『スイッチ』を押させるな――ッ!   作:うにコーン

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荒木先生「キャラクターや、世界観の説明をダラダラと続けたら、読者はイライラしてしまうぞ」
    「読者が見たいのは、キャラクターの行動や運命だぞ」
    「世界観は、キャラクターの行動や台詞に盛り込めば、十分読者に伝わるぞ」

ううむ、確かにキャラクターの性格や置かれた状況。 過去の出来事を、紹介したくなる。
手塩に掛けたオリジナル キャラクターだったら、特にそうだろう。
だとしても、読者が読みたいのはストーリ…… キャラの設定資料なんて読みたくは無い、か。

それが難しいんだよなぁ~~ッ! この、匂わせるっつーの? 自然な感じっつーの?
荒木先生は「キャラを困難な状況に放り込めば(おの)ずと表現できる」って言ってるけど。
キャラの設定がカッチリ決まってないと、なんて喋らせていいか悩んじまうし……
『絵』でなく『文章』で表現する小説はソコがムツカシーのよ! 伝わり難いし、伝え難い!


悪意に満ちた世界 の巻

 ヒソヒソとしていた周囲のざわめきが、瞬時にして大きくなる。 ガゼフの部下だろうか。 後ろに控えるように待機していた一人が、

 

「身分もわからぬ者がッ! 戦士長と試合をしたいなどと無礼だと   

 

 と、言いかけて片手を挙げたガゼフに制される。

 

「私はそれでかまわないとも、空条殿。 だが、どのような怪我を負おうが、お互いに禍根無しということを約束していただく」

「そうか、それと怪我の心配はしなくていい。 仗助が治せるからな」

「ほう、その若さで治癒の魔法が使えるとは。 その姿から察するに、召還を得意とするマジック・キャスターなのですかな?」

 

 4人の背後に浮かぶスタンドを、チラチラと見ていたガゼフ。 スタンド能力を魔法による召還だと想定し、質問した。

 

「はあ? 誰が車輪だコラ」

「お、億泰君。 そっちのキャスターじゃ無いよ!」

「確か~ 投げる、っつー意味だったハズだぜ。 ニュースキャスターとかのよー」

「魔法使いですか? って言いたいんだと思うよ。 たぶんだけど」

「ああ、なるほど。 俺によー 魔法なんて使えるわけねーッスよ。 メルヘンやファンタジーじゃあないんスから。 オレのは能力ッス」

「魔法ではない? 能力とは一体何のことですかな?」

 

 ガゼフにとって予想外の答え  能力。 背後に浮かぶ、異形の人型ですら魔法ではないとの返答に混乱する。

 

「直接見せたほうが早いな」

 

 と、承太郎は、騎士から鹵獲した剣を半ばから折り、刀身の部分で指を薄く切る。

 

「仗助、頼む」

「了解ッス」

 

 仗助が<クレイジー・D>の能力を発動させると、折れた剣と切り傷が瞬時に治る。

 

「武器や鎧の破損もなおせるので気を楽にしていい。 死にさえしなければ大丈夫だ」

「成程…… 良く解らないが、信用できるようだ。 では、()()お相手しよう」

 

 ジリジリと高まっていくお互いの殺気。 ビリビリと空気が震えるようにさえ感じられた。

 

 承太郎は、精神力の消耗を抑えるために解除していたスタンドを、ゆっくりと発動させる。 2重に()れる様に、重なっていた2枚の写真がズレる様に、次第に(あらわ)になる承太郎のスタンド…… <スタープラチナ>。

 

 承太郎自身は動かず、スタンドだけをガゼフから見て左横に回りこむように、ゆっくりと移動させる。 ガゼフは間合いを計るように横に回りこむ<スター・プラチナ>を嫌がり、右後ろへ1歩後退しつつ、両方が視界に入るように少し左を向く。

 

(ガゼフはスタンドが見えている。 村人が特別と言うことは無いか。 ガゼフの取り巻きにも見えているな……)

 

 この世界の、少なくとも人間はスタンドの視認が可能と結論付け、スタンドを自身の近くへ戻す。

 

(次は…… 私の能力が通用するかどうかだが……)

 

 と考え、スタンドの能力を発動させた。

 

 

ドォ          『スター・プラチナ ザ・ワールド』           ン!!

 

 

 世界が暗転し、元に戻る。 時の流れが止まり、承太郎を除く全ての物体が停止する。 軽く地を蹴り、ガゼフから見て右側に、間合いに入らない様に回り込み、視界外へ移動した。

 

「そして時は動き出す……」

 

(何ッ! 消えたッ!?)

