IS学園の異端児   作:生存者

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第92話

 

 

 

周りが一切見えない。視界を覆いつくす弾幕で放たれたレーザーが動きを封じれた身に降りかかる。たった数秒でSE(シールドエネルギー)のほとんどが消え、なすすべもなく終わりを迎える。

 

はずだった。

 

「・・・展開」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一斉に射撃を始めてから30秒近く経過した。なのに、試合終了の予報は鳴る気配がない。このガトリングの威力は決して強いものでは無い。それでも蜂の巣に出来る程撃ち続ければ、半分まで減らした相手は簡単に止められる。

 

「まだ・・切り札があるようね」

 

「この機体専用の展開装甲。超近距離での武装攻撃以外全ての爆撃、狙撃を防ぐ。久しぶりに使ったな・・・」

 

のんびりとした口調で答えると、ゆっくりと腕を動かす。ミシミシと機体の悲鳴を鳴らし、高出力の拘束結界を力任せに対抗し少しずつ前に進み始めた。

 

「ただ、こんなタイプの拘束からは守れないから困る」

 

淡々と話しいるが額には汗がにじみ出ていた。1分経っても進んだ距離は1mにも満たない。格好の的になった間も絶え間無く射撃を受け続けていた。ビットの連射、ショットガン、ガトリングにライフルも機体のシールドが発動する直前に見えない壁に阻まれて散った。時折スクリーンを見て確認するがほんの僅かに残った残量がいつまでも減らない事に気づく。

すでに意味がない事は分かっていたが2人が待っていたのはガス欠。自然と使用している中でエネルギーを使い切るのを待っていた。

 

「・・・そろそろ、もう来ていいはず」

 

レーザーなどの兵器を使っている時、瞬間加速(イグニッション・ブースト)などの機体の操作以外でもただ動かしているだけで、常に消費する。なぜなら、人間が見られない真後ろの搭乗者に確認出来るハイパーセンサー。操縦者の生体維持機能にパワーアシストなど操縦を保護する機能が常に起動しているからだ。

 

「射撃中止。これ以上撃っても無駄になるわ」

 

「・・・分かった。流石に止めるか迷ってた。はあ、もう少しどうにかならないのか」

 

「無理よ。最初から抵抗される事を想定して最大出力したのよ。それに、本来なら動けるはずが無いの」

 

「まあ、あんなの食らえば動くのは無理だろうな」

 

未だに錆びたブリキのおもちゃのようにぎこちない動きで近づいてくる。展開装甲を出してから遠距離からの射撃が一切通じない以上、使う手は絞られていく。

 

「で、これが予想外なのはもう分かった。それなら、あいつの言う通りこれしかないだろ」

 

「そのようね。最初からこれしか通用しないと思ってたけど」

 

楯無は単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)を解除し。フォルテはその間にブレードへと装備を変える。強力な拘束から解放され僅かな休息を得た上条はゆっくりと息を整え始めた。

 

 

「あと一撃でも入ればこっちの勝ちだ」

 

先に出たのはフォルテだった。静止状態からの二連加速(デュアル・イグニッション・ブースト)。初手で上条が使用した時の倍の速度で一直線に向かう。普段なら避けられる状態だが。下は地面な上、まだ楯無が後ろに待ち構えている。どこに逃げても確実に留め(とど)をさせる。

 

「・・・あの言葉通りなら射撃や爆撃は無理でも、武器を直接投げて当てた場合はどうかしら」

 

いつもなら通じない。なら、あの拘束の後ならどうだ。隙がないとは言え常に気を張っている事は不可能なのはず。音速で振り抜かれたブーストが上条に当たる

 

 

 

 

その直後、

 

「え・・なにが起こっ・・・・た?」

 

頭から地面へと叩きつけられた。

 

「真っ直ぐに飛んでくるべきじゃなかったな」

 

避けるそぶりもせず、真正面からフォルテの突進をねじ伏せる。想像し得なかった光景を目の当たりにして動揺してしまう。が、顔には出ない表情を殺した。

 

「なら、こんなのはどう?」

 

水の障壁に使用しているナノマシン移動させると楯無の横にもう1人の楯無(・・・)が姿を見せる。その姿を見て初めてアームを展開する。ただ、展開されたのは左手のみ。残った右手は手袋をしてから展開した。

 

「幻がどちらか分かるかしら?」

 

「間違え探しでもこの難易度は初めてだ」

 

「・・・面白いこと言うわね」

 

体勢を一気に前へ。同時に飛び出し左右から弧を描き迫り全力で突き刺した。攻めに出たのは上条も同じ、体重を乗せ全力で鋼鉄の拳を突き出した。

しかし、観客はその光景を見て驚きを隠せない。上条が突き出した拳は空振りしたのか何もない空間に

 

「・・・はぁ、本当に容赦・・・無いわね」

 

その中からもう1人の楯無が突如出現した。何度も受けて目が慣れ始めた上条の全力の拳を避けきれずフォルテと同じ後頭部から地面に落ちた。

 

