IS学園と島1つを巻き込んだ戦争もどきから3日程経ち、島は前と同じく穏やかさと賑わいが戻っていた。変わった事があるとすれば世間には全く興味がなかった束さんが当たり前のように学園内を歩き回っている事だろう。
そして、他にも
「おはよう〜」
「あ、英雄が帰ってきた!」
久しぶりに顔を出すといきなり見覚えのないあだ名がつけられ、しまいにはヒーローと呼び始めた人も出ていた。打ち止め(ラストオーダー)にも同じような事を言われていたようなと頭を抱えた。
「で、男子は競技にほとんど出れないのかよ」
「つい数日前までベットで寝たきりだからな。無理もない」
周りはどの競技に出ると話が盛り上がっているが、3人は黙りこんで授業が始まるのを待っていた。
「まあ、笑顔があるのはいいことか」
とそんな事を考えている内に
「はい、みんな席ついて」
スーツ姿のアリーシャさんが教室に顔を出し、後ろから山田先生も入ってきた。
どうしよう、山田先生の方が子供っぽく見えてしまう。
「上条君、変な事考えてませんか?」
「いえ、考えてませんよ」
鋭い、気をつけないと
「君は成績も気をつけないとね」
うわーこの人も鋭い。あと人の成績をあんまり見ないで、見せられるようなものじゃないのに
「久しぶりの授業だった。あんなにいじめ抜かれるのも」
座学や一般教科では山田先生以外からは誰も答えられないような問題をやらされる事が多い。ただ反応を楽しんでいるのか、試しているのかは分からないが。
「かみやん〜一緒にご飯に行こ〜」
「お、いいよ。いつものメンバーか」
相川さんと谷本さんとのほほんさん、よく一緒に見るな。前は部屋でトランプとかやってた事もある仲だ。
「秋十、一緒に行かないか?」
「後で行く、いちいち話しかけるな」
「分かった」
明らかに不機嫌そうな顔でこちらを向いたので、邪魔をしないよう軽く手を振ってその場を後にした。
「ねえ、上条君って昔なにか武道とかやったことある?」
「武道?やってないな、体を鍛えたくらいだし」
やっていたのはメニューは普通の筋トレと変わらないものだが、その量はまともな人間にはこなせるものではない。
「でも、すごいよ。今まで負けなしなんだから」
「一回は負けたよ。あれは流石に手を焼いたな」
夏にいきなり呼び出されて、合宿の指導役に回され3日もやる事になったのは参った。最後はレクリエーションで遊んで時間を潰していたが。
昼になるといつものごとく賑わう食堂、しかし記憶が正しければほとんどの人・・・女生徒の食事の量が少ないような気がしていた。まあ、見ている限りなのでもしかすると、一緒に来ているのほほんさんのように食べる人もいるだろう。だが、気になるものはどうも聞きたくなってしまう。
「その量で足りるのか?」
「う、うん。私達は・・・」
「これで十分だよ」
「あとでお菓子を食べるから大丈夫なのだ〜」
あ〜何となく分かった。体重か、この単語はタブーだから黙っておくか。前にふざけて言ったらぶん殴られた事があるな、世話になってる先輩に
けど、どうも自分は口が滑るような人間らしい。
「そんなに気になるか、1キロくらいなら誤差みたいなもんだと思うけどな」
「それは女の子には禁句、絶対に言わない方がいいよ」
「あ、すまん。よく体重が増えるなんて当たり前でな、減ることの方が少ないから」
数キロずつ増える事は少ない代わりにじわじわ増え続けていった。身長も同じように伸びなかったし。
「無理するとストレスでなんて事あるからほどほどにするくらいがいいんじゃないか?それとも、つまみ食いでたくさん食べて気がついたら・・・何でない。まあ、適度に運動でもすれば抑えられる」
顔は笑ってるのに少しの間、目が鋭くなったので大人しく引いた。
「お菓子って購買か、外のスーパーみたいな所にでも行くのか?」
「私は外に買いに行くよ」
何でだ、制服を少しダボダボに来て腕の中に大量の袋菓子を持って笑顔で歩いるのほほんさんが浮かぶ。
「私は購買かな、部活もあるし外に出る時間もないし」
「スーパーには偶に買いに行くよ。けど、親からの仕送りのお金と相談かな」
「そんなにスーパーで買うより作った方が安く済まないか?」
「でも材料費なんて」
「確かに全部集めれば材料費の方が高い。けど、一つあたりの材料費だけで見れば安くなる。それに食堂のおばちゃんに頼めば一部材料なら貰えるからな」
基本は自分で作る方が金の消費も減るし自分の好きなものを食べられる。だが、偶に作っているレベルなのに味は女心を砕く程美味い。
「あとは午後の授業・・・あとは美術と物理か」
疲れたー、美術とか無理だ。感性もないし、ましてや絵の描く腕なんかないわ!そして、次の授業、またお馴染みの教師から問題を指名されて答える羽目に。絶対楽しんでるなあの人
「これでHRを終わる。最近、夜更かしをしている生徒が多いと聞いているが、体調を崩さないよう気を付けろ」
体調を崩したこ事はないな、怪我は当たり前のようなするのに。
「あと、怪我もしないように気をつけて下さいね」
分かりました。
「ねえねえ、かみやん」
「どうした?」
「会長と付き合ってるって本当?」
ん?なんて言った?俺には会長と付き合ってる噂が流れてると聞こうてような。
「付き合ってない。大体、生徒会長と俺が釣り合うわけないだろ。ただの噂だ」
