「でも絵が上手くても売れない人と、ヘタでも売れる人がいるぞ」
「違いは、絵で作者がすぐわかるという事だぞ」
小説で絵柄は表現できないので…… 小説の雰囲気というか特長みたいなのをね。
書く人によって文の構成や、話の進め方に特徴がある。 例えば、幼女戦記のカルロ・ゼン先生なら、学術書のような固い文章を書かれるひとですな。 まるで、論文か報告書でも読んでいる気分になるぞ。
逆に、硬い表現を廃し、常に口語で進める作者もいる。 ライトノベルなどが当てはまるのだけれど、とっつきやすさを重視したこの文章はサラッと読めてしまうので、ジャンクフード的な魅力があるね。
ただ、緩い文になりがちな為か、批判も多い。 見下されやすいとも言えるね。 フィクション物語なんだから、ある程度の文法や表現の拙さに目くじら立てるべきじゃぁないと思うぜ(ある程度は、だけれど)
そんなカッチリした本が読みたければ、太宰治でも夏目漱石でも芥川龍之介でも読めばいいじゃない、ってね。
ちなみに、この作品は特殊タグを使う特徴があるだァー! ジャンクフード的な安さを目指しているぜ(出来てるかは別として!)
デミウルゴスの呟きを耳にした時、私は我が耳を疑った。
確かに、あの半透明のシモベを操る姿は奇異に見えた。 代償を必要とせずチカラを発揮する能力とやらも、不可解であった。
至高の御方であらせられる、モモンガ様と親しそうに話す姿と、我々NPCの不始末により傷付いたナザリックを不可解なチカラで修復する少年達。 モモンガ様から、ハッキリとは彼ら人間の説明や紹介はされていない。 しかし、その献身的な姿と、レベルの低さから脅威だとは到底思えなかった。
小さい。 あまりにも小さく、幼く、未熟な生命。 それをデミウルゴスは脅威と見做した。 モモンガ様に害成す者である可能性が、無いとは言えない、と。
彼は、少年達を拷問に掛けるつもりだ。 殺さないよう、死なせないよう細心の注意を払い、ありとあらゆる苦痛を与えるつもりなのだ。 それを知った時、私は衝動的に動いていた。 熱くなる感情に任せるまま、強引にデミウルゴスの行動を制止したのだ。
それが、このザマだ。 拷問官の変わりに、私が少年を打ち伸めす未来に変わっただけ。 なにも変わりはしない。
可能ならば、殺さずにいたい。 第2階層へ向かう道すがら、私はそんな事ばかり考えていた。
無実の罪で
「此処は…… ナザリックへ愚かにも侵入した塵芥を…… 『始末』する、処刑場に…ございます」
私は、少年に向けて殺気を放つ。 これに怯えて戦意喪失すれば……それでよし。 脅しつつ情報を引き出せばよい。 もし、戦う気配を見せたなら…… デミウルゴスの危惧が当たったという事だろうか。
手加減し、出力を絞り放った殺気に、少年はびくりと肩を跳ねさせる。 逃げる素振りは…… 無いようだ。 ……気を引き締める必要があるかもしれない。 軽くとは言え、殺気に耐えた目の前の少年は、恐らく、死線を彷徨った経験が……あるのだろう。
「モモンガ様も、お優しい。 多少、役に立つとは言え、人間など首輪を着けさせ鎖に繋ぎ、屈服させてから命令すればよいというのに」
馬鹿馬鹿しい。 心にも無い事を言う私を、冷静に自分を見つめるもう一人の私が、自嘲気味に鼻で笑っている。
これで、これからの行動は全て私の独断で起こした事であると、少年に伝わった筈。 もし、全ての疑いが唯の
「殺しはしません。 身体に聞くこともありますので。 では、知ってることを全て…… 吐き出してもらいます」
決死の覚悟で向かってこぬよう、あえて逃げ道を作ってやる。 痛めつけるのが目的であると、宣言しておく。 喋れば助かると思えるように。
私が放った殺気を感じ取り、急いで
捕える際に、偶然気絶させてしまった体を装う為、背を向けて逃げられるよう足は攻撃しないでおく事にしよう。 私は一足飛びに距離を詰め、無造作に四指を肩関節に埋め込ませる。
……手に柔らかい感触が広がっていく。 普段なら何の感想も沸いてこない、最早あたり前であるこの感触が、今回だけはやけに不快であった。
嗚呼、なぜ、こんな事になってしまったのだ。
主よ…… 我が造物主、たっち・みー様……私を導いて下さい。 私は……どうすればいいのですか? どうすれば……よかったのですか……?