「ナノマシンで幻を作る。意図的に屈折率を調節してあるはずのないものを見せられるなら。その逆、あったはずのものを隠すくらい出来るはず」

 

「正解、よく分かったじゃない」

 

思わず苦笑してしまう。飛行能力を奪って地上戦に追い込んでも、展開装甲で射撃、爆破は全て無力化。近接戦闘は全く敵わなず一歩も動くことなく2人は地面に這いつくばっている。

 

「それにしてもよく保つものね。ほんの僅かにしか持ってないのに・・・一体何を隠し持ってるのかしら」

 

「それは勝てたら教えます」

 

「ここまで追い込んで負けるつもりは毛頭ないわ」

 

高等技術でも傷1つ付けれない。ただ、ここまできた以上引くつもりはない。こちらはまだ7割以上のSE(シールドエネルギー)が残っているのに対し、向こうはかすり傷で負けが確定する。それでも強気な姿勢は変わる事はなかった。

 

 

「ほら、フォルテちゃん起きて!」

 

「ってて・・・まだ動いてんのか」

 

激突した衝撃がようやく取れ始めたフォルテ。痛みに耐えながら起き上がったがそれは上条の手の届く範囲。それでも一切手を出す様子はなく起きがって来るのをじっと待っている。

 

「なんだ、一方的に手を出すは気がひけるか?」

 

「・・・ん〜まあ、そんな所ですね」

 

挑発行為にも聞こえる言葉に対し、そう答えた。フォルテは不思議に思った。何故手を出さない、何故守ろうともしない。お互い手を振り回せば、当たる距離であるにもかかわらずだ。もし相手が楯無なら、ケイシーなら、一夏や秋十、他の同級生でもいい・・・同じ状況になるか?逆の立場なら迷いなく攻撃する場面。それも残り少ししかない状態で、わざわざ手を出してくれと無防備に立っているか?

 

 

 

いいや

 

最初から想定できるような事をする相手に、苦戦なんてしない。

 

「・・・・・・はは・・・こりゃ無理だ」

 

ノーモーションからの頭部への殴打。至近距離から苦し紛れの一撃を出した。当たるかなどどうでもいい。これをどうやって処理するのか。それだけが気になっている。

 

 

 

上条は先に手を出すのをひたすら待っていた。予想どうり先に手を出したが、この距離で防ぐ必要もない。ただ相手を乱暴に押して後ろにバランスを崩させる。結果、フォルテの一撃は目の前で空振り。当たる事はなかった。あとは流れ作業だ。

 

「うお!」

 

「どこに行くんです」

 

バランスを崩し、体勢を直すために出そうとした脚を踏み体重かける。動きが止まったところで全体重を乗せた拳を腹に叩き込んで行動不能、もしくは意識を刈り取る。しかし、相手はエリート中のエリート。意識はまでは刈り取るに至らず、地面にうずくまり悶え苦しむ。

 

「・・う、ぁぁはぁはぁ・・・うぇ」

 

無防備に地面に倒れいつでもとどめをさせたが。良心が傷み、残っているのもう1人の相手に切り替えている。

 

「上条君?まだ昼明けで残ってるのよ?」

 

「だから手加減はした。次はあんただ。こっちも長々とやってるときつかれる。流石にパワーアシスト無しはこたえるからな」

 

「・・・本当に規格外ね」

 

「不幸にも負けないために普通で止れますか?」

 

パワーアシストありきでスムーズに動作を出来るISにとって、この有無は運動性能に雲泥の差を与える。訓練の一環として少し負荷を増やすのにパワーアシストを弱める人もいるが。それを全て無くした場合・・・鉄塊を背負って動き回るのにも等しい。

 

「・・・困ったわ。本気を出すような相手にされないとはね」

 

「こっちは常に本気だ。誰かに合わせて遊べるほど余裕があれば、こんな事にはならない」

 

言っていることは正しい。戦力を見誤り結果。飛行不可能、極限までエネルギーの消耗を防ぐためにISのあらゆる保護も今はない。思い込みから侮ったその代償としてこのザマだ。

 

 

「なら、この状況でその自信がどこから出てくるの」

 

「ここで諦めるなら最初からやらない。状況が変わらないなら、どう変えるかを考えるのが先だ。まさか、楯無さんは同じ状況で諦めるのか?」

 

「そんな訳ないでしょ。私だって背負っているものがあるんだから」

 

「なら、簡単に負ける訳には行かないな」

 

話出した時には巨体を強引に動かし走り出した。楯無はランスを構えていたが近づかなければ勝てない。相手が武器を持っていようがやる事はシンプルだ。

 

「余計な事なんて考えず、さっさと終わらせる」

 

もう最後にするつもりで来るのは見に見えている。流石に半分以上もある私を一撃で止める手段は織斑姉弟の零落白夜しかない。消去法で探す以前に方法は分かっていた。それは操縦者の意識を刈り取る事で強制的に止める。すでにフォルテは意志が薄れて同じものをもう一度受ければ簡単に倒れる。

 

「でも、上条君になら勝てそうなのよね。変則攻撃は避けるくせに条件さえ揃えば、真正面で必ず受る」

 

