IS学園の異端児   作:生存者

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第90話

 

 

 

 

「なあ、上条に模擬戦で勝つ方法ってないのか?」

 

「・・・本気で勝つなら接近戦しか無いわね。射撃はまぐれでしか当たらないし、至近距離で格闘技と射撃を組み合わせてやるしか」

 

偶然にも授業の重り、フォルテがこぼした疑問に楯無は今までの経験からそれとなく答えた。ほとんどお遊びでしか相手されてない以上確信が持てる訳でないが。それならば通用するかもしれないという予想でもある。

 

「それよりも、補修続きでまともに出来るような状況じゃ無いのよ。それに、まだ授業が残ってるし話すなら放課後。まだ修学旅行中だし帰ってきてからしか出来ないわよ」

 

「それくらい分かってる。でも、操縦技術は間違いなく負けてない。それでも全く勝てないんだよな〜」

 

「操縦技術うんぬんより場数が違う。最低でも剣道で織斑先生に食い下がれるなら自力でなんとか出来るわ」

 

そんなの無理だろ。と心から言いたかった。その後の授業の内容はあまり入らず。自分でいくら考えても大して案など浮かばなかった。HRも終わって

 

「あ、そう言えば試合の記録があったな。何か掴めるかも」

 

向かったのは視聴覚室という名のパソコン部屋。寮のものとは違い、授業で使用する課題、データから今までの全ての模擬戦、試合の記録の回覧まで出来る。一通り見ながら自分なりに必要な映像を集めるが、最近の結果はほとんど完封勝利ばかり。入学当時の荒い操縦技術でも追い詰められている試合は片手で数えられる程度しか見つからない。

 

「こいつ、スゲーな。死に物狂いで訓練してたのがアホらしく見える・・っと待て待て目的が違う」

 

本気で勝つ為にここへ探しに来ていたが、見るほどに実力の差を見せつけられる。不意打ち、狙撃、ビットのあらゆる方向からの変則射撃もギリギリで避け、武器の打ち合いで押し切れるのは担任でもある織斑千冬のみ。操縦技術の不足も消すほどの戦闘能力に諦めの感情も芽生える。

 

「威嚇射撃も見透かされてるし、他の奴と同じ手は通用しないか。ん?いや、当たってるな」

 

偶然にも見つけた攻略の鍵。再度確認する為少し映像の速度を落としてみていく。時期は一学期が終わる頃、上級生の苦し紛れに放った一発が機体に掠るように当たっていた。

 

「まぐれか、にしても当たってるかどうかも分からない。あー次だ次」

 

他の2人よりも数多くこなし、データを集めるという点では苦労しないがどれもこれも似たような結果ばかり。一般生徒、代表生でも手や足、機体の末端の位置。たとえ実戦だとしても、かすり傷で済むような場所だ。このデータを見てから思い返すと不自然な程、自身に飛んでくる射撃に敏感に反応し、シールドが発動する直前に手持ちの武器で確実に防ぐ。何度もやっているフォルテからしてみれば、生身で戦っているイメージさえ出てくる動き。

 

「なら、狙いはあいつじゃなく機体の方かもな。ただの的当てとは違う。意図的に端の方を狙ってか。削る量も減るし、不意打ちを一度くらいは当てないと勝てないし」

 

単純な実力なら恐らく右に出るものはいない相手に唯一勝てる兆しが見えていた。

 

「まずは射撃練習・・・いや模擬戦の方がいいな。あと、ビットの制御にもう少し操縦技術を上げないと無理だな」

 

明確に必要な物も見えてきたが使えるラインに届かない。どれも挑戦した事はあるし。一発でも決まれば同じ代表候補なら、中途半端な完成度でも意表を突くくらい造作もない。時間が惜しく集めた物を頭に入れて急いでアリーナに向かう。

 

 

「で、来たのはいいけど練習相手がいないから手伝ってくれ?」

 

「ああ、もう一回頼む」

 

「いいけど、今度は何を目標にしたのよ。それによって今の結果に対して聞きたい事が山ほどあるわ」

 

暇そうに部屋で仕事に手をつけていた楯無と試合をしてみたのは良かった。しかし、待機室に映し出されていた模擬戦の結果は散々なものだった。

 

「ビットの偏光制御射撃と二連で瞬間移動(イグニッションブースト)

 

「2つとも高等技術なの知ってて言ってるの?」

 

「仕方ないだろ。これくらい出来ないであいつを勝てないんだからな」

 

「気持ちは分かるけど。これだと遊ばれて終わりになるわよ。で、何か突破口でも見つけたの?」

 

乾ききった口にスポーツ飲料を流し込み一息おく。普通の模擬戦でここまでビット操作の1つでも疲労が溜まるが。その使用した数に比例して脳に負荷が掛かり。瞬間移動(イグニッションブースト)の急加速はISの保護で多少の負荷は軽減するが。更にフォルテが目指すのはその最中に方向転換をもう一回から二回繰り返す動き。事故も起こしかねない技術を無理に行使した。

