穂群原学園小等部
俺、衛宮陸はそこの5年1組に通っている。
帰りのホームルームは終わるが、俺は席を立とうとしない。
俺の席は日当たりが良く、ポカポカしている。
夏なら最悪なポジションだが、今の時期ならまだギリギリ暖かいで済む。
この暖かさに身を任せ、眠ってしまいたい。
「陸!帰るよ!」
そんな俺の眠気を妨げるのは自称俺の姉であるイリヤだ。
何故、自称なのかと言うと、俺とイリヤは血が繋がっていない。
イリヤの両親、つまり現在の俺の父さんと母さんが孤児院で俺を引き取った時、俺とイリヤは同い年で、最初はどっちが上なのかっと問題になった。
イリヤは自分が姉だと言い張り、俺はイリヤが姉でいいと言い、名目上、イリヤが姉となっている。
まぁ、姉とか弟とか関係ないんだけどな。
「イリヤ、俺は少し寝てから帰る。先に帰っててくれ」
「ダメだよ!今日、マジカルブシドームサシのDVDが届くんだから、早く帰らないと!」
「なら、一人で帰ってくれ。俺は眠い。それに、義姉弟だからって、一緒に帰る理由も無いだろ」
「そ、それは………り、陸は私の弟なんだよ!弟の面倒を見るのは姉である私の務め!だから、ほら!一緒に帰るの!」
俺の手を掴み、引っ張るイリヤ。
こうなったイリヤは頑固過ぎて困る。
「分かった分かった。帰るから、ちょっと離してくれ」
イリヤを押し退け、ランドセルを背負う。
衛宮家に来て、もう五年。
イリヤが隣りにいるのが当たり前となっている。
イリヤと二人で歩いていると、高等部の校門が見え、門から丁度イリヤと俺の義兄、衛宮士郎こと士郎兄さんを見かけた。
「お兄ちゃ~ん!」
士郎さんに気付いたイリヤは小走りで兄さんに近づく。
「お、陸にイリヤ。今帰りか?」
「うん、そうだよ」
「一緒に帰ろう!」
「いいぞ」
兄さんは自転車に乗らず、手で押しながら俺達と歩く。
「陸、お兄ちゃん!家まで競争しよう!」
「俺はいいけど、俺、自転車だぞ」
「大丈夫!私、走るのは得意だから!」
そう言うとイリヤは走り出す。
「はぁ、兄さん。後ろに乗せて」
「いや、二人乗りは危ないから……」
「大丈夫大丈夫。この辺に交番は無いし、今は警官のパトロール時間でもない。バレないって」
「バレなければいいってもんじゃないぞ?」
「硬いこと言わないでよ」
「たっく……イリヤ!待てよ!」
兄さんも自転車に乗り、イリヤに追いつきそうで追いつかないスピードを維持して走る。
その後ろで兄さんの肩に手を置き、風を感じる。
とても心地いい。
「「「ただいまー」」」
「お帰りなさい、イリヤさん、陸。あら、士郎も一緒でしたか」
家に着くと俺達を迎えたのはセラだった。
セラは、母さんが父さんの仕事に着いていき、よく海外に行くので、その間の家事や俺とイリヤの教育を任された人だ。
お手伝いさんみたいな感じかな。
「そうだ、イリヤさん。お昼過ぎに荷物が届いてましたよ。確か中身はDVD」
セラがそこまで言うと、イリヤは笑顔になりリビングへと走って行く。
「ああ、リズお姉ちゃん!自分だけ先に見てるなんて酷い!」
イリヤのそんな声が聞こえたので兄さん、セラと一緒になってリビングを覗く。
そこにはセラの姉妹のリーゼリットもといリズ姉がソファーに座ってアニメのDVDを見ていた。
「イリヤ、おかえり~」
「おかえり~っじゃないよ!先に見るなんて!」
「でも、お金出したの私だし」
「それはそうだけど………」
「何かと思えば」
「アニメの……DVD」
「イリヤさんもすっかり俗世に染まってしまって。これでは留守を任せて下さってる奥様に申し訳が立ちません……」
セラは申し訳なさそうに言う。
「いや、別に其処まで重く考えなくても」
「何を無責任な!義理とは言え、兄である貴方がしっかりしないからこんなことになるんですよ!」
「え!?俺!?」
「うおおおおおおおお!!」
兄さんに説教をし始めるセラ、苦笑しながら説教を受ける兄さん、DVDを見てはしゃぐイリヤとリズ姉。
そんな皆を放置し、俺は自室の部屋に籠る。
これが俺の今の日常。
俺が愛する平穏な日常だ。
だが、そんな俺には一つ、どうしても気掛かりなことがある。
俺には孤児院に引き取られる前の記憶が一切ない。
名前も、俺が持っていた手荷物に名前が書いてあったことから分かったものだ。
俺にはやるべきことがあった。
それが思い出せない。。
それだけが、気掛かりだった。
「本でも読むか」
制服から私服に着替え、そう呟いて、本棚から一冊の本を手に取る。
ロビン・フッド物語。
俺の手荷物に入っていた本だ。
何度も読み返し、手垢まみれで、ボロボロだが俺のお気に入りの本だ。
この本を読んでいると、とても懐かしい感じがする。
俺にとっては唯一の記憶への手掛かり。
俺は平穏な日常の維持を願いつつ、今日も自分がするべきことを思い出そうとページをめくる。