 

 そして2秒後。 再び時の刻みが開始され、承太郎を見失ったガゼフ。

 

(背後へ回られたか!)

 

 先ほどスタンドが左側に回ろうとしていた為、一瞬で左に移動したと予想し、左を見る  が。

 

(い、いない!? 何処へいった!)

 

 当然のごとく見つけることは出来ず、そのまま体を回転させ、後ろを見るが見つからない。 完全に後ろを向いた辺りで、視界の端に承太郎の姿を視認する事が出来た。

 

「 !! ほう…… 空条殿は転移をする事ができるのだな?」

「……さあ、どうかな」

 

(能力は正しく動作している…… ザ・ワールドで時を止められる。 そしてガゼフは停止した時の中でのオレの動きが見えていなかった…… DIOのような能力はない……)

 

 向かい合う位置が90度変わり、側面を戦士団と仗助達に向けるような位置で2人の動きが止まる。

ゴ ゴ ゴ

 2人の周りの景色が歪んで見える程…… 膨れ上がる殺気。 張り詰めるような空気に、争いに慣れていない村人達の顔が青を通り越して白くなっている。 そして、戦士団の騎兵や仗助は…… 瞬きをする事を忘れてしまったかのように、動き1つたりとも見逃すまいと、固唾を呑んで見守っている。

         ゴ ゴ ゴ

 紅く染まり行く大空が、西から侵食されるように闇に覆われていく。 闇に追われるように沈んでいく太陽が、向かい合う2人の戦士を照らす。 張り裂けそうだと感じられるほど高まった緊張でだろうか…… 2人は微動だにしない。

                  ゴ ゴ ゴ

 いや… 少しずつ間合いを詰めるように近付いている。 ジリジリとミリ単位で縮まっていく間合い。 両手長剣のガゼフの間合いと、スタンドを持つ承太郎の間合いは()しくもほぼ同じ。

                           ゴ ゴ ゴ

 お互いの間合いがお互いの本体へ触れる…… 刹那(せつな)、2人は暴風を(まと)った竜巻へと変化したッ!

                                    ゴ ゴ ゴ

 右の(かいな)を振りかぶる<スター・プラチナ>。 右中段胴薙ぎのガゼフ・ストロノーフ。

 

 

ズギャァァアアッ!!

 

 

 中央で衝突し、開放された膨大なエネルギーは、暴風へと変化し、付近の砂を砂利と一緒に吹き飛ばす。

ド ド ド

 暴風に運ばれてくる砂と小石によって、閉ざされるギャラリー達の視線。 再び開かれた彼らの双眸に映るのは、拳を手首まで切り裂かれた承太郎と、両手長剣の剣先が砕けた戦士長の姿だった。

          ド ド ド

(やれやれだぜ…… 思った通りただの剣や矢とかの物体でもスタンドが傷付くのか…… 厄介だな…)

                    ド ド ド

 裂かれた右腕から血が(ほとばし)るのを冷静に見つめながら分析する承太郎。

                              ド ド ド

「仗助、戦士長の剣とオレの腕を頼む」

 

 仗助の能力によって何事も無かったかのように元に戻った拳から視線を外し、

 

「待たせたな」

 

 と構えを取る。 承太郎は爪先立ちになると、間合いを先ほどより早いスピードで詰めていった。

 

 承太郎がガゼフの間合いに入る。 それを待っていたかのように、両手長剣の横薙ぎが再び眼前に迫る。

 

 <スター・プラチナ>を出現させ、スタンドの掌部分で挟むように押さえると、引き寄せるように自身の方へ引っ張った。

 

 剣を持つ手が承太郎の方へ引き寄せられ、剣を持つ手首を蹴り砕かんと、<スター・プラチナ>の足刀が迫り   

 

 

     ()()()()()

 

 

(読まれていたッ!)

 

 剣を引かれ、少し前のめりになったガゼフが持つ剣は、持ち手を左右逆にしており、ギリギリで<スター・プラチナ>の足刀は宙を切る。

 

 ガゼフは剣を左に捻る。 左足で足刀を放った承太郎は片足立ちの不安定な姿勢になっており、うつ伏せに倒れ伏すと思われた。

 

 通常、人は倒れそうになると倒れまいとする。 その体勢が崩れ切る前に、攻撃を仕掛けようと1歩踏み込むガゼフ。 (ひるがえ)る剣。

 

 空気を切り裂く鋭利な音が、その剣の先端速度の凄まじさを表している。 大重量の鋭利な鋼が、承太郎の左肩を食い破らんと迫る。

 

 

 

 

ギャギャリィィッ!!

 

 

 

 

(何と! 何時の間に剣を!)