ド ド ド
人の形をした茶色の土塊が、まるで生きているかのように、雑な作りの足を打ちつける。 耳を覆いたくなる騒音の中、孫ほどの年齢の少年を打ちのめす、一人の白髪の老人。
白く、薄手の絹手袋に包まれた右の抜き手は、少年の左肩に深々と突き刺さる。 老人の、達人的技量によって絶妙に手加減された抜き手は、指が全て埋まるほど突き刺さっていても出血は無い。
ド ド ド
「うッ……ぐぅぁあッ!」
細心の注意を払って突き立てられた抜き手は、さらに康一の身体をほんの少しだけ浮かせ。
ドグシャァァアアッ!!
康一を転ばせ、地面にそのまま押さえつける。
「 う…ううっ…ぐ! あ……!」
背中を
セバスの体は、地面に縫い付けられたかのように微動だにしない。 それどころか、上腕骨と肩甲骨の間に突き刺した指を曲げ
ボグン!
「 !!」
指の力のみを使い、そのまま肩を脱臼させた。
「ぐぅああああああッ!!」
意識が飛びかける程の激痛が全身を駆け抜け、康一は眼を限界まで見開き絶叫した。
ホワイトアウトする意識を、意思でなんとか繋ぎとめ、出現させたのはエコーズact3。 全力でセバスに突進し、跳ね飛ばそうと身体を打ちつけ……
バシィィ ン
巨大な岩を思わせる、鋼の肉体に弾かれる。
「……少年。 どれほど抵抗しようと、あなたは私に傷一つ付ける事はできません。 諦めなさい」
ゴ ゴ ゴ
冷ややかな眼で康一を見つめていたセバスは、顔をゆっくりと近付け言葉を発する。
「ナザリックに入り込み、モモンガ様に近付いて…… 一体何が目的なのですかな? 幾ら貰い、誰に頼まれた?」
康一は、セバスが発した言葉を数瞬の間理解出来ずにいた。 それほどの衝撃があったのだ。
「…………ち、違うッ! 僕はスパイなんかじゃ 」
「そんな戯言を真に受けるとでも…… 思っているのですか?」
ゴ ゴ ゴ
数秒考え込み、ようやく自分が疑われていると理解した康一。 だが、何の証拠も無い言葉をセバスは受け取らなかった。
「ぐ、ああっ…… 本当だ! ぼ、僕は敵じゃない……ッ!」
「何か証拠がおありで? 今、現に玉座の間まで侵入していたではないですか。 それでも少年は無実だと? アンデットであるモモンガ様と、一体何の繋がりがあるというのです?」
反応を観察するように冷徹な視線を落としながら、セバスは右手に体重を掛けようとして
「そこで何をしている、セバス」
「 !」
突如その背にかけられた声に、肩を跳ねさせる。 即座に振り返ったセバスはそのまま臣下の礼を取り、
「こ、これはモモンガ様! ナザリックに土足で侵入した人間の口を割らせるため、尋問を 」
額に脂汗を浮かべたセバスは、そこまで口にして…… ふと、気付く。
至高の存在に声を掛けられたのに、ちっとも喜悦を覚えず。 それどころか、気配すら感じない事に。
「…………?」
ゆっくりを顔を上げていく……が。 声が発された方向には、アインズの足元どころか影すら確認できない。
「攻撃は効かなくても……」
後ろから聞こえてくる康一の声に、ゆっくりと振り返る。
ゴ ゴ ゴ
「『声』なら効いたようだね…… セバスが素直に手を離してくれたおかげで…… 立ち上がれたよ」
そこには…… 激痛により全身から冷や汗を流し、脱臼した左肩を右手で
「成程…… 機転は利くようですが…… その程度の小細工では、私に
明確に殺気を放つ老人を前に、康一の身体は小刻みに震える。 意思とは関係なく、呼吸は短く浅くなる。
ゴ ゴ ゴ
背骨に一本の芯を通したように背筋を伸ばし、セバスは康一を前に向き直る。 身長差からか、精神的にか…… ボロボロの康一を冷ややかに見下しながら。
(今の隙は、逃げるに十分な時間が合ったハズ。 何故、逃げなかった…まさか戦うつもりでいる……?)
しばらく注意深く観察していたセバス。 康一に新たな動きが無い事を確認すると、痺れを切らし疑問を口にした。
「全く理解出来ませんな。 今の隙は、私から逃げる唯一のチャンスだったハズ。 少年には死に行く道しか残されていないと言うのに……」
「…………僕は逃げないよ」
ゴ ゴ ゴ
圧倒的な実力差。 やろうと思えば、小指だけで康一を、文字通り血飛沫に変えられるのだ。 肩への一撃で、康一もそれを有り有りと理解しているハズだと言うのに、彼は在ろう事か自分と戦う積もりでいる。
「勝てると…… 思っておいでで?」
「ううん…… でもね。 簡単には…負けてあげないよ……!」
まさかと思い、逆転の策でもあるのかと問うてみれば、勝てぬ事は承知していると返答する。
セバスは混乱した。 負けると理解していて何故逃げないのか? 余りの恐怖に、足が竦んで動けなかったのを隠しているのか? 仲間が異変に気付くのを期待し、時間稼ぎを狙っているのか?
