IS学園の異端児   作:生存者

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第88話

 

「いいか、温泉を出たら普通は牛乳なんだ!どう考えたらコーヒー牛乳になるんだ!」

 

「そんなに牛乳ばっかり固執してるから成長しなんだよ!それが結果としてしっかり出てる」

 

「成長期に個人差があるだけでまだ上条には来てないんだよ」

 

2日目の宿に到着し、夜食を食べ終え温泉を満喫した所までは良かった。だがここで問題が起こった。風呂を出た後に何を飲むか話し合っている間に意見が対立し軽い口喧嘩にまでなった。

 

両親共にアウトドア派でその血を受け継ぎ、毎年に何度も温泉に入っている人に、数年前から偶に行くようになった人もいれば。今まで一度行ったかどうかも分からない人もいる。

散々話しているうちに口も乾き、各々で好きな物を選んで飲み干していた。

 

 

「つまり、一夏が温泉に入る機会が無かったのは秋十のサボりが原因か」

 

「ああ、一応日替わりで家事はやる名目にはなってたけどな。小6くらいからはサボる事が増えて中学は年に数回しかやらなくなった。何がきっかけなのかは未だに知らない」

 

「わざわざ教えるような事でもない。はい、上がりだ。これで10連敗だな」

 

「かあ〜また負けか。ったくなんて引きがいいだ」

 

就寝時間まで暇になった男子はトランプでひたすら時間を潰し、1時間程経っていたが負ける人間は固定され飽きるのも時間の問題であった。

 

「なんか飽きてきたな。次から罰ゲームでも入れるか」

 

「負ける度にジュースを」

 

「それじゃつまらない。ビリが1位にマッサージ、ただし時間制限ありで。5回連続で負けたら・・・黒歴史の1つ話す」

 

「ああ、いいな。人生そのものが黒歴史見たいなもんだからネタは尽きないし」

 

『・・・』

 

気楽な様子で承諾したのは良ったが2人は目を逸らして深く考え直していた。少なくともこのメンバーなら黒歴史など一般の学生に比べてストックが数多くあり。上条の黒歴史に限っては腐る程あるし、秋十は聞いていて飽きないようなものも多い。しかし、生々しい話も数多くあり気分も部屋の雰囲気も悪くなる可能性もあった。

 

「やっぱり、誰か1人連れて来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、今日も暇だな」

「男子とは別だししょうがないよ。本音は何処か行ったきり帰ってこないし」

 

「本音の事だし男子の部屋に行ってるのかも」

 

いつかの臨海学校と同じくほとんどの人が一夏達と遊ぶつもりで持ってきた道具が無駄になったと呟いていた。自由そのもののような1人を除いては少し物足りない夜を過ごしていた。

 

 

「のほほんさん寝る前に何処の部屋か言ってから寝て!」

 

「そんな事言っても・・眠いものは眠い・・・・」

 

「・・お願いだから気持ち良く寝息を立てる前に、部屋番号だけでも言ってくれないかな。まあ、俺が原因であるししたかないか」

 

罰ゲームが追加されてから何回負け続けたのか分からないが、最初に部屋に呼んだのほほんさんは軽く3回は上条からマッサージを受けて睡魔に襲われた。

 

「しっかし、ここまで心地よく寝られるとむしろ喜んだ方がいいのか?でもな、あんまり男のいる部屋で寝ようとするのはいいとは言えないな。あいつらなら手は出さないからいいけど。っと確かこの辺りからだ」

 

部屋に連れて来た以上、返す責任もあるので面倒とは考えずひたすら一部屋ずつノックをして確認する作業を当たりが出るまで繰り返して探していく。幸い10分程度で見つかり、偶然にも良くのほほんさんと一緒にいる相川さんが扉を開けた。

 

「はいはーいって上条君どうしたの?あれ、本音まで。まさか2人であんな事を」

 

「違う違う、さっきまで遊んでたもんで疲れたんだ。1時間近くトランプではしゃいだからな」

 

すぐに変な方向に行きたがる相川さんを抑えのほほんさんを適当な布団にゆっくりと下す。一度寝たら朝までは起きないと言われている本音も丁寧に毛布まで掛けられ頭を撫でていれば、起床時間ギリギリまで起きる事はないだろう。

 

「夢の中でも美味しい物を食べてるのか?・・幸せそうな寝顔だ」

 

「・・・・いいな」

 

「ちょっとは隠しなさい!もろに欲望が出てるし」

 

「いや〜気持ちは分かるよ。私も羨ましいと思った」

 

話す相手が同性か異性か気にせず、常に自然体で接する事が出来る本音は行事の時もいつも通りな訳で、世話焼きの上条からすればついつい手を貸したくなり。この状況のクラスの女子からすれば羨ましいものだった。

 

が本音の凄いところはそこではなく

 

「あ、暇な人っているか?部屋で遊ぶのに人数が足りないんだ。少しの間でいいからさ」

 

