モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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五十四話 年長者たち

 目を覚ますと、窓から見える空は朝焼けに染まり、太陽が宝石みたいに輝いていた。

 台所がどこか騒がしい。二人がもしかしたら朝ごはんでも作っているのかもしれない。

 布団から這い出て、適当に服を見繕って着る。ルナが買ってくれたそうだ。

 身だしなみを整え、台所に顔を出すと、ルーフスが料理を作っていた。

 

 

「おはよう」

 

「おはよアオイ」

 

「アオイ義兄さん、おはよう」

 

 

 フラムが隣の椅子を引いて、ポンポン、と手で叩いて座ることを促してくる。

 

 

「ありがと。朝ごはん、ルーフスが作ってるの?」

 

「うん。ルーフスが自分で作りたいって」

 

 

 珍しい。ルーフスは頼まれない限りは積極的に料理を作るようなことはしないのに。

 ルーフスはこちらに振り返った。

 

 

「勝手に作っといてなんだけど、僕にあんまり料理の上手さは求めないでね」

 

 

 そう言い、盛り付けをし始めた。完成したようだ。パンにマーガリンを塗り、皿に乗せ、サラダとベーコンを盛り付けた。

 

 

「お待ちどー」

 

 

 ルーフスが僕とフラムの前に朝ごはんを置き、椅子に座りながら自分の分も目の前に置いた。

 少しだけ目配せを三人でした。

 

 

「「「いただきまーす」」」

 

 

 ……あれっ?

 

 

「僕のベーコン妙に多くない?」

 

「もっと逞しくなって欲しいからね。ちょっと増やしてみた」

 

「ルーフスの倍はあるように見えるんですが」

 

 

 まぁいいさ。これで体格が良くなるなら儲けもの。フォークをベーコンに刺したところでもう一つ気付く。

 

 

「サラダが凝ってる?」

 

「ドレッシングを一から作った。料理はできないけど混ぜるのなら得意だし、慣れてる」

 

 

 調合に例えてるのかな。ただ、調合と違って失敗してもどうにかなりやすいのが良い。誤差なら好みで割りきれる。

 サラダを食べるとさっぱりとした旨味があった。レモンと香辛料が効いてるのかな。レタスの新鮮な食感も良い。……これ好き。

 

 

「ドレッシング、どうやって作ったの?」

 

「秘伝のレシピなんだけど」

 

「そこをなんとか」

 

 

 ドレッシングをかけるだけでこれだけ美味しくなるんだ。たくさん作ればしばらくの間、サラダは切ってかけるだけの簡単で美味しい料理になる。

 

 

「分かったよ。じゃあメモをあげるね」

 

 

 ルーフスにメモを渡された。そこにはさほど入手が難しくない食材が列記されていて、作り方もシンプルに図解されていた。……こんな簡単に作れるのか。

 

 

「アオイ義兄さん、ナイトさんに、昨日、朝になったらまた来るといいって言われたよね?」

 

「面白いもの見せてくれるんだっけ」

 

 

 ナイトさんにとっての面白いもの……。

 

 

「昨日の話してるの? そんなこと言ってたっけ。あれ、そういえば昨夜って何が……」

 

 

 フラムが顎に手をあてて、虚空を見る。

 

 

「フラムはお酒を一気飲みして酔ってたね」

 

「アルコール中毒で死ぬこともあるから絶対に一気飲みは駄目だよ」

 

 

 フラムが少しだけ下を出してごめんね、と謝る。でもそんなことあったっけ、と目が語ってる。昨日あったゴタゴタは幸か不幸か覚えてないようだ。

 

 

「食べたら行こうか」

 

「うん」

 

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 

 ナイトさんの食事処に来た。朝の時間帯は比較的混む。ナイトさんの作る朝ごはんは美味しくて、不思議と力が湧いてくるからか、人気なのだ。

 扉を開けると中には三十人くらいいた。席の殆どが埋まっている。男女比は男側に傾いている。男性の殆どは農作業に行く前なのだろう。女性が増えるのは昼頃から夕方前くらい。

