クレント君、王都入り二日目
起床の後、整容
ユーリ、アリス、リン来訪
女子会()開始
各人が持ち寄った食事をひとまず平らげた後、食後の紅茶を頂きながら口を開くことにした。
「とりあえず昨日の一件での俺個人の総評なんだけど。」
一度言葉を切り三人の様子を窺う、とりあえずこちらの言に耳を傾けてはくれてはいるようなのでこのまま続けるとしよう。
「結果的にうまくはいった、けど他にもやり様はあった、不意の遭遇戦だったはいえ、
討伐後に無防備になったのは明らかに拙いかな、という点で反省すべき事柄と
今後の課題は魔力の運用で同じ轍を踏まないようにするという事になるのだけど。」
うん、思い返すだけでもかなり周囲にいたお歴々の実力に助けられた感じだ。本当に運が良かった。
「うーん、ともあれ結果が良かったんだからそれでヨシ!っていうのじゃダメなの?」
「突発の事態でこれだけできれば上首尾、これ以上を望むのは贅沢だと思う。」
「まぁ昨日の話を母から聞いてはいたけど、何故か辛めの評価よねぇ、謙遜というのともちょっと違う感じだしぃ。」
アリス、リン、ユーリからそれぞれ総評に対してのコメントを貰う。
「あー、なんというかフォローというか甘口な評価をどうも、
というか魔法が使える同年代なら、ハンターと協力して
魔物の討伐とか普通にこなしているかと思ったのだけど……?」
『いやいや、流石にないから、魔物討伐とか、ホントないから』
まさかの三人からの唱和だった。
「私が得意なの付与魔法だしぃ、なにより今は中等学院生だよぉ」
「そうそう、同年代ではそれなりに使えるって程度で、
多分協力するといっても足を引っ張るだけかな。」
「悔しいけど先の意見と同意。だから今度の高等学院の入試は奇貨だと思ってる。」
ユーリ、アリス、リンから同年代の状況を聞かされた。思ってたのとお互いに大分ズレがあるようだ。
「うーん、そういうものなのか、だからかな?向こうで強めに
高等学院の入学を薦められたのも。」
「それは薦めると思う、というかおそらく貴方に王都入りを薦めていた筆頭は、
私の父ともう一人だと思う。貴方のことは、父からもそこそこ聞いていたし。」
「そうそこ、ヒューズ氏にはやたら強く勧められた、そして院長先生と
院長の知己の先代領主、院の運営費の出資者を名乗る人に
完全に外堀を埋められる形になった。
ジュリアおばさん、出資者の人なんだけど院に氏が来訪する際はジュリアおばさんに
結構な割合で同行していたのだけど、どういった関係なんだろう?」
先の食事の前に聞いておきたかったことをリンに問いかけた。
「私の父は宮廷魔法師、あとあなたの院長先生とも魔法師団の先輩後輩の仲で、
先代領主とも旧知、そして出資者の方は
ジュリア=フォン=アールスハイド、この国の王妃様。父はよく王妃様の護衛として 各地を巡っていた。」
…………あーうん、何か色々と腑におちた。
「確かに出資はしているけどそれは院にであって貴方達にじゃないわ、だからできうる限り私のことは〈ジュリアおばさん〉って呼んでほしい訳。」
とは折に触れて言っていたが、その時の周囲の何ともいえないある種の諦めを込めた視線はこういう理由だったのか。
まぁ時折見せる有無を言わせない威圧感は明らかに市井の人ではないなとは思っていたけど。
「というか種明かしの場面なのに反応が薄い、期待していたのと違う。」
「いや、勿論驚いてはいる、いるのだけど、妙に納得する気持ちの方が強くてね、
期待に添えずにすまない。」
こちらの反応に不服だ、というリンに対しひとまず謝罪する。
この後は、各自の時事の話題等に触れながら会食はひとまずお開きになった。
時事の話題で上った中で主に気になった事柄といえば、三点あった。
ここ近年魔物の出現件数が増えている傾向がある、今年度の国王出席の御前会議で
議題に挙げる予定である。
賢者・導師様の両名がアールスハイド王都に戻ってきた、その際に使用人選抜の
ささやかな競技会が催された。
今年度の魔法学院入学予定者に、国王陛下の第一子であられるところのアウグスト殿下と、賢者様のお孫さんがいるらしい、という話を聞かせて貰った。
魔物の発生件数は昨日も街道で出没した位だし、
何かしらの対策を立てて欲しいものだと思う。
賢者・導師様両名の王都帰還は王都民ひいては王国民にとっては基本吉報だろう。
というか、両名に悪感情を抱いている連中となると
何かよからぬ事を企ている輩位だろうか?盗賊とか犯罪組織みたいな。
という程度にはこの大陸に住んでいる以上は敬意を持つに足る人物であろう。
それにしても、使用人の選抜戦が起こるってどういう規模だったんだろう?