ゴ ゴ ゴ
何故、何故、何故……
「恐怖を感じないと……? 少年は、死が恐ろしくないのですか?」
「いいや…… 怖いよ…凄く怖い。 でもね…… 死ぬことが『最も恐ろしい』とは…… 限らないんだよ、セバス」
肉食獣を前にした小動物の様に、ガタガタと震える康一。 そんな姿を晒しても、眼は光を失わず、口を真一文字に結んだ表情からは、熱い闘志が感じられる。
「負けると理解しててもなお、立ち向かいますか。 それは勇気とは程遠い……蛮勇というものなのですよ?」
セバスは万が一を考え、慎重に探りを入れた。 目の前の子供は只の子供では無い。 このちっぽけな子供は、自分が至高と崇めるアインズが一目置く人物なのだ。
「それでも……そうだとしても。 勘違いで疑われたまま、終われるかよ……」
「……そうですか。 では、理解出来るまで体に教えて差し上げましょう。 圧倒的な差というものを……」
セバスはそのまま、 スッ と、腰を落とし構えを取る。
「フッ 」
浅く息を吐き出すと、地面が抉れると同時にセバスの姿が掻き消えた。
眼で追う事すら出来ないスピード。 それは時を止められたかのようで、だが、地面の抉れと吹き上がる土煙が、只の超スピードで移動しているだけだと物語る。
「 ッ!」
おそらく背後を捉えられたのだろう。 だが、康一にそれを確認する時間は無い。 身体を丸め、前方へ跳躍する。 少しでもダメージを減らす為に。
康一の耳が、風を切る音を捉え
ドゴォォオオッ!!
脇腹に蹴り込まれた、刹那の踵。 セバスが放つ、後ろ回し蹴りによって、 メシメシ と骨が軋む音と、ビキィッ とヒビの入る音が身体を伝わり、耳へと届く。
「ガハァ……ッ!」
蹴られた勢いそのままに、壁側まで吹き飛ばされ転がって行った康一。 身体が砕けてしまいそうな衝撃は、息を全て吐き出させた。 筋肉痛の様な独特の痛みは、肋骨にヒビが入った事を脳に伝える。 咳をする度に鈍い痛みが走り、満足に呼吸出来ず酸欠の苦しみが襲ってくる。
セバスは振り上げていた足刀をゆっくりと下ろす。 ズバ抜けたバランス感覚と、凄まじい体幹は、片足立ちであるというのに全く身体をブレさせない。 足が地面に縫い付けられているかのように滑らかなその動きは、正に達人の足捌き。
「簡単には死なしません。 全て喋って頂きましょう…… その、
完全に弄ばれていた。 反撃の機会すら与えない超スピードは、防御以外の選択肢を康一から奪っている。 生かさず、殺さず、康一の精神が砕け散るまで延々と続くで在ろう拷問。
「う…… ぐっ……ッ!」
乱れた呼吸を整えようともせず、康一は地を掻きながらヨロヨロと立ち上がる。 左腕をダラリと垂れ下がらせ、苦痛に満ちた表情で俯き、蹴られた脇腹を右腕で押さえていた。 地を転がった時に、傷付けたのか打ち付けたのか…… 鼻と口から血が滴り、ポタポタと音を立てて土に染み込んでいく。
「フム……」
ゆっくりと立ち上がる康一を、じっと観察していたセバス。 実験動物を観察していて何かに気がついた…… とでも言うような気楽さで、自身の予想を独り言の如く口にした。
「これだけ痛めつけても、反撃どころか逃げもしないとは…… やはり何かあるようですね」
(わざと超スピードで背後を取ったり、無造作に放った突きや殴打で解りやすく圧倒して見せました。 絶対に勝利は無い。 それを少年も理解しているハズ)
だというのに、何故眼前の少年は立ち上がるのか。 セバスには理解出来なかった。 苦しみや痛み、そして死から逃れたいと思うのは、生物ならあたり前のことだと言うのに。
まさか、と考える。 本当に偶然大広間まで来てしまったというのか、と。 盗掘する為でも襲撃する為でもなく…… 破壊されたナザリックを修復する為だけに、ただの通りすがりが何の利益も見返りも頭に無く、ここまで尽力したというのか。
「死ぬ事じゃあ無いんだよ……」
それは、搾り出すような掠れた声だった。
「何か…言いましたかな……?」
「死ぬのが怖く無いのかって、さっき僕に聞いただろ……? ………
「…………」
呼吸する度に胸に鋭い痛みが走り、康一は表情を歪める。 それでも話すのをやめようとせず、それどころか感情に任せるまま、少しずつ声を張り上げていった。
「本当に恐ろしいのは…… 『心』が砕けちまう事さ……! すべての希望が失われ、逆境に立ち向かう勇気が枯れ……ただ、ただ、時間が過ぎていく。 それをメソメソと眺めるだけの、心が砕けた生きた
フラフラと、走るどころかまともに歩く事すら出来ない身体で、こちらへ歩く。 セバスの方へ近付いて行く。 蝸牛の如く遅々とした歩みだが、一歩一歩確実に接近する。
若さゆえに意地を張っているのだろうか。 セバスは、深い溜息を吐きながら頭を振った。
「生きた屍ですと……? それはまさか、モモンガ様の事を言っているのですかな?」
「
ガン!
