死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL) 作:アニッキーブラッザー
町の飲食店で、テーブルいっぱいに運ばれた料理の皿に目を輝かせるエースたちが居た。
「おお、来た来た! いや~、腹が減ってやばかったからな!」
「キシシシシ、ちと量は少ねーな。店にあるもん全部出させりゃいいのによ」
「ちょっとう。ところでお金はどうするのう? あちしはお金持ってないわよう?」
大量に運ばれた料理を前にして、支払いをどうするのかをコッソリ尋ねるボンクレー。
だが、エースとモリアはアッサリと言う。
「ん? 宝払い」
「なぜ海賊が金を払う?」
なんとなくだけど予想していた答えが返ってきたことにより、ボンクレーは「やっぱり・・・」と呟いて顔を落とした。
だがすぐに「まあ、なんとかなるか」と楽観的に考え、ボンクレーもすぐにそのことを忘れて目の前の料理に食いついた。
しかし、その時だった。
「ふ~ん、相変わらずイナカくせえ場所だな。こんな小せェ町にはレストランはこんなとこしかねーのかよ。本当にイナカは嫌いだ」
何やらゴチャゴチャと文句を言いながら入ってくる男が目に入った。
回りを物騒な連中で固め、恐らくは護衛なのだろう。
そしてレストランにいた客たちは全員目を合わせないようにしている。
「おい、そこのお前ら」
「ん? 俺たちか?」
「ああ、そうだよ、そこの三人組だよ、なにボケッとしてやがる。俺が誰か知らねーのか?」
その男、何とも命知らずにエースたちに向かってズカズカと歩き出した。
エースたちは怒られる言われもないので「?」を浮かべる。
「そこの窓際は今日俺が座ろうと思っていた席だ! なんで先に座ってんだよ!」
んなめちゃくちゃな・・・
だが、そんな話にエースは笑った。
「はっはっはっ、そいつは悪かったな。俺たち今日初めてここに来たから知らなかったんだ。今すぐ他の席に移るよ」
エースがそう言いながらテーブルにある皿を持って移動しようとする。
「・・・・・・・へん! このイナカもんが!」
するとその男は、エースたちの座っていたテーブルを蹴り上げた。
「あー、あちしのご飯!?」
「おうおう、キシシシシ、乱暴な奴だ」
ガシャンとテーブルが音を立ててひっくり返る。食器の割れた音などで店内にいた女性客からは悲鳴が上がる。
皿を運ぼうとしたエースも皿から飛び散った料理を浴びてしまい、体が汚れてしまった。
「お前相当なイナカものに加えてバカ野郎だな。俺を誰だか知らねー? ひひひ、ありえねーー!」
男は食べ物や調味料で汚れたエースを見下しながら、ニタニタと笑う。
「俺はレアグローブ貴族のブランチだ。かつてはシンフォニア王国の姫、カトレア姫とも付き合ってたことがある大貴族だぞ! こんな田舎町にいても普通じゃお目にかかれぬ高貴な男なんだぞ? テメエが今まで飯食って汚れたテーブルに後から座れるかよ!」
ブランチ。
そう名乗ったヒョロヒョロの貴族らしい男はそうやってエースにすごむ。店内にいる客たちは怯えている。
ただただ関わらないように、目を合わさぬようにと、その場をやり過ごそうとした。
するとエースは中腰になり・・・
「あーあ、すげー汚しちまった・・・えー、みなさんお騒がせして申し訳ない。おーい、店員さんワリーな、雑巾と代えの皿あるか?」
エースは零れた料理と割れた皿を拾い始めた。
「えっ・・・あの・・・私が今片付けます・・・あの、代わりの料理もすぐ・・・」
「はは、いいっていいって、まだ食えるって。ほれ、うめえ! ジャングルや海で長いこと暮らしてりゃ、床に落ちたもんなんてどってことねーよ」
エースはそうやってケラケラと笑いながら、落ちた料理を拾い食いしながら割れた皿の破片を集め始めた。
その光景に呆然とする客たち。そしてブランチを護衛していた兵士たち。
そして・・・
「キーシッシッシッシッシ、ハデにやられてやがる! いいざまだな~、火拳! キシシシシシシシ!」
「エースちゃん、お行儀悪いわよう!」
「だってもったいねーだろ」
「キシシシシ、まあ、白ひげの船にいる奴らには落ちてるメシで十分だけどよ!」
「でも、あちしは食べないわよう! だから店員ちゃん! あちしの分は代わりのものねい!」
エースたちに関しては普通に料理が床に落ちたぐらいの扱いで、普通に笑ったり会話したりしていた。
まるでブランチなど眼中に、いや本当にどうも思っていないのだろう。まったく相手にしていなかった。
「テ、テメエ、俺を誰だか知らねえのかよ!」
「ん? 貴族のブランチだろ? さっき自分で言ってただろ」
「ん、いや、そうだが、だから、俺をなめてんのかって!」
