死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第22話 最も自由な男

慌ただしく騒ぎが巻き起こる『ハード・コア』の軍事基地。

その騒がしさは基地内の監獄にもちゃんと届いていた。

 

「ふむ、なにやら外は騒がしいな。侵入者でも現れたか?」

 

牢の中から外の様子を伺おうとするジェラール。

しかし見張りの兵もどこかへ行ってしまい、情報を手に入れることが出来ない。

 

「まさかエースたちではないだろうな。・・・いや、まさかな・・・騒ぎを起こすなと念を押したから大丈夫だと・・・」

 

実はそのまさかなのだが、今のジェラールにはそこまで知る事は出来なかったのだった。

だが、これほど騒がしくて状況の把握も出来ないというのに、大して慌てた様子もないジェラール。

そんな冷静なジェラールに、同じ監獄にいたベルニカは尋ねる。

 

 

「あの・・・ずいぶん落ち着かれていますけど、大丈夫なのでしょうか?」

 

「ん?」

 

「いえ、ジェラールさん、先ほどから少しも慌てる様子もなく、・・・その・・・これまでこの町で罪を犯したりして捕まった方々は皆、イゴール博士の実験に扱われ、その恐怖で誰もが怯えられていたのですが、ジェラールさんはどうも落ち着かれて・・・」

 

 

なぜそこまで落ち着いているのか? ベルニカのその疑問に、ジェラールも自分自身でもうまく説明できなかった。

 

「確かに俺も自分でも疑問に思うぐらい落ち着いている。多分それは俺がこれまで、そしてここ数日の出来事で多少のことでは動じないようになったからかもしれないな」

 

ここ数日・・・アクノロギアという人智を越えたドラゴンに海賊と共に立ち向かって生き延びた。

あれに比べれば牢屋に閉じこめられるぐらいで動じることはないと、ジェラールは思い出しながら苦笑した。

 

「これまでの・・・経験・・・そういうことなのでしょうか?」

「ベルニカ?」

 

ジェラールの答えを聞いて、ベルニカが少し儚げに微笑んだ。

それは酷く薄く、今にも崩れそうに脆く見えた。

 

「私には・・・経験・・・というものがありませんから・・・」

 

それはとても悲しく切ないベルニカの人生であった。

 

 

「君のことは少しだけ聞いたよ。君はいつからイゴール博士の元に?」

 

「幼いころからです。幼いころから魔法開発局に入れられ、そしてイゴール博士が魔法開発局をやめられてからもずっと、私は博士の元で実験にお付き合いしています」

 

 

彼女の微笑みを見れば分かる。それは現状を受け入れている微笑みではない。もう、全てを諦めている微笑みだ。

もう、どうしようもない。これが自分の人生なんだ。

自由なんてない。

ジェラールは、ベルニカのその心を手に取るように理解できた。

 

「何年も何年も、あんな男の元で痛みや苦しみの伴う実験を受け・・・君は・・・この状況を逃げ出そうと思ったことはないのか?」

 

ジェラールの問いにベルニカは首を横に振った。

 

 

「小さいころはありました。でも、途中から慣れてしまいました。それに私はここ以外の生き方を知りませんから」

 

「・・・・・・ベルニカ・・・・」

 

「だったら別にここに居てもいい・・・それにイゴール博士は言ってくださいます。私の能力の研究の成果が上がれば、魔法を使った戦争もなくなり、魔法を使えない人は魔導士に支配されない平等な世界が造れると。ならば、私はその礎になれるのならば満足です」

 

 

ベルニカの微笑みながら言う言葉に、ジェラールは唇を強く噛みしめ、拳を力強く握りしめる。

なんという男だ。イゴール博士は。ジェラールの脳裏には怒り以外思いつかなかった。

 

(イゴール・・・貴様は・・・そんな言葉でこの娘の人生を・・・・・・だが・・・それは俺も同じか・・・)

 

だが、ジェラールにはそれを口に出して怒れる事は出来なかった。

いや、自分にはそんな資格はないと思っていた。

 