 

 

「いらっしゃい」

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 ナイトさんからいつも通りの声がかかった後、なぜか二人目の声が聞こえた。声の方を見るとマリンさんがいた。黒色の生地を真っ白なフリルエプロンで飾った服、なんというかメイド服みたいなのを来ていた。

 マリンさんの表情が僕達の姿を認めた瞬間ひきつったのが見えた。

 

「マリンさん可愛い!」

 

「すごく似合ってる」

 

 

 似合っている。とてもハンターには見えない。ただどうしてこうなった。

 マリンさんは顔を手で覆い、少し硬直してから、手を離し、息を吸って言った。

 

 

「惚れたらダメなんだぞっ!」

 

 

 マリンさんはそう言ってウインクした後、顔をお盆で抑えながらお客の注文を聞きに言った。

ナイトさんはその様子をニヤニヤしながら見ていた。また新しいおもちゃが増えたとでも言わんばかりに。

 

 

「アオイも着るかい?」

 

「絶対嫌です」

 

 

 気のせいだろうか。断った瞬間、色んな方向からため息が同時に聞こえたのだが。周りを見渡すが、客は皆料理や会話に集中している。何だったんだろ。

 

 

「えぇ〜。アオイ着ないの?」

 

「恥ずかしいから嫌だよ。それよりフラムが着なよ」

 

「それはちょっと」

 

 

 フラムに否定された所で急に扉が開く。

 

 

「あぁ〜いつぶりの徹夜だよ畜生が……おぉフラム、後その他諸々、おはよう」

 

 

 小柄な老人……クロウさんが眠たそうに愚痴をこぼしながら入ってきた。クロウさんと会うのは随分久しぶりに感じる。

 鍛冶屋が徹夜……ハンターの誰かに無茶な依頼をされて徹夜したのだろうか。

 

 

「おはようおじいさん、防具完成したー?」

 

 

 お前かフラム。老体を労れ。

 

 

「バッチグーじゃ。朝飯を食べたら伝えるつもりだったんじゃが、ちょうど良かった」

 

 

 ばっちぐー? ばっちぐーってなんだろ。専門用語なのかな。

 クロウさんはカウンター席に座り、ナイトさんにいつものやつを頼む、と言った。

 いつもの、とかここで言えるようになってみたいものだ。

 

 

「ねぇアオイ」

 

「何? フラム」

 

「私の防具完成したみたいだから今日、狩りへ行こうよ」

 

「昨日、狩りに行って帰って来たばかりなんですか」

 

「私達は狩りに行ってないし、アオイも見てただけなんでしょ? じゃあノーカンだね」

 

「えっ」

 

 

 いや、今日一日くらいは休みたいんだけど。……あれ、ルーフスが今回は珍しく楽しみそうにしている。いつもはまたか、って顔をしているのに気のせい?

 

 

「アオイ義兄さん、僕、ずっと前から欲しい防具があったんだよね」

 

「そうなんだ」

 

「……ドレッシングのレシピ教えたよね?」

 

「分かったよ、行くよ」

 

 

 こんな風な交渉術をルナに聞いたことがある気がする。タダより高い物はないって言うけど、このことなのだろうか。

 

 

「何を狩りに行くの?」

 

「ガララアジャラ」

 

「何か目的が?」 

 

「うん。ガララアジャラの素材から作れる防具には聴覚保護の効果があるんだ」

 

「成る程」

 

 

 フラムの砲撃から耳を守るためか。確かにルーフスに必要なものかもしれない。ついでにモンスターの咆哮に怯みにくくなる。……あれ?