超速の動きも追いつき、幻影も効かないが。あの性格上、誰を後ろにいる時は絶対に避ける事なく受け止めるか真正面から弾き返す事をよくやっていた。

 

「フォルテちゃんを使うようで悪いけどやらせてもらうわ」

 

間合いの距離は10m近くまで迫っていたが上条とは違いわざわざ走る必要のない楯無は真上に飛び上がり丁度、フォルテと上条が一直線に並ぶ位置にズラしもう一度ランスを構えた。

 

「いつか使う時が来るのは分かっていても、こんな時に使うのは予想しなかったわ」

 

ミストルテインの槍。気化爆弾4つに相当する破壊力と引き換えに自己の怪我の可能性もともなう。

技で駄目なら力で倒す。生徒会長に国家代表、そんな肩書きでやる事ではないが、そのプライドのせいでいつまでも奥の手として使おうともしなかった。しかし、これでは足りない。フォルテが使えるようになった時に楯無も感覚を掴んでいた二連加速。が、これでもまだ足りない。・・・運なんて曖昧なものに頼りたくないが最後まで努力を続けてやれるだけの事をやるしかない。

 

「賭けてみるしかないか・・・・・フォルテちゃん、聞こえたら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無が空中に逃げてからすでに数分が経過した。変化したことと言えば機体全体に纏っていたボヤけが槍のみに集まっている。それにわざとフォルテさんが背後に来る位置にズレている。わざと逃げられないようにしているが、それは都合が良かった。必要以上に動けばすぐに残ったエネルギーも尽きてしまう。

 

 

「・・・来る」

 

呟いた時にはすでに手の届く間合いまで近づかれた。楯無の本気の突き。溜めも勢いも組み合わさり受ければ致命傷とも言える一撃だろう。ただ、直線的な動きでいくら加速しようと上条には容易に捉えられる。

 

が目の前の景色が一変する。視界が揺れ動き。突如、上条の体がくの字に折れた。

 

慌てて視線を送ると脇腹の辺りに腕を回すもう1人別の影が写っていた。

 

「必ず仕留めろ!」

 

もう動かないと思われたフォルテが完全な不意打ちに成功した。しかし、肝心のトドメを刺す楯無の獲物の範囲から外れかけ、無意味に思える行動だった。

 

「当たり前よ!」

 

二連加速から更にもう一段階上の動き・・・多重加速。強制的な方向転換に体が想像を絶する負荷がかかる。無理に無理を重ねミシミシと各部が悲鳴を上げているが、目の前の相手を倒せるならそんな事はどうでも良かった。痛みで声を上げる気持ちを押し殺し渾身の力を込めた。コンマ1秒もしないうちに必ず当たる。どんなに人間離れした相手でも届くはずがない。

 

 

 

あと僅かでシールドが発動し倒せる・・・そこで楯無は有り得ない光景を目の当たりにした。

 

声も出せず、動き全てがスローモーションのように見える。その世界で、私達より(・・・・)速く動いている奴がいる。片手で槍を振り払い、もう一方の腕は真っ直ぐに

 

 

派手な音もなく、ただ機械同士が衝突した音が出る。トップスピードまで出した機体の速度は相殺され一瞬にしてなくなった。その衝突を直に受け、脳が揺さぶられる感覚が鮮明に残る。頭がぼーっとし膝から崩れ落ち、立っている余裕もなくなった。

 

「楯無!」

 

たった一撃でが形勢逆転した。ごく僅かな間とはいえ、不意打ちを成功させ優位に立った2人は十分に健闘したと言えるだろう。わざわざ上条の懐に入らなければ、なお良かったが。

 

楯無を心配したフォルテの視界から上条はいなくなった。そして、忘れるなと存在感を示すように鈍い衝突と視界が揺れが同時にフォルテを襲い、顎を下から殴られたの言う事実に気づくのに時間はかからなかった。

痛みで怯んだ体は無意識に後ろに下がった。再び上条を視界に収めた時には普段見る事のないナイフが顔に向かって振り抜かれている。

とっさに上半身を仰け反らせてかわすことは出来た。

 

「いつもの機敏な動きはどうした?」

 

何も考えず避けたせいで無防備となった腹部に再び強烈な痛みが走る。もう一度倒れそうになる体をなんとか保とうと努力した。歯を食いしばり、必死に耐える。そんな努力もすぐに無駄に終わった。

下を向いた顔を拳で強制的に持ち上げられ、視界に入った時には深く踏み込んで肘を食い込ませていた。何度も腕や脚が機体を揺らす度に自分の体がくの字に曲がり、その度に意識が遠のく。3回も続いた時には立っているのがやっとの状態に追い込まれた。

 

「お疲れ様」

 

立つのがやっとのフォルテの頭を軽く押す。置物のように直立した体はそのまま徐々に傾き静かに地面へと倒れた。フォルテは身動き1つ取れず。楯無も立ち上がれなくなり、膝で支えていた体は地面に倒れ伏せていた。

 

 

『サファイア・フォルテ。更識楯無。両者意識喪失!勝者・・上条当麻!』

 

 

 

 

 

 


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