自然と福を呼ぶ運の強さかもしれない。

 

 

 

 

 

 

偶然とは言え男子の部屋に呼ばれた事に少し興奮していたが部屋にいたメンバーは一夏達しかいないとしか頭に入っていない。そんな考えは一歩入った途端に消え去った。

 

「遅いぞ上条。まだ負けそうだから大人数にしたのか?」

 

「こういうのは大人数でやった方が楽しいだろ?」

 

「それは・・・俺の口からは何も言わないでおきます」

 

マドカやラウラに加え、上条と同じくらいの体格だが只者でない雰囲気を持った2人も混ざっている。見た目こそ一つ歳下に見えるが顔つきと衣服越しに見た素人でも分かるくらいの肉体を持っている。

 

「紹介が遅れたな。このメガネをかけてる方が西片祐吉(にしかたゆうきち)で、顔に傷が入ってるのが新堂真司(しんどうしんじ)。一個下で今年中学3年だよな」

 

「ええ、春には受験を控えてはいます。周りから励ましの言葉は多少ありますけど。相変わらず前の悪い噂が立ってるせいで一方的に落とされる可能性もある」

 

「本当だ。俺もあんな馬鹿の下で上を目指していたのが恥ずかしい。まあ、貴方に会えたのもあんな連中と嫌々一緒に遊んでたのお陰ですが。二度と喧嘩だけはしませんよ。竜の逆鱗に触れるような事だけはしたくないですから」

 

「2人は上条君と同じ中学校なの?」

 

部屋の全員が制服ではなく浴衣のせいで勘違いしてしまっているが3人ともに横に首を振る。仮にも同じ学校内にこんな尖った人がいれば日常的に喧嘩をしているような状態になるだろう。

 

「全員違います。お互い隣町の学校で3人ともばらばら、上条さんは普通ですが俺と西片は不良、まあ素行の悪い人が多い学校で有名。初めて会うきっかけは、ツンツン頭の学生がここら一帯で喧嘩が1番強いとか噂が流れて。それが頭に来た先輩達が総出で乗り込んでから」

 

「うちは新堂の学校で喧嘩を売った全員が負けたって話が広まるよりもっと前、下らない遊びをしたツケが罰になって返って来た。まあ、簡単に言えば調子に乗った女性を集団で襲う。あるいは気弱な人も路地裏に連れ込んでなんて事も。・・・あの頃から男は肩身の狭い世の中で。それが気に食わなかった先輩方が始めた下らない遊びだ」

 

ようは強さこそ全てと考える集団と自称正義を語っている集団。想像もしないような環境にいた2人に女子は言葉の一つも出なくなった。世間からお嬢様とも言えるような人ばかりが入るIS学園の生徒がこんな現状があるなど知る訳がない。知っていてもそれを目の当たりにした事が無い以上情報の信頼度は低くなる。

それでも、実際に目で見て聞いて何かを感じた事が少しでもある人間なら

 

「でも、結局は2人とも負かされた。というよりに自ら怪我をした。ようは因果応報って事、喧嘩をしたくない人間に無理矢理喧嘩を売って怪我をした。下らない遊びでアンタッチャブル(触れてはいけない物)に手を出して怪我をした。それだけ」

 

私も似たような人間だけどね。と最後に付け加えて。

 

「はいはい、修学旅行中に暗い話なんかするな。楽しい思い出を作ってなんぼだろ。ここは牢屋じゃないんだ」

 

2回程手を叩いて場の空気を一回変え、足元に無造作に置かれたトランプの束を箱に戻し、荷物を置いた部屋の隅に近づく。

 

「もう昔のことだ。2人を引きずり回した先輩方ならもう頭を切り替えてると思う。だぶんな、偶に逆恨みの電話がかかったり嫌がらせのFAXを送り返す事ある。ま、暗い話はこのくらいにして」

 

自分の荷物を軽く漁り出てきたのは市販でも売っているいるような保冷バッグ。取り出したのはいたずら道具でもなく小袋に包まれたお菓子だ。

 

「実は景品の代わりに昨日の出発前に寮のキッチンで作ったお菓子がある。最低限腐らないように、保冷バックに突っ込んで持ってきてるから俺以外に当たりが来ることはない」

 

「え、何時に起きたの?私達もそこそこ早く起きてたけど」

 

「朝の3時から。久しぶりやったけど味の方は問題ない。少しくらい食っても材料をちまちま変えてるし普通に売ってるのに比べてカロリーも抑えてるからな。余分に食べてもいいぞ」

 

食欲と理性の間で葛藤する集団とは違い御構い無しに手を伸ばす。ただただ食欲にかられ口にする。2、3人も居れば食べ切れる量の為、葛藤していたメンバーも次の日の体重に目を瞑り頬張っている。

 

「む、お兄ちゃんのこれは確かに美味しいが涙を流す程のものなのか?」

 

「多分ラウラが考えてるのは外れだ。上条さんは何度か見たから分かる」

 

 

 

 

 