 

 

「ガララアジャラって星四つのモンスターだよね」

 

「うん。そうだね」

 

 

 星四つのモンスターの依頼をまともに受けるのは始めてかもしれない。リオレイアはメリルが捌いていた。ネルスキュラは乱入してきたのを撃退しただけで討伐には至っていない。狩れるかな?

 こちらの心配を察したのかフラムが明るく言う。

 

 

「アオイ、ダイミョウザザミの時みたいに罠を使えば大丈夫だよっ!」

 

「……うん。そうだね!」

 

 

 罠を使って身動き封じて、狩ればいいか。うん、きっと大丈夫。準備は怠らないけど。

 

 

「じゃあお昼頃に出発しよう。それまでは準備とか色々しとこ」

 

「りょーかい」

 

 

 ルーフスは真っ直ぐ家に戻った。武具道具の準備をするためだろう。フラムは鍛冶屋に向かった。新しく作った防具を貰いに行くようだ。

 僕は残った。マリンさんに色々と聞くためだ。

 

 

「情報さえあればきっと大丈夫だ。うん」

 

 

 モンスターの動きを把握しておけばどうにかなるはず。対処法の分からない攻撃を急にされるのがたぶん一番危ない。

 料理を運んできたのか、戻ってきたマリンさんに聞く。

 

 

「ガララアジャラってどんなモンスターなんですか?」

 

「ん? あぁ、ガララアジャラね。蛇だよ蛇。黄色の蛇。でっかくて甲殻飛ばしてきてうるさい奴」

 

「……どんな攻撃が危険?」

 

「体で囲んで、それから突き上げる攻撃と、絞めて拘束する攻撃。飛ばしてきた甲殻が破裂するのも危険」

 

「何に気を付ければいい?」

 

「質問攻めするねぇ。まずは囲まれないこと。飛んでくる甲殻には近づかない。一応ブレスを撃つから正面には立たない。これだけで十分でしょ」

 

「ありがとう、マリンさん」

 

 

 マリンさんの説明は簡潔なものだった。分かりにくい説明はたぶん実際にガララアジャラを見たら分かるのだろう。

 

 

「勉強熱心じゃの、アオイ」

 

「いえいえ。これくらい普通ですよ」

 

 

 とは言ってもまともに情報を聞いたのは今回が始めてだ。メリルが教えてくれたからいつもは怠けていた。うん。

 そんなことは知らないクロウさんは朗らかに笑った。

 

 

「また素材を集めて、ワシのところで武器注文してくれ。もっと無茶できるように頑丈に作ってやる」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 たぶん、ジンオウガにクールタイムを無視して撃ち続けたり、爆薬を詰めて叩き込んで壊した、ヴァルキリーファイアのことを言っているんだろう。

 

 

「いいんじゃ、いいんじゃ。あれのおかげでワシの実力を知れた。武器の残骸には狩人の意地の全てが詰まっておる。今度はアオイ、お前の意思に応えられる武器を作ってみせる」

 

「ありがとうございます」

 

 

 クロウさんはとても楽しそうに出されたご飯を食べ始めた。。

 次の武器を作るとき、ヘビィボウガンとライトボウガン、どっちを作ろうかな。訓練所の頃はヘビィボウガンに憧れていたけど、固有機能のしゃがみ撃ちを使いこなせない。

 

 ガララアジャラの情報教えてもらったし、僕も準備するか。カウンターに手を置き立ち上がろうとすると肩を手で押され、座らされる。

 ふわっと甘い匂いがした。すぐ横にマリンさんの顔がある。驚いて悲鳴をあげそうになる。ただ、ナイトさんの期待の眼差しを見て冷静になり、抑える。

 ここで下手を打ったらネタにされる。

 

 

「そうだ、アオイ。ちょっと訳があってリオレウスの報酬、しばらく貰えないみたい」

 

「へ?」

 

「契約金は私持ちだし、狩りをしたのも私だから別にいいよね」

 

 