 

 肩を切断されると思われた承太郎。 だが、承太郎の左手には何時の間にか、剣が逆手持ちで握られていた。

 

 両手長剣の重量と、振り下ろしの速度から来る、凄まじい量の運動エネルギー。 剛直な鋼を摩擦により、(しのぎ)の部分を莫大な量の火花へと変える。

 

(そうか! 先程指を切って見せたあの剣か!)

 

 あらかじめ()()()()ように剣先を地面に向けてある。 今度はガゼフが体勢を崩す番だった。

 

 大剣の重さに引っ張られたかのように、前のめりに姿勢を崩すガゼフ。 迎え打つは、しゃがみ込んだ低い姿勢で脇腹へと拳を振るう承太郎。

 

(素晴らしい。 隙を見せるまで正面から押すのでなく、順序立てて攻め立て隙を作るとは!)

 

 アドレナリン、ドーパミン、エンドルフィン…… 極限状態により脳内物質が過剰に生成される。 異常に興奮した脳が、究極まで研ぎ澄ました感覚は、時間の流れが遅くなったかのように感じさせる。

 

(だが…… ()()()()で一本はやれん!)

 

<即応反射>

 

 物理法則を超えた動きで、ガゼフが一瞬で万全の体制へと変わる。 体を捻り、体と拳の間に両手長剣を割り込ませた。

 

 

 

ガイィン!!

 

 

 

 何トンもある鉄骨が、地上高数十メートルから落下したような、凄まじい爆音を立てて止められる。

 

(ぐうっ! なんという衝撃!)

 

 (はじ)けてしまうのではないかと思えるほど、手の中で暴れる大剣。 手を離れ、飛んで行ってしまわないよう押さえつける。

 

   ハッ!」

 

 一瞬だった。    膂力で剣を押さえつけ、硬直している隙は。 だが、それを見逃すハズがなく。

 

「速いッ!」

 

 ガゼフのブーツを左手で引っ張りあげる。 完全に足が地面から離れ、背中から地面に倒れ伏す   

 

 

   前に。

 

 

「オラァァアアッ!」ドグシャァァアアッ!

 

 

 

 打ち込まれた拳はガゼフの着ていた胴鎧を大きく陥没させ、脇腹を抉る。 拳の形に陥没した鎧は、さほど抵抗無く大きく形を変えた。

 

 

   だが

 

 

(何ッ!? 浮かないだと!? ダメージが低いッ!!)

 

 体勢が万全でないため、全力の一撃では無い。 しかし、まともに打ち込まれた拳は、近距離パワー型の<スター・プラチナ>による1撃。 その拳は岩を砕き、大地を穿(うが)つ。 高速で迫ってくる大型トレーラーですら、<スタープラチナ>の拳の前では容易に目的地を変える。

 

 ……まともに食らえば、テニスボールの如く吹き飛ぶとは行かなくても、跳ねるくらいはするハズであった。

 

 しかし、実際に起きたのは鎧の破壊と比べて、明らかに低いダメージ。 不自然に加速する体術といい、この世界の住人は… まるで呼吸でもするかのように極々自然に…… 物理法則を捻じ曲げる。

 

(まだ不明な点が多い… この世界の住人は防御に長けているのか… それとも戦士長が何らかの能力で特別なのか…)

 

 地に手を着いて激しく咳き込むガゼフに、手を貸し立ち上がらせる。 2人は互いの健闘を称え、試合は終了した。

 

 

 

 

 

 

      ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 陥没した鎧を、仗助が<クレイジー・(ダイアモンド)>で修理する。 歪んでいた金具が元通りになり、胴鎧を外す事ができた。 ガゼフの脇には大きな痣が出来ており、腫れて熱を持っていた。

 

(<スタープラチナ>の1撃をくらって痣ですんでんのかよ。 スゲーなこの人も)

 

 緊張した面持ちで仗助が脇腹に触れる。 変化は劇的だった。 痛々しく赤黒くなっていた痣は、まるで無かったかのように元に戻っていた。

 

「おお、これはすごい。 痛みすら無い」

 

 と、自身の脇腹を(さす)ったり叩いたりするガゼフ。 脱いでいた服と外していた鎧を着込んでいる彼に、仗助は

 

「なぁなぁ、さっき俺たちの事を魔法使いかって聞いてきたけどよ~~ この世界って魔法使いがいるって事か? ガゼフのおっさんは魔法を見たことあんのか?」

 

 と、矢継ぎ早に質問した。 ガゼフは片眉を上げ、何をあたり前な事をと、不思議に思いながら肯定する。

 