何と言うか、俺が遊ばれることしかない、それに最近は疲れ果てて部屋に帰って来てすぐに寝るのを繰り返してるから同室でも会話をそれほどしてない。
「あ、本音。確か、虚さんが仕事を手伝えって怒ってたよ」
「え〜私が行っても仕事を増やすだけで、邪魔になるから行かないのだ〜」
「・・・前に今度サボったら1ヶ月おやつ抜きとか言ってたような、ないような」
「ええ?!早く言ってよ!」
いつもの間延びした声はなくなり走ってどこかに行ってしまった。
俺も同じ場所に行く事になるそうだな。
「あ、上条君。本音が慌てて来たから何かと思ったけど、猫の手も借りたい状態だから助かったわ」
猫どころか犬の手を借りたいとか言ってませんでした?と気になることが度々あるが、とりあえず山積みの書類の片付けと体育祭の準備に分かれてやり始めた。
「なあ、上条。この競技どう思う?」
渡された一枚の紙にはルール、勝利条件、反則の例が細かく記載されてはいるが、競技の名前に少し問題があった。
「・・・水着の騎馬戦、これは・・・まあ室内プールだから問題ないか」
「そこか!あのな、審判は俺らだぞ」
「は!?ちょっと待て、本当か」
よく見ると、審判員の所がこの競技だけ実名で記載されている。
「よし、一夏。訂正して楯無さんにしておけ」
「え、1人?」
「俺が何とか言いくるめておく」
「障害物競走で仮装か、面白そうだな」
「その前の障害物で絶対に汚れるぞこれ」
平均台に編み潜り、壁を登る。まあ・・・普通だなここまでは。さらに着替えて、綱渡り、小麦粉の中からマシュマロ探し、最後は水面に並べられた浮き輪を走り抜けるか。普通だ。
「衣装は何処で用意するんだ?」
「さあ、自分で用意するとか言ってたからな」
「よし一通り終わった。一夏行くぞ」
「おい、待てよ」
夕方になり日もすっかり落ちて来た頃、2人は生徒会室を出て行く。これもつい最近から習慣みたいなものになった事だが、上条は会長以下の全員に夜食を振る舞い。一夏は千冬からの相談で家事を一通り出来るように教えるようになった。
「ん〜今日は何を作るか」
「なあ、初心者向けの料理って何が浮かぶ?」
「卵焼きとか野菜炒めなんかの工程が少ないやつだな」
「卵焼きは何とか出来るようにはなったけど・・・出来るかな」
一夏からこっそり教えてもらった事だが、織斑先生が実は家事は全く出来ない。と衝撃の事実を知った最初はあんまり信じていなかったが、一度見て本当だと確信した。米を洗うのに洗剤を出して来てと聞いて。
「軽いサラダとかを買って。あとは向こうで調理すれば・・・デザートも付けるか。いや、やめておこう」
前に作った時は、ちょっとしたことで怒られたからな。量が多いとは言われなかったのにカロリーが高い!とかなんとか
「鶏肉が安いな。唐揚げにするか」
でも、あんな嬉しそうに食べてるのを見ると作りがいがあるな。あとで怒られるのなんていつもの事だ。
「疲れる、設置の手配と機材は準備が終わった。あとはこっちの書類の山ね」
「あれから数日経っても量が変わりませんが。毎回同じような文なので時間はかかりませんね」
仕事もひと段落つき、休憩をしながら残った書類に目を通していた。未だに亡国企業の事や男性適正者の機体のデータを開示しろと抗議が来ていた。
「3人ともデータの提供は一切しないと言ってるのに。また手伝ってもらうしかないか」
「私達にも手に負えない問題を押し付けないで欲しい」
基本的に命令するばかりの人間は一々自分で動くことは無い。面倒な事は下に押し付ける。下の人間が上に立つものに不平不満を言ったとしても権力や暴力で消されるのが世の中だ。
「とにかく、国籍の問題は抗議してくれたから解決してる。この資料も公開してもいいって聞いてるけど。余計に仕事が増えそうね」
人によっては喉から手が出るほど欲しがる文書がしまってあるファイルを軽く見ながら、公開した後の自分の日常を予想していた。
「ご飯できましたよ」
「あれ、今日は少し遅いわね」
「あ、はい・・・ちょっとしたアクシデントが起こって。その対処で少し遅れました」
のほほんさんに厨房の中で飯を作ってるのを見られて、騒動が起こりそうだから口止料として夜食の唐揚げを食べさせていた。
「じゃあ、料理は食堂に置いてありますから。食べ終わったら教えてください」
「今日は唐揚げ定食ね・・・味付けもいいわね」
「お、美味しい。でも、何にか心が折れそう」
「・・・道理で落ち込む人が多いわけですね」
それぞれが切実な思いを口に出したが共通していたことは自分達よりも料理上手だと言うことだ。
部屋に戻るなりベットに横になると何やらぶつぶつと独り言を言い始めていた。
「フィルター、見方・・・自分の意思」
「見方は記憶どうりでいい。フィルター・・・これはまだ欠けてる。せめてあの始まった場所に戻れば。ダメだ、曖昧すぎて失敗する」
失敗すれば、永久に地獄。それとも、違う世界になってしまうこともあり得る。ある程度は見出したこの右手の使い道すらまだ理解出来ないのだ。
「俺の目的はあいつと同じだ。元の世界に帰ること」
今の俺にはまだ出来ない。魔神なんて連中のようにこれの本質がどんなものかも分かってないんだ。
次回は体育祭のつもりでやります。