 ……いや、別にいいけどさ。僕は何もしてないし。一瞬でもリオレウスの素材で、ライトボウガンを作りたいと思ってないと言えば嘘になるけど。 

 

 

「属性弾と状態異常弾を使えるボウガンがパーティではおすすめだよ」

 

 

 マリンさんはそう言って、離れていった。属性弾か……。そういえば今までに火炎弾しか使ったことがないな。

 麻痺弾とか睡眠弾とか使いこなせたらきっと強い。これも考慮して次の武器を選ぼう。

 カウンターに手を置いて立ち上がろうとすると素早く椅子を押し込まれて、足を払われ座らされた。……いや、これ今日で二回目。

 

 

「アオイ、おはよー」

 

「ルナ。おはよう」

 

 

 ルナは隣の椅子を引き、飛び乗った。ナイトさんはルナの顔を一瞥し、何も言わずに透き通った乳白色の飲み物を出した。クロウさんはいつもので通じるが、ルナは言葉すら必要ないのか。

 ルナはコップを取り、くいっと傾けて飲む。この香り……桃か。

 

 

「てっきり牛乳かと思ったよ」

 

「ん、今の時期は桃が旬だからね。これからどんどん収穫されていくよ」

 

「何、村で育てて欲しいの?」

 

「いや別に。それより豊作祭の僕の仕事量を減らしてほしい。普段のティラくらい働かないといけないじゃないか」

 

「たかが一日、ずっとここで仕込みから料理までをし続けるだけでしょ」

 

 

 むしろティラさんの普段の仕事量がそれだけあるのはおかしいんじゃないか。ティラさんが倒れたらこの村モンスターに襲われるまでもなく壊滅しちゃうのでは。

 

 

「ティラはすごいのぉ。なぁナイトにルナよ」

 

「うん。ティラがいないと私が楽できないからね。本当にすごいよ」

 

 

 ルナが働けばティラは休めるのでは。

 

 

「そうそう。ティラが村を運営しているおかげでお金をここに横流しして色んな物を買える。ルナが切り盛りしてたらこうは行かないだろうからね」

 

 

 ……ナイトさんが善良ならティラの仕事量ってもしかして減るのでは。

 

 

「ティラは皆の暮らしを良くすることのために身を削っているからの。やりくりしたお金で入手しにくい素材を輸入してくれるから技術職にも良い環境だ」

 

 

 クロウさんが水を飲み、空になったコップを置くと、扉が空いた。

 

 

「ルナッ、ナイトォッ! この、謎の、支出は、何?」

 

 

 ティラさんが来た。いつもは三つ編みなのに今日はストレートにしている。お洒落というより髪型を整える時間すら惜しんだように見える。

 いつもは優しい瞳が殺意と虚ろに染まっている。

 

 

「美味しいブドウジュースとコインを二枚買っただけだよ」

 

「私はちょっとこの村の移動を便利にしようと思っただけだよ」

 

「それだけで、どうして、火竜三十匹分クラスの支出に、なるんですッ?」

 

 

 ハンターからすると十万ゼニーは意外とどうにかなる金額だが、一般の人からすると、とんでもない額だ。

 どれくらいか? 人生を五回くらい遊んでくらせるよ。

 

 

「大丈夫だよティラ。まだ注文はしてない。真面目に払った場合の金額の見積りを書いといただけだよ」

 

「そりゃないよルナ。ルナのせいでバレちゃったじゃないか」

 

「それくらい気にしないの」

 

 

 ティラさんはすっと笑顔になった。それはもう清々しい笑みで、何かを悟ったような表情。

 

 

 

「ティラさん、死なないでね? 僕でよければ力になるよ?」

 

「ありがとうアオイ。でも大丈夫。私、がんばる」

 

 

 ガララアジャラを狩猟したらティラさんの手伝いをしよう。うん。ティラさんが壊れるのも時間の問題な気がする。

 

 僕はそう決意をして席を立った。

 

 

 

 

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