られなかった。 シズ・デルタと、泣きながら抱き合うユリ・アルファ。 完全に揃ったプレアデス姉妹達を前に、モモンガは「良かった」と呟いて胸を撫で下ろす。

 

 斯くして。 階層守護者は順次蘇生され、最後にナザリック最強のNPCシャルティアの蘇生をもって…… 深い、本当に深い傷跡を残しながらも、アインズ・ウール・ゴウンは完全なる姿を取り戻した。

 

ズズズ…… ゴゴォ   

 

 ジョースター達5人は、1/2oz(オンス)金貨5億枚   重量にして7.5キロトン   ゲーム式に表現するのなら500(メガ)枚の金貨が波打って、NPCの命へと姿を()()くのを、玉座の間の門   レメゲトン   に背中を預け眺めていた。

 

 彼らが離れた所にいるのは、ゲームでのユグドラシル時とは違い、装備の無い状態。 つまり、その、生まれたままの姿で蘇生してしまう為だ。

 

 ユグドラシルはエロコンテンツに厳しかった為、完ッ全に油断していたモモンガは、予想外のトラブルによって沈静化が発動するくらい慌てふためいてしまった。 自身のインベントリから、何か覆うものを取り出そうと焦るあまり、捨てられず肥やしになっていたアイテムを、猫型ロボットの如くそこらへ巻き散らかしたのだ。

 

 その際の空気の気まずさたるや……

 

 なので今現在、彼等には見守ることしか出来ず、感動の再開に水を差すような無粋な真似もしたくはない為、離れたところにいるという訳だ。

 

 遠目に見えるのは、肉の無い骨の胸に顔を埋め、幼子の様に泣くシャルティア。 モモンガが、その小さな背中に手を回し、優しく抱きとめ慰めていた。 純白のハンカチを頬に当て、涙を拭われたシャルティアの表情は…… 見た目相応に幼く見えた。

 

 

    が。

 

 

ゾクリ   

 

   承太郎の背を、悪寒が撫でる。

                  ゴ ゴ ゴ

(妙だ…… 何かがおかしい。 何処か不自然だ……)

 

 幾つものピンチを救ってきた、承太郎の勘が警告を発する。 ()()()()()()()()()()()()…と。

 

 眼を潤ませている康一や、鼻を啜る億泰達に変化は無い。 違和感に気付いたのは承太郎だけであった。 

 

 承太郎の交感神経が急激に緊張し、心拍数が跳ね上がる。 急激に増した血流量に呼応するかのように、全身の汗腺が冷や汗を流す。 噴出した汗が額を流れ、頬を伝い、顎を離れ地に落ちた。

 

                  ゴ ゴ ゴ

 

 だが。

 

 

 

 全身を強張らせた承太郎は、そんな事にかまっている暇は無いと、額に浮き出た汗を拭いもせずに悪寒の正体を探す。

 

(何処だ… 何処だ……! 何処だ……ッ!)

 

 部屋に異常は無い。 何者かが襲撃の準備をしているのではない。

                  ゴ ゴ ゴ

 NPCも、仗助達も全員居る。 気付かぬ内に消された訳でも、偽者が侵入した訳でもない。

 

 モモンガは通常だ。 攻撃がバレぬように、巧妙に狙撃されてなど無い。 バレにくい攻撃を受けてもいない。

 

(違う…… 私は今、()()()()?)

 

 

 

   優秀。

 

 鋭い観察眼や、数多(あまた)の経験を元に、最良の答えを出す能力を『優秀』であるという前提とするならば…… 承太郎の危機対処能力は、誰よりも優秀であると言えた。 気付く能力。 推理する能力。 弱点を暴く能力。 ……全てが1級なのだ。

                  ゴ ゴ ゴ

 承太郎の意識は沈んでいく。 深い深い、思考の溟海(めいかい)の中へ。

 

「も゛も゛ん゛か゛さ゛ま゛」

 

 声が    

 

「お゛や゛く゛に゛た゛て゛す゛、も゛う゛し゛わ゛け゛こ゛さ゛い゛ま゛せ゛ん゛!」

 

 声が聞こえる…… しゃっくり交じりの……嗚咽(おえつ)…が……。

 

「よい。 よいのだ、シャルティア。 私は……お前達が無事ならば、それでよいのだ。」

「も゛も゛ん゛が゛さ゛ま゛  !」

 

 承太郎の思考が、ある可能性に辿り着いた、その時。 再び、先程よりも強い悪寒が   承太郎の全身を覆った。

 

(そうか    違和感の正体は……これかッ! ()()()かッ!!)