「その通りだが…… 君達は魔法を見た事が無いと? この地域の人ではなさそうだとは思っていたが、君達は一体何処から(まい)られた?」

 

 身支度が済んだガゼフは、服についた砂を払いながら立ち上がった。 馬上で睨むように観察した時に、この土地の者ではないと看破していたのだ。

 

「さあな……」

 

 隣りで治療の様子を見ていた承太郎が代わりに答える。

 

「私達にもそれがさっぱりでな。 気が付いた時にはすでにこの村の近くにいたんだ。 元の世界に戻りたいのだが、方法が見当も付かない」

「世界? 君達はこの世界の人間では無い、と?」

「……その通りだ」

 

 承太郎は懐から1本のボールペンを取り出す。 金属製の、なんの変哲(へんてつ)も無い普通のボールペン。 ステンレスの鈍い輝きが、試合を見守っていた村人と戦士団の視線を集める。

 

 ガゼフにそれを投げ渡す。 難なく受け取ったガゼフは、その金属棒の緻密な造りに瞠目する。

 

「……これは?」

「私達が居た世界の…… 筆記具だ。 尖っていない部分のボタンを押すと、書くための先端が飛び出す仕組みになっている」

 

 試しにと、手近にあった板の木片にペンを押し当てる。 パッと見では、どうやってインクが出るのか解らないというのに、滑らかな書き心地。

 

 鳥の羽が中空になっていることを利用し、加工した羽根ペン。 少々高額だが、金属製のペン先を使った寿命が長い付けペン。 両方とも引っかくように書くため、紙が破れるなんてよくあること。

 

 だというのに、この金属製の筆記具は、まるで摩擦が存在しないかの如く滑ってゆく。 いちいちペン先にインクを浸したりする手間も無い。 ボタン1つでペン先が隠れるのも、懐が汚れずに持ち運びが出来るだろう。

 

「これは… すごいな」

「私達がいた世界では、銀貨1枚(約5千円弱)でそれが5~6本購入できる」

「……嘘、ではないのだな。 その値段も。 無限に書ける、便利な筆記具のマジックアイテムは知っているが、安くても金貨6枚程しよう」

 

 ……またか。 と、承太郎は内心で舌打ちをする。 なんでもかんでも魔法の力、魔法の道具。 魔法は、()()()()人々の生活に密着している。 ()()()()()()()()程までに。

 

  これは、わざとだ。 わざと()()()()()()()()()()()()されているのだ。

 

 人は楽をしたがる生物だ。 だが、それは悪いことではない。 少ない労力で事が及ぶと言う事は、それだけ余力を残せるという事に繋がる。 くだらない事にいちいち消耗していては、ただの獣にすら命を脅かされるだろう。

 

 ……()()()()()()()()()。 問題があるのは…… この魔法という物が、()()()()()()()()()()()()事だ。 死んだら何も残らない魔法は、受け継ぐことが出来ないから……

 

 蛇口を(ひね)れば水が出る。 原理を理解せずとも利益を享受(きょうじゅ)する事ができるのと同じだ。 まあ、()()魔法(システム)()()()()()()()()()()()()()。 苦労して道具を作っても、魔法を使えば同じことが出来る。 だからその先に行こうとは思わないのだ。 …………いや、()()()()のか。

 

 虎や熊など、鼻で笑ってしまうような猛獣(ビーストマン)との生存競争で… 今が大変で()()()()()()()()のだ。 どうしてそうなるのか、疑問すら(いだ)かせないように、何者かによって。

 

 

 

 承太郎がいた世界、地球の歴史にもこのように停滞の歴史を歩んだことがあった。 人々は(のち)に、その時代をこう呼んだ。 暗黒時代と。

 

 ローマ・ギリシャで成し得た技術や知識が、後の世では全く理解できなくなった。 作り方がわからぬので『悪魔が作った』等と言った。

 

 はるか昔のギリシャで、地球は丸いと判っていたのに、後の世では平たい大地となった。 地球が太陽を周っていると言った者が裁判にかけられ、革新者は殺され異論者は口を(つぐ)んだ。

 

 歴史が停止(とま)っている。 いや、狂わされて(とめられて)いるのだ。 何者かによって。

 

 

 

 この、悪意に満ちた世界は    

 

 

 

to be continued・・・




筆記具マジックアイテムは捏造

――没ネタ――

~エンリが背中切られるシーン~

ネム「あっあっ! 姉貴ィィイ――ッ!!」

すきなとこ:勢いがいいよね
      緊張感っつーか緊迫感っつーか

ボツりゆう:いやぁネムが言ったら奇妙すぎるでしょう
      ネムの髪型をリーゼントにしなきゃ(使命感
      

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