(イゴール博士と手を組み・・・俺も多くの人を悲しませ・・・騙し・・・惑わし・・・人生を台無しにさせたのだから・・・・・・・エルザのように・・・)

 

結局自分はイゴール博士と同じ穴のムジナ。ベルニカも、ジェラールの罪の犠牲となったシモンやエルザ、彼女たちと同じ存在なのだ。

それは誰よりも自分を責めているジェラールだからこそ、ベルニカのためにイゴール博士に怒りを抱く資格はなかった。

だが、怒りを抱く資格はなくとも、気持ちを理解することはできる。

 

「嘘だ・・・そんなこと・・・」

「えっ?」

「例えここ以外での生き方を知らなかったとしても、このままの人生で満足だなんて嘘に決まっている」

「そ、そんなことは・・・」

 

そんなことはない。そう言おうと思ったベルニカだったが、まるで全てを見透かしたかのように儚げに微笑むジェラールに言うことができなかった。

 

「俺の知っている人たち・・・ナツという男も・・・エルザという女も・・・どんな時でも諦めず・・・希望を捨てない奴だった」

 

ジェラールは瞳を閉じて思い出す。かつて逮捕される前に出会った、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士を。

 

「そしてあいつは・・・エースは・・・どんな時でも楽しそうに生きる」

 

最近出会った、妙な男も思い出す。

 

「外の世界で自由に生きる奴らは、どこまでも希望が繋がっている。あいつらを見ているからこそ分かる。あれこそが自分の生き様に満足している奴らなのだと」

 

記憶を失う前、かつてジェラールも自由が欲しかった。しかし真の自由を求めるがゆえ、結果的には心を歪ませ、闇に囚われてしまった。

しかし自分はようやく知った。真の自由に生きる者たちを。そしてその先には闇ではなく、光に溢れていることを。

 

「ベルニカ、お前のこれからは・・・希望が繋がっているのか?」

「それは・・・ですが・・・」

「君はもう十分に苦しんだ。自分が本当に生きたいと思う生き方を選んでもいいのではないか?」

 

ジェラールはベルニカの気持ちを誰よりも理解する。

そしてベルニカの知らないことをジェラールは知っている。

だからこそ言う。このままここで終わることが、本当に満足なのかと。

 

 

「ナツ・・・エルザ・・・エース・・・それはあなたのお友達ですか?」

 

「さあ・・・それはどうだろうな? 今の俺にはそんな資格があるとも思えないが・・・願うなら・・・いつの日か、堂々と友だと呼べるようになりたいと思うな」

 

 

友達? 仲間? 今はまだそう言えないだろう。だが、いつかはそう呼べる日を迎えたいと、ジェラールは未来に希望を抱いていた。

 

「そう・・・ですか・・・」

 

何かを考えるように俯くベルニカ。実際、彼女自身の気持ちはどうなのだろうか。ベルニカも自分自身でももう何年も自分の気持ちというものを考えていなかっただろう。

 

(私の・・・生きたいと思う生き方は・・・)

 

戸惑うし、簡単に答えは出ない。もっともそういう事もジェラールはちゃんと理解している。だからこそ、そこで話は終える。

 

「後は君次第だ。自分で決めろ。自分で決めることも自由の一つだ」

「ジェラールさん・・・」

 

あとは自分の意思で決めろ。ジェラールに言えることはそれまでであり、それ以上言う気はなく、彼は再びおとなしく牢屋の中で座りジッと堪えるのであった。

 

「ジェラールさん・・・あなたはどうするおつもりですか?」

 

ベルニカは今ジェラールに言われたことを踏まえて、ジェラール自身はどうするのかを尋ねた。それもそうだ。何故なら今のジェラールは彼女と同じ立場なのだ。

イゴール博士に捕らえられ、自由を奪われているのだ。このままでは彼の研究のための実験体としての未来しかないのだ。

だが、ジェラールは迷わずに答える。

 

 

「実験をするのならばこの牢から俺を出すのだろう? ならばその時に精一杯抵抗でもしよう」

 