 

「・・・私も挑戦した事はある。でも、実戦ですぐに使えるようなものになってない。正直に言うと、そのくらいやらないと敵わない相手なのは分かる」

 

「はあ、お前も出来ないのか。ビット操作の方は何とか感覚は掴めたのに」

 

「操縦は数をこなせば何とかなるとして。不安要素は山積みね」

 

「接近戦だよな。楯無、少しだけ相手になってくれないか」

 

「ええ、そうくると思ったわ。これなら道場でどうにか出来そうだけど。手加減はしないわ」

 

「・・・その方が助かる。今更手加減してもらうような仲でもないしな」

 

まだ実力トップ3を飾っていた頃。まだ操縦もした時間も半日にすら満たない1年に負けて、学園のトップのブランドは消えた。油断はしていない。他の2人に匹敵する実力もあると踏んで臨んだ。

だが、あまりにも知る機会が少ない。最初のクラス代表戦、まだ青いイギリスの代表候補セシリア・オルコットに無傷で勝った。使っているのは弓矢で始め、大剣、薙刀、日本刀、メイスと西洋、東洋関係なく様々。初めて手合わせでやった時も、本気で相手にされず。生徒会長である更識楯無には部分展開でスラスターのみ展開し、素手で圧倒。その後、初めて単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を使用して全身をドラゴンの様に変えると勝利。次々と模擬戦をこなす内にこの学園で無敗記録を更新、ハンデありで世界最強の織斑千冬にも勝利した。

一度どうすればそこまで強くなれるか聞いてはいた。模擬戦が終わった後に食堂で晩飯を済ませている途中。さりげなく質問して帰ってきたのは、努力する時間なら腐る程あったから。と言う言葉だった。

 

 

バタンッ!今日何度目か分からない畳に叩きつけられた音が響き渡る。夕日も沈み、放課後の部活動で活気のあった道場には2人以外の誰も居なかった。

 

「これじゃあ、まだまだ無理ね。私に遊ばれてるようじゃ遠いわ」

 

「確かにまだ無理だな。まあ、あいつと初めて試合した時に比べれば良くはなってる。で、見込みとしてはどうなんだ」

 

汗だくで息切れしながら横たわるフォルテと軽い汗をかきほとんど疲れの見えない楯無。

 

「少なくとも毎日この倍近く時間を掛けて、他何人かの相手と何度もやってなんとか届くかどうか。あとは確実に勝てる方法を考えるれば、ね」

 

普通に戦ってまず当たらないものが、本気で避ける事だけに専念されると考えると、自分の努力が全て否定されるような気分になる。それも遠距離、近距離関係ない。狙撃を避けられるならまだ分かるが、ミサイルの追尾なら自分のところに戻ってくるようわざと回避。近接戦闘なら削られる前に受け流してカウンターを決めるか、そもそも出来ないよう動きを封じてくる。

 

「普段は色仕掛けで慌てるのに試合になるとすぐに切り替える。ほんと選手向きだよ、あいつは」

 

「模擬戦の最中に反応するのもどうかと思うけど」

 

初めこそ慣れない可愛らしい反応で遊ばれていたが。過剰に楽しんでいたのか、反応が薄くなっている。

黛ちゃんがそのスクープ狙いで常に駆け回っていたらしい。次第に返事がなく特に噂も立たない以上、進展はなくすぐに他のスクープに飛びついている頃だ。

 

「さ、そろそろ終わりにしましょう。体調管理も私達には仕事の1つでしょ」

 

「分かってる。なんであんなに動いてそんだけしか汗かいてないんだよ」

 

「余分な動きを極力減らすのコツよ。私はフォルテちゃん以上に訓練してたからね。生徒会長の座は譲る訳にはいかないから」

 

「そう言って何回もボロ負けしてるよな。学園最強さんもそろそろ休んだらどうだ?」

 

夏休みの前までに片手で足りない程負け続け、クラスからいじられた記憶が蘇る。寮の部屋に戻った途端、あまりの悔しさでやけ食いをしてしまう事もしばしばあった。

 

「・・上条君が生徒会長になる気が出てくるまではね。大体、あんな子が入ってくるなんて想像もしてないわよ!書類上は血の気の多い問題児とかなってるのに、何あれ!大人しい世話焼きな弟みたいじゃない!」

 

「ああ、そんな噂が流れてたな。ってそれより、風邪引くから早く戻らないのか。お前より汗かいてるし」

 

 

ついつい熱入った会話で流れて出ていた汗も止まり始め、雑談の続けながら軽くシャワーを浴びて道場を後にした。珍しくダリル以外と仲良くしている姿を黛が発見し、新しいスクープとしてカウントされた。

 

「あー上条君がまた向こうで問題したわ」

 

「どんな?ホテルのスプリクラーでも誤作動させたか?」

 

「それよりもっと凄いわ。清水寺の床板が割れて転落したみたい、ほぼ無傷で戻って来たそうよ」

 

「はは、運の無さも負け知らずだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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