「でも、席は移動しなくていーんだろ?」
「いや、そうだが、まあ、あれ? とにかく、この野郎!」
まるで相手にされていない。なめられている。何だか店内がいつの間にか苦笑しているように感じる。
ブランチはキレた。
目の前のエースという男にただただ苛つき、服の内ポケットからピストルを抜いた。
その瞬間、再び店内は悲鳴に包まれた。
「おい、もういっぺん舐めた事を言ってみろ。テメエの頭をピストルで撃ち抜いてやる!」
その瞬間、ピストルを頭に押しつけられてエースの表情も変わった。
「ブ、ブランチ様、さすがにそれはやりすぎです!」
「うるせえ! お前らも文句を言うと、イゴールだけじゃなく、『ディープスノー』や『ハジャ』にも言ってクビにするぞ!」
「そ、それは・・・」
「いいか、俺は本当は都会の大貴族なんだ! この町にある軍事施設の管理を任されている責任者でもあるんだ! それだけじゃなくてイゴールの世界的な大研究にも出資して貢献してるんだ! その俺に対して、なめた態度をとるようなイナカもんのバカは、殺したって誰も文句は言わねえ!」
さすがにやりすぎだと感じたブランチの護衛たちも慌てて止めようとするが、ブランチの権力の前に何も言えずにただ小さくなるばかりだ。
そんな彼らを鼻で笑い、もう一度エースに向かって銃口をグリグリと押しつけて力を見せつけようとするブランチ。
「あっはっはっは、結構おもしれーなお前」
「あ、また舐めたことを! お前本当に殺してや――」
「だがな・・・」
だが・・・
「・・・あ?」
「ピストル抜いたからには、命かけろよ?」
その瞬間、重厚で濃密な空気が場を走った。
「ッ!?」
「そいつは、脅しの道具じゃねえ・・・ってな」
不敵な笑みを浮かべるエース。だがその瞳が物語る。
先ほどまで床に落ちた料理をヘラヘラ食べていた男が、激変したかのような静かなる圧力。
「な、・・・ななな・・・」
なんだこいつは・・・その言葉すらブランチの口からうまくでなかった。
銃口を押しあて、この国の中では相当な権力を誇り、こんな田舎町では少なくとも絶対に誰もが逆らえる人物が居ないはずであった。
そう、この町ではブランチは最強で無敵だった。
なのに、相手の額に銃口を押しつけているのに、命を追いつめられているのが自分であるかのようなこの感覚。
引き金を引いた瞬間、自分が死んでしまうかのようなこの恐怖。
ガタガタと震えるピストルの引き金を、いつまでたってもブランチは引くことが出来なかった。
「おい、キシシシシシシシ、なにやってんだよ、さっさと殺しておけよ。俺はメシを食うので忙しいから」
「あっ、くるあ、モリア! それはあちしのゴハンよう!」
そして自分たちは何事もないかのように食事を再開するモリアとボンクレー。
なんなんだこいつら・・・
なんか知らないけど、関わったらヤバイ・・・
この場にいた人間は、瞬時にエースたちをそう判断したのだった。
「・・・・あうあ・・・・・・・・・・」
ブランチは耐え切れなくなった。ガシャンと音を立ててピストルを床に落とした。
そして腰が抜けたかのようにヘナヘナと崩れた。
「おーおー、火拳ともあろう奴が、カスの弱いものいじめしやがって。楽に殺してやれってんだ」
「弟からの受け売りさ。弟は赤髪から聞いたらしいけど、一度言ってみたかったんだ。殴る必要なんてねェ。別にこいつは俺の冒険を妨げたわけじゃねーんだからよ。ほれ、メシメシ!」
そう言ってエースはもうブランチを見ていなかった。
別に殴る必要もない。
殴る価値もない。
どうでもいいことだ。
おそらくエースの態度を、ブランチはそう感じたのだろう。
だからこそブランチは、言ってしまった。
「こ、この・・・なめやがって・・・今に見てろよ・・・ハジャ将軍とディープスノー将軍! そして選りすぐりの警備兵を導入してテメェら全員処刑してやる!」
懲りないな・・・
未だに何か騒いでいるブランチの叫びを、料理を頬張りながらエースたちは聞き流していた。
「た、食べるのやめろ!」
そろそろうるさいな。モリアがゆっくりと立ち上がって、ニタニタと邪悪な笑を浮かべる。
だが、次の瞬間・・・
「お、俺は二人の将軍だけじゃない、イゴール博士の繋がりで、あの『鬼神のオウガ』とも知り合いなんだぜ! 人魚の売買でこれからもずっと付き合っていくやつだ!」
「・・・なに? ・・・・・・・・・・人魚?」
「俺を怒らせると、あの鬼神まで――――」
多分あと数秒後にはモリアがブランチを殺していたかもしれない。いい加減うるさかったから。
ひょっとしたらボンクレーが蹴り飛ばしていたかもしれない。
だが、それは叶わなかった。
なぜなら・・・
――ドゴッ!!!!!!