手の届く距離まで近付いた康一を、無造作に拳で殴りつける。 身長が圧倒的に違うため、リーチの差による殴打は一方的。 セバスの拳は容易に康一の顔面に到達した。
折れた鼻から血が噴き出し、裂けた唇からも血が止め処無く流れ出した。 殴られた衝撃で康一は大きく仰け反るが、踏みとどまる。
「莫迦なことを…… モモンガ様はナザリックにおいて最上位にして超越者。 人間よりも遥かに強く、人間よりもずっと永遠です」
「…………」
平手が頬を張る。 乾いた音が2回、3回と響く。
「そして無限の時間がある…… 不老にして不死、時の流れを超越したオーバーロードなのです。 時は完全にモモンガ様を祝福しているのですよ」
「…………」
構えすら取らない、体重の乗らぬ平手を康一は避けられない。 セバスの動きは早すぎた。
「少年に理解出来るはずがありません。 たいした経験も無く、愚かで、儚い…… 子供のキミに」
飛び散った血液が、土に細かい染みを作り…… 流れ落ちた鮮血は、黒い制服を赤く染める。
片手では数え切れない程の平手打ちを受けた康一は、ついに膝から力が抜け片膝と手を突く。
「諦めなさい、少年。 ……あなたの様な、ちっぽけな子供に何が出来ると言うのですか。 先程からまともに避けられず、反撃すら出来ないというのに……」
「反撃…は、『出来ない』んじゃあない。 ……『しない』のさ、セバス」
立ち上がれない康一を、文字通り見下ろしていたセバスの表情が曇る。 此処で初めて、無表情だったセバスの眉間に皺が寄った。
「……情けでも掛けているつもりですか? それとも無抵抗なら身の潔白の証明になると? ……それは全くの無意味。 むしろ私に対しての侮辱に他なりません」
「フフ、フ」
「私が何か……可笑しい事を言いましたか?」
康一はセバスを睨む。
「間違ってるから……さ。 さっきから……何一つね。 ……見当違いのところばかり見ているんだよ、お前はね」
「…………」
「僕はね…… 何かを期待して反撃しないんじゃあない。 『必要無い』から攻撃しないんだ」
「さっきから何が言いたいのか…… さっぱり理解できませんね。 時間稼ぎのつもりなら無意味です」
少しずつ、セバスの表情に不快感が現れていく。
「……もう終わっている」
「………は?」
「僕の攻撃はスデに完了していて、これ以上する必要が無いから攻撃しないと言ったんだよ……!」
「…………フゥ。 時間の無駄でしたね。 次の1撃ですべて
セバスは腰を落とし、ゆっくりと。 構えを見せ付けるように、左腕を水平に持上げ、右腕を引き絞っていく。 次に放たれる1撃は、絶体絶命の1撃となるだろう。
「………僕はね。 たった一回ぽっちの失敗で何もかも失うなんて、あんまりだって…… 思うんだ。 何よりも強いとか、絶対に負けないとじゃあなく…… 『次こそは!』って思えるから、人間は素晴らしいんだって思う」
康一の言葉を無視し、セバスは小指から順繰りに握りこみ拳を作る。
セバスが握った拳から、ミシリと音が鳴った。 燕尾服に包まれた鋼の肉体は、放たれる前の弓のように、拳を撃ち出す時を今か今かと待ちわびていた。
「さらば…… 儚く、弱き者よ」
そしてセバスは、短く別れを告げたのだった。
実写化ジョジョの情報が出る度に絶望が深まってゆく。 フルCG映画でやれば良いのに……解せぬ。