 

「新堂君って普通の家庭なんだ。雰囲気が只者じゃないから変わった家柄と思ったよ」

 

「え、待て待て俺も普通の家庭だ。親と比べて本当に家族か疑いたくなるくらいに運が悪いくらいだ」

 

「IS学園に入れた時点で兄さんは普通じゃないよ」

 

「あ〜確かに。3人も入るとは思わなかったよね」

 

「そうそう、1人でも驚いたよ」

 

好奇心が尽きないせいか、十数分もいれば自然と馴染むクラスの女子に少し関心しながら昔話をしながら時間を過ごしている。

 

「あ、今まで気になってた事があったけど。倍率が1万とか行ってるのに入れたのはやっぱり何か変わった経歴でもあるのか?」

 

セシリアや鈴といった代表選候補や箒は身内の影響力も少なからずあり相当なへまをしない限り問題なく通過できる。しかし、一般から入るとなるとそれなりに何か結果を出すなど何か飛び抜けた物が必要になる。

 

「そんな大した物はないかな。せいぜい陸上部で全国大会に出たくらい」

 

「私もバレー部でインターハイ準優勝したよ。このくらいないと駄目だと思って頑張った」

 

思ったより部活動も強い訳だ。派遣部員として何度も駆り出されていた時期から薄々感じていた違和感がなくなり1人でスッキリした気持ちになったいた。

 

「でも同じ部活の子も何人か受験したんだけど、私以外誰も居なかったのは驚いたかな。学力も私より上だったのに」

 

学力も関係なしに、適正があるだけで裏口入学紛いな方法で入った男子は学科免除で実技試験のみ、それも相当楽なもので一般で入る苦労などなかった。

 

「倍率が高い以上、筆記試験と実技試験の合計が1点でも高い人を取るのが一般的。つまり、あなたが頑張った結果がこうして出てる」

 

「あはは、ありがとう。まあ、そのお陰かな。勉強もそこまで頑張らなくても追いつけるし毎日楽しいよ」

 

「だそうですよ先輩。裏口入学した分もっと頑張らないと」

 

「はいはい。しっかり頑張りますよ」

 

軽く返すのは良かったが、問題は今の上条がいくら頑張った所で底辺を少し上下する程度で止まってしまう。理由は先程の会話の通り異常に高い倍率を勝ち抜いてきた生徒しかいない事だ。一生懸命やっても普通にしか届かない人間には到底上がる事は出来なかった。

 

「でも、結構頑張ってるよ。面倒臭いっていいながら補修も毎回出てるし。あ、偶に一夏君も出てるよ」

 

「あ、私も職員室で秋十君で見かける事もあるよ」

 

「上条さんも苦労しますね」

 

「苦労しない方がおかしいだろ。授業で内容が進むたびに遅れて補修なしじゃ全く分からない」

 

入る前のイメージ悪いせいかデカイ鉄くずとしか考え出なかった事も、元から頭悪い事もあり中々頭に入らず一般教科以上に苦戦していた。

そもそも、ISの作られた目的そのものが間違った方向に行っている事に疑問が尽きなかった。

 

「なあ、一夏。宇宙空間でも耐えられるパワードスーツだろ?なんで、誰も宇宙まで行こうとしないんだ?」

 

「それはアラスカ条約に引っかかるし。使用にわざと制限、といっても適当に言い訳をして持ってるだけだからな」

 

「そのアラスカ条約だってかなり穴だらけだと思うぞ。現に防衛と称して軍隊でISを所持。ISでテロ事件に誘拐まで起こる。なら、ギリギリ条約に違反しない理由を作って、宇宙まで飛んで行こうと今更問題ないような気がしてな」

 

『やらないで下さいね』

 

「冗談だからそんなに反応しないでくれ。上条さんも織斑先生の説教だけは受けたくない」

 

話が逸れてしまったが、そろそろ見回りの時間も迫ってきたのに気づいたマドカによって夜のお茶会はお開きに。招待した女子は上条が責任を持って送り届けていた。

 

「なあ、さっきの冗談でやけに止めるのに力が入ってたのはなんでだ?」

 

「・・・ん〜これは自分の経験なので、信じなくてもいい話なのですが。上条さんは大概口で言った事を有言実行してしまう人なんですよ」

 

「冗談のように言った事を実際に現実でやる事が多いんです。当時いじめをやっていた主犯格のメンバーと対立して、全員泣いて謝らせてやるって言った数週間後。いじめの被害者全員に泣きながら土下座をして謝ったとか。銀行強盗くらい話せばなんとかなる、って話した3日後に会話だけで犯行をやめさせたなんて話もあります」

 

「道理で慌てる訳だ。それなら宇宙まで行こうした時は無理にでも止めないと」

 

少なくとも一夏から見て嘘の妄想を話している目をしてない。今まで見た印象からしても本当にやり兼ねないと考えいた。そして、仕事を増やされるのだけはごめんだと。

 

 

 

 

 

 


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