ちなみに導師様とは少々面識があったりする。
不定期に孤児院に足を運んでは、院長先生だったりジュリアおばさんと
話をしているのを少なくない回数見かけていた。
後、体質の件で少し診てもらってもいたりする。
なお、様子観察という方向に話を進めていったのも、
導師様の案を採用したからという事らしい。
まぁ色々と問診されたりもしたけど領内の治療院には通わせられない案件
という扱いにされたようだった。
このあたりは英断だと素直に感心した。まぁ性別が切り替わる体質になってから
間髪入れずに行方不明になって、こちらの日数で約半年後に
孤児院の裏手にある納屋で気を失っているところを【先生】に見つけられる形としてひょっこり帰還した。
心身共に相当疲弊する案件をなんとかこなして、
自室に引き籠ろうとしたところを【先生】に見咎められ、
「どうせお籠りかますンならこういうのなんてどうだい?」
と自作した魔道具と書付を持たされ、どこかの迷宮に強制転移させられて、
取りあえずの区切りの150層まで踏破した後、安置してあった宝物の管理を司っていた
魔力をたたえた銀製の女神像の不興を買って、階層の罠であろう転移陣を起動させられ、どこかの大空洞に放り込まれ、怪しげな実験を行っていた教団だが騎士団だかの徒党に抵抗むなしく拉致され、
治療と称して身体のあちこちを弄られたり、所属している兵士連中の無聊を慰めるために模擬戦と称して棒術で転ばされたり、
こちらが障壁を展開した上から放出系の魔法を乱発されたり、植物だか軟体動物の苗床になったりして意識も朧げながらに
(あぁ医、食、住、快楽と割かし欲求が満たされている現状のまま揺蕩ってこのまま終わっていくものいいのかもなぁ)
とかうすぼんやり考えてたら
捕らわれていた施設に強襲をかけてきたどこかの御貴族様だか何かの団体の調査員に
保護されたらしく気を失っている間に納屋に転がされていたという
顛末ではあるんだけど。
この辺りの詳細は転移させてからこっちの魔力探知を細々と行っていたらしい【先生】以外は知らない、というか知らせていない。
【先生】としても迷宮への転移以降の事態は想定外だったらしく、
俺の保護に動いてくれた団体を差し向けたのは【先生】の要請だったそうな。
「対価は君の身体検査と体液採取で釣の上に特典がつく」という事だったらしく、また
「割と不安定だった体調というか体力及び魔力も年齢相応かやや上位の域にある」とか言われたが、
もう正直、自発的に何かしようという気にはなれず、うっかり将来の展望に本音を漏らして今に至っている。
【先生】と別れる少し前にも、
「今はまだ色々と、具体的には魔力量と
制御の練度が絶対的に足りないから不可能だろうけど、
というか私でも理屈とイメージ位しか教えられないけど、
一応弟子みたいにな立ち位置の君にそれっぽいことを授けてみようと思うんだ」
などど上機嫌で生活魔法の幾つかだったり、障壁魔法関連の応用法なんかを伝授してもらった。
後日、理由を知っていそうな院長先生に先の奇行について尋ねてみたところ
「莫大な臨時収入が入ったらしく、雇い主である先代様に
手切れ金として大枚を叩きつけて自分を買い戻した。」
とかなんとか。
日頃、陰日向なく「旅に出たい」「自由になりたい」「美味しいもの食べたい」
と現状に不満を零していたし、
特に最後のは「お前が何とかしろ」と無茶振りをしてくる始末で、
まぁこっちの家政の技量向上に一役買ってくれた訳だし
なにより家政はそれなりに嫌いにはならなかったので
結果としてみればよい方向に転がったのかな、と考えることにしている。
と、導師様のことから盛大に横滑りして取り留めなく考えながら歩いていたら、
役所というか王城の各種申請を受け付けている詰所まで着いていた。
何故か、リンが同道していた。
「父に渡しておく物があるついでに貴方の逗留先の領主様にも用事がある、
というか出来た。」
という事らしい。
とりあえずこちらの用事であるところの市民証の更新は問題なく行ってもらえた。
また王都の銀行の口座開設とそれにあたっての説明も受けた。
受け取った市民証についての諸注意と、
更新前の市民証に残留していた魔力を精査してみたら、
昨日の魔物討伐の件でもしかするとハンター協会から報奨が出るかもしれないから、
足を運んでみることを薦められた。
また魔法学院への受験願書は窓口経由での受け付けは締め切っており、
後日行われる院内説明会での願書受付のみであるという事も教えてもらった。
「しかし、市民証の更新もこっちじゃなくてユーリに案内してもらった
派出所では駄目だったのかな?」
「王都内の引っ越しならともかく、遠方からの住所変更の場合は
王城の詰め所での手続きなら確実、派出所だと結局こっちに来る必要が出て
二度手間になる恐れもある、なによりこっちの方が説明も丁寧。」
自分の用事を済ませてきたであろうリンにちょっと疑問に思っていたことを
問うてみたら、納得のいく理由が返ってきた。
たしかに市民証の更新理由の質疑応答のあと、持ってきた書類一式を対応してくれた職
員に見せたら、学院の話までしてくれたのだからリンの言は尤もだった。