「ぶろぱあっ!!??」
先程の険悪な状況を笑って済ませようとしたはずのエースが誰よりも早くに動き出し、ブランチを殴り飛ばしていたからだ。
「「「「「「「「「「はあああああああああああああああああああああッ!!??」」」」」」」」」」
「「「「「ブランチ様ァァァァァァッ!!??」」」」」
次の瞬間、エースの拳がブランチの顔面を撃ち抜き、ブランチは店の壁を突き破って外までぶっ飛んだ。
「「「「「「「「「殴る必要ないって言ったくせに、普通に殴ったアアアアアアアアアアアア!!??」」」」」」」」」」
「何考えてんだよ、あの男! 貴族のブランチを殴ったぞ!?」
「ば、馬鹿な、イカれてやがる! ブランチはイゴール博士の出資者なんだ! ハジャ将軍やディープスノー将軍も黙ってねエぞ!」
「や、やばい、俺たちもどうなるんだ!?」
「なんてことしてくれたんだよあいつ!?」
「しかもさっきブランチ様は鬼神とって・・・鬼神って、あのオウガだろ!? マジいよ!?」
店内が、いや、もはや街全体が騒然として悲鳴が飛び交った。
この男は何をとんでもないことを!?
「別にさっきまでのことぐらいは笑ってやったが・・・人魚か・・・それはお前・・・俺には絶対に笑えねエことだ」
笑っているのはモリアとボンクレーだけだった。
「わおぅ、やっちゃったわねい、エースちゃん」
「なんだよ、キシシシシ、結局殴んのか? 殴る価値も無かったろうが、あんなカス」
さっきまではまるで相手にしなかった男をいきなり殴った。
何がエースにこのような行動をさせたのか。
「最初は殴るつもりはなかった。だが、あのやろう・・・人魚を売り買いしたなんて俺の前で堂々と言いやがったからだ」
それはブランチが、自分を大きく見せようと自分のコネクションをこれみよがしに叫んでいた中の、たった一つの事が原因だった。
「人魚の住む魚人島・・・そこの王のネプチューンはオヤジのダチだ。だからこそオヤジは魚人島を白ひげ海賊団のナワバリにした。人魚をさらって金儲けしようとする奴らを無くすために」
白ひげのナワバリ。もし荒らせばそれは白ひげを敵に回すことになる。
それだけで魚人島は平和になった。それほどの影響力が白ひげにあった。
しかし・・・
「オヤジが死んだ・・・それだけで堂々と人魚を売り買いして荒らす奴らが出てきやがって・・・ふざけんじゃねェ」
白ひげが死んで影響力を無くした魚人たちを荒らす人間たちが再び現れた。
なぜ白ひげは死んだ? その原因をエースは誰よりも身に染みている。全ては自分を助けるためだ。
「これじゃあオヤジにも・・・ジンベエにも顔向け出来ねエ」
これは、白ひげの息子であるエースには屈辱であり、そして挑戦状として受け取った。
「オヤジが死んだとしても、生きていたらオヤジがするであろうことを俺はする。そうすることで俺はオヤジの魂に報いるさ」
エースはストレッチをしながら、店の外まで殴り飛ばしたブランチの元まで歩み寄ろうとする。
「ま、待て貴様! ブランチ様に危害を加える者は――」
「全員そこを一歩も――」
護衛の兵たちがエースを止めようと武器を取りだしてエースに突きつけようとした。
だが、その時には今まで目の前にいたはずのエースは既に居なかった。
兵たちがキョロキョロと見渡すと、エースは武装した兵など見向きもせずに、倒れているブランチを中腰になって突っついていた。
「おい、起きろよ、ちょいと聞きてえことがあるんだがよ」
「な、なぐ・・・殴った・・・あぶぶ・・・この俺を殴ってどうなるか・・・」