 

 やがて答えに辿り着く承太郎。 本当は、このまま気付かない方が幸福であったかもしれないが……

 

(泣いている…… シャルティアの頬を、涙が流れ落ちているッ!)

                  ド ド ド

  アンデッドとは…… 生者を(にく)み、生者を(ねた)み、地獄に引き摺り込もうとする……

 怨念の化身のことだ。

 

 唐突に、ニグンから聞いた情報が脳裏にフラッシュバックする。 それと同時に、違和感が胸中を渦巻く。 憎む…… 妬む…… 何故だ? ()()()()()()()()()()と。

 

 強い感情は沈静化されるのならば、殺意を抱く程の怒りや(そね)みなど   ()()()()()()()()()()()()

 

    ハッ! ……まさか!」

                  ド ド ド

 だったら何故、鈴木悟の精神は沈静化されるのだ。 内側からの起因での感情の起伏は、精神異常無効の埒外であると言うのに。

 

「そんな…… そんなまさかッ……!!」

 

 鋭く研ぎ澄まされた観察眼は警告する。 類い稀なる、優秀さが故に承太郎は気付いてしまった。

 

 鈴木悟…… 彼は、アンデッドの特性で沈静化しているのではない事に。

 

 承太郎は玉座の間から、逃げるように退室する。 この予想、この気付き、あの者達に知られてならぬ為。

                  ド ド ド

 絶対に言えるものか。 こんな予想を、こんな推理を。 あの姿、あの反応を見せられて。

 

 言おうものならNPCは皆、モモンガへの愛故(あいゆえ)に感情を爆発させ、激昂(げきこう)するだろう。 激情のまま、怒りで身を焼き魂焦がし、その命尽きるまで狂わせるだろう。 愛する主人を呪いし者よ、死すべしと。

 

「吐き気を催す邪悪とはッ! 何も知らぬ、無知なる者を利用する事だ……!

 自分の利益の為だけに利用する事だ……」

 

 鈴木悟に取り付いた、おぞましき悪意。 その邪悪なる意思に、血濡れた戦いの経験故に承太郎は気付いた。

 

 『()()()()()()()()()()()()()()、在ろう事か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に。

                  ド ド ド

 承太郎の眼前には、レメゲトンのゴーレム達が立ち並ぶ。 幾つもの、生気の無い眼に見つめられながら彼は叫ぶ。 叫ばずには居られなかったのだ。

 

「何も知らぬ一般人をッ!! てめ    だけの都合でッ!」

 

 鈴木悟は、ゲームの世界から()()()()()()のでは無く、歪んだ(ことわり)が支配する異世界へと()()()()()()()()のだ。 悪しき心を持つ、何者かによって。

 

「敵は……! 敵は『二人』いたという事かッ……!! 『むこうの世界』で攻撃した者と……

 『こちらの世界』で操作している者の二人……ッ!」

 

 彼の『心』を押し潰すのは、一体何の為なのか。 彼を引きずり込んだ目的は、一体『何』をさせる為なのか。 ただの一般人である彼を、ここまで手間をかけて拉致し、監禁する動機が解らない。

                  ド ド ド

 豊かな自然と、清浄な大地が広がるこの世界。 だが、承太郎にはもう素直に美しいとは思えなくなっていた。 全てが嘘に汚れ、歪に曲げられて見えていたのだ。

 

 

 

 

 

to be continued・・・




栄光あれ。 で浮き出たヒントの訳が、かくて汝~~だと思ってた人!

Q:passwordを入力してください
A:パスワード

みたいな謎掛けじゃあないのよ! 大辞典の情報間違ってない?


イビルアイって、変な名前のキャラがいるけど。 同じ言い回しが劇場版ジョジョの歌の、歌詞に使われててね。
Yo, look into my evil eyez この邪悪な瞳を見ろ
ってヤツなんだけども、スゲー厨二病ぽくて痺れる。 いやむしろ厨二病で良いんだぜ! 演出は少しくらいコテコテでもgoodなのよぉ~~。

つー事は、キーノなんたらさんの謎タレントって、目に関する…悪い感じの技なんだろうか?
視線でなんかする…… ハッ! エロビームか何かッスか!?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告