「とはいえ書類に不備もなく円滑に行えたのは正直意外だった、大体何かしらは
書き直したりするから、そういう方面の助力を、と思っていたのだけど。」
「そのあたりの失敗は、中等学院時復学の時に散々やらかした。
療養先を【先生】の知り合いの所とだけ記す訳にはいかないし、
うまいこと学院側に説明する文言を練る為に院長先生をはじめ、
周囲にいた年長者の知恵を拝借したものさ。」
「ここの院を起ち上げる時の方便を書き連ねるとき並みに頭を使った。」
とは院長先生の弁だったな。
とりあえずは先代領主とも縁のある施設に放り込んだという態にした。
理屈というのは如何様にも付けられるということを学べたよい機会だったと痛感した。
役所での用事を終えリンと共に雑談をしつつ当代領主の王都屋敷へと足を運ぶ。
邸宅は役所からそう遠くない距離だったらしく、徒歩で昼前には到着できた。
門前では門番であろうよく手入れの行き届いた鎧を身に着けた兵士然とした大男が待ち構えていた。
大男はこちらに気づいたらしく、自身の職分を果たすためこちらに声をかけてきた
「こちらはミルファス辺境候の王都屋敷となりますが、そちら様方は当家に何か御用がお有りでしょうか?」
「リン=ヒューズと申します。父の名代として罷り越しました。本日、目通りを願って約束を取り付けてあります。」
「当家にしばらく逗留することになっているクレント=マーサリーと申します。身分はこの市民証を、
また詳細はこちらの書類をご覧ください。」
リンとお互いに異空間収納から邸宅に着いたら渡すように言われていた書類と市民証を門番氏に確認してもらうと、
どうぞお通り下さい、と門内に通され屋敷内の玄関先でリンは年かさの給仕頭だろうか彼女に案内されて奥の部屋へ、
俺はというと執事と思われる壮年の紳士に案内され応接室とおぼしき部屋に通された。
通された部屋に備え付けられたソファーに座るよう促されたので一礼して席につく。
とはいえ正直質が良すぎで落ち着かない旨を彼に告げ、自前で椅子を用意したいと告げると苦笑して了承して貰えた。
異空間収納から普段使いの椅子とクッションを取り出すと、執事氏はなにやら少し驚いたような表情をみせた。
「話には聞いてましたが、こうして実際に目の当たりにするとやはり興味深いですね。
ああ、これは失礼、当家にて執事長を務めておりますギャリソンと申します。
たしか以前領内でお見掛けした時は挨拶もできませなんだので改めて自己紹介を。」
「あの時は先代様の新規採用した使用人の教育でそれどころではなかったと
記憶していますし、こちらも要請された依頼の経過報告の書面を
先代様に直接お渡ししたのみでしたし、お互いそういった余裕がなかったと
思いますので、こちらも改めて、
クレント=マーサリーと申します。この度は王立魔法学院の入学説明会に
参加するために、当屋敷に逗留することになっている、と」
「ラーケル、門番の彼から市民証と書類を受け取って拝見しました。
ああ、市民証はお返ししましょう。
これから御当主様があなたと共にこられたお客様とのお話が終わり
次第挨拶したいと申し送りを受けています。
それまでは略儀ながら当家での過ごし方についての諸注意などを幾つか。」
門番氏に渡していた市民証を執事長のギャリソン氏より受け取ってからは、
逗留に関しての過ごし方についての諸注意と質疑応答の時間になった。
逗留中に守るべき規則は概ね孤児院時代からの約束事と目立った相違はなく、
むしろ門限はこちらの方が緩い位だった。
そこそこの時間お互いに確認したい事柄も出尽くした頃だろうか、ドアがノックされギャリソン氏がどうぞ、と声をかけると、ドアを開け茶髪の体躯のよい美丈夫が
リンを伴って室内へ入ってきた。
「おう、こうして会うのは一年振り位か?そちらのリン嬢から話は聞いていたが、
その、何だ、あのマーサリーでいいのか?君は?」
「ええ、ご無沙汰しております、厚かましくもしばらくの間、
当家にてお世話になりますクレント=マーサリーで間違いないですよ。」
「いやまぁ、その、だな先代様や院長、王妃殿下からも話は聞いていたんだが、
記憶にある像と今の容姿との差異でだな、なんというか、その、な……」
「態々言葉を選んでいただく心遣いを強いてしまい申し訳ありません。
失礼ながらこの容姿については
先立って院長先生より書面でお伝えしてあると聞き及んでいましたが……」
「うむ、ヒュロドスのやつからは書面で受け取っている、いたが、正直怪文書の類か
彼女氏の出来の悪い冗談程度にしか思っていなかった。
学生時代から貴奴の冗談のセンスは壊滅的だったからな、だが、うむむ、
どうも天と地のはざまには私の見分では思いもよらない事というものがあるのだな!
この年で痛感することになろうとはな、いやこれは中々に痛快な事だな。」
「見聞を広められた事、大変喜ばしく思います。ミルファス辺境領現当主、
メラネイド=フォン=ミルファス辺境伯閣下。」
一礼と共にドアの向こうから現れた美丈夫と会話を終え、ふと気付いた。
ああ、そういえば現在の容姿は女性体の方だったか、自分でも正直失念していた。
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