「それはどうでもいいからよ、人魚はどこいんだ?」
「ひひひひ、お前はもうお終いだ! この町にはディープスノー将軍とハジャ将軍が今居るんだ! 俺に手を出したら・・・」
エースが無言でもう一度拳を振りかぶる。その瞬間、ブランチは再び怯えてわめき散らした。
「わー! わー! 言うよ! 言うよ! 人魚は今、基地の中に居るんだよ! イゴール博士の実験体として、地下の水槽に閉じこめてんだよ!?」
「そっか、そいつは教えてくれてありがとな」
エースはようやくブランチの胸ぐらを離し、ブランチは恐怖から逃れた反動で失神してバタリとそのまま倒れてしまった。
エースはブランチをそのままにして、人魚が居るという軍の基地を睨み付ける。
「待ってろよ。今すぐ人魚を助け出してやる。オヤジが死んだとしても、オヤジの意思がここにあるってことを俺が教えてやるよ!!」
この時すでにエースの頭にはジェラールに騒ぎを起こすなと言われたことは忘れていた。
いや、忘れていなかったとしても止まることはない。
何故ならエースは白ひげの息子だからだ。
親の名前を傷つけられて黙っていることなどできるはずがなかったのだった。
そして、それを止められる人もこの場にいなかった。
「キシシシシシ、いいのか? ジェラールに騒ぎを起こすなって言われてんだろ?」
「ああ、だから騒ぎが起こらないように暴れてぶっとばして、助けてくる。潜入は得意だからよ」
「がっはっはっはっ、エースちゃん、手伝うーん?」
「いいよ、俺一人で十分だ」
「キシシシシシ、当たり前だ、俺はただでさえドフラミンゴによると七武海称号剥奪の危機だっつーのに、国の関連施設を襲えるか。おめーが勝手にやってろ。俺はメシを食う」
「おう、メシでも食っとけ」
止まらぬエース。彼は目覚めてから僅か数日で、一国の軍事施設に殴り込むのであった。
「デザートまでには帰るからよ」
・・・・・ある意味では全部勘違いなのだが・・・・・
だが、少なくともこの出来事でエースの今後の旅が大きく影響されることは間違いなかった。
それはモリアもボンクレーも、そして囚われた人魚も、そして・・・
「ふむ・・・監獄に再び逆戻りか。俺もよほど牢屋と縁があるのだろうな」
広い鉄格子の牢屋の中に入れられたジェラール。自虐的な冗談を口にして苦笑していた。
この基地の中では魔法を使えない以上、自力での脱出は難しい。
しかしジェラールは微塵も焦る様子なく、むしろ冷静に頭を働かせていた。
「さて、どうやって出たものか。エースたちをあまり待たせるわけにもいかないからな・・・」
腕組みしながらこれからの行動をどうすべきかを考えるジェラール。
そしてその時・・・
「あの・・・どなたですか?」
暗い牢屋の奥から声がした。
自分以外にもう一人居た。ジェラールが目を凝らしてみると、どうやら女性のようだ。
少しおっとりとした感じの、紫色の髪の美しい女。
「そうか、君か・・・イゴール博士が言っていた子は・・・」
「えっ、はい、ええっと・・・はい! 初めまして・・・」
「ああ」
彼女は突然自分と同じ牢屋に入れられたジェラールに警戒しながらも、とりあえずはと礼儀正しく頭を下げた。
「俺の名はジェラール。君は?」
そう、これがジェラールと・・・
「べ、ベルニカと申します。その・・・ええっと・・・?」
その特異さゆえにイゴール博士に自由と人生を奪われた美女、ベルニカ。
そう、真の自由を知らず、他人によって人生を滅茶苦茶にされた二人。
ジェラールとベルニカという名の女は出会った。