「えっ・・・って、無理ですよ! ジェラールさん、魔導士ですよね。この基地では牢屋だけでなく、牢屋の外でも魔法が使えないようになっているのですよ?」

 

 

結局は何もできないでジェラールは終わる。そう告げようとするベルニカだが、ジェラールも全てを理解していながら、あえて抵抗する意思を見せているのだ。

 

「それでも生きているかぎりは足掻くさ。簡単に終わるのなら、俺は誰にも報いることはできないからな」

 

何もできないで終わるかもしない。しかしベルニカとジェラールの瞳は違う。ベルニカは既に何をやっても無理だと諦め、一方でジェラールは無理かもしれぬが足掻いてみせると、未来を見据えている。

 

あきらめない・・・

 

それこそジェラールがこれまで出会った人たちから学んだ生き方だった。

 

そして奇跡というのは・・・

 

 

「むっ!?」

 

「えっ、な、なに!? すごい揺れ!? き、基地全体が揺れている!?」

 

 

奇跡というのは諦めない奴にしか訪れない。

まるでそれを表すかのように、ジェラールが諦めぬ意思を示した瞬間に、まるで巨大な地震のように基地全体が大きく揺れ動いた。

思わずよろけるジェラールに怯えるベルニカ。

すると・・・

 

 

――――震炎戒!!

 

 

ジェラールとベルニカが幽閉されていた牢屋を簡単にぶち壊す炎の柱が床をブチ抜いて現れたのだった。

 

 

「ど、どうなっているの!? これは一体何!? って、誰かが飛び出して・・・っ、あれはディープスノー将軍!?」

 

巨大な揺れと共に床から飛び出した炎の柱。その柱と共に床を突き破って高らかに飛ばされる人物は、ディープスノー。

顔見知りであり、そしてこの人物の強さを知るベルニカだからこそ、今目の前に飛び込んだこの光景に驚愕した。

一方でジェラールは何事かと思ったが、すぐにため息をついて首を横に振る。

 

「ふう・・・今度からは・・・騒ぎを起こすなと念を押すだけでなく、何度も復唱させたほうが良さそうだな・・・エース」

 

揺れが収まり、デカデカと開けられた床の穴をジェラールが上から覗き込む。

下の階には拳を地面に突き刺しながら上を見上げて笑みを浮かべているエースがそこに居たのだった。

そのそばでは、水着姿の美女が腰を抜かして目を回していた。

 

「誰だか知らないが、あの子も気の毒に・・・だが、またお前に助けられたようだな、エース」

 

エースも上の階に居るジェラールに気づいた。そしてこれだけの事をやらかしながらも、普通に手を振り始めたのだった。

 

「おお、ジェラール! ワリッ、ちょいと騒がしかったか? というより、お前さんそんなとこにいたのか?」

「ああ。しかしその騒がしさでまた救われたよ。言葉もないとはこのことだ」

「そいつァ良かった。あっ、ちなみに今ここで腰を抜かしてるのは、足が生えてるけど人魚のセリアだ。ワリーけどこの子をこっから助けるからな?」

「そうか・・・って、何をサラっとお前は!? 大体、なぜお前が人魚を・・・と、言いたいが、やめておこう。もうお前を止めることは誰にもできない気がしてきた」

 

まったくめちゃくちゃな奴だ・・・と思いつつも、ジェラールは文句の言葉もエースに思いつかなかった。

あの男はまたやらかしたか。しかし、エースらしいな。

事情も何も把握できないジェラールだが、今のエースの姿だけで、エースらしいと感じることができたのだった。

 

「ジェ、ジェラールさん・・・あの人は・・・」

 

一方でセリアと同じようにジェラールのそばで腰を抜かしているベルニカが震えた様子で訪ねてくる。

そんな彼女の問いかけに、ジェラールは笑いながら答えた。

 

 

「ベルニカ、よく覚えておくんだ。あれがこの海でもっとも自由な男だ!」

 

 

まだジェラールもエースのことをそれほど知っているわけではないが、自然とその言葉が一番合うような気がしていた。

 

 

「自由・・・」

 

 

自由、その言葉だけがベルニカの心に染み渡ったのだった。

 

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